転生を繰り返してたら神様に惚れられました

丸太

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1章 

37. チャリティーバザー大盛況

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ドーン、ドーン、ドーン。

静かな眠りから目覚めた街に、大気と大地を振るわせる花火の音が鳴り響いた。

今日はチャリティーバザーの日。

1ヶ月前、新聞や掲示板でチャリティーバザーの開催が告示された。
チャリティーバザーとは?
最初はわからなかったが、1ヶ月かけて様々な情報が届き、街の皆が理解した。

領主様が市を開催する。しかも掘り出し物だらけ。激安、安価で領主様所縁ゆかりの品が売り出されるのだ。
しかも売上金は街の整備や活性化のために使われると公約されている。
そしてこのチャリティーバザーを考案したのは、今日、誕生日を迎えて10歳になられるご令嬢だ!

ブレス領主が治めるシルエット領は広い。
領主邸のあるブレスだけでなく、北の山や西の国境地帯、内陸の農村地帯、南の海岸線に大小の町が点在し、そのすべてを領主様とその麾下の貴族たちが統治している。
その各地から、今日はバザーのために路馬車がやって来る。
領主様の計らいで、今日を中心に3日間の路馬車は無料なのだ。数も通常の5倍に増えている。

ブレスの商人たちは、バザーにやって来るだろう人々を迎え入れるために、路面に看板や商品を並べ、テーブルや椅子をセットし、少しでも売り上げを伸ばそうと躍起になっている。
朝早くから通りには食欲をそそる匂いが立ち込め、メイン通りには領主様が手配した豪華な花がアニバーサリーリボンと共に飾られた。
街灯にはシルエット家の家紋が刺繍された旗が下げられ、街全体がご令嬢の誕生日を祝う雰囲気にのみ込まれていく。





ドーン、ドーン、ドーン。

遠くで近くで鳴り響く花火の音にソフィアは身じろいだ。
お目覚めですか?
お目覚めですよ。でもお布団がいつにも増して気持ちいいの。
今日はお誕生日ですよ。
そうね。
バザーが始まりますよ。
そうね。

「そうね! バザーね!」

ソフィアは飛び起きた。
呆れるシャロンやセイセイを無視して必死に朝の支度を進める。
今日は町民服でバザーに忍び込むのだ。
もちろんお母様の了承は貰っていて、従者たちともシミュレーション済みだ。

朝食も食べず、バザーの準備に参加する。
先ずは毎日朝一番にチェックし指導した衣装を、ハンガーラックごと運ぶ。のを邪魔にならないように見守る。
会議室に整然と並べられた仕立て直し済みの衣装たち。
使用人たちの傑作だ。
街の衣料店と商品として被らない位置取りを意識して、町民服としては上等に、町民たちがおしゃれをした時を設定したデザインに仕上がっている。

そして、荷車ごと運ばれる食器。
こちらはセバスチャン厳選の取り扱い注意商品だ。
ここには工房の職人たちが手伝いに加わっており、セバスチャンの指導で慎重に取り扱われる様子を見て安心する。

邸前広場では衣装、食器、露店とスペース分けされた会場が設営済みだ。
そこに兵士たちが並び始め、警備の準備も始まったようだ。

商品の品出しがあちらこちらで始まり、3か所の露店からは下準備のいい匂いが漂い始めた。
露店にはアド兄様が最終確認をしている姿がある。露店担当の兵士たちとほぼ同じ格好をしていて新鮮だ。キラキラの美少女が兵隊服を着ているのは異質だが、開場と同時に兜をかぶる予定なので、領民たちにバレる事はないだろう。

アド兄様には、露店での火着けの際に、折を見てオイルライターを使わせるようにお願いしてある。
オイルライターの存在は隠してはならない。だが、急速な普及は危険なので、今回は領民たちにその存在を「あ、見られちゃった!」的な演出で披露するのだ。
ある意味国政を左右する重要な演出だ。

町民服を着て、町民服の従者たちにそれとなく囲まれて、私は広場の片隅で準備を見守った。
邸前広場のゲート前にはたくさんの人だかりが出来ている。

そして、チャリティーバザー開場の時間が来た。

打ち上げられた花火が鳴り響くと同時に警備兵士によってゲートが開かれ、続々と領民たちが入場する。
後は事件や事故が起こらないように祈るだけだ。



領主邸前広場の兵士詰所で私はバザーの最初の熱気が落ち着くのを待っていた。
待機していると、平民服を着たレオン様とアレク兄様が従者と共に現れる。
一緒にバザーを見て回るのだ。
しかし。

「お二人とも、キラキラを隠せておりませんよ?」

平民服は新鮮で、これまた野性味溢れる格好良さなのだが、どう見ても平民じゃない。
私が指摘すると、お二人は声を揃えって言った。

「「ソフィア「嬢」もね!」」

私はシャロンに帽子と日除けの布を被せられました。髪もすべて隠します。

「シャロンもアリーも可愛いわ」

私は付き人の町民服姿に惚れぼれします。
売り物の衣装を仕立て直すと同時に、こんな時のために自分用の町民服も作っておくように言っておいたのです。
自分に似合う、自分の好きな町民服はドレスじゃなくても気分が上がります。
因みに私の服はシャロンが作ってくれました。

「さて、行こうか」

レオン様に手を取られ、私は詰所を出た。
手を取られるのにも少しずつ慣れてきました。
レオン様もアレク兄様も帽子をかぶって、スカーフで口元を隠しています。

近くを子供たちが走って通り過ぎ、私はビクリと身を竦めた。
とっさにレオン様とアレク兄様が両脇にピタリと着いてくれます。

見知らぬ人がこんな近くにいるのは初めてで、人とすれ違うだけでドキドキする。
無作法に歩き回り、すれ違う人とぶつかっても特に気にしない来客たち。
皆自分の興味のある商品を見るのに夢中だ。
衣装スペースには女性たちの熱気が溢れている。
乱れた商品を直していく使用人たちも忙しそうだ。
勘定係には列ができている。

「ふふふ、楽しいですね」

市井を知らない私は、初めての街体験をした気分だ。
前後左右を町民のふりをした従者たちに囲まれているけれど、領民たちの活気が伝わって来る。

「あ、アドライトだ」

アレク兄様が長蛇の列となっている露店の先にアド兄様を見つけた。
隣にはぴったりと従者のジェレミーが付いている。

その時、調理師が窯に火を入れた。
オイルライターを使って。

「おお!?」

町民たちにどよめきが起こる。
素知らぬ顔で料理を続ける料理人。

「感無量だねぇ」

隣のレオン様が呟いた。

「調理器具とレシピも凄い勢いで売れているな」

アレク兄様もすかさずチェックしている。

ぐるりと反対側へ回ると、食器スペースには商品をじっくりと眺める人がいれば、商談スペースで大量購入を希望する人もいる。
街の飲食店や宿屋にはセット購入も出来るよう手配してあるのだ。
数か所の会計所では工房の職人たちが大人数で買い上げられた食器を丁寧に布に包んでいる姿がある。
荷車の在庫がどんどん減って行く勢いだ。

「食器、最終的にどのくらいあったの?」

アレク兄様が聞いてくる。

「数千はあったよね?」

レオン様も聞いてくる。

「衣装も在庫がはけてきていますね」

「露店も3千食用意したらしいけれど、この広場、今何人いるのかしら?」

従者たちも今にも品薄になってしまいそうな気配に恐怖を訴える。
先程よりも明らかに人の数が増え、歩くもの困難なほどになってきた。
商品購入のために殺気立った人々が行きかう。
ざわめきで隣を歩くレオン様やアレク兄様の声も聞こえなくなってきた。

想像を超える盛況振りに、邸前広場の一角で、私たち3人と従者たちは立ち尽くしてしまった。
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