5 / 20
第1章
“真実”
しおりを挟む
王女の言っていることが確かであるなら、この事件に関わっている人物は3人いる。
まずはメイド長。
王女が帝国の兵にさらわれた時に居合わせていたと言っているが、王女の証言が正しいのならメイド長の説明は嘘とということになる。
次に騎士団長。
たしか剣で王女に切りかかったと言ってた。王女の寝室に行けば血痕やらが見つかるかもしれないが、恐らく綺麗に拭き取られているだろう。
最後に国王。
この事件の首謀者であり、実の娘を殺した父親でもある。
そもそも、何の為に娘である王女を殺害する必要があったのだろうか。
戦争をするための口実作り──王位を継がせない──それとも、何らかの事実を知ってしまったから?
わからない。
その辺りは、本人に直接聞きだすしかないだろう。
しかし、その前に重要な点が1つある。
──本当に国王は、王女を殺したのだろうか。
王女が“真実”を口にしているとは限らない。
だが嘘をつく理由も見当たらない。
この事件は、本当に闇が深いな、と滝沢は思った。
「──せいッ!!」
安藤の華麗な剣さばきに、周りの兵たちが拍手を送っている。
この日、王城近くの訓練場で、勇者の力とやらを披露することになっていた。
「はッ──!!」
しかし、あの華奢な体でよくもあんな大剣を振えるものだ、と滝沢は感心してしまう。
滝沢は手の甲に刻まれた聖印をみる。
本当の体に、魔法の力が宿っているのだろうか。
安藤は剣技を披露し終えると、ふぅと一息ついて腕で汗を拭った。
「では、次は魔法の勇者の力をみせてもらおうか」
王が言った。
堂々たる威厳を発その姿は、この国の王そのもの。
滝沢は前に出る。
安藤とすれ違うとき「がんばってくださいね」と応援された。
広場の中央に立つ。
滝沢を囲む兵たちの視線に、期待が込められているように思えた。
さあ、はじめるか。
というか、魔法ってどうやって出すんだ。
とりあえず腕を前に出してみる。
なんか手から炎とか出たりしないだろうか。
頭の中で、なんとなく念じてみる。燃え上がる炎のイメージ。
しかし何も起こらない。
──しん、と静まり返る場内。
……もう一度。
今度は氷だ。炎がダメだったということは、自分に炎の属性がなかったということだろう。ファンタジーとかでよくあるやつだ。
「ふん!」
……なにも起こらない。
周囲の兵たちは、困惑したように顔を見合わせていた。
安藤は、静かにじっとこちらをみつめている。
出ろよ、魔法──!
……。
……。
それから何時間が経ったのだろう。
風、水、雷、どれをイメージしても、何も起こる予兆はなく、ただひたすら長い時間だけが過ぎていった。
「……わかった、もうよい」
王は、諦めたかのような──落胆したかのような──そんな口ぶりで言った。
魔法が使えない。
どうなっている、自分は魔法の勇者ではなかったのか?
安藤はあの細い体で、まるで羽でも振り回すかのように剣を操っていたのに。
「貴様にはいくらかかっているか知っているか」
王は言った。
「60年に1度の儀式──勇者の召喚というものは、国民の税金でまかなわれている」
「国民は期待をしていた。しかし貴様はそれを裏切った」
王は滝沢にけわしい表情を向けている。
「……はずれを引いてしまったようだ。貴様はただの凡人に過ぎなかったというわけだ。十分にわかった」
──期待外れだ、と王は背中を向けた。
周りを見渡す。
兵の視線は、まるで憎悪の感情をまとって集中して滝沢に浴びせている。
安藤は、暗く思いつめたような表情で、うつむいていた。
「ちょっと、待ってください……」
よろよろと王に歩み寄ると、それを静止するように、兵が槍を構えた。
「も、もう少しだけ……」
これは、自分はなんのためにこの世界にやってきたのだ?
勇者として戦うため──?
王女を救い出すため──?
