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1章 

12.5 sideアドライト ~そういうこと~

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「レオン様、博物館・・・て、ご存知ですか?」

少し風が涼しくなった倉庫からの帰り道、ソフィアは石畳を歩きながらレオンに尋ねる。

「ああ、何かで読んだな。確か、有形、無形に関わらず、社会発展に貢献した物や事象を紹介するところ、だっけ」

「そうです。同じように、美術館もあります。
あの倉庫の中身を展示して公開するのはありだと思いますか? 歴史家の研究室も兼ねた・・・」

打てば響くレオンとの会話にソフィアはお喋りが止まらなくなっている。





「兄様。レオン様って何者?」

アドライトは前を歩く妹と、突然やって来た兄の友人を眺めながら聞いた。

「ソフィアが家族以外とあんなに話すところを初めて見た。しかも楽しそう。んで、俺には何の話をしているのか全くわかんない」

いつもはソフィアの一番近くにいる自覚のあるアドライトは、少し拗ねたような口調になってしまう。

「王都へ行って最初にお父様から紹介されたのがレオンなんだ」

アレクサンドライトは横を歩くまだ小さな弟の頭を大きな手でポンポンしながら続けた。

「このままいけばフォレスト侯は次期宰相。レオンは次男だけど、王家は実力主義だ。次男のレオンがあとを継ぐ可能性もある。フォレスト候ご自身が8番目の子だからな」

「ってことは、ソフィアは次期宰相婦人の可能性あり?」

「~~~! そうなるのか!? そういうことなのか!?」

「・・・そういうことでしょう?
何よりソフィアと対等に語り合える知識量。お父様の読みも当たったんでしょ、あっという間に仲良しだ」

前を歩く二人はより添うことのない距離を保ちながらも、二人だけの世界を作り上げている。
あれにはもう、割って入れない。

ついて歩く従者たちにもこの会話は聞こえている。
レオン様が連れてきた従者はまんざらでもない顔。

ジェレミーはじめシルエット家の従者たちは複雑だ。
大切に見守ってきたお嬢様だからね。
気持ちはわかるよ。

セバスチャンなどは「兄上お二人がもっと防波堤になって頂かないと!」とブツブツ言っている。
無理無理。格が違う。

「レオンな、頭は本当にいい。俺はソフィアがいたから最初気付かなかったけどな!
でも、思考の方向性はソフィアと別だ。国営の視点に立つことが多いのは仕方ないかな。
あ、レオンも「何かの本で読んだ」っていつも言ってる」

「それ、ソフィアの口癖」

「題名、作者名を忘れがちな所も一緒だ・・・」

「それはお似合いなことで。
ところでレオン様は武芸の方はどうなのさ?」

「一緒に稽古しているが問題ない。武芸で名を上げたフォレスト侯の息子だしな。魔物討伐の経験もあるらしい」

「完璧じゃん」

「うう~、お父様が好きそうだろ?」

「そうだね、でも・・・レオン様、こなれてるよね。遊んでそう」

アドライトはちょっと意地悪を言う。
後ろを歩くレオンの従者がブンブン首を振っている。

「それはない。少なくとも俺と出会ってからはない。むしろ・・・」

むしろなんだよ。

「雌豹からおれを守ってくれている・・・」

アレクサンドライトはそう言って頭を抱えた。

マジか。

従者たちがこくこくと頷いている。

「お前も王都に行けばわかるよ。何て言うか王都の女性は、肉食だ。下手すると頭から食べられてしまう」

行くのが嫌になるな。

「レオンなんか立場が立場だからもっとすごい。レオンに近づきたい女たちは競合相手を押し退け、引きずり下ろし、踏み潰し、木っ端微塵に再起不能まで貶める・・・あれは女性不信になる」

「ふーん、よっぽどこちらの平民女性の方が節度あるって感じだね」

後ろを見るとレオンの従者が複雑な表情をしているからあながち嘘ではないらしい。

「ねぇ、兄様。四年制の学校だから1年間はソフィアとレオン様は同じ学生になるんだよね。ソフィア、大丈夫かな?」

「俺もアドもいるんだから守るんだよ」

「えー、雌豹の相手するの?」

「お前なら蹴散らせる。彼女たちより美少女だ」

後ろの従者たちがブンブン頷いているのがわかる。
失礼な。

「俺だって成長しますー」

王都でそれなりに苦労しているらしいアレクサンドライトの様子に、自分がしっかりしなければという気持ちになってしまう。

「よし、鍛えよう!背を伸ばす!厚い胸板目指す!
明日から稽古は倍だぞ!」

アドライトの無謀な決意は、最後に後ろの従者たちも鼓舞する形となった。
彼らも朝稽古のメンバーであり、従者とはいえ武人でもある。

「おぅ!」

とアドライトに鼓舞された従者たちの返事に、前を歩いていたソフィアとレオンが驚いて振り返ったのだった。
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