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1章
6. サロン会議
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朝食を食べ終わると、皆でサロンに移動した。
サロンには2組の豪奢なソファーセットが部屋のあちらとこちらに置いてある。
手前のソファーに座ると、別室で食事をしていた執事をはじめ従者、侍女、使用人の役職者たちが入室してきた。彼等は座らずにそれぞれ所定の位置に付き、ソファーを囲んだ。
朝食の後はいつもサロンで本日の予定の確認や様々な報告が行われる。
貴族教育の一環として、この会議にはアドライト兄様も私も参加している。発言も許されているのだが、私はまだ口を出した事がない。
王宮で働くお父様から王都の様子が語られ、アレク兄様も学友となる貴族の事などを報告している。
レオン様もいらっしゃるのに忌憚ない。
領地経営のお勉強というところでしょう。
お母様は領地ブレスについての報告をし、筆頭執事であるセバスチャンも補足する。
このお二人が今はお父様の居ない領地を治めている。
セバスチャンは代々我が家に仕えてくれる子爵の出でもあり代官として優秀なのだ。
各々の報告が終わると、多少の課題が残るものの万事つつがない様子を確認して、皆に安堵が広がった。
私は仕事をする家族の凛々しさに見蕩れながら皆の報告を聞くだけだ。
仕事中の男子は凛々しさ増倍で、お母様も美しさに凄みがかかるのです。
うーん、目の保養。
いつの間にかパーティーの話に移り変わっている。
このパーティー、私の10歳の誕生日パーティーで、シルエット家の令嬢としての公式なお披露目会なのだ。
私の人生初の公務となる。
招待客のリストを、貴族社会のパワーバランスに敏感なお母様が確認し、お父様に報告する。
王都からはお父様の同僚であるフォレスト侯爵家が招待されるらしい。
近隣のお付き合いのある領主様方もご招待する。
そして領内のシルエット伯爵家麾下の貴族はもちろん、領主邸で働く者たちの家族や、ブレス領で精力的に活動している平民の方々まで招待するらしい。
あくまで娘を披露する領内のパーティーという趣向を捉えた人選だ。
「完璧だよ、エリー」
お父様はお母様からリストを受け取ると、そのままその手にキスをする。
どんな時でもラブラブ夫婦です。
伯爵夫婦が甘々タイムに突入する隙を与えずに、パーティーの準備について話し合いを進めなければ!
と、執事や侍女、料理人たちが一斉に議題を出す。
聞いていると大掛かりなパーティーになりそうだ。
晩餐のメニュー、会場の設定、装飾の確認、馬車の管理、話し合いは尽きない。
「さ、ソフィアのお披露目ですからあなたの意見も聞かないと」
一段落するとお母様が私に話を振る。
「何か企画は考えまして?」
そうなのだ。
10歳のお披露目パーティーでは、シルエット家の一員としての立場を表明する企画が執り行われるのが慣例なのだ。
例えばアレク兄様の時は、跡取りとしてお父様と共同で記念硬貨を全領民に配り、一気に名を広めた。
アレク兄様はお父様似の美男子なので、お披露目の後には市井に姿絵が流出してしまい、年頃の少女たちはこぞって買い求めたという。
昨年のアド兄様のパーティーは私もよく覚えている。
アレク兄様を支えるという意思表示でシルエット家専属騎士団による公開トーナメント戦が行われ、大変盛り上がった。
腕に覚えのある領民たちも参加し、夜中には酒盛りでシルエット邸前広場はいつまでも大騒ぎだった。
もちろんアド兄様もトーナメント戦に参加した。その美少女然とした外見からは想像できない武芸を発揮したことでしばらくの間アドライト人気が叫ばれたほどだ。
「市井に顔を出すことは避けて欲しい」
「同じく」
アレク兄様とアド兄様のつぶやきが聞こえる。
「なんで?」
とレオン様が素朴な疑問を口にする。
「アレクの時は姿絵が出回って大問題になったんだ。アドの時も相当規制したが、やはり姿絵が流出してしまってな。回収に数ヶ月かかった。」
とお父様が説明した。
「シルエット家、美形も時には弊害だな」
楽しそうにレオン様が笑った。
「笑い事じゃない。もしソフィアの姿絵が出回ったりしたら!!!」
お父様の悲鳴にレオン様が私をじっと見る。
凛々しい目元がまろみを帯びて
「それは大ごとだ。私が買い占めよう」
と甘い笑顔を送ってきます。
「その顔やめろ」
すかさずアレク兄様の突っ込みが入るので、私のドキドキはバレずに済みました。
私も女子ですから、軽々しく身の危険に繋がるようなことはしたくない。
「過去の記録では平和の花であるニガヨモギをアレンジして配ったり、修道院に寄付をしてその式典を行ったり・・・まあ、地味ですけど堅実ですわね」
お母様の言いたいことはわかります。
いずれ結婚して領地を離れる女子ですから、平和を祈り、慈愛の精神を表明すればそれで済むということでしょう。
お父様もお兄様たちも私の姿を知らしめたくないらしいですし。
でも。
ふふふ。
安心なさって。
私、とっくに素敵な企画を思いついているのです。
「良い考えがあるのです」
私がそれを切り出すと、皆の視線が集まりました。
それなりにざわついていた室内が一気に静かになってしまいます。
え?
なんでしょう?
ちょっと緊張します。
「なあに、ソフィア」
お母様が殊更優しい声で先を促します。
お父様をはじめ皆様ジリジリと私の発言を待っている様子です。
レオン様だけが平常ですね。
そんな期待なさっても爆弾発言は致しませんわよ。
「私、チャリティーバザーをやりたいのです」
サロンには2組の豪奢なソファーセットが部屋のあちらとこちらに置いてある。
手前のソファーに座ると、別室で食事をしていた執事をはじめ従者、侍女、使用人の役職者たちが入室してきた。彼等は座らずにそれぞれ所定の位置に付き、ソファーを囲んだ。
朝食の後はいつもサロンで本日の予定の確認や様々な報告が行われる。
貴族教育の一環として、この会議にはアドライト兄様も私も参加している。発言も許されているのだが、私はまだ口を出した事がない。
王宮で働くお父様から王都の様子が語られ、アレク兄様も学友となる貴族の事などを報告している。
レオン様もいらっしゃるのに忌憚ない。
領地経営のお勉強というところでしょう。
お母様は領地ブレスについての報告をし、筆頭執事であるセバスチャンも補足する。
このお二人が今はお父様の居ない領地を治めている。
セバスチャンは代々我が家に仕えてくれる子爵の出でもあり代官として優秀なのだ。
各々の報告が終わると、多少の課題が残るものの万事つつがない様子を確認して、皆に安堵が広がった。
私は仕事をする家族の凛々しさに見蕩れながら皆の報告を聞くだけだ。
仕事中の男子は凛々しさ増倍で、お母様も美しさに凄みがかかるのです。
うーん、目の保養。
いつの間にかパーティーの話に移り変わっている。
このパーティー、私の10歳の誕生日パーティーで、シルエット家の令嬢としての公式なお披露目会なのだ。
私の人生初の公務となる。
招待客のリストを、貴族社会のパワーバランスに敏感なお母様が確認し、お父様に報告する。
王都からはお父様の同僚であるフォレスト侯爵家が招待されるらしい。
近隣のお付き合いのある領主様方もご招待する。
そして領内のシルエット伯爵家麾下の貴族はもちろん、領主邸で働く者たちの家族や、ブレス領で精力的に活動している平民の方々まで招待するらしい。
あくまで娘を披露する領内のパーティーという趣向を捉えた人選だ。
「完璧だよ、エリー」
お父様はお母様からリストを受け取ると、そのままその手にキスをする。
どんな時でもラブラブ夫婦です。
伯爵夫婦が甘々タイムに突入する隙を与えずに、パーティーの準備について話し合いを進めなければ!
と、執事や侍女、料理人たちが一斉に議題を出す。
聞いていると大掛かりなパーティーになりそうだ。
晩餐のメニュー、会場の設定、装飾の確認、馬車の管理、話し合いは尽きない。
「さ、ソフィアのお披露目ですからあなたの意見も聞かないと」
一段落するとお母様が私に話を振る。
「何か企画は考えまして?」
そうなのだ。
10歳のお披露目パーティーでは、シルエット家の一員としての立場を表明する企画が執り行われるのが慣例なのだ。
例えばアレク兄様の時は、跡取りとしてお父様と共同で記念硬貨を全領民に配り、一気に名を広めた。
アレク兄様はお父様似の美男子なので、お披露目の後には市井に姿絵が流出してしまい、年頃の少女たちはこぞって買い求めたという。
昨年のアド兄様のパーティーは私もよく覚えている。
アレク兄様を支えるという意思表示でシルエット家専属騎士団による公開トーナメント戦が行われ、大変盛り上がった。
腕に覚えのある領民たちも参加し、夜中には酒盛りでシルエット邸前広場はいつまでも大騒ぎだった。
もちろんアド兄様もトーナメント戦に参加した。その美少女然とした外見からは想像できない武芸を発揮したことでしばらくの間アドライト人気が叫ばれたほどだ。
「市井に顔を出すことは避けて欲しい」
「同じく」
アレク兄様とアド兄様のつぶやきが聞こえる。
「なんで?」
とレオン様が素朴な疑問を口にする。
「アレクの時は姿絵が出回って大問題になったんだ。アドの時も相当規制したが、やはり姿絵が流出してしまってな。回収に数ヶ月かかった。」
とお父様が説明した。
「シルエット家、美形も時には弊害だな」
楽しそうにレオン様が笑った。
「笑い事じゃない。もしソフィアの姿絵が出回ったりしたら!!!」
お父様の悲鳴にレオン様が私をじっと見る。
凛々しい目元がまろみを帯びて
「それは大ごとだ。私が買い占めよう」
と甘い笑顔を送ってきます。
「その顔やめろ」
すかさずアレク兄様の突っ込みが入るので、私のドキドキはバレずに済みました。
私も女子ですから、軽々しく身の危険に繋がるようなことはしたくない。
「過去の記録では平和の花であるニガヨモギをアレンジして配ったり、修道院に寄付をしてその式典を行ったり・・・まあ、地味ですけど堅実ですわね」
お母様の言いたいことはわかります。
いずれ結婚して領地を離れる女子ですから、平和を祈り、慈愛の精神を表明すればそれで済むということでしょう。
お父様もお兄様たちも私の姿を知らしめたくないらしいですし。
でも。
ふふふ。
安心なさって。
私、とっくに素敵な企画を思いついているのです。
「良い考えがあるのです」
私がそれを切り出すと、皆の視線が集まりました。
それなりにざわついていた室内が一気に静かになってしまいます。
え?
なんでしょう?
ちょっと緊張します。
「なあに、ソフィア」
お母様が殊更優しい声で先を促します。
お父様をはじめ皆様ジリジリと私の発言を待っている様子です。
レオン様だけが平常ですね。
そんな期待なさっても爆弾発言は致しませんわよ。
「私、チャリティーバザーをやりたいのです」
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