転生を繰り返してたら神様に惚れられました

丸太

文字の大きさ
上 下
34 / 57
1章 

23. レオン様の事が知りたい

しおりを挟む
朝食後のサロンで、お父様が最初に言った。

「先触れがあってな、王都からの一行が昨晩ブレスの宿に着いたそうだ」

そう言えば今日が到着予定でした。
わざわざすぐ近くのブレスに宿泊したという事は、昼はブレスの街で支度を整え、ついでに観光してもらい、今晩は歓迎会という事ですね。

「昼過ぎには一度緑林館に入ってもらうわ」

お母様が言う緑林館とは、シルエット邸本館に部屋を待たない使用人たちが住まう館だ。本館裏ガーデンの向こうに小さな森があり、その中に建つ瀟洒な建物なのだ。そこに約30人のメイドたちがお客として滞在する。

「という事は、夕方には正式に出迎えるのかな?」

アレク兄様が確認します。

「そう。今晩は夜会よ。メイドとはいえ、わざわざ王都から来たのだもの。しかもフォレスト家の助っ人たちもいるのよ。少しカジュアルなものになるけど、シルエット辺境伯の家族として最大のおもてなしをするわよ」

お母様、気合いが入っています。

「もたもたしてられないな! 夜会、新しい揚げ物料理出すよ! 時間が無いのでお先に失礼」

アド兄様は新しいレシピ作りに夢中です。会議が解散するより先に調理場へと消えて行きました。
どうせなら夜会に出したい気持ちも分かります。

「ということだ。今日は会議はここまでで、各々やるべきことをやってくれ。夕方には夜会の出迎え準備を整えるように」

お父様が解散を言い渡し、使用人たちもそれぞれ慌ただしく動き出す。

「レオン様! 参りましょう」

私はいそいそとレオン様に近づくと、今日のお誘いをする。

「お! ソフィア、今日は何をするの? 俺も手伝うよ」

アレク兄様が私とレオン様の間に立ち塞がる。
ありがたい申し出なのでお兄様も一緒に、と思ったら、

「アレクはこっち」

とお父様からご指名だ。
アレクお兄様、今日もお父様のお手伝い決定ですね。

「レオン、お前、本当に良く考えて行動してくれよ! な!」

アレク兄様が何やらレオン様に言い募っています。
これで仲良しなのだから男子って面白い。
レオン様はアレク兄様をいなしてお父様と目を合わせ、ちょっと意地悪そうに笑みを浮かべたかと思うと、美しく目礼した。
長い睫毛が高貴です。

お父様とアレク兄様がサロンを出て行ってしまうと、残ったのは私とレオン様とそれぞれの従者たちだけになった。

「さすがシルエット家だね。夜会がある日も皆ギリギリまで働くんだ」

レオン様が感心しています。

「他の家はそうではないのですか?」

私は行き先を促しながらレオン様と並んでサロンを出た。
ホールには普段よりも足早に動き回る使用人たちがたくさんいる。
これから夜会用に使用する部屋やガーデンを飾り付けるのでしょう。

私は彼らの邪魔にならないように、昨日も使用したガゼボで今日もまた実験です。

「俺の家ではパーティーや夜会を主催する日は三日前から掛かりっきりで準備だけだよ。お招きの場合も当日は他に予定を入れない」

「まあ。王都のパーティーは盛大ですのね」

レオン様の言葉に素直に思ったことを言うと「ちがうちがう」と否定されました。

「シルエット邸と変わらないよ。夫人が王都に劣る事も、かといって勝る事もするわけがないしね」

「そうなのですね。ならばなぜ三日も前からパーティー準備に掛かりっきりなのです?」

我が家のパーティーは確かにかなり前から計画され綿密に手配されるが、実際それに向けて動くのは当日のみだ。
お招きのパーティーならば当日は正装するだけだから、いつものように夕方から準備すれば良い。
私はまだ外のパーティーに行ったことはないが、お母様はいつだって素早く手早く準備を終えている。

「それがシルエット家の凄いところだよね。貴族はさ、身分が高くなればばるほど、時間がゆっくり過ぎているんだ。ソフィア嬢も外部との接触が許されるようになると、その落差に驚くと思うよ」

私の知らない貴族のことを教えてくれるレオン様は、何故か少し投げやりな口調です。

「辺境伯という立場でもものすごく忙しくてやることはたくさんです。高貴なお方はもっともっとお忙しくて、手が回らないのでしょうか?」

言うとまたしてもレオン様は否定する。
どういうことでしょう?
何故レオン様は自嘲気味なのかしら?

