15 / 57
1章
10. 倉庫へ向かう小径にて
しおりを挟む
「ソフィアがサロンで発言したとき、既視感に襲われたんだよね」
アレクサンドライト兄様の言葉に、従者たちが頷いている。
「私も5年前を思い出しました」
筆頭執事のセバスチャンまで遠い目をしています。
「5年前は私がソフィア様を抱っこして、この道を歩いたものです」
アドライト兄様の専属従者ジェレミーがそう言います。
何のことでしょう?
私とアレク兄様、アド兄様、そしてレオン様は、それぞれの従者を引き連れて、シルエット邸本館の裏にある森の小径を歩いている。
昼食後の食休み中にアレク兄様が
「俺もレオンも王都からの返信を待つだけだし、話題の倉庫を覗いてみようか」
と提案してくれたのだ。
行ってみたかった私は歓喜した。
木漏れ日の中の緩くカーブした小径は石畳で整備され、常に管理されていることがうかがえる立派なものだった。
この道は森の向こうの倉庫に続いていて、定期的にシルエット邸から「いらなくなった物」が馬車で送られているという。
聞けば「いらなくなった物」はシルエット邸で使われた物として捨てるわけにもいかず、順次倉庫に送られ、倉庫が足りなくなったら建て増しし、また奥から詰め込んでいっているらしい。
倉庫の古い順に仕舞われて、いまでは5棟目になる。
シルエット家500年の歴史が眠っているお宝倉庫だ。
「楽しみです。どんな宝物が眠っているのでしょうね」
私の言葉にアレク兄様は
「覚えていないか~」
とセバスチャンを見る。
「無理もございません。あの時一度、行ったきりですから」
セバスがそう言うってことは、5年前に一度行っているのね。
「なぜ倉庫に行ったのかしら?」
思い当たる節はありません。
「あれだな、料理改革」
アレク兄様の発言にレオン様が「お?」となりました。
「ああ、あれか。ソフィアが倉庫から昔の料理器具を引っ張り出して、料理人たちにレシピの書き換えをさせたっていうやつ」
アド兄様はご存知のようですが、私は全く記憶にございません。
「料理人、使用人、あらゆる人を巻き込んで一大改革でした。でもそのおかげで今のシルエット家の料理があるのです。
最近はパーティーなどでコツが少しずつ伝わって、街の味も良くなってきています。」
優しい声でセバスが言います。
「素晴らしいですよね、シルエット家の料理は。朝もびっくりしましたが、お昼も美味しくて止まりませんでした」
レオン様が反芻するように言います。
お腹をさする仕草が可愛いです。
「我が家の食事は朝と昼は質素なんだよ。あれでも」
アレク兄様がレオン様をつつきながら含みを持たせます。
「それは、夕食が楽しみだ」
期待の眼差しをなぜか私に向けてくるレオン様。
「すごいね、ソフィア嬢。辺境伯はバザーの功績にこだわっていたが、既に料理部門で功績を残しているじゃないか」
歩きながら前かがみになって私の顔を覗き込むレオン様。
木漏れ日で髪も瞳もお肌も、真黒なお衣装もどんな生地なのでしょう、全てが輝いております。
眼福です。
ドキドキ。
そそ、とアド兄様が素知らぬ顔で私たちの間に入ってきました。
アレク兄様が「お前はちょこちょこちょこちょこと!!」と何やらレオン様に因縁つけております。
伯爵とはいえ辺境伯、侯爵とはいえ王の甥、微妙な立場が気を合わせたのでしょうか。仲良しです。
「そうですね。すばらしい功績です。
5年前、実はソフィア様はレシピの公開を望んだのです。あの時公開していれば一大産業になっていたかもしれません。
ですがある理由で断念しました。
が、今のソフィア様なら解決するかもしれませんね・・・」
少し悩んだセバスは立ち止まり、私と向き合いました。
「ソフィア様。今日はバザーに出品する最近の食器類を確認するとのことですが、ついでに300年前の料理道具をご覧になって下さい。5年前に一度まとめ直しておりますので直ぐに見つかります」
あら、セバスが真剣です。
「なんですか?
もしやレシピ公開の鍵を握る発見があるかもしれないということですか?
公開の暁にはぜひフォレスト家の料理人を最初にお呼びくださいね」
レオン様がセバスの横から真剣に訴えております。
お綺麗な顔してレオン様も男の子です。食いしん坊ですね。
「まって、その鍵、最初に俺に教えて! レシピは俺の担当でもあるの! 家族特権!!」
アド兄様が慌てて言い募ります。
私の腕に縋ってくる姿は少女のように可愛らしいです。
5年前はともかく、今ではアド兄様が中心となって料理人たちとレシピ制作をしていますので、何か考えがあるのでしょう。
「レシピ公開かぁ。商会に登録してからだな」
アレク兄様は頭の中でお勘定を始めております。
レシピ公開するもしないも、問題解決するもしないも、私が一番内容を理解していないようです。
「ねえ、セバス。5年前、私、一体何をしてしまったのかしら?」
木漏れ日の中、春の暖かい風が小径を通り抜けた。
アレクサンドライト兄様の言葉に、従者たちが頷いている。
「私も5年前を思い出しました」
筆頭執事のセバスチャンまで遠い目をしています。
「5年前は私がソフィア様を抱っこして、この道を歩いたものです」
アドライト兄様の専属従者ジェレミーがそう言います。
何のことでしょう?
私とアレク兄様、アド兄様、そしてレオン様は、それぞれの従者を引き連れて、シルエット邸本館の裏にある森の小径を歩いている。
昼食後の食休み中にアレク兄様が
「俺もレオンも王都からの返信を待つだけだし、話題の倉庫を覗いてみようか」
と提案してくれたのだ。
行ってみたかった私は歓喜した。
木漏れ日の中の緩くカーブした小径は石畳で整備され、常に管理されていることがうかがえる立派なものだった。
この道は森の向こうの倉庫に続いていて、定期的にシルエット邸から「いらなくなった物」が馬車で送られているという。
聞けば「いらなくなった物」はシルエット邸で使われた物として捨てるわけにもいかず、順次倉庫に送られ、倉庫が足りなくなったら建て増しし、また奥から詰め込んでいっているらしい。
倉庫の古い順に仕舞われて、いまでは5棟目になる。
シルエット家500年の歴史が眠っているお宝倉庫だ。
「楽しみです。どんな宝物が眠っているのでしょうね」
私の言葉にアレク兄様は
「覚えていないか~」
とセバスチャンを見る。
「無理もございません。あの時一度、行ったきりですから」
セバスがそう言うってことは、5年前に一度行っているのね。
「なぜ倉庫に行ったのかしら?」
思い当たる節はありません。
「あれだな、料理改革」
アレク兄様の発言にレオン様が「お?」となりました。
「ああ、あれか。ソフィアが倉庫から昔の料理器具を引っ張り出して、料理人たちにレシピの書き換えをさせたっていうやつ」
アド兄様はご存知のようですが、私は全く記憶にございません。
「料理人、使用人、あらゆる人を巻き込んで一大改革でした。でもそのおかげで今のシルエット家の料理があるのです。
最近はパーティーなどでコツが少しずつ伝わって、街の味も良くなってきています。」
優しい声でセバスが言います。
「素晴らしいですよね、シルエット家の料理は。朝もびっくりしましたが、お昼も美味しくて止まりませんでした」
レオン様が反芻するように言います。
お腹をさする仕草が可愛いです。
「我が家の食事は朝と昼は質素なんだよ。あれでも」
アレク兄様がレオン様をつつきながら含みを持たせます。
「それは、夕食が楽しみだ」
期待の眼差しをなぜか私に向けてくるレオン様。
「すごいね、ソフィア嬢。辺境伯はバザーの功績にこだわっていたが、既に料理部門で功績を残しているじゃないか」
歩きながら前かがみになって私の顔を覗き込むレオン様。
木漏れ日で髪も瞳もお肌も、真黒なお衣装もどんな生地なのでしょう、全てが輝いております。
眼福です。
ドキドキ。
そそ、とアド兄様が素知らぬ顔で私たちの間に入ってきました。
アレク兄様が「お前はちょこちょこちょこちょこと!!」と何やらレオン様に因縁つけております。
伯爵とはいえ辺境伯、侯爵とはいえ王の甥、微妙な立場が気を合わせたのでしょうか。仲良しです。
「そうですね。すばらしい功績です。
5年前、実はソフィア様はレシピの公開を望んだのです。あの時公開していれば一大産業になっていたかもしれません。
ですがある理由で断念しました。
が、今のソフィア様なら解決するかもしれませんね・・・」
少し悩んだセバスは立ち止まり、私と向き合いました。
「ソフィア様。今日はバザーに出品する最近の食器類を確認するとのことですが、ついでに300年前の料理道具をご覧になって下さい。5年前に一度まとめ直しておりますので直ぐに見つかります」
あら、セバスが真剣です。
「なんですか?
もしやレシピ公開の鍵を握る発見があるかもしれないということですか?
公開の暁にはぜひフォレスト家の料理人を最初にお呼びくださいね」
レオン様がセバスの横から真剣に訴えております。
お綺麗な顔してレオン様も男の子です。食いしん坊ですね。
「まって、その鍵、最初に俺に教えて! レシピは俺の担当でもあるの! 家族特権!!」
アド兄様が慌てて言い募ります。
私の腕に縋ってくる姿は少女のように可愛らしいです。
5年前はともかく、今ではアド兄様が中心となって料理人たちとレシピ制作をしていますので、何か考えがあるのでしょう。
「レシピ公開かぁ。商会に登録してからだな」
アレク兄様は頭の中でお勘定を始めております。
レシピ公開するもしないも、問題解決するもしないも、私が一番内容を理解していないようです。
「ねえ、セバス。5年前、私、一体何をしてしまったのかしら?」
木漏れ日の中、春の暖かい風が小径を通り抜けた。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる