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セシルの気持ちとベルの助言
しおりを挟むベル様にランス様のことをどう思っているのかと聞かれたけれど、正直自分の気持ちがよくわからない。
「どう、と言われましても……」
困惑するわたしに、ベル様は優しく微笑んでくれる。
「単純なことで良いのよ。この人かっこいい!とか、なんか気持ち悪い!とか」
「気持ち悪いなんて思ったことはないです!むしろ、素敵すぎるので私なんかが相手でいいのだろうかと……」
最後の方は自然に声が小さくなってしまった。
「そう。セシルはランスのこと、きっともう好きになり始めているのね」
うふふ、と嬉しそうに笑うベル様の言葉に少し驚いてしまう。私のこの気持ちは、好きということなのだろうか。
「ランス様と一緒にいると胸がドキドキして顔も熱くなってしまいますし、そのせいで変なことを言ってしまっていないだろうかとか考えてしまうんです。昨日はランス様の様子がおかしくて、私とキスするのがそんなに嫌だったのかなって……もしかしたらランス様には他に思う人がいるからなんじゃないかとか」
「まぁ、キスしたの?そっか、浄化で力を使いすぎたから補充が必要だったのね。あらあら、そうだったの」
両手を頬に添えてキャッキャっと嬉しそうにしている。ベル様、こういうモードになると途端に別人みたいになるなぁ。
「でも、ランスに他に思い人がいるだなんて、なぜそう思ったの?ランスにそう言われた?」
覗き込むようにしてベル様が言う。さっきまでキャッキャしてた顔とは打って変わって真剣だ。
「いえ、その、なんとなくです。キスした後にランス様がずっと塞ぎ込んでいるようでしたし……。ミゼル様との仲もなんとなくぎこちなくなってしまって、よくわからないけれどたぶん私のせいなのはわかるので、私が聖女じゃない方が良かったんじゃないかって」
言いながらどんどん自信が無くなっていく。聖女に選ばれてランス様の元で生きて行けるのは嬉しいけれど、私なんかじゃなかったらランス様もあんな風にならなかったんじゃないだろうか。
「ミゼルとランスの仲がぎこちなくなったの?珍しいわね」
驚くベル様に昨日の話をすると、ベル様は途端に楽しそうな顔をした。え、どういうこと?この状況で一体何が楽しいのだろう……?
「なるほどねぇ。ミゼルもミゼルだけど、ランスったら、ウフフ」
一人でぶつぶつと嬉しそうに呟いている。なんだろう、気になってしまう。
「あの……」
「あぁ、ごめんなさい!セシル、そのことランスにちゃんと話した?あなたのことだから言ってないでしょう。だめよ、ちゃんと気持ちは伝えないと。わかってもらえるはずのものもわかってもらえないわ」
それに、とベル様は人差し指を立てて言う。
「ランスにもなぜ塞ぎ込んでいたのか聞いてみて。聞かなきゃ何もわからないでしょう。ランスのパートナーとして、虹の力を持つ聖女として生きていくと覚悟を決めて来たのなら、ちゃんとランスとコミュニケーションを取らなくちゃ。怖いかもしれないけれど、一番大事なことよ」
ね?と私の両手を取って優しく微笑む。ベル様に微笑まれると、なんだか安心する。もしかしてこれも聖女の力なんだろうか。聖女が聖女に力を分けるなんてことあるのかな。
それともベル様には人を安心させる何かがあるのだろうか。
何にせよ、ランス様とちゃんと話をしてみよう、という気持ちになれた。
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