38 / 57
1章
27. 恋をしてはいけません
しおりを挟む
さて、夜会です。
オイルライターのことは一旦置いておきます。
わざわざ王都から来てくれた使用人たちを労い、これからの衣装制作をよろしくお願いしなければなりません。
よくよく考えると他家の使用人が我が家に長期間滞在するなど初めての事だ。
何が起こるか分からない。こちらが粗相をすれば我が家の評判に関わるし、使用人同士の軋轢などが生まれてしまわないように、細部まで気を使わなければ。
フォレスト家の使用人なのだから、うまい事やってくれるとは思うが、そこは蓋を開けてみないとわからない事ばかりだ。
いつものようにシルエットカラーの青と金でコーディネイトする。
家族でシルエットカラーを纏う時は、より自分の色に近づけるのが暗黙のルールだ。
私の場合、青も金も最も色味がうすいので、他の家族との兼ね合いを考えて、実際の色より薄い色を選ぶ。
侍女たちに任せた今日のドレスはシルバーブルーに金糸、銀糸の刺繍が美しいドレスとなった。全体的に明るい色なのでポイントの青は瞳と同じライトブルーだ。宝石もライトブルーで統一された。
子供らしく露出の少ないプリンセスライン。
動くたびにキラキラ光る髪と肌。どうしてこんなキラキラするのでしょう?
いつも通り、三割増しで仕上がって、侍女たちの腕に感嘆します。
夜の帳が降りると同時に緑林館から使用人たちが続々と本館に入場する。
夜会ではあるが、使用人たちは全員儀式用の制服姿だ。
玄関前のエントランスではレオン様とアレク兄様が使用人たちをお出迎えしている。
女性が多いので入口がピンクな歓声に沸くのが伝わってきます。
あのお二人にお出迎えされたらそりゃあね。沸き立つよね。
久しぶりの再会に喜び合う声も聞こえてきます。
身内同士なので良い雰囲気です。
邸の入口ホールでは、お父様、お母様、アド兄様、そして私がお出迎えと挨拶に立ちます。
自己紹介をし、ひとりひとり、お名前とお顔を確認する。ご足労を労わり助力に感謝を述べると、そこは使用人です。実にあっさりと恐縮されて挨拶が終わります。
その中のお1人、フォレスト邸の使用人でレオン様付の侍女、アリーと名乗った女性が私を見て目を見張りました。
実は先程からこのような反応をなさる方が多くいるのです。
でも使用人という立場ですから、私に特別に話しかける者はいません。
私、何か変かしら?
いえ、私の侍女たちは完璧です。変なところはないはずなのです。
全ての方が入場を終えると、レオン様とアレク兄様がホールに入ってきました。
レオン様がグレーブラックに明るい金糸の刺繍が施された華美な衣装を纏っています。
うん。これは沸く。
私も使用人たちのようにキャーキャー言いたい美しさです。
そのまま夜会の会場となった大きな食堂へ移動する。
すっとレオン様が私の横に付きました。
「今日もすごく素敵ですよ、ソフィア嬢。とても可愛らしい。うちの使用人たちも驚いたことでしょう」
マナーを忘れないレオン様。女子には嬉しい限りです。
使用人たちのあのお顔は驚きなのかしら?
わたしが「とても可愛らしい」から?
