転生を繰り返してたら神様に惚れられました

丸太

文字の大きさ
上 下
1 / 57
1章 

1. はじめのはなし

しおりを挟む
ふわりと花の香りが鼻孔をくすぐる。

温かい。

これは誰かの匂いで体温だ。

目が覚める。

目の前には男性とも女性とも言えない、あるいはどちらとも言えそうな、完璧な美貌があった。

青みがかった銀髪のシルバーアイ。

透けそうに白い肌。

私は彼を知っている。

「ガイア様?」

呼び掛けに彼は優しく目を細めてくれる。

周りを見渡すとそこは白亜の豪邸。その邸内。

窓辺の向こう、テラスのその向こうは海のようにエメラルドに輝いている。

明るい陽射し。

暑くも寒くもない快適空間で彼はソファーに座り、私を赤ん坊のように横抱きにしていた。

「私、またここに戻ってしまったのね」

あえて抱っこスタイルは突っ込まずにおく。

「そうだねぇ、君は今回も人生に満足しなかったようだ」

私の髪や額にキスをしながら彼は穏やかに言う。

私がここへ来たのは何度目だろう。





ここは、転生の間。

命を失った者が奇跡の割合でここへ飛ばされる。

そしてここへ来ると別の世界へ魂が転生される。

私のように何度も転生を繰り返す者を『渡り人』と呼ぶらしい。





ガイアは多分神様で、転生を管理している。

私は何故だか過去に何度もここへ飛ばされ、その度に転生を繰り返している。

それでも生き足りないのか、今回もまたここに来てしまった。
どんだけ欲深いんだろう。

「今回の私、結構頑張ったんだけどなー」

私はガイアの膝の上でぐいーっと伸びをして、直前の人生を振り返る。
人にも環境にも恵まれた、相当充実した良い人生だった。

それでもまだ人として生きたいか、私。

「そうだねぇ。今度こそ僕のお嫁さんになってくれると思ったのに」

ガイアは少し残念そうに笑った。





実は何回目かの転生の間で、私は人としての生を終えたら、ガイアのそばでガイアのお手伝いをする約束をしたのだ。

約束をするとガイアのように『生き物』ではない何かへ生まれ変わる権利を得るらしい。
ただ、本心から『生き物』ではない何かへの生まれ変わりを望まなければ、その権利は発動されない。

今、いつものように転生の間にいるということは、私はまた心のどこかで『生き物』として生まれ変わることを望んだのだろう。





「さて、今度はどんな世界に生まれたいかい?」

気分を変えるようにガイアは明るい口調で聞いてくる。

『渡り人』となった最初のうちは、私も何だかんだと希望を出した。

魔法使いになりたい。

妖精になりたい。

長ーい人生を送りたい。

国を治めてみたい。

大金持ちになりたい。アホみたいに強くなりたい。何にもしないで幸せに生きていたい。モフモフしたい。グダグダしたい。バリバリ働きたい。


ーーー、やり尽くした気がする。


それでもまだ本能は生きたいと望んでいるらしい。

私はガイアの膝の上から飛び降りた。

「そうだな。今回は何も要らないし、何も指定しないことにする」

何でもいい。どんな世界でもいい。

やけになったわけではない。

予測されない人生をあえて望んでみた。
人生万事塞翁が馬。
今度はそんな人生を思いっきり生きてやろうじゃないの。





「だめだめだめだめ!」

ガイアが私をぎゅうぎゅう抱き締める。

「もし君が痛かったり苦しかったりしたら、私が耐えられない! また最初の時みたいな辛い思いはさせたくない!」

私の最初の人生。

あまり覚えてないけど、虐待されて苦しみしかない人生を16歳で終えたんだったっけかな。
気づいたらガイアがわんわん泣いていて、ここ転生の間で私の心と身体の傷を必死に癒してくれていた。

それが彼との出会いだ。

「確かにあれはあんまりだったけど、けど、お願い。今回は何も持たないで知らない世界に飛び込んでみたいの。
予定調和のない人生よ」

私はガイアの腕の中で、懸命に上を向いて背の高い彼のその美しい顔を見ながら説得した。

「きっとその方が私は満足するし、満足すればこの転生のループを終わらせることが出来るかも。
そうしたら、きっとガイアと同じ存在として生まれ変われるわね。
それにね、なんでかな、そんなに酷い目には合わないと思うの。
なんといっても既に存在がもうチートだから、人並みに生きて行けそうな気がするわ」

私は何も心配は無いと笑って見せた。

ガイアのもとに生まれ変われる、という言葉に彼は渋々と了承した。
私を抱き締める腕をほどき、肩に両手を置かれ向き合う。

「せめて無限魔力だけでも持っていかない?」

私を覗き込みながらガイアは言う。

「いらない。ふふ。それ、最強じゃない。いらないわ」

「じゃあ、無限アイテムボックスは? 空間移動能力だけでも付ければ何かあった時逃げられるよ?」

「いつもチートだったわね。でも今回はいらないわ」

「じゃあ、じゃあ、せめて僕の加護だけは持っていってよ。お願いだから」

私の肩に置かれた手に力が入るのがわかる。
ガイアの美貌は今にも泣き崩れそうで、ついつい絆されてしまう。

「うーん、じゃあ、それだけね」

私の妥協にガイアの表情がパッと明るくなる。
ガイアは美しい手を私の額に当て、じっくりと私に加護を与えた。

「どうかどうか、この子が無事で、幸せでありますように」

ガイアの小さな声に私は感謝する。
これだけ願ってくれるんだもの、不幸になんてならないはず。

「では、行きますか!」

私がふん切りを付けるように言うと、地面にぽっかりと穴が空いた。

穴の中は海底のように揺らめきエメラルドに輝いている。
そこにはたくさんの細い糸が、光を反射するようにキラキラと漂っている。
この一本一本があらゆる世界線なのだ。

今まではこの糸もガイアが選んでくれて、その世界線に送り込んでくれた。
でも今回は選ばずに行く。

「ガイア様、またね!」

言うと私はおもむろに穴に飛び込んだ。

最後にガイア様の「あああああ」という情けない声が耳に残った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...