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1章
19. わくわく露店料理
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邸内では広いサロンを使って衣装の譲渡会が行われている。
同時に別の広い会議室を使って、普段着用の服を仕立て直す作業も始まった。
服を見て、デザインが決まってしまえば後は流れ作業。短時間で仕上がる。
だがしかし、そのデザインがなかなか決まらないのが現状だ。
もっと自信を持って決めてしまえばいいのに、ああした方が、こうした方が、と誰も決定を出せない状態である。
仕方なく私が決定を下す。
でも、掛かりっきりにはなれないので、私が席を外すと作業が止まってしまう。
デザインの良し悪しを判断出来る人って少ないのですね。
ましてや自分の責任でそれを進めるとなると、使用人たちには荷が重いようです。
どうすればいいかしら?
衣装の仕立て直しばかりに時間を割いてはいられない。
シルエット邸本館の西側は騎手詰所があり、厩舎や武器庫、鍛練場などに、様々な用途で雇われた兵士たちが出入りしている。
そこへ向かう途中のガゼボで、私はバザーに露店を出すための実験をしていた。
「これが出兵に使う釜戸だよ」
騎士詰所の馬車庫から引っ張り出した荷車の、その荷台の上にドーンと乗った石窯を指して、アド兄様が出兵用品に疎い私に説明してくれる。
「こっちが調理場と洗い場になるんだよ」
次にアド兄様が指すのは、同じく荷車の荷台上に組まれた流し場だ。
大きな樽が2つ置かれ、給水口の下には口の大きな水瓶があり、水はそこへ落ちて排水口を通り荷台の外へ排出される仕組みになっている。
荷車の回りに組立式のテーブルと、食材の入った荷箱を設置して、野外調理場の完成だ。
石窯と荷箱が魔道具となっていて、石窯には火の魔法、荷箱には氷の魔法が作用している。
出兵の際にはこうやって兵士の食事が作られるらしい。
「では、作ります」
アド兄様の合図で調理師たちが作業開始です。
先ずは串が通されたソーセージをチーズで包み、荷箱から出したパン生地を巻き巻き。最後にトマトソースをピュイッとかけた物が数本、手早く作られる。
「おお! 見てるだけで美味しそう」
ガゼボのテーブルセットに腰掛けたレオン様が前のめり気味に調理師の動きを注視している。
シルエット家のお料理のヒントを探っている様子です。
もう1人の調理師は芋の皮をむき、ナイフで器用に切れ目を入れていく。
そこへ串を通して芋をスライドさせると、螺旋状にくるくるした形状の出来上がり。
「おお! なにそれ!? どうやってるの?」
刷毛で油が塗られた芋を拝借して、レオン様がしげしげと眺めています。
また別の調理師は、マル秘の計量調理器で丁寧に分量を計って、粉物をボウルに入れていく。
最後に卵と牛乳を投入し、泡立て器で混ぜ混ぜ。
「甘い香りがしてきた。あのスプーンは何?」
レオン様、マル秘計量スプーンにお気づきの様子です。
ボウルの中の生地は丸い型に流し込まれた。
そして、それぞれ温度調節された石窯で焼きます。
もうガゼボに留まっていられないレオン様は、石窯の周りをアド兄様と一緒にぐるぐる回っております。
「これが! ソフィア嬢が実験を重ねた調理器具!」
レオン様が掲げ持つのは計量スプーンや計量カップです。
調理師に計量器具を使うことを叩き込んだ記憶が甦ります。
5歳の私、本当に無礼者だわ。
暫くするといい匂いが立ち込めてきた。
お皿に盛られた焼きたての食事がガゼボのテーブルに運ばれる。
「こちらが、この3日間で料理人たちと開発した、露店料理です!」
アド兄様、えっへんな顔が可愛らしい。
全て串刺しの料理なのは食べ歩きしやすく考慮したのだろう。
「どれ」
レオン様が躊躇なくパンに食いつきます。
噛みきれないチーズがみょーんと伸びで、パンにくるくる巻き付けている。
ナイフとフォークの食事姿しか見たことがなかったので、年相応に可愛らしく見えます。
「旨い!」
絶賛です。
さて、私はどうしようかな。
直接パンに食いつくのは憚られます。
なのに。
「ソフィア嬢、ほら、あーん」
と、レオン様が私の口元にに串パンを差し出します。
思わずパクッと食いついてしまいました。
私!
何をやってんの!?
みょーんと伸びるチーズを残ったパンに巻き付けてくれます。
でも、そんなハプニングは直ぐに忘れてしまう。
ソーセージの油とチーズがパンに染みて、トマトソースがアクセントになった、ガッツリ系のパンです。
男子に人気が出そう。
「美味しいわ」
私の思わず出た言葉にアド兄様、調理師とハイタッチしています。
仲良しです。
「シンプルな塩味なのにこっちも美味しい!」
レオン様はポテトにかじりついています。
またしても「あーん」されてしまい、今度はお断りすべきかな? と思いつつもつい頂いてしまいました。
「本当だ」
かりっと焼けた芋に塩。シンプルだけど器用に切られたこの厚みが良いのでしょう。
次は甘い匂いが食欲をそそる、小さな丸いカステラ。
5個が連なって串刺しにされて、砂糖がまぶされています。
慣れって怖い。
こちらも「あーん」で頂いてしまった。
「美味しいね」
レオン様もパクパク食べています。
生地の優しい甘さとまぶされた砂糖の直接的な甘さが丁度良い。
「美味しいですね」
思わずレオン様とにこにこ笑顔を交わす。
ガゼボに流れる甘い雰囲気に気付かず、ついつい二人でとカステラを回し食べした。
「はいはい、いいかな?」
アド兄様が声で割り入ります。
「ソーセージパン、ツイストポテト、ベビーカステラ。これらをバザーの露店料理として出品したいと思います!」
そうでした。
今はその試食会なのです。
同時に別の広い会議室を使って、普段着用の服を仕立て直す作業も始まった。
服を見て、デザインが決まってしまえば後は流れ作業。短時間で仕上がる。
だがしかし、そのデザインがなかなか決まらないのが現状だ。
もっと自信を持って決めてしまえばいいのに、ああした方が、こうした方が、と誰も決定を出せない状態である。
仕方なく私が決定を下す。
でも、掛かりっきりにはなれないので、私が席を外すと作業が止まってしまう。
デザインの良し悪しを判断出来る人って少ないのですね。
ましてや自分の責任でそれを進めるとなると、使用人たちには荷が重いようです。
どうすればいいかしら?
衣装の仕立て直しばかりに時間を割いてはいられない。
シルエット邸本館の西側は騎手詰所があり、厩舎や武器庫、鍛練場などに、様々な用途で雇われた兵士たちが出入りしている。
そこへ向かう途中のガゼボで、私はバザーに露店を出すための実験をしていた。
「これが出兵に使う釜戸だよ」
騎士詰所の馬車庫から引っ張り出した荷車の、その荷台の上にドーンと乗った石窯を指して、アド兄様が出兵用品に疎い私に説明してくれる。
「こっちが調理場と洗い場になるんだよ」
次にアド兄様が指すのは、同じく荷車の荷台上に組まれた流し場だ。
大きな樽が2つ置かれ、給水口の下には口の大きな水瓶があり、水はそこへ落ちて排水口を通り荷台の外へ排出される仕組みになっている。
荷車の回りに組立式のテーブルと、食材の入った荷箱を設置して、野外調理場の完成だ。
石窯と荷箱が魔道具となっていて、石窯には火の魔法、荷箱には氷の魔法が作用している。
出兵の際にはこうやって兵士の食事が作られるらしい。
「では、作ります」
アド兄様の合図で調理師たちが作業開始です。
先ずは串が通されたソーセージをチーズで包み、荷箱から出したパン生地を巻き巻き。最後にトマトソースをピュイッとかけた物が数本、手早く作られる。
「おお! 見てるだけで美味しそう」
ガゼボのテーブルセットに腰掛けたレオン様が前のめり気味に調理師の動きを注視している。