思えばレオン様には私の事を手伝ってもらってばかりだ。
私の疑問もたくさん聞いてくれて、答えてくれた。
昨日は情報集めにまで走ってくれた。
なのに私はレオン様の事を何一つ聞いていないのだわ。

現国王の甥で侯爵家の次男。お父様は武芸にも通じた副宰相。14歳になったばかり。
それしか知らない。

レオン様の事が知りたいわ。
でも、レオン様がお話ししてくれるならまだしも、根掘り葉掘り聞くのはどうなのかしら?

ガゼボへ向かう道を並んで歩くレオン様は風に銀髪をなびかせ、凛とした瞳で前を見据えている。
その横顔は少女とも思えるほど美しく優しいのに、神秘的なシルバーアイは強い光を放っていて、少し攻撃的。
笑うとその印象ががらりと変わってふんにゃり甘くなるのを知っている。
私が知っているのはそれだけ。

レオン様はどうやって多くの知識を得たのでしょう?
やはり本がお好きなのかしら?
王都ではでのような生活をなさっているの?
ご家族はどんな方?
我が家の食事を美味しい美味しいと食べてくれていますが、レオン様の好物は何かしら?

私にとても優しくしてくださいますね。
でもどうしてですの?
レオン様にとって私は友人の妹、ただの幼い女の子でしかない。
きっと王都にはレオン様と並んで歩くにふさわしい、美しい女性がたくさんいらっしゃるのでしょうに、まるで恋人に笑いかけるように甘い笑顔を見せてくれるので、私はその度にドキドキしてしまうのですよ。
これではまるで私に好意を抱いているように・・・

そこまで考えて私ははっとする。

なにをっ! 何を恐れ多い事を勝手に思い込んでいるのでしょう!?
いけないわ!!

自分の考えに勝手に羞恥を感じ、心臓が早くなり、顔が赤くなっているのがわかる。

「シャロン、帽子を」

私は侍女から日除けのために用意していた帽子を受け取り、素早く顔を隠した。
身長差がありがたい。つばが大きいので背の高いレオン様から私の顔は見えなくなったはず。
なんとしてもガゼボに着くまでには平静さを取り戻さなくてはなりません。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha
恋愛
製薬会社の社長の一人娘、小町には婚約者がいる。11月8日の立冬の日に入籍をする。 好きではない人と結婚なんてしない。 秋は夜長というくらいだから、恋の夢を見よう・・・。 花が戦場で戦う。この時代の会社という戦場、そして婚約者との恋の戦場を。利き手でもない左手1本になっても。 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高17位 他サイトにて溺愛彼氏特集で掲載 関連物語 『この夏、人生で初めて海にいく』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位 『女神達が愛した弟』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高66位 『女社長紅葉(32)の雷は稲妻を光らせる』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 44位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 12位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『拳に愛を込めて』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高29位 『死神にウェディングドレスを』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『お兄ちゃんは私を甘く戴く』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高40位

女A(モブ)として転生したら、隠れキャラルートが開いてしまいました

瀬川秘奈
ファンタジー
乙女ゲームを中古ショップへ売り払ったすぐあとに、ベタな死に方をした私が次に目覚めたら、死ぬ直前に売ったゲームの世界に転生してました! 生前決して叶わなかっためくるめく恋愛ファンタジーが始まると胸を踊らせて覗いた水面、私の顔には鼻と口しかありません……。 残念ながら私、モブの中のモブ【女A】に転生した模様です。 更に、何故か劇中に出てくる隠れキャラクターに気に入られ、付き纏われているからたまったもんじゃありません。 モブだからこそ出来ることを駆使して、多少卑怯な手を使ってでも、モブからせめて脇キャラくらいにはなれるよう、目指せちゃんとした顔面!目指せ個人名!目指せCv! 今日から私異世界で、のし上がり生活はじめます!

仮面舞踏会を騒がせる謎の令嬢の正体は、伯爵家に勤める地味でさえない家庭教師です

深見アキ
恋愛
仮面舞踏会の難攻不落の華と言われているレディ・バイオレット。 その謎めいた令嬢の正体は、中流階級の娘・リコリスで、普段は伯爵家で家庭教師として働いている。 生徒であるお嬢様二人の兄・オーランドは、何故かリコリスに冷たくあたっているのだが、そんな彼が本気で恋をした相手は――レディ・バイオレット!? リコリスはオーランドを騙したまま逃げ切れるのか? オーランドはバイオレットの正体に気付くのか? ……という、じれったい二人の恋愛ものです。 (以前投稿した『レディ・バイオレットの華麗なる二重生活』を改題・改稿したものになります。序盤の展開同じですが中盤~ラストにかけて展開を変えています) ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。 ※表紙はフリー素材お借りしてます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

処理中です...