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1章
29.5 sideレオン ~待望の婚約内定~
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失敗した。
サロンに移っても見知った顔ばかりで気が抜けてしまう。
俺は上等なソファークッションにズブズブと沈み込んだ。
辺境伯は王都から派遣された従者たちにワインを進め、大人の歓談へと段を進めているが、未成年の俺たちにとっては何の代わり映えもしないサロンだ。
俺が沈み込んだソファーの隣に、アドライトがジュースの入ったグラスを持って腰を据える。
「今日は女性陣の方が盛り上がってるね。俺もあっちに行こうかな」
「アド君なら向こうへ行っても遜色ない美少女っぷりだよ。年齢的にも許される。俺は無理だ。ソフィア嬢に警戒された」
「軽口叩くからだ」
向かいのソファーにはアレクサンドライトが座った。
間のテーブルにグラスを2つ置く。俺の分も用意し、相変わらずのそつの無さだ。
『俺が今一番夢中になっている子』
というフレーズがあれ程ソフィア嬢の心に壁を築くとは思わなかった。
自分と対等に話し、時には自分以上の知識を見せるソフィア嬢だが、よく考えればまだ10歳にもならない小さな少女だ。
恋愛に対して潔癖で当然なのだ。
しかもすこぶる箱入りだ。
デリケートな部分を冗談にして告げてしまったのは俺の失敗だ。
後でちゃんと謝罪して、本当の所を真面目に伝えなければならない。
だが。
「ソフィア嬢、すっっっごく可愛くない? 恋愛表現に過剰反応するところとかもう。可愛い過ぎるんだけど」
顔を覆って彼女の反応を思い出す。
『俺の一番』と言った時、顔をボッと赤くして、冷静になろうと表情を繕って、その後の塩対応。
誰かが彼女にそんないたずらを仕掛けているとしたら非常に腹立たしいが、自分のせいで可愛く慌てふためく様を見るのは何というか、意地悪だが楽しい。
「言ってろ。どうやら使用人たちには婚約の話は伝わっているようだな」
アレクが頭を抱えている。
可愛い妹に早々に婚約者がつくのが嫌らしい。
「知らぬはソフィアのみって、可愛そう」
アドは相変わらずのソフィア贔屓だ。
「あのね、苛めているわけじゃないからね。俺だってさっさと打ち明けて、婚約者としての立場を示したいんだからね。でもフォレスト家から正式な打診の手紙が届かないと打ち明けられないのはルールでしょ?」
「そうだけど。レオン様の態度にいちいち反応しているソフィアが気の毒でならないよ」
「そうだそうだ。お前が先走り過ぎなんだよ。ソフィアの気を引くのも打ち明けてからにしてやれよ」
アドに続きアレクからも非難を浴びる。
「そうは思うけどね。なんかちょっかい出したくなるんだよね」
幼く、そういう意味で何も知らない彼女の心に足跡を残す行為はある種快感を覚える。
どんな女性相手でもこんな気持ちになったことはない。
ずっと探していた『誰か』。すっと探していた少女。ソフィア嬢だからこそ、何もかも独占したくなる。
やばいな。早く自分の立場を明確にして、婚約者としてソフィア嬢をでろでろに甘やかしてやりたい。
もちろん性的なあれこれは置いといて、今はソフィア嬢の溢れる好奇心の圧倒的協力者になるのだ。彼女の頼れる相手=俺になって、恋愛面は彼女の精神が成長するように順を追って刺激していくしかない。
「なのにさっきは先走ったな~。いつも一緒にいる使用人たちがいたから気が緩んだ」
俺が先程の『俺の一番』発言を後悔していると、辺境伯がうちの従者と共にやって来た。
「さっきの軽口は許してやるから、明日、ちゃんとソフィアに弁明しろ」
そう言うと2本の指で挟まれた手紙をピッと子供たちに見せつけた。
もしや、あれは。
「ファルコ・フォレスト侯爵から正式な婚約の申し込みが来た。来るソフィアの誕生パーティーの前日に婚約式だ。」
男子三人がその手紙を受け取ると、テーブルに広げた。
その手紙には流暢な文字で形式に則った婚約申し込みの言葉が書かれ、2枚目には婚約式の日取りや段取りが書かれていた。
「うわ、きた!」
アド君、正直な反応。
「マジか~。お前が弟か~」
アレクは形容しがたい感じ。
うん。わかるよ。
俺もお前が兄貴とか形容しがたいもんがある。
でも俺は。
「やった!」
もうそれしかない。
夫人との面倒な約束はあるのだが、状況が進展することに期待しかなかった。
これで、妙に優しくしてくれる兄の友人役から抜け出て、ソフィア嬢を大切に大切にする大義名分が与えられたわけだ。
「お前・・・幸せそうな顔しやがって」
アレクに頭をグシャグシャにされるが、こみ上げる笑顔には逆らえなかった。
サロンに移っても見知った顔ばかりで気が抜けてしまう。
俺は上等なソファークッションにズブズブと沈み込んだ。
辺境伯は王都から派遣された従者たちにワインを進め、大人の歓談へと段を進めているが、未成年の俺たちにとっては何の代わり映えもしないサロンだ。
俺が沈み込んだソファーの隣に、アドライトがジュースの入ったグラスを持って腰を据える。
「今日は女性陣の方が盛り上がってるね。俺もあっちに行こうかな」
「アド君なら向こうへ行っても遜色ない美少女っぷりだよ。年齢的にも許される。俺は無理だ。ソフィア嬢に警戒された」
「軽口叩くからだ」
向かいのソファーにはアレクサンドライトが座った。
間のテーブルにグラスを2つ置く。俺の分も用意し、相変わらずのそつの無さだ。
『俺が今一番夢中になっている子』
というフレーズがあれ程ソフィア嬢の心に壁を築くとは思わなかった。
自分と対等に話し、時には自分以上の知識を見せるソフィア嬢だが、よく考えればまだ10歳にもならない小さな少女だ。
恋愛に対して潔癖で当然なのだ。
しかもすこぶる箱入りだ。
デリケートな部分を冗談にして告げてしまったのは俺の失敗だ。
後でちゃんと謝罪して、本当の所を真面目に伝えなければならない。
だが。
「ソフィア嬢、すっっっごく可愛くない? 恋愛表現に過剰反応するところとかもう。可愛い過ぎるんだけど」
顔を覆って彼女の反応を思い出す。
『俺の一番』と言った時、顔をボッと赤くして、冷静になろうと表情を繕って、その後の塩対応。
誰かが彼女にそんないたずらを仕掛けているとしたら非常に腹立たしいが、自分のせいで可愛く慌てふためく様を見るのは何というか、意地悪だが楽しい。
「言ってろ。どうやら使用人たちには婚約の話は伝わっているようだな」
アレクが頭を抱えている。
可愛い妹に早々に婚約者がつくのが嫌らしい。
「知らぬはソフィアのみって、可愛そう」
アドは相変わらずのソフィア贔屓だ。
「あのね、苛めているわけじゃないからね。俺だってさっさと打ち明けて、婚約者としての立場を示したいんだからね。でもフォレスト家から正式な打診の手紙が届かないと打ち明けられないのはルールでしょ?」
「そうだけど。レオン様の態度にいちいち反応しているソフィアが気の毒でならないよ」
「そうだそうだ。お前が先走り過ぎなんだよ。ソフィアの気を引くのも打ち明けてからにしてやれよ」
アドに続きアレクからも非難を浴びる。
「そうは思うけどね。なんかちょっかい出したくなるんだよね」
幼く、そういう意味で何も知らない彼女の心に足跡を残す行為はある種快感を覚える。
どんな女性相手でもこんな気持ちになったことはない。
ずっと探していた『誰か』。すっと探していた少女。ソフィア嬢だからこそ、何もかも独占したくなる。
やばいな。早く自分の立場を明確にして、婚約者としてソフィア嬢をでろでろに甘やかしてやりたい。
もちろん性的なあれこれは置いといて、今はソフィア嬢の溢れる好奇心の圧倒的協力者になるのだ。彼女の頼れる相手=俺になって、恋愛面は彼女の精神が成長するように順を追って刺激していくしかない。
「なのにさっきは先走ったな~。いつも一緒にいる使用人たちがいたから気が緩んだ」
俺が先程の『俺の一番』発言を後悔していると、辺境伯がうちの従者と共にやって来た。
「さっきの軽口は許してやるから、明日、ちゃんとソフィアに弁明しろ」
そう言うと2本の指で挟まれた手紙をピッと子供たちに見せつけた。
もしや、あれは。
「ファルコ・フォレスト侯爵から正式な婚約の申し込みが来た。来るソフィアの誕生パーティーの前日に婚約式だ。」
男子三人がその手紙を受け取ると、テーブルに広げた。
その手紙には流暢な文字で形式に則った婚約申し込みの言葉が書かれ、2枚目には婚約式の日取りや段取りが書かれていた。
「うわ、きた!」
アド君、正直な反応。
「マジか~。お前が弟か~」
アレクは形容しがたい感じ。
うん。わかるよ。
俺もお前が兄貴とか形容しがたいもんがある。
でも俺は。
「やった!」
もうそれしかない。
夫人との面倒な約束はあるのだが、状況が進展することに期待しかなかった。
これで、妙に優しくしてくれる兄の友人役から抜け出て、ソフィア嬢を大切に大切にする大義名分が与えられたわけだ。
「お前・・・幸せそうな顔しやがって」
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