王女はもう死んでいる。
真実は──
『王女が“真実を”を言っているとは限らない』
少しの間が流れた。
滝沢はゆっくりと口を開いた。
「……王女は、本当にさらわれたのでしょうか」
「……ッ!!」
王は動揺したのか、こちらを振り向いた。
……事実を確かめるために、ここでカマをかけるしかない。
「俺はずっと考えていました。もしかすると、誘拐ではなく、何者かの陰謀で、王女は……」
「この者を捕らえよ──ッ!!」
王が張り上げた声は、場内にけたたましく鳴り響いた。
兵たちは滝沢の腕を後ろに回し、髪を掴んで、地面に押し倒した。
「王女は、何者かに殺されているのではないでしょうか!」
それでも滝沢は叫ぶ。
「こいつの口を塞げ!」
口をふさがれると、何も喋ることができなくなった。
くそ……。
自分はなんて無力なんだと、滝沢は思った。
まずはメイド長。
王女が帝国の兵にさらわれた時に居合わせていたと言っているが、王女の証言が正しいのならメイド長の説明は嘘とということになる。
次に騎士団長。
たしか剣で王女に切りかかったと言ってた。王女の寝室に行けば血痕やらが見つかるかもしれないが、恐らく綺麗に拭き取られているだろう。
最後に国王。
この事件の首謀者であり、実の娘を殺した父親でもある。
そもそも、何の為に娘である王女を殺害する必要があったのだろうか。
戦争をするための口実作り──王位を継がせない──それとも、何らかの事実を知ってしまったから?
わからない。
その辺りは、本人に直接聞きだすしかないだろう。
しかし、その前に重要な点が1つある。
──本当に国王は、王女を殺したのだろうか。
王女が“真実”を口にしているとは限らない。
だが嘘をつく理由も見当たらない。
この事件は、本当に闇が深いな、と滝沢は思った。
「──せいッ!!」
安藤の華麗な剣さばきに、周りの兵たちが拍手を送っている。
この日、王城近くの訓練場で、勇者の力とやらを披露することになっていた。
「はッ──!!」
しかし、あの華奢な体でよくもあんな大剣を振えるものだ、と滝沢は感心してしまう。
滝沢は手の甲に刻まれた聖印をみる。
本当の体に、魔法の力が宿っているのだろうか。
安藤は剣技を披露し終えると、ふぅと一息ついて腕で汗を拭った。
「では、次は魔法の勇者の力をみせてもらおうか」
王が言った。
堂々たる威厳を発その姿は、この国の王そのもの。
滝沢は前に出る。
安藤とすれ違うとき「がんばってくださいね」と応援された。
広場の中央に立つ。
滝沢を囲む兵たちの視線に、期待が込められているように思えた。
さあ、はじめるか。
というか、魔法ってどうやって出すんだ。
とりあえず腕を前に出してみる。
なんか手から炎とか出たりしないだろうか。
頭の中で、なんとなく念じてみる。燃え上がる炎のイメージ。
しかし何も起こらない。
──しん、と静まり返る場内。
……もう一度。
今度は氷だ。炎がダメだったということは、自分に炎の属性がなかったということだろう。ファンタジーとかでよくあるやつだ。
「ふん!」
……なにも起こらない。
周囲の兵たちは、困惑したように顔を見合わせていた。
安藤は、静かにじっとこちらをみつめている。
出ろよ、魔法──!
……。
……。
それから何時間が経ったのだろう。
風、水、雷、どれをイメージしても、何も起こる予兆はなく、ただひたすら長い時間だけが過ぎていった。
「……わかった、もうよい」
王は、諦めたかのような──落胆したかのような──そんな口ぶりで言った。
魔法が使えない。
どうなっている、自分は魔法の勇者ではなかったのか?