シルエット家のお料理のヒントを探っている様子です。
もう1人の調理師は芋の皮をむき、ナイフで器用に切れ目を入れていく。
そこへ串を通して芋をスライドさせると、螺旋状にくるくるした形状の出来上がり。
「おお! なにそれ!? どうやってるの?」
刷毛で油が塗られた芋を拝借して、レオン様がしげしげと眺めています。
また別の調理師は、マル秘の計量調理器で丁寧に分量を計って、粉物をボウルに入れていく。
最後に卵と牛乳を投入し、泡立て器で混ぜ混ぜ。
「甘い香りがしてきた。あのスプーンは何?」
レオン様、マル秘計量スプーンにお気づきの様子です。
ボウルの中の生地は丸い型に流し込まれた。
そして、それぞれ温度調節された石窯で焼きます。
もうガゼボに留まっていられないレオン様は、石窯の周りをアド兄様と一緒にぐるぐる回っております。
「これが! ソフィア嬢が実験を重ねた調理器具!」
レオン様が掲げ持つのは計量スプーンや計量カップです。
調理師に計量器具を使うことを叩き込んだ記憶が甦ります。
5歳の私、本当に無礼者だわ。
暫くするといい匂いが立ち込めてきた。
お皿に盛られた焼きたての食事がガゼボのテーブルに運ばれる。
「こちらが、この3日間で料理人たちと開発した、露店料理です!」
アド兄様、えっへんな顔が可愛らしい。
全て串刺しの料理なのは食べ歩きしやすく考慮したのだろう。
「どれ」
レオン様が躊躇なくパンに食いつきます。
噛みきれないチーズがみょーんと伸びで、パンにくるくる巻き付けている。
ナイフとフォークの食事姿しか見たことがなかったので、年相応に可愛らしく見えます。
「旨い!」
絶賛です。
さて、私はどうしようかな。
直接パンに食いつくのは憚られます。
なのに。
「ソフィア嬢、ほら、あーん」
と、レオン様が私の口元にに串パンを差し出します。
思わずパクッと食いついてしまいました。
私!
何をやってんの!?
みょーんと伸びるチーズを残ったパンに巻き付けてくれます。
でも、そんなハプニングは直ぐに忘れてしまう。
ソーセージの油とチーズがパンに染みて、トマトソースがアクセントになった、ガッツリ系のパンです。
男子に人気が出そう。
「美味しいわ」
私の思わず出た言葉にアド兄様、調理師とハイタッチしています。
仲良しです。
「シンプルな塩味なのにこっちも美味しい!」
レオン様はポテトにかじりついています。
またしても「あーん」されてしまい、今度はお断りすべきかな? と思いつつもつい頂いてしまいました。
「本当だ」
かりっと焼けた芋に塩。シンプルだけど器用に切られたこの厚みが良いのでしょう。
次は甘い匂いが食欲をそそる、小さな丸いカステラ。
5個が連なって串刺しにされて、砂糖がまぶされています。
慣れって怖い。
こちらも「あーん」で頂いてしまった。
「美味しいね」
レオン様もパクパク食べています。
生地の優しい甘さとまぶされた砂糖の直接的な甘さが丁度良い。
「美味しいですね」
思わずレオン様とにこにこ笑顔を交わす。
ガゼボに流れる甘い雰囲気に気付かず、ついつい二人でとカステラを回し食べした。
「はいはい、いいかな?」
アド兄様が声で割り入ります。
「ソーセージパン、ツイストポテト、ベビーカステラ。これらをバザーの露店料理として出品したいと思います!」
そうでした。
今はその試食会なのです。
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