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1章 

25. 火起こし実演

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石畳の道をお父様が先頭となり凄い勢いで近づいてくる。
お父様、お母様、お兄様たち、執事のセバスチャン、侍女のシャロン。
最小の人選です。
それだけ外部に知られたく無いという意向が表れているようで、私は今更ながらびびります。
朝の気持ち良い陽射しも霞む迫力に、私はレオン様の陰に隠れた。

家族がガゼボの中に入って来るが、しばらく沈黙が続く。
私は身につまされる思いでその時間をやり過ごす。
レオン様の陰に隠れて。

「随分仲良くなったものだな、レオン」

口火を切ったのはアレク兄様。

「皆様があまりに怖い顔をしているからですよ」

今、レオン様だけが普段通り優しく温かい。
私を庇ってくれる位置取りが嬉しい。

レオン様の言葉に家族の皆が顔を合わせ、表情を改める。
そしてお父様が落ち着いた声で言う。

「人払いをした。魔力無しで火を起こしたと聞いたが、再現できるのか?」

私は更にレオン様の後ろに隠れ、しがみつきます。
本当に、皆がこんなに大騒ぎするような事だとは思わなかったのです。

そんな私の肩を、レオン様の大きな手が優しく包んで、横に並ばせます。

「再現できますし、ソフィア嬢の知識と閃きの賜物ですよ」

ね、とにこにこ笑顔で私を覗き込むが、私はやはり慣れない家族の怖い雰囲気にびくびく怯えてしまいます。

「やってみますね」

レオン様がテーブルの上の小箱を1つ手元に引き寄せて蓋を開け、先刻の工程を再現する。

そこにささっと入り込んできたセバスチャンがテーブルに鉄鍋を置く。鍋の中には石炭が数個重ねて入っている。
続いてシャロンが石炭の上に薄い木を並べる。
それ、火を移しやすくするためのつけ木よね。
そこまでやる!?
と、じっとりシャロンに目で訴えると、

「どこまで実用可能か、判断する必要があります」

と言われた。
いつになく厳しい。

レオン様の火起こしは順調に進み、火打石が火花を散らすと皆が身を乗り出して「おお!」と反応した。
従者たちもガゼボを囲み、首を伸ばして見守っている。

パチパチと小さく燃えだした火種である麻の繊維を、レオン様は素早くつけ木の上に置く。
そこからはセバスチャンの出番だ。
火種の上にさらにつけ木を置き、大きく燃えだした火が移るのを待つ。

が、火はすぐに勢いをなくし、消えてしまった。

「・・・確かに火は起こせたが、消えてしまうな」

ちょっと残念そうにお父様が言う。
これでは使えないということか。
でも。

「ソフィア嬢、どうすればつけ木に燃え移るの?」

その場の雰囲気をぶち壊す明るい声でレオン様が聞いてくる。
優しい目に見つめられる。
この人はこの後の展開を私が知っていると確信しているのだ。

「言っちゃいな」

小さな促しの声があくまでも優しいので、私は覚悟を決めました。

「細い、これくらいの長さの筒状の物があるといいのですが」

私が両手を広げて長さを示すと、アド兄様がガゼボから飛び出て、道の脇、草に隠れた所から細い竹の棒をバキンと折って持ってきました。

「ほら、これはどう? 水やり用の水路だけど修復は簡単だから気にする必要はないよ?」

ご自分が壊したのでしょうに。
庭の水やりのために張り巡らされた水路の一部なのですね。
でも、丁度いい長さと軽さです。

「つけ木に火を移す時、これで息を吹きかけると火が大きくなると思います。多分、人の息と火は相性良いのです」

「へ~。そっか。だからドラゴンとか魔物は口から火を吹くわけだ」

アド兄様が感心して言った言葉に、皆が「ほう!」と納得します。
そうかな? そうなのかな? あれは魔力だと思いますが。

「ではもう一度やってみます」

レオン様が火種を作り、セバスチャンが延焼させる。
竹筒を使って息を吹きかけると、火種の火は更に大きくなり、すぐにつけ木に燃え移った。

「セバス! そのまま石炭に燃え移るまでふーふーして!」

ふーふーするのも一苦労です。
そのままセバスが続けようとすると、レオン様の従者が交代を申し出てくれて、他の従者がつけ木を足し、無事に石炭に火が燃え移った。

「凄い!」

大騒ぎです。
息を吹きかけると火力ががんがん上がる。
一度石炭に燃え移った火は、放置してもとろとろと燃え続ける。

ガゼボのテーブルに注目が集まり、皆は静かに火が燃える様を見守った。

「エド、これは大変な事ですわ」

火が落ち着き、石炭が赤々と色づくきの状態になると、お母様が静かに言った。
日々、領民の嘆願を聞き、対処に回っているお母様にはその実感があるのだろう。

「そうだな」

お父様は多くを語らない。
きっと頭の中では様々な構想が次々と組み立てられているのだ。

アレク兄様とアド兄様はガゼボを出ると従者たちと一緒に、レオン様をまねて火起こしを始めた。



注目がそれて私は少し安心する。
同じくレオン様が安堵の息を吐いたことで、彼が気を使って私に良いように事を運んでくれたのだと気が付いた。

「レオン様。ありがとうございます」

私はレオン様の袖を引っ張って、小さくお礼を言いました。
そのまま騒ぎが収まらない皆の場所から一歩引いたところへ引っ張って行きます。

「ソフィア嬢、その顔。まだ何かあるね」

確信した小声で囁かれる。

「実は・・・」

私はレオン様とその場にしゃがみ込むと小石を使って地面に図を書いた。

「ここが歯車になって、こうすると、こう摩擦がおこって・・・」

私の説明にレオン様はしゃがみ込んだ姿勢で頭を抱えた。
普段はスマートな所作のレオン様がこんな格好をなさるのはレアなのでは?
可愛らしさに笑いがこみ上げます。

「ね、量産可能でしょう? これはたしか、オイルライターといいます」

私は頭の中の知識を引っ張り出して呼び名を思い出した。
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