上 下
10 / 57
1章 

7.5 sideレオン その1

しおりを挟む
気付いたら『誰か』を探していた。

『誰か』を探し求め邸を抜け出し王都を彷徨ったこともあった。



このグラスロット王国では、貴族の子供たちは14歳の秋に王都の学園に入学する。
子供の小さな社会とはいえ、学園での人脈はその後の人生を左右する。

王都に別邸を構えられる程度の貴族であれば皆、子供が13歳になると上京させ、今後の学園生活のために近い年代のご子息ご令嬢たちと交流を持たせる。

王族の末端に位置する俺も例外ではない。
そこかしこで開かれる茶会に連日の誘いを受けたが、『誰か』がいないかと期待して訪れ、裏切られて帰って来る日々だった。



父の同僚で俺も幼いころから知る、シルエット辺境伯の息子も13歳になるとすぐに上京した。
その最初のパーティーでは同年で俺だけが招かれ、個人的に「仲良くしてやってくれ」と辺境伯自ら息子を紹介してくれた。

シルエット辺境伯の長男は金髪碧眼で、アレクサンドライトという長く呼びづらい名前だった。
恵まれた体躯を持ち、父親に似たハンサムな容貌で無防備に笑う、少年から青年になりつつある大人びた男だ。
賢そうな顔をしているのに、話すと柔和で気遣いが出来る男でもある。

俺たちは直ぐに親しくなり、普段からお互いの邸を行き来するようになった。

シルエット邸は居やすかった。
フォレスト家では疎まれるおかしな発言も、感心してくれたり、笑って受け入れてくれたりした。
次第に自分の邸にいるよりもリラックスし、素のままの態度で過ごさせて貰うことも多くなった。

俺とアレクがお互いをさらけ出して付き合えるようになった頃。

「今度十日ほど領地に帰るんだが、お前も来るか?」

辺境伯自らの誘いだった。
二つ返事で受けた。
アレクが何やら意味ありげな顔をしている。

「何だよ」

問うと

「妹に合わせたくない」

と言われた。



妹。

という単語に、なぜか俺の胸は弾けた。

「あ、やばい、凄く会いたい」

なんだこれ。猛烈な期待感。抑えられない程に胸が高まる。

そんな俺を辺境伯もアレクも呆れたように見ていた。

「期待していてくれ。自慢の娘だ」

辺境伯の諦めたような言葉になんとなく意味を理解する。
ああ、俺は今、彼らの愛する娘の隣に立つ人間として選ばれたんだな。



それから辺境の地にあるシルエット領内の都市、ブレスに辿り着くまでの数日間は、はやる自分の心との戦いだった。
なぜなら、アレクの妹が、探し続けていた『誰か』なのだろうという確信があったからだ。
長いこと探し求めた『誰か』にやっと出会える。
その期待感に胸を焦がした。



そして、シルエット邸に到着した翌朝。

案内を受け食堂へ向かう廊下で、シルエット家の家族絵を見つけた。
よく見るとそこかしこに飾られた美術品に紛れ、大小の家族絵が展示されている。

その中に、美形揃いのシルエット家の中にあって絵師がひと際力を注いだであろう輝きを持つ少女がいた。
プラチナブロンドの髪、空色の瞳、白い肌にほんのり赤い頬と唇。

彼女だ。

俺は確信した。



広い玄関ホールの大きな家族絵に見入っていると、背後の緩くカーブした階段を駆け下りる小さな軽い足音がした。
振り返ると視界に飛び込んできた少女。

これは幻だろうか。
俺の存在に驚いて足を止める彼女の周囲にだけ、眩しい程の白銀の輝きが見える。
家族絵の中の少女と同じ、だが明らかに命の灯が、その小さな肉体から溢れ出ている。
美しく可愛らしい少女。

彼女だ。

再度の間違いようのない確信に、俺はこの世界のこの時間軸に生まれてきたことを、そしてこの出会いを、神に感謝した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...