安藤はあの細い体で、まるで羽でも振り回すかのように剣を操っていたのに。
「貴様にはいくらかかっているか知っているか」
王は言った。
「60年に1度の儀式──勇者の召喚というものは、国民の税金でまかなわれている」
「国民は期待をしていた。しかし貴様はそれを裏切った」
王は滝沢にけわしい表情を向けている。
「……はずれを引いてしまったようだ。貴様はただの凡人に過ぎなかったというわけだ。十分にわかった」
──期待外れだ、と王は背中を向けた。
周りを見渡す。
兵の視線は、まるで憎悪の感情をまとって集中して滝沢に浴びせている。
安藤は、暗く思いつめたような表情で、うつむいていた。
「ちょっと、待ってください……」
よろよろと王に歩み寄ると、それを静止するように、兵が槍を構えた。
「も、もう少しだけ……」
これは、自分はなんのためにこの世界にやってきたのだ?
勇者として戦うため──?
王女を救い出すため──?
王女はもう死んでいる。
真実は──
『王女が“真実を”を言っているとは限らない』
少しの間が流れた。
滝沢はゆっくりと口を開いた。
「……王女は、本当にさらわれたのでしょうか」
「……ッ!!」
王は動揺したのか、こちらを振り向いた。
……事実を確かめるために、ここでカマをかけるしかない。
「俺はずっと考えていました。もしかすると、誘拐ではなく、何者かの陰謀で、王女は……」
「この者を捕らえよ──ッ!!」
王が張り上げた声は、場内にけたたましく鳴り響いた。
兵たちは滝沢の腕を後ろに回し、髪を掴んで、地面に押し倒した。
「王女は、何者かに殺されているのではないでしょうか!」
それでも滝沢は叫ぶ。
「こいつの口を塞げ!」
口をふさがれると、何も喋ることができなくなった。
くそ……。
自分はなんて無力なんだと、滝沢は思った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~
mimiaizu
ファンタジー
迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
妖精名:解説っ子
toyjoy11
ファンタジー
日本に住んでた妖精が異世界転生をした少女と一緒に妖精一杯の世界に引っ越しました。
友達百人出来るかな♪
一話一話はとても短いです。
とってもノーマルなハッピーエンドなざまぁ少な目のものの異世界転移した妖精のお話です。
ゆめもから出た完結したストーリーです。ちゃんと7/17に完結予定なので、安心してください。
毎日夜9時更新です。
僕だけが蘇生魔法を使える!
AW
ファンタジー
涙が足りない人に贈る異色ファンタジー。
物語は剣と魔法のファンタジー世界、ロンダルシア大陸の小さな町フィーネから始まる。ユニークスキル蘇生魔法を授かった少年は、勇者に導かれ、世界に求められて旅に出る。
これは、世界で唯一の蘇生魔法使いとして命と向き合う12歳の少年が、出会いを重ねながら成長していく物語である。
※ 不定期更新です。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
量産型英雄伝
止まり木
ファンタジー
勇者召喚されたら、何を間違ったのか勇者じゃない僕も何故かプラス1名として召喚された。
えっ?何で僕が勇者じゃないって分かるのかって?
この世界の勇者は神霊機って言う超強力な力を持った人型巨大ロボットを召喚し操る事が出来るんだそうな。
んで、僕はその神霊機は召喚出来なかった。だから勇者じゃない。そういう事だよ。
別なのは召喚出来たんだけどね。
えっ?何が召喚出来たかって?
量産型ギアソルジャーGS-06Bザム。
何それって?
まるでアニメに出てくるやられ役の様な18m級の素晴らしい巨大ロボットだよ。
でも、勇者の召喚する神霊機は僕の召喚出来るザムと比べると月とスッポン。僕の召喚するザムは神霊機には手も足も出ない。
その程度の力じゃアポリオンには勝てないって言われたよ。
アポリオンは、僕らを召喚した大陸に侵攻してきている化け物の総称だよ。
お陰で僕らを召喚した人達からは冷遇されるけど、なんとか死なないように生きて行く事にするよ。量産型ロボットのザムと一緒に。
現在ストック切れ&見直しの為、のんびり更新になります。
最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる