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1章
7.5 sideレオン その1
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気付いたら『誰か』を探していた。
『誰か』を探し求め邸を抜け出し王都を彷徨ったこともあった。
このグラスロット王国では、貴族の子供たちは14歳の秋に王都の学園に入学する。
子供の小さな社会とはいえ、学園での人脈はその後の人生を左右する。
王都に別邸を構えられる程度の貴族であれば皆、子供が13歳になると上京させ、今後の学園生活のために近い年代のご子息ご令嬢たちと交流を持たせる。
王族の末端に位置する俺も例外ではない。
そこかしこで開かれる茶会に連日の誘いを受けたが、『誰か』がいないかと期待して訪れ、裏切られて帰って来る日々だった。
父の同僚で俺も幼いころから知る、シルエット辺境伯の息子も13歳になるとすぐに上京した。
その最初のパーティーでは同年で俺だけが招かれ、個人的に「仲良くしてやってくれ」と辺境伯自ら息子を紹介してくれた。
シルエット辺境伯の長男は金髪碧眼で、アレクサンドライトという長く呼びづらい名前だった。
恵まれた体躯を持ち、父親に似たハンサムな容貌で無防備に笑う、少年から青年になりつつある大人びた男だ。
賢そうな顔をしているのに、話すと柔和で気遣いが出来る男でもある。
俺たちは直ぐに親しくなり、普段からお互いの邸を行き来するようになった。
シルエット邸は居やすかった。
フォレスト家では疎まれるおかしな発言も、感心してくれたり、笑って受け入れてくれたりした。
次第に自分の邸にいるよりもリラックスし、素のままの態度で過ごさせて貰うことも多くなった。
俺とアレクがお互いをさらけ出して付き合えるようになった頃。
「今度十日ほど領地に帰るんだが、お前も来るか?」
辺境伯自らの誘いだった。
二つ返事で受けた。
アレクが何やら意味ありげな顔をしている。
「何だよ」
問うと
「妹に合わせたくない」
と言われた。
妹。
という単語に、なぜか俺の胸は弾けた。
「あ、やばい、凄く会いたい」
なんだこれ。猛烈な期待感。抑えられない程に胸が高まる。
そんな俺を辺境伯もアレクも呆れたように見ていた。
「期待していてくれ。自慢の娘だ」
辺境伯の諦めたような言葉になんとなく意味を理解する。
ああ、俺は今、彼らの愛する娘の隣に立つ人間として選ばれたんだな。
それから辺境の地にあるシルエット領内の都市、ブレスに辿り着くまでの数日間は、はやる自分の心との戦いだった。
なぜなら、アレクの妹が、探し続けていた『誰か』なのだろうという確信があったからだ。
長いこと探し求めた『誰か』にやっと出会える。
その期待感に胸を焦がした。
そして、シルエット邸に到着した翌朝。
案内を受け食堂へ向かう廊下で、シルエット家の家族絵を見つけた。
よく見るとそこかしこに飾られた美術品に紛れ、大小の家族絵が展示されている。
その中に、美形揃いのシルエット家の中にあって絵師がひと際力を注いだであろう輝きを持つ少女がいた。
プラチナブロンドの髪、空色の瞳、白い肌にほんのり赤い頬と唇。
彼女だ。
俺は確信した。
広い玄関ホールの大きな家族絵に見入っていると、背後の緩くカーブした階段を駆け下りる小さな軽い足音がした。
振り返ると視界に飛び込んできた少女。
これは幻だろうか。
俺の存在に驚いて足を止める彼女の周囲にだけ、眩しい程の白銀の輝きが見える。
家族絵の中の少女と同じ、だが明らかに命の灯が、その小さな肉体から溢れ出ている。
美しく可愛らしい少女。
彼女だ。
再度の間違いようのない確信に、俺はこの世界のこの時間軸に生まれてきたことを、そしてこの出会いを、神に感謝した。
『誰か』を探し求め邸を抜け出し王都を彷徨ったこともあった。
このグラスロット王国では、貴族の子供たちは14歳の秋に王都の学園に入学する。
子供の小さな社会とはいえ、学園での人脈はその後の人生を左右する。
王都に別邸を構えられる程度の貴族であれば皆、子供が13歳になると上京させ、今後の学園生活のために近い年代のご子息ご令嬢たちと交流を持たせる。
王族の末端に位置する俺も例外ではない。
そこかしこで開かれる茶会に連日の誘いを受けたが、『誰か』がいないかと期待して訪れ、裏切られて帰って来る日々だった。
父の同僚で俺も幼いころから知る、シルエット辺境伯の息子も13歳になるとすぐに上京した。
その最初のパーティーでは同年で俺だけが招かれ、個人的に「仲良くしてやってくれ」と辺境伯自ら息子を紹介してくれた。
シルエット辺境伯の長男は金髪碧眼で、アレクサンドライトという長く呼びづらい名前だった。
恵まれた体躯を持ち、父親に似たハンサムな容貌で無防備に笑う、少年から青年になりつつある大人びた男だ。
賢そうな顔をしているのに、話すと柔和で気遣いが出来る男でもある。
俺たちは直ぐに親しくなり、普段からお互いの邸を行き来するようになった。
シルエット邸は居やすかった。
フォレスト家では疎まれるおかしな発言も、感心してくれたり、笑って受け入れてくれたりした。
次第に自分の邸にいるよりもリラックスし、素のままの態度で過ごさせて貰うことも多くなった。
俺とアレクがお互いをさらけ出して付き合えるようになった頃。
「今度十日ほど領地に帰るんだが、お前も来るか?」
辺境伯自らの誘いだった。
二つ返事で受けた。
アレクが何やら意味ありげな顔をしている。
「何だよ」
問うと
「妹に合わせたくない」
と言われた。
妹。
という単語に、なぜか俺の胸は弾けた。
「あ、やばい、凄く会いたい」
なんだこれ。猛烈な期待感。抑えられない程に胸が高まる。
そんな俺を辺境伯もアレクも呆れたように見ていた。
「期待していてくれ。自慢の娘だ」
辺境伯の諦めたような言葉になんとなく意味を理解する。
ああ、俺は今、彼らの愛する娘の隣に立つ人間として選ばれたんだな。
それから辺境の地にあるシルエット領内の都市、ブレスに辿り着くまでの数日間は、はやる自分の心との戦いだった。
なぜなら、アレクの妹が、探し続けていた『誰か』なのだろうという確信があったからだ。
長いこと探し求めた『誰か』にやっと出会える。
その期待感に胸を焦がした。
そして、シルエット邸に到着した翌朝。
案内を受け食堂へ向かう廊下で、シルエット家の家族絵を見つけた。
よく見るとそこかしこに飾られた美術品に紛れ、大小の家族絵が展示されている。
その中に、美形揃いのシルエット家の中にあって絵師がひと際力を注いだであろう輝きを持つ少女がいた。
プラチナブロンドの髪、空色の瞳、白い肌にほんのり赤い頬と唇。
彼女だ。
俺は確信した。
広い玄関ホールの大きな家族絵に見入っていると、背後の緩くカーブした階段を駆け下りる小さな軽い足音がした。
振り返ると視界に飛び込んできた少女。
これは幻だろうか。
俺の存在に驚いて足を止める彼女の周囲にだけ、眩しい程の白銀の輝きが見える。
家族絵の中の少女と同じ、だが明らかに命の灯が、その小さな肉体から溢れ出ている。
美しく可愛らしい少女。
彼女だ。
再度の間違いようのない確信に、俺はこの世界のこの時間軸に生まれてきたことを、そしてこの出会いを、神に感謝した。
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