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秘密
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「それで、僕とあの御令嬢がなんだって?」
屋敷に着いてエルレアの部屋に来てからエルレアとイリウスはソファに並んで座っている。エルレアはいたたまれずイリウスの顔を見ないが、イリウスはエルレアの顔をじっと見つめたままだ。
(どうしよう、どう誤魔化せばいいんだろう。というか誤魔化せる気がしない)
思わず口にしたことを今さら後悔しても遅い。そっとイリウスを見ると断固として聞くまで帰らないという姿勢が見える。
だからといって正直に話したとして信じてくれるだろうか。あなたたちは読んでいた小説の主人公たちで恋仲になりハッピーエンドになるんです、と言ったところで信じてもらえる気がしない。むしろ頭でもおかしくなったのかと心配されるのがオチだろう。
思い悩んでいると、エルレアの手にそっとイリウスの手が重なった。
「どうしても言ってくれないなら、言ってくれるまでキスをする」
「はい?」
「やめてほしかったら隠していることを言うんだ」
そう言ってイリウスの顔がどんどん近づいてくる。避けようとするがイリウスの片手がいつの間にか腰に回っていて逃がそうとしない。
そもそも三ヶ月前に婚約したと兄ジオルのは言っていたが、今までイリウスとキスをしたことがあったのだろうか?この世界に来たのが昨日のことなのでさっぱりわからない。
そんなことを考えているうちにイリウスの顔は目前まで迫っていた。あの美しい顔が、しかもあの憧れのイリウスの顔が目の前にあるのだ、正気でいられるはずかない。
(む、無理無理無理無理~!)
「ま、待ってください!話します!話しますから!」
顔を真っ赤にしてエルレアが声を上げると、イリウスはホッとしたような、でも少し残念そうな複雑な顔をしてエルレアから離れた。
「……信じてもらえないとは思いますが」
そう前置きして、エルレアはイリウスに全てを打ち明けた。
(俺が小説の登場人物であの御令嬢に一目惚れして恋仲になる……?)
イリウスは呆然としながらエルレアの話を聞いていた。エルレアは生前は聖女で、罪をきせられて処刑される間際に生まれ変われるのなら令嬢になりたいと願ったらここにいた、と。この世界はエルレアが聖女の頃に読んでいた恋愛小説の世界だとも言っていた。
到底おかしな話なのだがエルレアは本気で言っているようだ。確かに昨日会っている最中にエルレアは一瞬気を失い、それから言動も行動もおかしくなっていた。
(だが、俺があの御令嬢に一目惚れする?ありえない。俺はエルレア一筋なのに)
メアリという御令嬢を見た時、特になんの感情もわかなかった。それよりもエルレアの体調の方が気がかりで、そればかり気にしていた。
それに小説の中の人間だと言われても、こうして自分は生きている。心臓は動き血は流れ心が大きく動く。突然そんなこと言われたところではいそうですか、などとなるわけがない。
エルレアを見ると言い終えた安堵とその後の不安でおろおろとしている。小説にはいない登場人物だと言っていたが、こうして隣にいて手を握っているとその柔らかさと暖かさを感じることができるのだ。本当はこの世界にいない人間などと誰が信じられるだろうか。
「話はわかったよ。信じがたい話ではあるけど、君が嘘をつくような人間じゃないってわかってる」
イリウスの言葉にエルレアは一瞬驚き、すぐにホッと安心したような嬉しそうな顔をした。
「でも、だからといってここが小説の世界だとか君が本当はいない人間とか、あの御令嬢に僕が一目惚れするとかそんなことは認められない」
はっきりと言い切るイリウスを、エルレアは動揺した顔で見つめる。そんなエルレアの手をギュッと握ってイリウスは言葉を続けた。
「君の手はこんなにも柔らかく暖かい。ちゃんと血が通っている証拠だ。僕の手の感触もわかるよね?君も僕もこうして生きている」
イリウスがスリ、と指で手を撫でるとエルレアはビクッと体を震わせた。
「たとえ君の言う小説の世界ではどうであれ、僕はあの御令嬢に一目惚れすることはないよ。僕が好きなのはエルレアだけだから」
そう言って握っていたエルレアの手に優しく口づける。エルレアの手も顔もどんどん熱くなりエルレアは顔を真っ赤にして手を引こうとするが、イリウスはその手を離そうとはしない。
