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1章
36.5 sideフォレスト侯爵家 その2 ~僥倖~
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無事に婚約の契約書か交わされ、レオン・フォレストとソフィア・シルエットは婚約者と相成った。
両家で向かい合ったまま会食となる。
普段の晩餐会では、フォレスト侯爵家は最も上座に位置することが多いので、このように他者と同列に食事をすることは滅多にない。
つまり、向かい合って食事をすることに慣れていない。
テーブルのお向かいに他者がいる状態に、平素ない緊張を強いられる。
対してシルエット家の面々は平然としたものだ。
無理なく、無駄なく、丁寧に食事を進めている。
小さなソフィア嬢も、子供とは思えない優雅な所作だ。
最初は緊張していたフォレスト家の三人だったが、前菜を口にして、その美味しさに緊張どころではなくなる。
「なんて美味しいテリーヌ!」
オレリアが社交辞令ではなく思わずと言った口調で料理を褒める。
「本当だ、これは?」
ファルコが尋ねると
「ホタテとたらことほうれん草のテリーヌです」
と水を整えていた給仕がスマートに答える。
使用人たちまで洗練されている。
次々に運ばれる料理に舌鼓を打つうちに緊張感など無かったことになり、レオンも逐一料理の説明をしてくれる。
シルエット家の料理に心酔しているのがわかる。
この美味しさでは無理もない。
夢中になって食事を堪能していると、本日の主役であるソフィアがにこにことフォレスト一家を眺めていることに気が付いた。
邪気の無い、こちらの心まで浄化されてしまいそうな柔らかい笑顔だ。
この子、只者ではない。
とんでもない娘を婚約者に迎えてしまったのではないかと、今更ながら心配になるフォレスト一家だった。
会食が終わるとテラスへ移動した。大窓から太陽の陽射しが燦燦と入り込み、外の美しい庭園が一望できる。
食事の時より近い距離となった両家は、ようやく砕けた会話が出始める。
「レオンの反抗期まで直してくれて感謝しているよ。エド」
フォレスト侯爵が言えば、
「ソフィアの警護役みたいに見えるな。申し訳ない」
とシルエット辺境伯が謙遜する。
傍で聞いているソフィアは不満そうに可愛らしい頬を膨らませる。
レオンとの身長差を気にしているらしい。
そんな仕草も、レオンとの釣り合いを気にするところも、何とも神が計算したかのように魅力的だ。
「レオン様、反抗期でしたの?」
小さく爆弾を落とすソフィア。
「ソフィア嬢になかなか会えなくて鬱屈していたんだよ。ソフィア嬢に出会えて全て解決だ」
我が息子とは思えない発言にフォレスト侯爵夫人はお茶を吐きそうになる。
「本当に、ひと月前のレオンとは別人のようだわ」
オレリアが言うと、ダニエラ・シルエット辺境伯夫人も乗って来る。
「我が家では本当に紳士で、主人たちが王都に戻った後も献身的に協力して下さったのよ。将来有望ですわ」
社交の言葉が飛び交う中、一画ではとある交渉が水面下で盛り上がりをみせている。
「本当にこの子がレシピや調理法を取りまとめているんだよ」
レオンが兄のケイレブにアドライトを紹介し、シルエット家の料理の特殊性についてコンコンと説明している。
「本当に? 調理器具とレシピがあれば我が家でもあの料理が食べられるのか?」
ケイレブが10歳も年下のアドライトを紹介され、シルエット家の料理の秘密について一生懸命聞き出している。
「レシピは今後、随時公開していく予定なんだ。王都方面への販売に協力してくれるならフォレスト家へ優先的に情報を流してもいいよ。その代わり、俺も情報が欲しくて・・・」
アドライトは悪役令嬢の如く悪い笑顔でケイレブと盛り上がっている。
ひとしきりの歓談が終わる頃には両家の垣根はずっと低くなった。
最後の頃は、レオンとソフィアはテーブルに向かい合って座り、終始わけのわからない話をしていた。
レオンの話についていけるソフィア嬢ってなんなんだ?
