転生を繰り返してたら神様に惚れられました

丸太

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1章 

11. お宝倉庫

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セバスチャンの話を聞いて、記憶がみるみる蘇る。

ああ、やったわ、私。

料理長相手に味見の重要性と、分量の正確性を叩き込み、他にも熱量、時間、もちろん素材の切り方から下ごしらえまで、ノウハウを作ってスパルタに覚えさせた。

調理器具も倉庫の管理人やら邸内の修復師をかき集め、実験させ、再現させ、昼夜を惜しんで計量スプーン、計量カップ、計量ボウル、温度計、正確な砂時計など、邸内のすべての料理人分作らせた。

5歳の私、恐ろしい。
よく嫌われなかったものだ。
悔い改めねば!

ああ、でも確か、火力の部分で妥協したのよね。
火をおこし火力を調整することだけは簡単に出来なかった。だから今でもコンロは魔道具を使っている。

5年前の自分に辟易しているうちに5棟の館の真ん中の倉庫に案内される。

「まずはこちらから」

セバスチャンの手で大きな扉が開き、くすんだ古い香りが漂ってきた。
入り口から縦に奥まで続く棚がずらりと並んでいる。

「ここには約400年から300年前の品々が保管されています。棚毎に分別されていて、それぞれ奥が古く手前が新しいものです。棚の奥のスペースには家具などの大型の物が置かれています」

セバスチャンの説明を受けながら棚の間を進んでいく。
丁寧に物が陳列されて埃をかぶっていない。よく管理されているようだ。

「そしてこちらが、5年前にみつけた掘り出し物です」
セバスチャンが指さす棚には小さな木箱がたくさん置いてあり、その一つ一つに料理器具が分別して置いてあった。
今使っている調理器具の原型となった物たちだ。

よく見ると黒く汚れた少し大きめの箱を発見。これは何だっけ?
覗いてみる。

「!!!」

驚いて箱を閉じた。
深呼吸する。
5年前、私はこれに気付かなかったのかな?
もしくは幼かったから扱いあぐねたのかもしれない。

私は周りを見渡した。棚には用途の知れない古い機具がたくさんある。
急ぎ足で奥へ行き、大物たちを調べる。
家具はさておき、農機具。織機。製材機。

ーーーそうか。

「ねぇ、セバスチャン。魔道具が生まれたのは約300年前よね」

振り返って聞くと、皆さん私について来ていたようです。
ちょっと我を忘れていました。
恥ずかしい。

「7代前のアイル・シルエット伯の功績で、290年前に少ない魔力を増幅させる装置と魔力を貯める魔石を開発しました。それきっかけに、その仕掛けを使った魔道具が各国で作られ急速に普及したのが280年前となります」

「では古い魔道具はここには無いのかしら?」

「そうですね。魔道具が出来る前の物ばかりですね。次の倉庫にはたくさんありますが」

「なるほど」

つまり、ここにあるものは魔力を必要としない道具だ。
なんで放っておかれているの!?

「ねえ、皆さま。これらは何だかわかりますか?」

私は近くにあった耕うん機を指差し聞いてみる。

兄も従者たちも、そしてセバスチャンも首を振る。

なるほどね!
使い方がわからないのね!
何に使うかもわからないのよね!
魔道具の普及でこの農機具も使わなくなったのでしょうね!
なるほどね!

私は秘かに鼻息が荒くなってしまいます。

そんな中レオン様が近づいてきた。

「なんか、どっかで見たことある。なんだっけ? 農作業で使うやつだっけ?」

「そうなのか?」

アレク兄様が聞いてくるので頷きます。

ピンポーン。
そうなのです。

今は土魔法の魔道具でばーっと畑を耕していますがね、昔はきっとこの鍬が連なった機械を使って少しずつ地道に土を掘り返していたのですよ。

「なに? これがお宝?」

レオン様が小さな私を覗き込むように聞いてきます。

「これだけじゃなく、お宝だらけです・・・」

私は小さな声で言った。

「へえ・・・」

私はレオン様の低い声にそのお顔を見た。
想像したにこにこ顔はしていなかった。どちらかといえば、真剣な表情だ。
レオン様もこの価値に気付いてらっしゃる?

「何か目ぼしいものはありますか?」

思考を遮るようにセバスチャンが聞いてくる。

「そうね、あるわ。けどバザーには使えないかも。先程の黒く汚れた木箱だけ持ち出してもいいかしら?」

私の言葉に従者たちが木箱を取りに戻ってくれた。





倉庫を出ると、外の空気を思いきり吸い込む。

「お兄様、歴史に価値を感じます?」

森から流れ来る青い風を受けながら、アレク兄様とアド兄様に聞いてみる。

「まあ、歴史は尊いものだよね」

「価値か。どうやって価値に置き換えるの? 歴史家にとっては価値あるものかも知れないけどね」

とイマイチな反応が帰って来ました。
うーん。
過去の物に触れてみて、過去の本の記述を思い出してそこに価値を感じるのは、私がただ単に本が好きだからなのかしら?

「ねえ、レオン様。王都には、王宮には、このような倉庫はあるのかしら?」

聞くとレオン様は首を振った。

「ない」

なんですと!?

「え、本当にないのですか?」

「ないよ」

レオン様は断言する。

「王宮の歴史はドロドロだからね。覇権を平和的に移行した時はともかく、奪ったり奪われたりしたときは前の時代のものなんかゴミ同様の扱いだ。破棄してしまう。それは豪快に建物ごと壊して作り変える勢いだ」

「ほ、本は!? 書物は!?」

「理性的な王なら残すだろうけど、過去に何度か書物も図書館ごと燃やされているな。燃えやすいから攻撃の対象にもなりやすいし、火事も多い」

「~~~~~!!!!!」

私は驚愕に叫びたくなったが声も出ない。

「・・・そうなのか?」

 とアレク兄様。

 「野蛮」

 とアド兄様。

「そう。このグラスロット王国にシルエット家ほど長く続いている名家は無いよね。
シルエット家500年の歴史、それが詰まったこの倉庫はそのものに歴史的価値があるのかもしれないよ。」

春風に吹かれてレオン様は爽やかに言う。

「ソフィア嬢は良くお分かりだ。この価値を」

柔らかい笑顔で私を見つめるレオン様。

「この価値をあなたがどう使うのか、これからが楽しみですよ」

あ、丸投げされました。
この価値を生かすも殺すも私次第ということですか?
本当はレオン様も今見た倉庫の中身に気付いているんですよね?
いい性格しています、レオン様。
お顔はこんなにお美しいのに。
少しは協力とか、お手伝いとか、せっかくお知り合いになれたのに申し出てはくれないのかしら?

「その話はまた今度にしましょう。今はバザーです!」

私は胸に生まれたチクリとする棘を隠すように気持ちを切り替えるしかなかった。
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