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1章 

27. 恋をしてはいけません

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さて、夜会です。
オイルライターのことは一旦置いておきます。
わざわざ王都から来てくれた使用人たちを労い、これからの衣装制作をよろしくお願いしなければなりません。

よくよく考えると他家の使用人が我が家に長期間滞在するなど初めての事だ。
何が起こるか分からない。こちらが粗相をすれば我が家の評判に関わるし、使用人同士の軋轢などが生まれてしまわないように、細部まで気を使わなければ。
フォレスト家の使用人なのだから、うまい事やってくれるとは思うが、そこは蓋を開けてみないとわからない事ばかりだ。

いつものようにシルエットカラーの青と金でコーディネイトする。
家族でシルエットカラーを纏う時は、より自分の色に近づけるのが暗黙のルールだ。
私の場合、青も金も最も色味がうすいので、他の家族との兼ね合いを考えて、実際の色より薄い色を選ぶ。
侍女たちに任せた今日のドレスはシルバーブルーに金糸、銀糸の刺繍が美しいドレスとなった。全体的に明るい色なのでポイントの青は瞳と同じライトブルーだ。宝石もライトブルーで統一された。
子供らしく露出の少ないプリンセスライン。
動くたびにキラキラ光る髪と肌。どうしてこんなキラキラするのでしょう?
いつも通り、三割増しで仕上がって、侍女たちの腕に感嘆します。



夜の帳が降りると同時に緑林館から使用人たちが続々と本館に入場する。
夜会ではあるが、使用人たちは全員儀式用の制服姿だ。
玄関前のエントランスではレオン様とアレク兄様が使用人たちをお出迎えしている。
女性が多いので入口がピンクな歓声に沸くのが伝わってきます。
あのお二人にお出迎えされたらそりゃあね。沸き立つよね。
久しぶりの再会に喜び合う声も聞こえてきます。
身内同士なので良い雰囲気です。

邸の入口ホールでは、お父様、お母様、アド兄様、そして私がお出迎えと挨拶に立ちます。
自己紹介をし、ひとりひとり、お名前とお顔を確認する。ご足労を労わり助力に感謝を述べると、そこは使用人です。実にあっさりと恐縮されて挨拶が終わります。

その中のお1人、フォレスト邸の使用人でレオン様付の侍女、アリーと名乗った女性が私を見て目を見張りました。
実は先程からこのような反応をなさる方が多くいるのです。
でも使用人という立場ですから、私に特別に話しかける者はいません。
私、何か変かしら?
いえ、私の侍女たちは完璧です。変なところはないはずなのです。

全ての方が入場を終えると、レオン様とアレク兄様がホールに入ってきました。
レオン様がグレーブラックに明るい金糸の刺繍が施された華美な衣装を纏っています。
うん。これは沸く。
私も使用人たちのようにキャーキャー言いたい美しさです。

そのまま夜会の会場となった大きな食堂へ移動する。
すっとレオン様が私の横に付きました。

「今日もすごく素敵ですよ、ソフィア嬢。とても可愛らしい。うちの使用人たちも驚いたことでしょう」

マナーを忘れないレオン様。女子には嬉しい限りです。
使用人たちのあのお顔は驚きなのかしら?
わたしが「とても可愛らしい」から?
いやいや、レオン様が優しいからと言って調子こいてはいけません。

「レオン様も素敵です。グレーのお衣装は初めてですね?」

言うとレオン様は私の手を取り大きな窓の前に連れて行く。
窓には背の高いレオン様と、手を引かれたちびっ子の私が並んで映っています。

「刺繍が気に入っているんです。特に色が。いつものより少し明るい金でしょう? ソフィア嬢に合わせてみました。きっと私たち、お似合いですよ」

社交の口調のままなので、いつもより凛々しさ増し増しです。

お似合いだなんて、どう見たって私はレオン様に釣り合わない子供だ。
改めて見せられた身長差にちょっとがっかりする。
遊学先のホストファミリーのひとり娘として、丁寧に対応して頂いているだけなのに、いつもあまりにも優しいので、時々勘違いが生まれてしまうのです。
でも客観的に見て、ちゃんと理解する。
レオン様がこんな子供の私に好意を抱くなどありえない。
恋はしたことが無いけれど、あらゆる本に書いてある。失恋は身がちぎれるほど痛く苦しいのだと。
私、レオン様に恋をしてはいけません。
窓に映る姿を見て心に誓うのでした。
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