またも驚きを隠せないフォレスト一家だ。
レオンのわけのわからない話には、家族の皆が困らされていたのだ。
突拍子もない発想。
当然のような裏付け。
対抗できない強い意志。
それらが隠せないレオンにはファルコも危機感を覚えていて、滅多な事を口にしない様にと何度も注意したものだ。
だが、それらの一歩間違えると危険思想にも取られかねない会話も、ソフィアと話していると、まるで観劇後の感想を話し合っているかのような甘やかな雰囲気だ。
レオンの攻撃力がソフィアの柔らかさに包まれて、真綿のようにフワフワと害のない物へと変換されていく。
この娘、得体が知れない。
底の無い、あるいは天井の無い少女。
ソフィアとの出会いが、フォレスト侯爵一家の行く末すらも変えるのだが、そのことはまだ誰も知らない。
両家で向かい合ったまま会食となる。
普段の晩餐会では、フォレスト侯爵家は最も上座に位置することが多いので、このように他者と同列に食事をすることは滅多にない。
つまり、向かい合って食事をすることに慣れていない。
テーブルのお向かいに他者がいる状態に、平素ない緊張を強いられる。
対してシルエット家の面々は平然としたものだ。
無理なく、無駄なく、丁寧に食事を進めている。
小さなソフィア嬢も、子供とは思えない優雅な所作だ。
最初は緊張していたフォレスト家の三人だったが、前菜を口にして、その美味しさに緊張どころではなくなる。
「なんて美味しいテリーヌ!」
オレリアが社交辞令ではなく思わずと言った口調で料理を褒める。
「本当だ、これは?」
ファルコが尋ねると
「ホタテとたらことほうれん草のテリーヌです」
と水を整えていた給仕がスマートに答える。
使用人たちまで洗練されている。
次々に運ばれる料理に舌鼓を打つうちに緊張感など無かったことになり、レオンも逐一料理の説明をしてくれる。
シルエット家の料理に心酔しているのがわかる。
この美味しさでは無理もない。
夢中になって食事を堪能していると、本日の主役であるソフィアがにこにことフォレスト一家を眺めていることに気が付いた。
邪気の無い、こちらの心まで浄化されてしまいそうな柔らかい笑顔だ。
この子、只者ではない。
とんでもない娘を婚約者に迎えてしまったのではないかと、今更ながら心配になるフォレスト一家だった。
会食が終わるとテラスへ移動した。大窓から太陽の陽射しが燦燦と入り込み、外の美しい庭園が一望できる。
食事の時より近い距離となった両家は、ようやく砕けた会話が出始める。
「レオンの反抗期まで直してくれて感謝しているよ。エド」
フォレスト侯爵が言えば、
「ソフィアの警護役みたいに見えるな。申し訳ない」
とシルエット辺境伯が謙遜する。
傍で聞いているソフィアは不満そうに可愛らしい頬を膨らませる。
レオンとの身長差を気にしているらしい。
そんな仕草も、レオンとの釣り合いを気にするところも、何とも神が計算したかのように魅力的だ。
「レオン様、反抗期でしたの?」
小さく爆弾を落とすソフィア。
「ソフィア嬢になかなか会えなくて鬱屈していたんだよ。ソフィア嬢に出会えて全て解決だ」
我が息子とは思えない発言にフォレスト侯爵夫人はお茶を吐きそうになる。
「本当に、ひと月前のレオンとは別人のようだわ」
オレリアが言うと、ダニエラ・シルエット辺境伯夫人も乗って来る。
「我が家では本当に紳士で、主人たちが王都に戻った後も献身的に協力して下さったのよ。将来有望ですわ」
社交の言葉が飛び交う中、一画ではとある交渉が水面下で盛り上がりをみせている。
「本当にこの子がレシピや調理法を取りまとめているんだよ」
レオンが兄のケイレブにアドライトを紹介し、シルエット家の料理の特殊性についてコンコンと説明している。
「本当に? 調理器具とレシピがあれば我が家でもあの料理が食べられるのか?」
ケイレブが10歳も年下のアドライトを紹介され、シルエット家の料理の秘密について一生懸命聞き出している。
「レシピは今後、随時公開していく予定なんだ。王都方面への販売に協力してくれるならフォレスト家へ優先的に情報を流してもいいよ。その代わり、俺も情報が欲しくて・・・」
アドライトは悪役令嬢の如く悪い笑顔でケイレブと盛り上がっている。
ひとしきりの歓談が終わる頃には両家の垣根はずっと低くなった。
最後の頃は、レオンとソフィアはテーブルに向かい合って座り、終始わけのわからない話をしていた。
レオンの話についていけるソフィア嬢ってなんなんだ?
またも驚きを隠せないフォレスト一家だ。
レオンのわけのわからない話には、家族の皆が困らされていたのだ。
突拍子もない発想。
当然のような裏付け。
対抗できない強い意志。
それらが隠せないレオンにはファルコも危機感を覚えていて、滅多な事を口にしない様にと何度も注意したものだ。
だが、それらの一歩間違えると危険思想にも取られかねない会話も、ソフィアと話していると、まるで観劇後の感想を話し合っているかのような甘やかな雰囲気だ。
レオンの攻撃力がソフィアの柔らかさに包まれて、真綿のようにフワフワと害のない物へと変換されていく。
この娘、得体が知れない。
底の無い、あるいは天井の無い少女。
ソフィアとの出会いが、フォレスト侯爵一家の行く末すらも変えるのだが、そのことはまだ誰も知らない。
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