2 / 20
第1章
勇者召喚
しおりを挟む「おお、召喚に成功したぞ……!!」
ぼんやりした意識の中で、ざわめきの声が聞こえた。
「皆様、ご静粛に願います!」
滝沢は半身を起こすと、たちまちその光景に呆然とした。
大勢の人に囲まれている。
貴族だろうか?──高貴な衣装に身を包んだ男女たち。
さらに周りを見渡す。
天上は高い。良質な石材で造られた壁。
吹き抜けの二階のガラス窓から差し込む日光に思わず目を細める。
まるで、とあるファンタジーの物語に出てくるような王城のようだった。
「只今より、聖印の儀を執り行います!」
立派な服を着飾った司祭と思われる初老の男が、杖を掲げて高らかに声をあげた。
その司祭の背後には、玉座に座った老人の姿。
細めた目に強い力を感じさせながら、ひじをついてこちらを見つめていた。
……とにかく状況がわからない。
司祭が呪文のようなものを唱えると、床が光を放ちながら魔方陣を描き始めた。
「うっ……」
手の甲に焼けるのうな痛みが一瞬走った。
だが、それはすぐに止まった。
「きゃっ!」
隣で声がした。
滝沢と同じく、横たわっている少女の姿があった。
同じ歳ぐらいだろうか。
顔立ちも服装も、周りの貴族たちとは違う、自分と同じ日本人のようだった。
そういえば、目覚めたとき、召喚がどうとか言ってたな……。
この子も、自分も、この人間たちによって召喚されたのだろうか。
床の魔方陣が消えると、司祭は声をあげた。
「聖印を授かりし2人の勇者よ、我がアレスティア国王に、忠誠の誓いを!」
……。
しばらくの沈黙。
隣で座り込んでいる少女と顔を見合わせてしまった。
少女はかなり怯えきった様子。
「とりあえず、立てるか?」
「……は、はい」
この場は、流されるままに従うしかない。
名前も知らない少女の手を取って、立ち上がらせた。
少し歩いて、玉座の前に来た。
……ここは、ゲームやアニメで見るような、誓いの言葉を言えばいいのか?
しかしどうすればいいのかわからない。
王様の左右には、王族と思われる人間が数人。
凄むような鋭い視線で、こちらを見つめている。
「王の御前である。……とりあえず、その場で跪き、自分の名を口にするのだ」
王の横に立つ、頑丈そうな鎧に身を固めた、剣を腰に据えた大柄の男が言った。
おそらく王を護衛する騎士とやらだろう。
滝沢は言われるがままに、片方の膝を立てて、顔をふせたまましゃがんだ。
隣の少女も、滝沢と同じようにポーズをとった。
「滝沢と申します」
「……あっ、安藤由香、です……」
安藤由香。
彼女の声は完全に怯えている様子だった。
少しの沈黙の後、ようやく王が口を開いた。
「異界から召喚されし“剣の勇者”及び“魔法の勇者”よ、顔をあげてくれ」
滝沢と安藤は顔をあげた。
先ほどまで発していた威厳はなく、王の目は少し緩んで優しい表情になっていた。
「些か緊張しておるのだろう。異界の地から遥々やってきたのだ、動揺するのも無理はなかろう」
「しかし其達は『勇者の聖印』を預かりし者。既に相応の力は渡っているはずだ」
聖印……この、手の甲に刻まれたマークのことだろうか。
安藤は今気付いたかのような表情で、手の甲をめくって確認している。
それは滝沢のマークとは少し違っていた。
「剣を操る力、魔法を操る力──、其達のどちらかがそれに適応しているはずだ」
つまり、自分と安藤、どっちかが剣の力か、魔法の力を持っている、ということか。
すると、後ろから司祭が口を開いた。
「手の聖印を見るからに、安藤殿は『剣の勇者』、滝沢殿は『魔法の勇者』となっております」
自分が魔法の勇者で、安藤が剣の勇者、か。
「……ふむ、そうか。それらを神より授かったからには、正義を執り行ってもらうほかない」
……正義、ね。
王は、少し黙り込むと、深刻そうな顔色をうかべた。
「……実は、私の娘──第三王女が、帝国にさらわれてしまったのだ」
この国の、王族の娘。
「我がアレスティア王国は、それに対応すべく戦争をしかける予定である」
戦争という言葉に、安藤はぴくりと怯えた表情を浮かべた。
「其達には、前金を用意しよう。もちろん、報酬も望む額を用意しよう。そのほか、何か望むことがあれば気兼ねせず言ってほしい」
つまり、王女の奪還と、その戦争に加われってことか……。
王様は椅子から立ち上がると、少しかがんで二人のの肩に手を置いた。
「…………我が娘を、リグを、どうか救ってほしい」
王様は、懇願するような面持ちで──今にも泣き崩れそうな表情で、そう言った。
「かしこまりました」
滝沢はそう口にした。
それに少し遅れて、安藤も同じ言葉を言った。
王は背筋を伸ばすと、大声を轟かせる。
「皆の者、ここに2人の勇者が出揃った──!! これよりアレスティア王国は、戦争準備に入る!!」
貴族たちから歓声と大きな拍手があがった。
拍手喝采。
──その中で、ぽつんとたたずむ存在に、滝沢は違和感を感じた。
貴族たちの中に紛れ込んでいる、唯一パジャマ姿で、拍手もせず、切なそげに目を伏せている幼い少女の姿があった。
まるでそこだけ景色の色が違うかのように……。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ざまぁが大事だから断罪は割愛します!
樹林
ファンタジー
婚約者が真実の愛を見つけたとかで婚約破棄を申し渡して来たけど、きっちり合法的に仕返しをさせていただきます。
ちなみに、そのヒロインは本当は·····。
全4話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
婚約破棄ですか? でしたら貴方様には、その代償を払っていただきますね
柚木ゆず
ファンタジー
婚約者であるクリストフ様は、私の罪を捏造して婚約破棄を宣言されました。
……クリストフ様。貴方様は気付いていないと思いますが、そちらは契約違反となります。ですのでこれから、その代償を受けていただきますね。
37才にして遂に「剣神」の称号を得ましたが、20年前に自分を振った勇者のパーティのエルフの女剣士に今更求婚されました。
カタナヅキ
ファンタジー
20年前、異世界「マテラ」に召喚された「レオ」は当時の国王に頼まれて魔王退治の旅に出る。数多くの苦難を乗り越え、頼りになる仲間達と共に魔王を打ち倒す。旅の終わりの際、レオは共に旅をしていた仲間のエルフ族の剣士に告白するが、彼女から振られてしまう。
「すまないレオ……私は剣の道に生きる」
彼女はそれだけを告げると彼の前から立ち去り、この一件からレオは彼女の選んだ道を追うように自分も剣一筋の人生を歩む。英雄として生きるのではなく、只の冒険者として再出発した彼は様々な依頼を引き受け、遂には冒険者の頂点のSランクの階級を与えられる。
勇者としてではなく、冒険者の英雄として信頼や人望も得られた彼は冒険者を引退し、今後は指導者として冒険者ギルドの受付員として就職を果たした時、20年前に別れたはずの勇者のパーティの女性たちが訪れる。
「やっと見つけた!!頼むレオ!!私と結婚してくれ!!」
「レオ君!!私と結婚して!!」
「頼む、娘と結婚してくれ!!」
「はあっ?」
20年の時を迎え、彼は苦難を共に乗り越えた仲間達に今度は苦悩される日々を迎える。
※本格的に連載するつもりはありませんが、暇なときに投稿します。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる