転生を繰り返してたら神様に惚れられました

丸太

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1章 

16. 恥ずかしすぎる模様替え

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寝起きが最悪だ。
夢見が悪かったらしい。
腹の底に溜まる不快感に寝返りを打つが、なかなか目が開かない。

シャッ、シャッ、とカーテンが開く音。
次第に明るくなる室内。

「ソフィア様。お目覚めですか?」

専属侍女のシャロンが天蓋から垂れるカーテンを開くが、私は諦め悪く布団に潜り込む。

「お兄様たちもレオン様も朝の鍛錬に行かれましたよ」

シャロンの言葉に嘘のように目が開く。
そうだ。今この邸にはレオン様がいるのだ。

「レオン様、食事が美味しすぎて太ってしまうと笑っていました」

ワゴンを押しながらメイドのセイセイが楽しそうに教えてくれた。

「私たちにも気さくに話しかけて下さいます。アレクサンドライト様とおふたりで剣を合わせる姿もとても素敵でした」

シャロンとセイセイの言葉にレオン様の侍女受けが良い事を知る。
ずるい。私も鍛錬のお姿、見たかった!
などと思っているとすっかり目が覚めました。

「さあ、今日は模様替えです。お召し物が難しいですね。麾下の家族の方々も応援に駆けつけてくれますし、けれども動き回るでしょうし」

言いながらシャロンが衣装部屋へ消えていく。

入浴中に準備されていた衣装は淡いブルーのエプロンドレスです。
ポイント色は黒でシンプルだけど可愛らしい。
なんだっけ? アリス? の上等版。
メイド服に似ていますが生地感も小さな装飾も十分高級なものです。
シャロンの実用性と見栄えを兼ね備えた良い選択に満足です。

さて、問題は髪でした。
私の希望は下を向いても髪が垂れてこないこと。
でも、子供は髪を結い上げません。
ああでもない、こうでもない、と侍女たちが試行錯誤しています。
出来上がったのは複雑に編み込まれ、背中で一つにまとめられたスタイルでした。
ところどころに花モチーフの髪飾りが光っております。

「ラプンツェルヘアね」

私が言っても侍女たちは

「???」

です。物語を知らないのです。
この国の女子はあまり本を読みません。婦女子の嗜みは刺繍や裁縫が一般的です。
もっと本を読めばアイデアも広がるのに、と残念に思うことが多々あります。



いつものように簡単な朝食を済ませる。
大人男子の食欲はすでに見慣れたものになった。

サロンに移動するころには続々とお手伝い要員が集まって来ていた。
領地を持たず、辺境伯の麾下としてシルエット領の管理を任されている貴族まで駆り出された様子だ。使用人たちとは明らかに身なりが違うのですぐ判る。

「では、一日で終わらすぞ」

お父様の言葉に皆が一斉に動き出した。
どうやらいつの間にか打ち合わせが済んでいたようです。
お母様も機嫌よくサロンを出て行ってしまいました。



さて、私は何をすればいいのかしら?

「ソフィア嬢」

立ち尽くしているとレオン様が今日初めてお声を掛けてくれました。
とっさにカテーシーで朝のご挨拶です。

「ソフィア嬢の素敵なカテーシーを拝見できるのは貴重だけど、邸に滞在させてもらっているのだからこれからは無しにしよう」

格上の侯爵家であるレオン様が正式なご挨拶の省略を提案してくれました。
正直、頻繁に顔を合わす状態で毎回ご挨拶するべきか悩んでいたのです。その度に手を取られたりするのも私の心臓が持ちません。

