転生を繰り返してたら神様に惚れられました

丸太

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1章 

34. オイルライター出来上がり

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「帰りません。いいかな?」

とサロンで絶世の美青年が懇願しました。
レオン様、当初の予定を無視して王都には帰還せず、私の誕生パーティーまでブレスのシルエット邸に居座りたいと懇願しております。

「婚約者家族ともご親交を深めたいですし」

もっともな事をおっしゃいますが、王族に名を連ねる侯爵子息にお願いされて断れる立場ではありません。
シルエット家は代々辺境伯を賜り他に類を見ない勢力を持っていますが、そういった部分ではものすごく従順なのです。

お母様もアド兄様もしれっと貴族の笑顔で了承しましたが、お父様とアレク兄様は呆れ顔です。
なので私もレオン様に大義で加勢しました。

「実際、今手掛けている開発にはレオン様と従者たちの力が必要です。外に調査に出る事も多いですし、もしレオン様がいなくなったら、私が外へ出ないと進まないです」

想定外の知識を持つレオン様だからこそ、外部調査も頼めるのです。
いつも期待以上の成果を持ち帰ってくれます。
他の人では、先ず調査の目的やら、先行きのパターンやらを示して調査に送り出さなければならないし、それでも結果が伴うとは限らない。

「父上にも連絡済みです」

にこにこ。レオン様、それでは決定事項ですよ。

こうしてレオン様は王都に帰らず、シルエット邸に滞在することが決まりました。



そして、お父様とアレク兄様のお見送りです。

「ソフィア! 俺は王都でやれることをやる! 楽しみにしていてくれ!!」

とアレク兄様に馬車の前でギューギュー抱きしめられて抜け出せません。パーティーのことですかね? 楽しみにしています。

お父様もお母様と長々とお別れの挨拶をしている。
でも今回は一か月後にまた帰郷することがわかっているので、涙はありません。
それぞれ別れを惜しんで、お父様とアレク兄様を乗せた馬車は王都へ向かいました。
帰ったらメイドが15人減っているのよね。
いろいろご負担掛けてすみません。その分バザーは成功させます!

「あ~あ、俺の休暇も終わりだ。今日からまた家庭教師が来る」

アド兄様は愚痴を言いながら邸へ戻る。男子なのでたくさんの分野を学んでいる。朝から夕方まで、またいつもの通りお勉強が始まる。

女子のお勉強の基本はマナー、歴史、芸術、刺繍や裁縫、お茶だ。男子との格差が酷い。女子が勉強をしたい時は、親の理解と本人のやる気が無ければ達成しない。
これも私の変えたい部分。内緒です。

お母様とセバスチャンも忙しそうに執務室へ向かう。
お父様がいなくなるので忙しさが戻ってきました。

「では、俺たちは工房へ行こう」

「はい!」

レオン様に声を掛けられて、私は元気に返事をします。
そう。今私の関心は全て工房にあります。
頭の中にしかなかった知識が現実で再現されていく面白さは格別です。
職人たちの器用な手と現場でしか培えない知識と、経験でしか得られない勘で作り出される部品は、芸術品のように素晴らしいのです。



「火種に使えそうな素材があるらしい」

工房では街からの情報も頻繁に入って来る。

「じゃー、行ってくる」

レオン様、相変わらずのフットワークの軽さで、今日も従者たちと街へ向かう。いつでも動けるように、朝から身軽な服装をすることが多くなった。

私は工房で留守番だが、やることはたくさんある。



「お嬢、やっぱりこのままじゃ歯車は回んねぇな。」

職人2人が昨日から作っている歯車を持って来た。何パターンも試作してくれている。

やすりと相性が悪いんだ。だが、鑢が一番着火しやすい。鑢は外せないとなると、歯車を変えるしかないな」

目の前に並べられた着火部分の歯車を直接回して確かめてみる。
強い摩擦が生じて回しづらい。

「歯車じゃなくていいのかもしれないわ。ここに芯を通して、ここは丸くして・・・」

私はまた新しい形を絵にかいて提案する。

「素材はそのままで作ってみて」

「はいよ!」

2人は新しい設計図を持って作業に戻る。



「お嬢! オイルのパターンが出たぜ」

すかさず次の確認作業が入り込む。

オイルと火種の台になる素材を数種類から組み合わせ、同じ条件で燃やした結果が届けられた。
火を取り扱うという事は細かい検証から得たデータが必須となる。
部品を作る傍らでは、様々な素材の耐火性などを調べる実験も同時に進行している。

座っているだけで指示したものが次々と出来上がり、新しい指示に次々と取り掛かっていく。うちの職人、優秀じゃない? おかけで私の頭はフル回転だ。

「お嬢の指示で倉庫の物を修復しまくっているからな。おかげで物の作りや素材の癖を覚えちまった」

親方がカハハと笑う。
何と、五年前の指示がここに繋がって来るとは自分でも驚きだ。
でもね、やっぱりすごいのは、やり続け技術を蓄えて行った職人たちだ。
彼らの探求心と妥協の無さが今は逞しい戦力になっている。

「皆、最高よ」

私が言うと、皆も笑いを返してくれる。
幸せだ。



こうして、毎日を充実して過ごしているうちに、オイルライターは完成形を迎えた。



初めてお母様を迎えた工房は浮足立っている。
私やレオン様では到底与えられない緊張感に、親方は震えっぱなしだ。
危険性を最小限に抑えるため、工房の外でオイルライターの実演が行われた。

挨拶していた親方がお母様の前から大きく5歩程離れ、安全を確保する。
そして手にしたオイルライターの蓋を開ける。

ティン!という音。
親方がごくりと生唾を飲み込む。
そして震える指で、ライターのホイールをジャッと擦るように回す。
すると、静かに小さな炎が立ち上がった。

「まぁ・・・」

誰一人声を発しない静かなどよめきの中、お母様が親方に近づく。
だが近習たちが引き留める。まだ安全だという確証はない。

小さな炎をたなびかせたままのオイルライターを、親方は丸太の上に置いた。
炎はライターの中のオイルがなくなるまで、小一時間燃え続けた。

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