冷酷非道な精霊公爵様は偽物の悪役令嬢を離さない

鳥花風星

文字の大きさ
10 / 14

悪役令嬢と冷酷非道な精霊公爵

しおりを挟む
「お姉さまったら酷い!私のドレスをわざと破くなんて!」

 アベリアがフェイズの屋敷で生活するようになってから数ヶ月後。とある屋敷で舞踏会が開かれ、アベリアは久々に義妹であるイザベラに会った。そして、冒頭のセリフを言われたのである。
 破けたドレスの裾を庇うようにして床にしゃがみ込み、潤んだ瞳でアベリアを見上げるイザベラ。その隣にはいつかの日もイザベラを擁護する取り巻き令息のヴェンがいた。

(またこれなの……)

 毎度の光景にうんざりする。フェイズの所へ来てから実家ともイザベラとも疎遠になっていたが、相変わらずイザベラとヴェンはアベリアを悪者に仕立て上げ、周囲の人々はヒソヒソと話をしている。

「またあの悪役令嬢?精霊公爵と婚約したとは聞いていたけれど、あれならさもありなんね」
「冷酷非道な精霊公爵にピッタリじゃない」

 クスクスと笑い声さえ聞こえてくる。自分のことはどう言われても構わない、慣れたものだ。だが、フェイズのことまで好き勝手に言われるのは納得がいかない。思わず口を開きかけた瞬間、フワッと肩に手がかかり、横を見るとフェイズがいた。

「ひっ!噂をすれば精霊公爵だ!」

 小さく悲鳴を上げるもの、恐れ慄いて息を呑むものなど反応は様々だ。

「俺の婚約者がどうかしたのか?」

 フェイズが冷え切った視線でイザベラとヴェンを見ると、二人はヒッと怯える。だが、イザベラはそれでもめげずにアベリアを指差す。

「お、義姉様が、私のドレスをわざと破ったんです!ヴェン様からいただいた美しいこのドレスを羨ましく思ったのでしょう、それにしたって酷いわ」
「そうだ、いくら義妹が自分よりも可愛らしくて可憐だからって妬んでいじめるだなんて最低だ!」

 イザベラの口撃にヴェンも息を吹き返したように追撃する。

(ああ、こんなくだらないことにフェイズ様を巻き込んでしまったわ)

 アベリアが俯くと、フェイズはそれを見てアベリアの肩をグッと引き寄せた。

「俺の婚約者がその嘘つきな義妹《いもうと》に妬んでいるだ?馬鹿なのかお前は。どう見たってアベリアの方が美しく聡明で可愛らしいだろうが」

 フェイズはヴェンを見てふん、と鼻で笑うと、今度はイザベラを睨みつける。

「お前、ドレスを破られたと言ったがどのタイミングで破られた?こんなに大勢人がいる中でどうやって?」
「それは……」
「証拠があるなら婚約者である俺も一緒に謝罪しよう。だが、謂れのない罪を着せようとするのであれば容赦はしない。徹底的に調べ上げてお前の嘘を暴いてやるだけだ。今日のことだけじゃない、今までのこと全部だ」

 内臓を揺らすほどの恐ろしい低音でそう言い放つと、イザベラはヒッ!と小さく悲鳴を上げる。隣にいるヴェンもフェイズの気迫に慄き、泣きそうな顔をしている。

「たった一人の嘘を見抜こうともせず、噂を信じきってよってたかってさらに噂を拡大させる他の人間も最低だな。そんな人間ばかりとは、この国の未来が心配だ」

 周囲を見渡し、呆れたような顔でそう言うと、フェイズはアベリアの肩を抱いたまま会場に響くように声を出す。

「いいか!今後、俺の婚約者に対してありもしない噂を撒き散らすようであれば俺が容赦しない。徹底的に潰してやるから覚悟しろ」

 そう言うと、そっとアベリアの顔を見て心配そうに尋ねた。

「大丈夫か?今日はもう帰ろう、こんなところにいても不愉快になるだけだ」

 そうして、フェイズはアベリアを優しくエスコートして会場を後にした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)

ほーみ
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」  王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。  ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。

悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~

希羽
恋愛
​「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」 ​才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。 ​しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。 ​無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。 ​莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。 ​一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

断罪フラグをへし折った悪役令嬢は、なぜか冷徹公爵様に溺愛されています ~スローライフはどこへいった?~

放浪人
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生した私。 来るべき断罪イベントを回避し、辺境の領地で悠々自適なスローライフを送る……はずだった! 卒業パーティーの舞台で、王太子から突きつけられた数々の罪状。 ヒロインを虐げた? 国を傾けようとした? ――全部、覚えがありませんけど? 前世の知識と周到な準備で断罪フラグを木っ端微塵にへし折り、婚約破棄を叩きつけてやったわ! 「さようなら、殿下。どうぞヒロインとお幸せに!」 ああ、これでやっと静かな生活が手に入る! そう思っていたのに……。 「実に興味深い。――イザベラ、お前は俺が貰い受ける」 なぜか、ゲームではヒロインの攻略対象だったはずの『氷の公爵』アレクシス様が、私に執着し始めたんですけど!? 追いかけてこないでください! 私のスローライフが遠のいていく……!

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...