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1章 

15. お疲れソフィアの就寝

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本来、晩餐会に子供は参加しない。
成人した18歳の夏に社交界デビューをするまでは、子供たちの社交は昼間の茶会や、14歳になってからの学園内に限られる。

なので晩餐会の後のサロン社交にまで参加すると、10歳の私は疲れてしまって眠気との戦いになる。

突然決まった明日の模様替え、その段取りに家族が盛り上がっている中、私はひとり呼吸が深くなりソファーに沈み込んでしまう。

「あら、ソフィアはもうお眠ね。無理せずお部屋に戻りなさいな」

お母様に言われて素直にソファーを立ち上がると、すかさずアレク兄様が私の手をとった。

「部屋まで送るよ」

笑顔と美声の無駄遣いですよ、お兄様。
でも、素直にエスコートをお願いします。

レオン様は立ち去る私を

「お休み、ソフィア嬢」

とお言葉だけでの見送りです。

良かった。
昼間のようにキスを贈られたり、部屋まで送り届けてもらったりしたら、もうきっと気持ちが保てませんでした。
今日も変わらぬ日、と思いつつも、いろいろなことがあったので疲れ果てています。

サロンを出るとへにゃりと膝から力が抜けてしまう。

「ソフィア、疲れたな。ほら」

と、この年になってまでアレク兄様に抱き上げられての移動となった。

「お兄様、レオン様とお話ししていると、頭が回って回って、色々考えてしまって、疲れてしまいました」

アレク兄様の温かい胸におでこを押し付けて弱音を吐く。

「嫌なら遠ざけてあげるよ」

なんとも嬉しそうにアレク兄様は提案します。
そう、家族以外の男性との慣れない距離にも心臓が何度も跳び跳ねて、それがもうひとつの疲れの原因なのでしょう。

でも。

「いいえ大丈夫です。私、レオン様に納得いただかないと色々駄目なんだわ」

「何を張り合っているのやら」

「だって、インプットもアウトプットも付き合っていただけるお相手は、そう多くはないでしょう・・・?」

ゆったりとした歩みにゆらゆら揺れて、私はもう上手に喋れなくなり、大きな温かい胸の中で眠りに落ちてしまった。





「結婚しよう」

過去に何度かプロポーズされたことがある。

「はあ!? 何を寝ぼけたことを言ってるんだ! 課題は山積みなのだぞ! そして問題はいつだって容赦なくやってくる。結婚なぞしている暇があるか!!」

そう断った相手は、私のために何度も命を投げ出してくれた戦士だ。
その時私は世界平定に忙しかった。





「君との子供が欲しい」

そう言ってくれたのは魔道師の男。
最強の魔法で私と相対し、二度と現れないであろう好敵手だった。

「やめてよー!! あんたとの子供なんてどんな化け物になるかわからないわ!! 恐ろしいこと言うなーーー!」

と断った。
酷いな。





「結婚してこの先の人生のパートナーになって欲しい。お互い子供は望めない年だけど、共に歩んでいく相手がいれば心強いだろ?」

深夜の高層ビルの最上階で、ビール片手にPCモニターを眺めなから言われた言葉。
正直、この男がいなかったら私の仕事はここまで成功しなかっただろう。
だが。

「子供いないんじゃ結婚する必要なくね? 今さら形式に縛られないでよ」

と一刀両断。
本当に酷い。





どの世界の男も押しが弱かった。
ちょっと言い返すともう終わり。
言い返し方も酷かったけど、強く求められている実感がなかったのだ。
そして私も、強く求める相手がいなかった。

嫌いな奴はたくさんいた。
どんな世界でも嫌いな奴は必ず現れる。
それこそ恨んでも殺しても足りない程に嫌いな奴。
その負の感情への大振りを知っているだけに、ならば逆ベクトルの恋慕う感情もこんなものではないはず。もっと大振りできる相手がいるはず。ずっとそう思っていたし、そう思う相手に出会ったことはなかったのだ。

今までは。

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