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竜王は番の生贄令嬢を溺愛する
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「お前はただの生贄であり俺の番ではない。俺は番しか愛さない、よってお前を愛することはない」
白銀の髪に深い海のような瞳をもつ竜人族の竜王は、玉座の椅子に座りながら冷ややかに目の前の令嬢を見て言った。目の前の令嬢はキャロル・キングベル。人間族と竜人族の間を取り持つため、生贄として竜王にささげられた令嬢だ。艶やかな長い黒髪にアメジスト色の瞳、白い肌の持ち主で人間族の中であれば男性が放ってはおかないだろう。だが、竜王はそんなキャロルに興味を示さない。
「お前を愛することはない」そう言われたキャロルは、静かに瞳を伏せてお辞儀をする。竜王はそれを見て玉座から立ち上がり、謁見の間から姿を消した。
◇
「あら、人間の生贄がのこのこと王城内を歩いているわ」
「竜王さまに見向きもされなかったのでしょう。初夜の義もなかったとか」
「かわいそうね」
王宮の廊下を一人歩いていたキャロルを見て、女中や令嬢たちがクスクスと笑っている。皆竜人族であり、人間族なのはキャロル一人だけだ。味方はおらず、どこにいても何をしてても陰口を言われ笑われてしまう。
(気にしてはダメ。私は、人間族が竜人族に滅ぼされてしまわないためにここへ来たのだから)
長い間、人間族と竜人族は時に争い時に和睦を繰り返してきた。争いが起こるたびに人間族は負け、和睦のために人間族の中から一人生贄を差し出すのだ。そうして両族の均衡は保たれてきた。
キャロルは背筋を伸ばし、前を見て颯爽と歩いていく。そんなキャロルを竜人族の女性たちは忌々しそうに眺めてまた陰口を言う。そんな様子を、竜王は窓から見下ろしていた。
◇
「今日は竜王様が寝室へいらっしゃいます」
「え?」
キャロルは侍女の言葉に耳を疑った。竜王が今まで寝室に訪れたことはなく、どうして今更やってくるのかと疑問にさえ思うほどだ。そんなキャロルを次女は冷ややかな目で見る。
「何の気まぐれかはわかりませんが、万が一のことがあっては一大事です。竜王様の機嫌を損ねないためにも徹底的に磨き上げますので」
そうしてあれよあれよという間に、キャロルはバラの浮かんだお風呂に入れられ、お風呂から上がるとオイルで肌と髪を艶々にしてもらい、肌触りのよい上質なネグリジェに着替えることになった。
(どうしましょう、竜王様がまさかいらっしゃるなんて……)
ベッドの端に座りながら、キャロルは心臓が口から飛び出そうなほど緊張していた。キャロルは成人したばかりで、知識としてはあるが男性経験はもちろんない。
(でも、私はただの生贄なのだからそういうことをするとは限らないわよね。きっと少し話をしてすぐにいなくなるわ。そうであってほしい)
愛さないと言われた男に抱かれるなんて、きっと苦痛以外の何者でもない。だったら、ずっとそんなことは起こらなくていいとさえ思ってしまう。
コンコン
「竜王様がお見えになりました」
ドアが開き、竜王が入って来た。シルクのナイトガウンを素肌に羽織り、少し長めの白銀髪は室内のランプに照らされてキラキラと輝いている。異常なほどの色気を感じてキャロルは胸が高鳴った。キャロルは立ち上がり、控えめにお辞儀をする。
「お前、王宮内で色々と言われているようだな。側近にも一度でいいから夜お前の元へ通えとうるさく言われたので来てやった」
そう言って竜王はベッドのそばまでくるとキャロルの肩をトンッと押す。
「きゃっ」
キャロルはいとも簡単にベッドに倒れてしまい、竜王はそんなキャロルに上から覆いかぶさる。
「せっかく来たのだからお前を抱こう」
そう言って竜王はキャロルに口づけた。強引に、何度も何度も口づけその度にキャロルの口から息が漏れる。愛されてなどいない男からの口づけにキャロルは寒気がしたが、自分は生贄なのだから仕方がないのだと思おうとする。そうするうちに、だんだんとキャロルの頭はぼうっとしてきた。
(な、に?これ……頭がふわふわする……それに、体がぞわぞわして、おかしい)
キャロルが戸惑いながら口づけを受けていると、ふと、竜王が止まり口を離した。
「……なんだこの香りは」
竜王はキャロルの首筋に鼻を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぐ。
「バラ、の、お風呂に、はいったので……」
ぼうっとした頭で何とかそう答えると、竜王はキャロルを見て考えるようなそぶりを見せた。
「いや、これはバラの香りなどではない。これは……お前、まさか」
そう言って竜王はまたキャロルに口づけた。今度は口腔内に舌をねじ込み、さらにキャロルの胸の膨らみに手を伸ばした。
「んんっ!」
キャロルが抵抗しようとするが竜王はそれを許さない。竜王のなすがままにされ、キャロルはどんどん力が抜けていく。
「やはり、この香りはそうだ。お前、そうだったのか。まさか人間族の中に……しかも生贄がそうだとはな」
唇を離してキャロルを見下ろす竜王の顔は高揚しているようで瞳もギラギラとしている。恐ろしいのに驚くほどの色気を感じてキャロルは息をのんだ。
そのまま竜王はキャロルに襲い掛かり、キャロルは朝まで抱きつぶされるのだった。
◇
(体が、重い……)
竜王に抱きつぶされたキャロルは気を失い、近くでする何かの物音で目が覚めた。起きようとするが体が鉛のように重く、思ったように動けない。
音のする方に視線を向けると、竜王の背中が見えた。ベッドサイドに腰かけナイトガウンを羽織ろうとしていた。
ふと、竜王がキャロルに気づいて振り返る。
「起きたのか」
竜王の問いにはい、と答えようとするが声がかすれている。
「昨日はずいぶんと良い声で鳴いていたからな。声を出させすぎてしまった。水をやろう」
そう言って竜王はベッドサイドの棚にある水差しを取り、口に吹くんだ。
(え?水差しをくれるのではなくて、ご自分が飲むの?竜王様も喉が渇いているのかしら)
ぼんやりとそう思っていると、竜王の顔がいつの間にか目の前にあり、唇と唇が触れる。驚いて目を見開くと、竜王はキャロルの鼻をつまんだ。
息ができなくなりキャロルが口を開くと、竜王の口から水が流れ込む。こくこくとそれを飲むと、竜王の唇が離れた。
「少しこぼれたな」
口の端からこぼれた水に気づいて、竜王はその水を舐めとるようにキャロルの口の端をペロリと舐めた。突然のことにキャロルの顔が一瞬で真っ赤になる。
「これくらいで照れているのか?昨夜あんなことをしたのに?」
「なっ……!」
抗議しようとすると、竜王はまたキャロルの唇を塞いだ。そして唇が離れると、竜王は愛おしそうにキャロルを見て言った。
「どうやらお前は俺の番のようだ」
「……え?」
竜王の言葉にキャロルは唖然とし、そんなキャロルにかかった寝具を竜王ははぎ取った。
「な、なにをするんですか!」
恥ずかしさのあまり何も身にまとっていない体を両手で隠すようにしてキャロルが言うと、竜王はキャロルのお腹辺りを指さした。
「それは番の証の紋様だ」
昨日までは何もなかったのに、キャロルのお腹には見慣れない紋様がある。
「これは……」
「体を交わうと相手に紋様が浮かび上がる。それは番の証であり、番以外は現れない」
驚きのあまり声を失うキャロルに、竜王は近寄って額にキスを落とした。そしてキャロルの美しい黒髪を手でもて遊ぶ。
「お前は俺の番だ。俺はお前を一生涯かけて愛し抜く。どんなものからもお前を守ろう。お前も俺を愛し抜け。お前に拒否権はない、それが番だ」
竜王の言葉にキャロルは絶句した。
「そんな……番だと分かった途端に愛するだなんて。お前を愛することはない、そう言って昨日まで私の前に姿を現すこともなかったのに、番だから愛するって、勝手すぎます!」
寝具で体を隠し、キャロルは手元にあった枕を竜王に投げつけた。一瞬竜王の眉が険しくなり、それを見てキャロルは怯える。
(ど、どうしよう、思わず枕を投げつけてしまったけれど、竜王様になんてこと)
相手は竜王、自分は生贄。自分の行動次第で人間族が滅ぼされてしまうかもしれない。慌ててキャロルは頭を垂れる。
「も、申し訳ありません竜王様」
「気にするな。確かにお前の言う通りだな」
竜王の言葉にそっと頭を上げると、竜王は怒るそぶりも見せず口の端を上げていた。
「人間のお前にはわからないかもしれないが、番とは存在するだけで愛おしいものなのだ。お前が番だと分かった瞬間、俺はどうしようもなくお前を愛おしく思い、大切だと感じた。お前を失いたくないしお前に害をなすものは全て消し去りたい、そう思う」
(でも、それはもし番が私ではなく別の人だったとしても、番だからというだけでそうなってしまうのでしょう)
番だから愛するのか、愛する者だから番なのか。竜王の話を聞くに、前者のような気がしてならない。
(……それでもわたしはしょせん生贄なのよ。生贄でも番として愛されるのなら幸せな方なのかもしれない)
番でなかったら、きっと愛を知らぬままこの囲われた世界の中でただただ死を待ち望むだけだっただろう。
黙り込むキャロルの頬に、竜王の手がそっと伸びる。
「まだわからないかもしれないが、お前に愛してもらえるよう俺も尽力しよう。だからどうかこの状況を受け入れてほしい」
そっと優しく頬を撫でる竜王の瞳は、不安の色が滲んで揺れている。キャロルは瞳を閉じて竜王の手の感触を感じながら、静かに深呼吸した。
「わかりました。番として、竜王様の愛を受け入れ私も愛せるように尽力します」
キャロルの言葉を聞いて、竜王は嬉しそうに微笑みキャロルを抱きしめた。
(竜王様の微笑み、初めて見た……)
こうしてキャロルの番としての生活が始まったのだった。
それ以降、竜王はキャロルを番として王宮内に宣言し、キャロルだけを一途に溺愛した。初めは戸惑っていたキャロルだが、竜王の溺愛にほだされていつの間にかキャロルも竜王を愛することになる。そして、数年後二人の間には可愛い子供が誕生した。
竜王とキャロルが愛し合うことで、人間族と竜族は長い間友好的な関係を築いていくのだった。
白銀の髪に深い海のような瞳をもつ竜人族の竜王は、玉座の椅子に座りながら冷ややかに目の前の令嬢を見て言った。目の前の令嬢はキャロル・キングベル。人間族と竜人族の間を取り持つため、生贄として竜王にささげられた令嬢だ。艶やかな長い黒髪にアメジスト色の瞳、白い肌の持ち主で人間族の中であれば男性が放ってはおかないだろう。だが、竜王はそんなキャロルに興味を示さない。
「お前を愛することはない」そう言われたキャロルは、静かに瞳を伏せてお辞儀をする。竜王はそれを見て玉座から立ち上がり、謁見の間から姿を消した。
◇
「あら、人間の生贄がのこのこと王城内を歩いているわ」
「竜王さまに見向きもされなかったのでしょう。初夜の義もなかったとか」
「かわいそうね」
王宮の廊下を一人歩いていたキャロルを見て、女中や令嬢たちがクスクスと笑っている。皆竜人族であり、人間族なのはキャロル一人だけだ。味方はおらず、どこにいても何をしてても陰口を言われ笑われてしまう。
(気にしてはダメ。私は、人間族が竜人族に滅ぼされてしまわないためにここへ来たのだから)
長い間、人間族と竜人族は時に争い時に和睦を繰り返してきた。争いが起こるたびに人間族は負け、和睦のために人間族の中から一人生贄を差し出すのだ。そうして両族の均衡は保たれてきた。
キャロルは背筋を伸ばし、前を見て颯爽と歩いていく。そんなキャロルを竜人族の女性たちは忌々しそうに眺めてまた陰口を言う。そんな様子を、竜王は窓から見下ろしていた。
◇
「今日は竜王様が寝室へいらっしゃいます」
「え?」
キャロルは侍女の言葉に耳を疑った。竜王が今まで寝室に訪れたことはなく、どうして今更やってくるのかと疑問にさえ思うほどだ。そんなキャロルを次女は冷ややかな目で見る。
「何の気まぐれかはわかりませんが、万が一のことがあっては一大事です。竜王様の機嫌を損ねないためにも徹底的に磨き上げますので」
そうしてあれよあれよという間に、キャロルはバラの浮かんだお風呂に入れられ、お風呂から上がるとオイルで肌と髪を艶々にしてもらい、肌触りのよい上質なネグリジェに着替えることになった。
(どうしましょう、竜王様がまさかいらっしゃるなんて……)
ベッドの端に座りながら、キャロルは心臓が口から飛び出そうなほど緊張していた。キャロルは成人したばかりで、知識としてはあるが男性経験はもちろんない。
(でも、私はただの生贄なのだからそういうことをするとは限らないわよね。きっと少し話をしてすぐにいなくなるわ。そうであってほしい)
愛さないと言われた男に抱かれるなんて、きっと苦痛以外の何者でもない。だったら、ずっとそんなことは起こらなくていいとさえ思ってしまう。
コンコン
「竜王様がお見えになりました」
ドアが開き、竜王が入って来た。シルクのナイトガウンを素肌に羽織り、少し長めの白銀髪は室内のランプに照らされてキラキラと輝いている。異常なほどの色気を感じてキャロルは胸が高鳴った。キャロルは立ち上がり、控えめにお辞儀をする。
「お前、王宮内で色々と言われているようだな。側近にも一度でいいから夜お前の元へ通えとうるさく言われたので来てやった」
そう言って竜王はベッドのそばまでくるとキャロルの肩をトンッと押す。
「きゃっ」
キャロルはいとも簡単にベッドに倒れてしまい、竜王はそんなキャロルに上から覆いかぶさる。
「せっかく来たのだからお前を抱こう」
そう言って竜王はキャロルに口づけた。強引に、何度も何度も口づけその度にキャロルの口から息が漏れる。愛されてなどいない男からの口づけにキャロルは寒気がしたが、自分は生贄なのだから仕方がないのだと思おうとする。そうするうちに、だんだんとキャロルの頭はぼうっとしてきた。
(な、に?これ……頭がふわふわする……それに、体がぞわぞわして、おかしい)
キャロルが戸惑いながら口づけを受けていると、ふと、竜王が止まり口を離した。
「……なんだこの香りは」
竜王はキャロルの首筋に鼻を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぐ。
「バラ、の、お風呂に、はいったので……」
ぼうっとした頭で何とかそう答えると、竜王はキャロルを見て考えるようなそぶりを見せた。
「いや、これはバラの香りなどではない。これは……お前、まさか」
そう言って竜王はまたキャロルに口づけた。今度は口腔内に舌をねじ込み、さらにキャロルの胸の膨らみに手を伸ばした。
「んんっ!」
キャロルが抵抗しようとするが竜王はそれを許さない。竜王のなすがままにされ、キャロルはどんどん力が抜けていく。
「やはり、この香りはそうだ。お前、そうだったのか。まさか人間族の中に……しかも生贄がそうだとはな」
唇を離してキャロルを見下ろす竜王の顔は高揚しているようで瞳もギラギラとしている。恐ろしいのに驚くほどの色気を感じてキャロルは息をのんだ。
そのまま竜王はキャロルに襲い掛かり、キャロルは朝まで抱きつぶされるのだった。
◇
(体が、重い……)
竜王に抱きつぶされたキャロルは気を失い、近くでする何かの物音で目が覚めた。起きようとするが体が鉛のように重く、思ったように動けない。
音のする方に視線を向けると、竜王の背中が見えた。ベッドサイドに腰かけナイトガウンを羽織ろうとしていた。
ふと、竜王がキャロルに気づいて振り返る。
「起きたのか」
竜王の問いにはい、と答えようとするが声がかすれている。
「昨日はずいぶんと良い声で鳴いていたからな。声を出させすぎてしまった。水をやろう」
そう言って竜王はベッドサイドの棚にある水差しを取り、口に吹くんだ。
(え?水差しをくれるのではなくて、ご自分が飲むの?竜王様も喉が渇いているのかしら)
ぼんやりとそう思っていると、竜王の顔がいつの間にか目の前にあり、唇と唇が触れる。驚いて目を見開くと、竜王はキャロルの鼻をつまんだ。
