転生を繰り返してたら神様に惚れられました

丸太

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1章 

10. 倉庫へ向かう小径にて

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「ソフィアがサロンで発言したとき、既視感に襲われたんだよね」

アレクサンドライト兄様の言葉に、従者たちが頷いている。

「私も5年前を思い出しました」

筆頭執事のセバスチャンまで遠い目をしています。

「5年前は私がソフィア様を抱っこして、この道を歩いたものです」

アドライト兄様の専属従者ジェレミーがそう言います。

何のことでしょう?



私とアレク兄様、アド兄様、そしてレオン様は、それぞれの従者を引き連れて、シルエット邸本館の裏にある森の小径を歩いている。

昼食後の食休み中にアレク兄様が

「俺もレオンも王都からの返信を待つだけだし、話題の倉庫を覗いてみようか」

と提案してくれたのだ。

行ってみたかった私は歓喜した。

木漏れ日の中の緩くカーブした小径は石畳で整備され、常に管理されていることがうかがえる立派なものだった。
この道は森の向こうの倉庫に続いていて、定期的にシルエット邸から「いらなくなった物」が馬車で送られているという。

聞けば「いらなくなった物」はシルエット邸で使われた物として捨てるわけにもいかず、順次倉庫に送られ、倉庫が足りなくなったら建て増しし、また奥から詰め込んでいっているらしい。
倉庫の古い順に仕舞われて、いまでは5棟目になる。
シルエット家500年の歴史が眠っているお宝倉庫だ。



「楽しみです。どんな宝物が眠っているのでしょうね」

私の言葉にアレク兄様は

「覚えていないか~」

とセバスチャンを見る。

「無理もございません。あの時一度、行ったきりですから」

セバスがそう言うってことは、5年前に一度行っているのね。

「なぜ倉庫に行ったのかしら?」

思い当たる節はありません。

「あれだな、料理改革」

アレク兄様の発言にレオン様が「お?」となりました。

「ああ、あれか。ソフィアが倉庫から昔の料理器具を引っ張り出して、料理人たちにレシピの書き換えをさせたっていうやつ」

アド兄様はご存知のようですが、私は全く記憶にございません。

「料理人、使用人、あらゆる人を巻き込んで一大改革でした。でもそのおかげで今のシルエット家の料理があるのです。
最近はパーティーなどでコツが少しずつ伝わって、街の味も良くなってきています。」

優しい声でセバスが言います。

「素晴らしいですよね、シルエット家の料理は。朝もびっくりしましたが、お昼も美味しくて止まりませんでした」

レオン様が反芻するように言います。
お腹をさする仕草が可愛いです。

「我が家の食事は朝と昼は質素なんだよ。あれでも」

アレク兄様がレオン様をつつきながら含みを持たせます。

「それは、夕食が楽しみだ」

期待の眼差しをなぜか私に向けてくるレオン様。

「すごいね、ソフィア嬢。辺境伯はバザーの功績にこだわっていたが、既に料理部門で功績を残しているじゃないか」

歩きながら前かがみになって私の顔を覗き込むレオン様。
木漏れ日で髪も瞳もお肌も、真黒なお衣装もどんな生地なのでしょう、全てが輝いております。
眼福です。
ドキドキ。

そそ、とアド兄様が素知らぬ顔で私たちの間に入ってきました。

アレク兄様が「お前はちょこちょこちょこちょこと!!」と何やらレオン様に因縁つけております。
伯爵とはいえ辺境伯、侯爵とはいえ王の甥、微妙な立場が気を合わせたのでしょうか。仲良しです。

「そうですね。すばらしい功績です。
5年前、実はソフィア様はレシピの公開を望んだのです。あの時公開していれば一大産業になっていたかもしれません。
ですがある理由で断念しました。
が、今のソフィア様なら解決するかもしれませんね・・・」

少し悩んだセバスは立ち止まり、私と向き合いました。

「ソフィア様。今日はバザーに出品する最近の食器類を確認するとのことですが、ついでに300年前の料理道具をご覧になって下さい。5年前に一度まとめ直しておりますので直ぐに見つかります」

あら、セバスが真剣です。

「なんですか?
もしやレシピ公開の鍵を握る発見があるかもしれないということですか?
公開の暁にはぜひフォレスト家の料理人を最初にお呼びくださいね」

レオン様がセバスの横から真剣に訴えております。
お綺麗な顔してレオン様も男の子です。食いしん坊ですね。

「まって、その鍵、最初に俺に教えて! レシピは俺の担当でもあるの! 家族特権!!」

アド兄様が慌てて言い募ります。
私の腕に縋ってくる姿は少女のように可愛らしいです。
5年前はともかく、今ではアド兄様が中心となって料理人たちとレシピ制作をしていますので、何か考えがあるのでしょう。

「レシピ公開かぁ。商会に登録してからだな」

アレク兄様は頭の中でお勘定を始めております。

レシピ公開するもしないも、問題解決するもしないも、私が一番内容を理解していないようです。

「ねえ、セバス。5年前、私、一体何をしてしまったのかしら?」

木漏れ日の中、春の暖かい風が小径を通り抜けた。









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