転生を繰り返してたら神様に惚れられました

丸太

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1章 

33. オイルライター開発始動

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修理工房の親方は髭モジャのおじさんだ。
でも彼が太い指で繊細な仕事をするのを私は知っている。

工房を訪ねると、先触れがあったようで、急ごしらえされたとわかるテーブルセットに通された。

「・・・」

お向かいに座った親方は会釈をするだけです。もちろん自分から話さない。
これでは共同開発ははかどらないわ。

するとレオン様がテーブルの真ん中に設計図を広げ、いつもより行儀悪く足を開いて身を乗り出した。

「これを作って欲しいんだ。もちろんまだ開発中のものだから、作りながら手直ししていく予定ね。工房の知恵を借りたい」

コツコツと設計図を指で叩きながら、態度は悪いが口調は丁寧。
高位貴族と対面するという緊張で固まっていた親方はようやく動き出し、設計図を手元に引き寄せた。

「絶対に短期で開発させる。その為にはまず」

レオン様は工房を見回す。

「ここにいる者、全員、これからは私たちとの身分差は無いと思ってくれ!」

大声で言う。
作業している者たちが手を止めてこちらを見る。
先程から興味津々で聞き耳を立てていたのだから反応は早かった。

「どういうことだい?」

親方が聞いてくる。

「まず、口の利き方は好きにしていい。次にこちらの意見に反対しても罪に問わない。私と、ソフィア嬢と、工房が、共同開発をするという意識で積極的な意見と行動を求めている。その際に多少の無礼が生じても、それは熱意と受け取る。私たち二人の警護の者に対しても同様だ」

現場が静まり返る。

「ただし、ソフィア嬢に触れる事、危険にさらす事は許さない。以上」

線の細い外見からは想像し難い、良く通る命じる事に慣れた声。
言っていることはともかく、やっていることは貴族以外の何でもない。
だが、レオン様の意図は親方に真っ先に通じた様子だ。

「これは、何だい? 何を作りたいのか解らないと意見も何も出ないぞ」

まずはトップの親方が口調を崩した。
現場は少し緊張するが、もちろん私たちも従者も咎めない。

「聞いて驚け。だが、決して口外はするなよ」

レオン様は工房内の職人たちを集める。
皆、テーブルの上の設計図に注目だ。

「魔力なしで火を起こす装置だ」

少し低い、静かな声でレオン様が言う。

「・・・」

反応が無い。
私はレオン様と顔を見合わせてしまった。
信じてもらえていないのね。
皆呆れている。

ならばと、レオン様が火打石で火を起こす実演をする。
最初は何を夢物語みたいなことを・・・と呆れて見ていた職人たちの目が、火打石で火花を散らす段に来てグワッと変わる。
その後の工程を目を剥いて見守っている。
小さな火が付くと、職人たちはどよめいた。

「一切魔法は使ってないよ。で、この作業、結構面倒なのね。だから最小の装置にしてしまおうと君らのソフィア嬢が考えたのが、これ」

レオン様は麻の繊維がついた服をパンパンと払いながら、設計図に目をやった。
カバっと皆がテーブルの上の設計図にかぶりつく。

「なんだこれは? ここがさっきの石になるのか?」

「摩擦で火を起こすのか? こっちはやすりか!」

「オイルを吸い上げて、ここに火種を燃やすのか」

さすが職人たちだ。話が早い。
もう既に制作に向けて思考が動き出したようで、素材がどうとか、どう加工していけばよいかという話も出始めた。

「どうだい? できそうかい?」

頃合いを見てレオン様が職人たちに声を掛ける。
静まり返った職人たちは顔を合わせ、親方が前へ進み出た。

「やらせてくれ。世紀の大仕事だ。お嬢様のアイデアなら尚更このシルエット工房で完成させなきゃならん」

意欲に満ちた声だ。
この仕事の意義も危険性も十分解っている。
私はレオン様と目を合わせ頷いた。

「では、期限は3週間。緊急な用件以外は止めて開発に集中してくれ」

職人たちは固く頷く。

「ソフィア嬢。ほら、一言なんか言ってあげな」

レオン様に促されて、私はすっと前へ出る。

「これは内緒のお仕事です。内緒にやっているという事をお父様は知っていますから安心してください。でも外部に漏らすわけにはいきません。そこのところを十分気を付けて下さいね。そして、出来上がったら『シルエット工房』のマークを刻印します」

私の最後の言葉に、職人たちの目が輝きました。

「い、いいんですか?」

親方が思わず聞いてくる。

「もちろんです。これはシルエット工房開発の物として正式に登録しますし、その権利は工房に帰属します。だから、やりながらよい工房マークも考えてね」

最後はにこにこ笑顔で言っておきます。
だいたい笑顔が一番なのです。
職人たちもやる気に満ちた良い笑顔になりました。

「さあ、試作品をどんどん上げてくれ。ここで俺たちが設計を書類にまとめていくから、君たちは作業に集中してくれていい。良い考えが出たら都度報告な!」

レオン様も随分砕けた口調になりました。



こうして私とレオン様は三週間、ほぼ毎日を工房で過ごす事になったのです。
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