息ができなくなりキャロルが口を開くと、竜王の口から水が流れ込む。こくこくとそれを飲むと、竜王の唇が離れた。
「少しこぼれたな」
口の端からこぼれた水に気づいて、竜王はその水を舐めとるようにキャロルの口の端をペロリと舐めた。突然のことにキャロルの顔が一瞬で真っ赤になる。
「これくらいで照れているのか?昨夜あんなことをしたのに?」
「なっ……!」
抗議しようとすると、竜王はまたキャロルの唇を塞いだ。そして唇が離れると、竜王は愛おしそうにキャロルを見て言った。
「どうやらお前は俺の番のようだ」
「……え?」
竜王の言葉にキャロルは唖然とし、そんなキャロルにかかった寝具を竜王ははぎ取った。
「な、なにをするんですか!」
恥ずかしさのあまり何も身にまとっていない体を両手で隠すようにしてキャロルが言うと、竜王はキャロルのお腹辺りを指さした。
「それは番の証の紋様だ」
昨日までは何もなかったのに、キャロルのお腹には見慣れない紋様がある。
「これは……」
「体を交わうと相手に紋様が浮かび上がる。それは番の証であり、番以外は現れない」
驚きのあまり声を失うキャロルに、竜王は近寄って額にキスを落とした。そしてキャロルの美しい黒髪を手でもて遊ぶ。
「お前は俺の番だ。俺はお前を一生涯かけて愛し抜く。どんなものからもお前を守ろう。お前も俺を愛し抜け。お前に拒否権はない、それが番だ」
竜王の言葉にキャロルは絶句した。
「そんな……番だと分かった途端に愛するだなんて。お前を愛することはない、そう言って昨日まで私の前に姿を現すこともなかったのに、番だから愛するって、勝手すぎます!」
寝具で体を隠し、キャロルは手元にあった枕を竜王に投げつけた。一瞬竜王の眉が険しくなり、それを見てキャロルは怯える。
(ど、どうしよう、思わず枕を投げつけてしまったけれど、竜王様になんてこと)
相手は竜王、自分は生贄。自分の行動次第で人間族が滅ぼされてしまうかもしれない。慌ててキャロルは頭を垂れる。
「も、申し訳ありません竜王様」
「気にするな。確かにお前の言う通りだな」
竜王の言葉にそっと頭を上げると、竜王は怒るそぶりも見せず口の端を上げていた。
「人間のお前にはわからないかもしれないが、番とは存在するだけで愛おしいものなのだ。お前が番だと分かった瞬間、俺はどうしようもなくお前を愛おしく思い、大切だと感じた。お前を失いたくないしお前に害をなすものは全て消し去りたい、そう思う」
(でも、それはもし番が私ではなく別の人だったとしても、番だからというだけでそうなってしまうのでしょう)
番だから愛するのか、愛する者だから番なのか。竜王の話を聞くに、前者のような気がしてならない。
(……それでもわたしはしょせん生贄なのよ。生贄でも番として愛されるのなら幸せな方なのかもしれない)
番でなかったら、きっと愛を知らぬままこの囲われた世界の中でただただ死を待ち望むだけだっただろう。
黙り込むキャロルの頬に、竜王の手がそっと伸びる。
「まだわからないかもしれないが、お前に愛してもらえるよう俺も尽力しよう。だからどうかこの状況を受け入れてほしい」
そっと優しく頬を撫でる竜王の瞳は、不安の色が滲んで揺れている。キャロルは瞳を閉じて竜王の手の感触を感じながら、静かに深呼吸した。
「わかりました。番として、竜王様の愛を受け入れ私も愛せるように尽力します」
キャロルの言葉を聞いて、竜王は嬉しそうに微笑みキャロルを抱きしめた。
(竜王様の微笑み、初めて見た……)
こうしてキャロルの番としての生活が始まったのだった。
それ以降、竜王はキャロルを番として王宮内に宣言し、キャロルだけを一途に溺愛した。初めは戸惑っていたキャロルだが、竜王の溺愛にほだされていつの間にかキャロルも竜王を愛することになる。そして、数年後二人の間には可愛い子供が誕生した。
竜王とキャロルが愛し合うことで、人間族と竜族は長い間友好的な関係を築いていくのだった。
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