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1章 

14.5 side男性陣

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女性陣が晩餐の準備に入った夕食前の時間、男性陣は慣れた早さで正装へと身なりを整え、辺境伯の執務室に集まった。

辺境伯であるエドガーライト・シルエット、その長男のアレクサンドライト、次男のアドライト、そして賓客であるレオン・フォレスト侯爵子息、加えてシルエット家筆頭執事のセバスチャンという人払いされたメンバーである。

セバスチャンの手で紅茶が給仕される中でも話は尽きない。

「ファルコ・フォレスト候から伝言だ」

エドガーが小さな羽を机の上に置く。
その青い羽が風魔法でふわりと浮かぶと小さな風が巻き起こり、まるでそこにいるかのような音量で男の声が響いた。

『エドガー、腹をくくれよ! レオンが了承したぞ。話を進めよう。
とりあえず15人、手先の器用な者を派遣する。ソフィア嬢のために使ってくれ。
来月の誕生パーティーはもちろん参加する。私も妻も行くからな。その場で話を詰めよう! 
ではな。レオンをよろしく頼む』

レオンの父親でありエドガーライトにとっては聞きなれた同僚の声だ。
毎日共に働いている友だが、その声はからかいの色が含まれていてつい眉間に皺がよってしまう。

「早すぎだ、レオン」

アレクサンドライトがレオンに詰め寄る。

「兄様が決める事じゃないでしょ」

アドライトがまだ子供の声でアレクサンドライトよりも冷静に場を制す。
カチャリと控えめな食器の音に、全員の紅茶が配られたことに気が付いた。

「ソフィア様のお気に入りのお菓子です」

セバスチャンの用意したワゴンの上には上品な底上げの皿に、指先で摘まめる小さなお菓子が山のように盛られていた。

「少し落ち着こうか」

エドガーライトがお菓子を1つ摘まんだので、勧められるままレオンも茶色いお菓子を素手で摘まんで口にする。

「―――? えぇ? なにこれ? チョコレート?」

自分の認識しているチョコレートと違ったのか、レオンが驚きの声を上げる。

「固くなくて甘すぎなくて美味しいでしょ? ソフィアの知恵を借りて作ったんだ」

アドライトは自慢げに言う。

「アド君が?」

レオンはもう一つチョコを口にした。

「うちの料理はソフィアの発案、アドライトのレシピ化が多いんだ」

アレクサンドライトは言いながらポイポイとチョコを口に放り込む。

「すごい才能だねぇ、アド君。謝礼弾むからうちにもレシピ流してよ。もちろん口外しないから。わぁ、お茶も美味しい。チョコと合うねぇ」

レオンはセバスチャンの淹れる紅茶の美味しさにまたも感動しながらチョコとのハーモニーを楽しんでいる様子だ。

「レシピは公開できないんだよ。火力調節で魔力を大量消費するからね。このレシピは魔石への魔力充填が安定して出来る我が家での限定レシピなんだ」

アドライトが残念そうに言う。

「昼間セバスチャンが言っていた公開できない理由ってそれ?」

会話しながらも音もない上品さでティーカップをソーサーに置くレオンの所作はさすがだ。
意地悪いようだが、エドガーライトもアレクサンドライトもその辺のチェックは欠かさない。

「なら、うちは問題ないよ。俺、魔石への魔力充填得意だし」

相変わらずの人をたらす笑顔でレオンはとんでもない事を言う。
魔石への魔力充填はそれなりの魔力持ちが何日もかけて行う作業だ。体力も精神力も削られる。それを得意とは。

シルエット家の男ももれなく魔力持ちだが、魔力の充填にはそれなりに備えて取り掛かっている。恵まれた魔力量なのでなんとかなっているが、他の貴族は魔力の確保に四苦八苦しているのだ。

「ソフィアの了解が出たらな」

エドガーライトの言葉にレオンは喜びアレクは嘆いた。

「レオンのおかげでもう、両家の壁は取っ払われたも同然だ。後々のソフィアのためだ。検討するしかないだろう」

エドガーライトの追い打ちにアレクサンドライトは頭を抱えて

「今回は様子見だったはずでしょう? まだソフィアは10歳にもなってない!」

と諦めきれず抵抗する。

「来月には10歳でしょ? お披露目パーティーもあるし魔力発現の儀式も受けるし、もう世間から隠しておけない年齢になるよ。
何よりもあの容姿じゃ、目立って仕方ないし、一度見たら忘れられるものじゃない。
俺なら都合の良い壁になれるよ?」

レオンは優しい口調だが、あくまでアレクサンドライトをたたみかける内容だ。

「都合の良い壁に収まる気なんてないだろうが」

忌々しくアレクサンドライトが言うも

「それは当然」

とレオンはエドガーライトの前でも飄々としたものだ。

アドライトはレオンの図太いのか大物なのかわからない神経に感心する。
あのソフィアの懐に難なく入り込めるのだから後者なのだろう。

「あ、今日のソフィア嬢のエスコートは俺にお任せ下さいね」

突然レオンはエドガーライトに向かって晩餐の大役を申し出る。

「ちょっと待て。それは家族で持ち回りしている。帰郷したからには俺とアレクサンドライトの役目だ」

思いもよらなかった申し出にエドガーライトは珍しく慌てた。

「俺も権利を得たってことですよ。ここまできて家族にエスコートさせるなんて無粋な事しないで下さいよ」

これにはエドガーライトも苦虫を噛み潰したような表情になる。
アレクサンドライトに至っては外聞もなく無礼だ横暴だと騒ぎ立てている。

アドライトはレオンの評価を「図太い」に改めた。
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