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番外編
幸せ
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「犯人、捕まってよかったですね」
犯人を捕獲した翌日、ブランシュはノアールの部屋でゆっくりとお茶を飲んでいた。
「なんでお前が俺の部屋で茶なんか飲んでんだよ。酒ならともかくなんで茶だよ」
「俺は紅茶が好きなんです。せっかくいい茶葉が手に入ったから先輩にもお譲りしようと思ったのに」
ふん、とブランシュはノアールを一瞥してからまた静かにお茶を飲んでいる。
犯人が捕まってすぐに犯人の家の捜索が開始され、家の中からニーシャの持ち物が数点発見された。ニーシャの持ち物を盗んでいたのもその男だった。その男はたまたま武器を修理に出した時のニーシャの対応に気を良くして、武器をわざと壊してまでしてたびたびニーシャに会いに行っていたらしい。
「ニーシャさんは別に特別にそいつに優しくしたわけでもなんでもなく、誰に対しても公平に接客していただけなのに、普段誰からも優しくされたことがなかったその男は勝手に勘違いして勝手に思いを募らせていた、と」
「胸糞悪い話だよまったく。でも今までよくニーシャも無事だったな。確かにああいう誰にでも分け隔てなく平等に優しく接する人間は、勝手に勘違いされたり一方的に思われそうなタイプではある」
「親方が目を光らせていたから普通の人間だったら怖気づいてしまうんでしょうけど、あの男はやっぱりどこかおかしかったんでしょうね」
ブランシュの返事にノアールは大きくため息をつく。
「おかしな人間に善良な人間が脅かされないように、俺たち騎士団がしっかり働かなきゃいけないんだろうな」
「珍しくまともなこといいますね。普段さぼってばかりのクセに。やっぱり愛は人を変えるんでしょうか」
「うるせえよ」
ノアールが吐き捨てると、ブランシュはクスクスと楽しそうに笑った。
「それにしても、いつからニーシャさんのこと好きになったんですか?」
ブランシュの質問に、ノアールは頭をガシガシとかいて首をひねる。
「わからん。気づいたらいつの間にか好きになってた、んだろうな。自分でもなんでそうなってたのか、そもそもいつから気になったのか全然わかんねぇよ」
「へえ。でも、案外結構前から気になってたんじゃないですか。先輩、事件が起こるずっと前から、鍛冶屋から帰って来る度にいつもニーシャさんの話してましたから」
「は?まじで?」
ノアールが両目を見開いてブランシュを見つめる。それを見て、ブランシュはまた楽しそうにクスクスと笑った。
◇
「と、いうわけで、事件も解決したことだし、そろそろあんたの気持ちもききたいなと思ったんだけど」
犯人が捕まり、ニーシャが家に戻る日になった。ノアールはニーシャが寮内で使っていた部屋に来て、冒頭の言葉を口にした。ノアールにそう言われたニーシャは、ノアールの顔を一瞬見てからすぐに目をそらして、顔を少しあからめながら視線をあちこちに泳がせている。
「ええと、あ、その前に、犯人を捕まえてくださってありがとうございました。これで安心してまた仕事ができますし、家でもゆっくりすごせます」
ニーシャは嬉しそうにそう言ってペコリとお辞儀をする。
(こういう所も本当に律儀だよな)
きっと、ニーシャのこういう所にいつの間にか惹かれてたんだろうな、とノアールは心の中で思った。
「いや、事件が解決して本当に良かった。ニーシャの安心した笑顔も見れたし」
フッとノアールが微笑むと、ニーシャはそれを見て顔をさらに赤くする。
(あー、なんでそう素直なのかな、可愛いの塊か。素直すぎて心配になる)
「それで、ニーシャの俺に対する気持ちは?別に俺のこと好きじゃなくても全然大丈夫だよ。俺、失恋するの慣れてるし」
(なんて、ここで振られたら今度こそもう立ち直れないかもな)
心の中でそう呟くと、ノアールはニーシャをジッと見つめる。ニーシャはもう目線をそらすことなく、静かに口を開いた。
「私も、……私もノアールさんのこと考えると胸がドキドキして、顔も熱くなってしまって、どうしていいかわからないと言いますか、たぶん、ノアールさんのこと、好き、です」
ニーシャの答えを聞いて、ノアールは思わずニーシャを抱きしめた。
「ノアールさん!?」
「ごめん、嬉しすぎて無理」
ぎゅーっと抱きしめると、ノアールの腕の中でニーシャが慌てている。
(やばい、好きになるって、好きになってもらうって、こんなに幸せなことだったんだな)
抱きしめを堪能したノアールは、静かに体を離してニーシャを覗き込んだ。
「ノアールさん?」
いつかの夢のように、ニーシャが自分の名前を呼ぶ。ノアールはそっとニーシャの白い頬に手を添えた。
(柔らかいし、暖かい)
「なあ、キスしてもいいか?」
「はい!?」
「嫌ならしないよ」
「わ、わからないですよそんなこと急に言われても」
「じゃ、してみる」
そう言って、ノアールは驚いているニーシャにそっと口づけた。ゆっくり唇を離すと、ニーシャは顔を真っ赤にしている。
「嫌だった?」
「嫌じゃ、なかったです」
「ならよかった」
そう言って、ノアールは嬉しそうに笑いまたニーシャに口づけた。
犯人を捕獲した翌日、ブランシュはノアールの部屋でゆっくりとお茶を飲んでいた。
「なんでお前が俺の部屋で茶なんか飲んでんだよ。酒ならともかくなんで茶だよ」
「俺は紅茶が好きなんです。せっかくいい茶葉が手に入ったから先輩にもお譲りしようと思ったのに」
ふん、とブランシュはノアールを一瞥してからまた静かにお茶を飲んでいる。
犯人が捕まってすぐに犯人の家の捜索が開始され、家の中からニーシャの持ち物が数点発見された。ニーシャの持ち物を盗んでいたのもその男だった。その男はたまたま武器を修理に出した時のニーシャの対応に気を良くして、武器をわざと壊してまでしてたびたびニーシャに会いに行っていたらしい。
「ニーシャさんは別に特別にそいつに優しくしたわけでもなんでもなく、誰に対しても公平に接客していただけなのに、普段誰からも優しくされたことがなかったその男は勝手に勘違いして勝手に思いを募らせていた、と」
「胸糞悪い話だよまったく。でも今までよくニーシャも無事だったな。確かにああいう誰にでも分け隔てなく平等に優しく接する人間は、勝手に勘違いされたり一方的に思われそうなタイプではある」
「親方が目を光らせていたから普通の人間だったら怖気づいてしまうんでしょうけど、あの男はやっぱりどこかおかしかったんでしょうね」
ブランシュの返事にノアールは大きくため息をつく。
「おかしな人間に善良な人間が脅かされないように、俺たち騎士団がしっかり働かなきゃいけないんだろうな」
「珍しくまともなこといいますね。普段さぼってばかりのクセに。やっぱり愛は人を変えるんでしょうか」
「うるせえよ」
ノアールが吐き捨てると、ブランシュはクスクスと楽しそうに笑った。
「それにしても、いつからニーシャさんのこと好きになったんですか?」
ブランシュの質問に、ノアールは頭をガシガシとかいて首をひねる。
「わからん。気づいたらいつの間にか好きになってた、んだろうな。自分でもなんでそうなってたのか、そもそもいつから気になったのか全然わかんねぇよ」
「へえ。でも、案外結構前から気になってたんじゃないですか。先輩、事件が起こるずっと前から、鍛冶屋から帰って来る度にいつもニーシャさんの話してましたから」
「は?まじで?」
ノアールが両目を見開いてブランシュを見つめる。それを見て、ブランシュはまた楽しそうにクスクスと笑った。
◇
「と、いうわけで、事件も解決したことだし、そろそろあんたの気持ちもききたいなと思ったんだけど」
犯人が捕まり、ニーシャが家に戻る日になった。ノアールはニーシャが寮内で使っていた部屋に来て、冒頭の言葉を口にした。ノアールにそう言われたニーシャは、ノアールの顔を一瞬見てからすぐに目をそらして、顔を少しあからめながら視線をあちこちに泳がせている。
「ええと、あ、その前に、犯人を捕まえてくださってありがとうございました。これで安心してまた仕事ができますし、家でもゆっくりすごせます」
ニーシャは嬉しそうにそう言ってペコリとお辞儀をする。
(こういう所も本当に律儀だよな)
きっと、ニーシャのこういう所にいつの間にか惹かれてたんだろうな、とノアールは心の中で思った。
「いや、事件が解決して本当に良かった。ニーシャの安心した笑顔も見れたし」
フッとノアールが微笑むと、ニーシャはそれを見て顔をさらに赤くする。
(あー、なんでそう素直なのかな、可愛いの塊か。素直すぎて心配になる)
「それで、ニーシャの俺に対する気持ちは?別に俺のこと好きじゃなくても全然大丈夫だよ。俺、失恋するの慣れてるし」
(なんて、ここで振られたら今度こそもう立ち直れないかもな)
心の中でそう呟くと、ノアールはニーシャをジッと見つめる。ニーシャはもう目線をそらすことなく、静かに口を開いた。
「私も、……私もノアールさんのこと考えると胸がドキドキして、顔も熱くなってしまって、どうしていいかわからないと言いますか、たぶん、ノアールさんのこと、好き、です」
ニーシャの答えを聞いて、ノアールは思わずニーシャを抱きしめた。
「ノアールさん!?」
「ごめん、嬉しすぎて無理」
ぎゅーっと抱きしめると、ノアールの腕の中でニーシャが慌てている。
(やばい、好きになるって、好きになってもらうって、こんなに幸せなことだったんだな)
抱きしめを堪能したノアールは、静かに体を離してニーシャを覗き込んだ。
「ノアールさん?」
いつかの夢のように、ニーシャが自分の名前を呼ぶ。ノアールはそっとニーシャの白い頬に手を添えた。
(柔らかいし、暖かい)
「なあ、キスしてもいいか?」
「はい!?」
「嫌ならしないよ」
「わ、わからないですよそんなこと急に言われても」
「じゃ、してみる」
そう言って、ノアールは驚いているニーシャにそっと口づけた。ゆっくり唇を離すと、ニーシャは顔を真っ赤にしている。
「嫌だった?」
「嫌じゃ、なかったです」
「ならよかった」
そう言って、ノアールは嬉しそうに笑いまたニーシャに口づけた。
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