「こんなにも君のことが好きなのに、それすらも本来は無いとでも?君と僕の今までの思い出も、君は何も覚えていない?」
屋敷に着いてエルレアの部屋に来てからエルレアとイリウスはソファに並んで座っている。エルレアはいたたまれずイリウスの顔を見ないが、イリウスはエルレアの顔をじっと見つめたままだ。
(どうしよう、どう誤魔化せばいいんだろう。というか誤魔化せる気がしない)
思わず口にしたことを今さら後悔しても遅い。そっとイリウスを見ると断固として聞くまで帰らないという姿勢が見える。
だからといって正直に話したとして信じてくれるだろうか。あなたたちは読んでいた小説の主人公たちで恋仲になりハッピーエンドになるんです、と言ったところで信じてもらえる気がしない。むしろ頭でもおかしくなったのかと心配されるのがオチだろう。
思い悩んでいると、エルレアの手にそっとイリウスの手が重なった。
「どうしても言ってくれないなら、言ってくれるまでキスをする」
「はい?」
「やめてほしかったら隠していることを言うんだ」
そう言ってイリウスの顔がどんどん近づいてくる。避けようとするがイリウスの片手がいつの間にか腰に回っていて逃がそうとしない。
そもそも三ヶ月前に婚約したと兄ジオルのは言っていたが、今までイリウスとキスをしたことがあったのだろうか?この世界に来たのが昨日のことなのでさっぱりわからない。
そんなことを考えているうちにイリウスの顔は目前まで迫っていた。あの美しい顔が、しかもあの憧れのイリウスの顔が目の前にあるのだ、正気でいられるはずかない。
(む、無理無理無理無理~!)
「ま、待ってください!話します!話しますから!」
顔を真っ赤にしてエルレアが声を上げると、イリウスはホッとしたような、でも少し残念そうな複雑な顔をしてエルレアから離れた。
「……信じてもらえないとは思いますが」
そう前置きして、エルレアはイリウスに全てを打ち明けた。
(俺が小説の登場人物であの御令嬢に一目惚れして恋仲になる……?)
イリウスは呆然としながらエルレアの話を聞いていた。エルレアは生前は聖女で、罪をきせられて処刑される間際に生まれ変われるのなら令嬢になりたいと願ったらここにいた、と。この世界はエルレアが聖女の頃に読んでいた恋愛小説の世界だとも言っていた。
到底おかしな話なのだがエルレアは本気で言っているようだ。確かに昨日会っている最中にエルレアは一瞬気を失い、それから言動も行動もおかしくなっていた。
(だが、俺があの御令嬢に一目惚れする?ありえない。俺はエルレア一筋なのに)
メアリという御令嬢を見た時、特になんの感情もわかなかった。それよりもエルレアの体調の方が気がかりで、そればかり気にしていた。
それに小説の中の人間だと言われても、こうして自分は生きている。心臓は動き血は流れ心が大きく動く。突然そんなこと言われたところではいそうですか、などとなるわけがない。
エルレアを見ると言い終えた安堵とその後の不安でおろおろとしている。小説にはいない登場人物だと言っていたが、こうして隣にいて手を握っているとその柔らかさと暖かさを感じることができるのだ。本当はこの世界にいない人間などと誰が信じられるだろうか。
「話はわかったよ。信じがたい話ではあるけど、君が嘘をつくような人間じゃないってわかってる」
イリウスの言葉にエルレアは一瞬驚き、すぐにホッと安心したような嬉しそうな顔をした。
「でも、だからといってここが小説の世界だとか君が本当はいない人間とか、あの御令嬢に僕が一目惚れするとかそんなことは認められない」
はっきりと言い切るイリウスを、エルレアは動揺した顔で見つめる。そんなエルレアの手をギュッと握ってイリウスは言葉を続けた。
「君の手はこんなにも柔らかく暖かい。ちゃんと血が通っている証拠だ。僕の手の感触もわかるよね?君も僕もこうして生きている」
イリウスがスリ、と指で手を撫でるとエルレアはビクッと体を震わせた。
「たとえ君の言う小説の世界ではどうであれ、僕はあの御令嬢に一目惚れすることはないよ。僕が好きなのはエルレアだけだから」
そう言って握っていたエルレアの手に優しく口づける。エルレアの手も顔もどんどん熱くなりエルレアは顔を真っ赤にして手を引こうとするが、イリウスはその手を離そうとはしない。
「こんなにも君のことが好きなのに、それすらも本来は無いとでも?君と僕の今までの思い出も、君は何も覚えていない?」
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