「では、起礼で失礼いたします」

というと、にこにこと受け入れてくれた。

「では、家具を運び出しましょう」

とレオン様。

「今日は辺境伯からソフィア嬢の部屋を手伝うように言われたのです。皆、自分の部屋の模様替えに忙しいですからね。力仕事は俺たちにお任せください」

レオン様の従者たちが心強く頷いております。

「え、嫌です」

思わず考えもなく答えてしまいました。

「え?」

と私を促しサロンを出ようとしていたレオン様が停止した。

「絶対に嫌です」

私はそう言い残すと勝手にサロンを出て自室へ急いだ。
シャロンたち侍女が慌ただしく付いてくる。

「ソフィア様? 私たちだけでは今日一日で終わりませんよ」

後ろからシャロンが提言する。
それを無視して部屋まで戻り、自分の部屋を見回した。

リビングテーブルの上やチェストの上には重ねられた本。
ベッドヘッドにも山積みの本。
本だけは触らない様にとメイドたちに言ってあるので、片付けられることはなく乱雑に積まれたままだ。

絵画もタペストリーも、誰かにお見せする前提で飾ったものではない。
置き物だって父様が王都から送ってくれたもので、何年も前の幼い物もある。
そうなってくるとクッションカバーの柄まで気に入らなくなってくるから不思議だ。

もし、本のタイトルを見られてしまったりしたら、まるで心を透かされるようではないか。
自室を他人に見せるというのは、こんなにも無防備で恥ずかしいことだったとは。
衣裳部屋や浴室なんか絶対に見せたくない!

ああ、でも、昨日何も考えずにレオン様を部屋にお通ししているのよね!
恥ずかしさ倍増である!

前室が騒がしくなりレオン様が来られたのがわかる。
絶対に通すなと言い置いたので足止めをくらっているのだ。
レオン様だってお父様からの指示なのだから、私を手伝わずにはいられない。

「ソフィア様」

シャロンがどうすべきか聞いてくる。

「ねぇ、シャロン。笑わずに聞いて」

私はシャロンの腕を引っ張って、窓際まで行くと周囲に聞こえないようにコッソリと心情を打ち明けた。
するとみるみるシャロンの口元が笑ってくる。いや、笑いをこらえて歪になっている。
もう!

「年頃の乙女としてはお部屋に男性を通すなど絶対に嫌なの!」

「別にお見せしておかしな物は置いていませんし、下着のような見せたくない物はもちろん殿方に扱いさせませんよ」

「でもでも何だか恥ずかしいのよ」

こうなると私、ただのわがまま娘ですね。
シャロンは少し思案した。

「では、レオン様とおふたりで先に家具やカーペットを選びに行って下さい。その間に私たちが私物を荷箱に入れ別の部屋へ退避させます。その後、レオン様の従者をお借りして家具の移動をする段取りでいかがですか?」

「わかったわ、お願いね。特に本。本は全て片付けてね」

シャロンの提案を受けて私は直ぐに前室に移動した。



「ソフィア嬢、どうしました」

扉を開けるとレオン様が困った様子で待っていた。

「先に家具を選ばなければならないのです。レオン様、お付き合いくださいませ」

有無を言わさない勢いで昨日も訪れた北棟の家具置き場に移動する。
邸内は荷物を運ぶ人がひっきりなしに移動していて、忙しい雰囲気に満ちていた。
人が入り乱れる中で私は平静を取り戻す。
恥ずかしがってばかりでは事が進まない。

「レオン様。こちらの家具はどう思います?」

私は昨日すでに目を付けていた家具を前にしてレオン様に尋ねてみた。
やっと落ち着いた会話が始まったことにレオン様は安堵した様子だ。
挙動不審でごめんなさい。

「うん。いいね。レジルナ家具には珍しい自然な木目が可愛らしい家具だよ。重すぎずソフィア嬢に似合っていると思う」

との評価。素敵な笑顔も送ってくれます。
家具材のウォールナットやマホガニーは大人っぽいイメージだと話すと、私の選んだ家具はチークという木材だと教えてくれた。
すこしピンクに見えるのは艶出しの塗料に色が入っていているのだそうだ。
そんなこんなの家具談議をしながらカーペットやカーテンを選び、時間を稼いだところでいざ、自室の家具を新旧交換します。

その後はひたすらに家具の配置を考えたり、お掃除したり、忙しく過ごせました。
おかげで「嫌だ」と手伝いをお断りして逃げたことを追及されずになんとか模様替えを終える事が出来たのでした。
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