いやいや、レオン様が優しいからと言って調子こいてはいけません。
「レオン様も素敵です。グレーのお衣装は初めてですね?」
言うとレオン様は私の手を取り大きな窓の前に連れて行く。
窓には背の高いレオン様と、手を引かれたちびっ子の私が並んで映っています。
「刺繍が気に入っているんです。特に色が。いつものより少し明るい金でしょう? ソフィア嬢に合わせてみました。きっと私たち、お似合いですよ」
社交の口調のままなので、いつもより凛々しさ増し増しです。
お似合いだなんて、どう見たって私はレオン様に釣り合わない子供だ。
改めて見せられた身長差にちょっとがっかりする。
遊学先のホストファミリーのひとり娘として、丁寧に対応して頂いているだけなのに、いつもあまりにも優しいので、時々勘違いが生まれてしまうのです。
でも客観的に見て、ちゃんと理解する。
レオン様がこんな子供の私に好意を抱くなどありえない。
恋はしたことが無いけれど、あらゆる本に書いてある。失恋は身がちぎれるほど痛く苦しいのだと。
私、レオン様に恋をしてはいけません。
窓に映る姿を見て心に誓うのでした。
オイルライターのことは一旦置いておきます。
わざわざ王都から来てくれた使用人たちを労い、これからの衣装制作をよろしくお願いしなければなりません。
よくよく考えると他家の使用人が我が家に長期間滞在するなど初めての事だ。
何が起こるか分からない。こちらが粗相をすれば我が家の評判に関わるし、使用人同士の軋轢などが生まれてしまわないように、細部まで気を使わなければ。
フォレスト家の使用人なのだから、うまい事やってくれるとは思うが、そこは蓋を開けてみないとわからない事ばかりだ。
いつものようにシルエットカラーの青と金でコーディネイトする。
家族でシルエットカラーを纏う時は、より自分の色に近づけるのが暗黙のルールだ。
私の場合、青も金も最も色味がうすいので、他の家族との兼ね合いを考えて、実際の色より薄い色を選ぶ。
侍女たちに任せた今日のドレスはシルバーブルーに金糸、銀糸の刺繍が美しいドレスとなった。全体的に明るい色なのでポイントの青は瞳と同じライトブルーだ。宝石もライトブルーで統一された。
子供らしく露出の少ないプリンセスライン。
動くたびにキラキラ光る髪と肌。どうしてこんなキラキラするのでしょう?
いつも通り、三割増しで仕上がって、侍女たちの腕に感嘆します。
夜の帳が降りると同時に緑林館から使用人たちが続々と本館に入場する。
夜会ではあるが、使用人たちは全員儀式用の制服姿だ。
玄関前のエントランスではレオン様とアレク兄様が使用人たちをお出迎えしている。
女性が多いので入口がピンクな歓声に沸くのが伝わってきます。
あのお二人にお出迎えされたらそりゃあね。沸き立つよね。
久しぶりの再会に喜び合う声も聞こえてきます。
身内同士なので良い雰囲気です。
邸の入口ホールでは、お父様、お母様、アド兄様、そして私がお出迎えと挨拶に立ちます。
自己紹介をし、ひとりひとり、お名前とお顔を確認する。ご足労を労わり助力に感謝を述べると、そこは使用人です。実にあっさりと恐縮されて挨拶が終わります。
その中のお1人、フォレスト邸の使用人でレオン様付の侍女、アリーと名乗った女性が私を見て目を見張りました。
実は先程からこのような反応をなさる方が多くいるのです。
でも使用人という立場ですから、私に特別に話しかける者はいません。
私、何か変かしら?
いえ、私の侍女たちは完璧です。変なところはないはずなのです。
全ての方が入場を終えると、レオン様とアレク兄様がホールに入ってきました。
レオン様がグレーブラックに明るい金糸の刺繍が施された華美な衣装を纏っています。
うん。これは沸く。
私も使用人たちのようにキャーキャー言いたい美しさです。
そのまま夜会の会場となった大きな食堂へ移動する。
すっとレオン様が私の横に付きました。
「今日もすごく素敵ですよ、ソフィア嬢。とても可愛らしい。うちの使用人たちも驚いたことでしょう」
マナーを忘れないレオン様。女子には嬉しい限りです。
使用人たちのあのお顔は驚きなのかしら?
わたしが「とても可愛らしい」から?
いやいや、レオン様が優しいからと言って調子こいてはいけません。
「レオン様も素敵です。グレーのお衣装は初めてですね?」
言うとレオン様は私の手を取り大きな窓の前に連れて行く。
窓には背の高いレオン様と、手を引かれたちびっ子の私が並んで映っています。
「刺繍が気に入っているんです。特に色が。いつものより少し明るい金でしょう? ソフィア嬢に合わせてみました。きっと私たち、お似合いですよ」
社交の口調のままなので、いつもより凛々しさ増し増しです。
お似合いだなんて、どう見たって私はレオン様に釣り合わない子供だ。
改めて見せられた身長差にちょっとがっかりする。
遊学先のホストファミリーのひとり娘として、丁寧に対応して頂いているだけなのに、いつもあまりにも優しいので、時々勘違いが生まれてしまうのです。
でも客観的に見て、ちゃんと理解する。
レオン様がこんな子供の私に好意を抱くなどありえない。
恋はしたことが無いけれど、あらゆる本に書いてある。失恋は身がちぎれるほど痛く苦しいのだと。
私、レオン様に恋をしてはいけません。
窓に映る姿を見て心に誓うのでした。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる