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虹の力の分け方
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夜中に苦しんでいたランス様へ聖女の力を分けた翌朝。
朝食を済ませ、ランス様と私は屋敷の外にある小さな庭園を歩いていた。
季節の花が美しく咲き誇っている。昨夜窓から眺めた時も月に照らされて美しいと思ったけれど、昼間の庭園もやはり美しい。
「ここで話をしよう」
庭園の中にあるガゼボにランス様が腰かけたので、私も隣に座る。
「昨夜は驚かせてしまってすまない。白龍使いの騎士は、白龍の力を使えるがその代償として時折体が苦しくなる病を患うんだ」
白龍の力は膨大なため、その力を使う体が耐えられなくなるそうだ。その度に体が悲鳴をあげ、耐え難い苦痛を伴うのだという。
「その苦痛を和らげるのが聖女の虹の力だ。聖女の力は白龍と同じ力だと言われているが、その力は聖女である人間を通しての力だからそれを取り込むことで白龍使いの騎士は白龍の力に体が馴染んでいくことができる」
なるほど、昨日の苦しみが和らいだのは、聖女の虹の力を取り込むことができたから。
「白龍の力を使う時は様々で、その力の量もその時によって違う。使う力が強ければ強いほど分けてもらう聖女の力も量が変わってくるんだ」
それに、とランス様は話を続ける。
「白龍自体も、多くの力を使えば消費してしまい回復に時間がかかってしまう。そんな時には騎士を通じて力を補給することもできる。白龍とその騎士との繋がりは深いものだからね。だから聖女から騎士へ力を分けてもらう必要があるんだ」
そう言いながらランス様は戸惑いぎみに私の顔を見る。
「騎士団長が、聖女の力の分け方は色々あるって言っていたことを覚えてる?」
そういえば、そんなこと言われた気がする。はい、と頷けばランス様は目線を落として言いにくそうな顔をしている。なんだろう?
「……その、気を悪くしないでほしいのだけれど。分け方はこうして近くにいるだけでも少しなら分けてもらえる。昨夜みたいに手を握ってもらうことでも分けてもらえるんだ。あとは抱き締めたりすることもかな。そして」
ゆっくりとランス様が目を合わせてきた。
「……もっと力の量が多く必要な場合、キスをする必要がある」
キ、キス?!キスで聖女の力を分けるの?!
「あと、その、あれだよ。言いにくいのだけど……その、男女の交わりだとより多くの量を分けてもらうことができる」
顔を少し背けて恥ずかしそうに言うランス様。
えっ、えっ、待って、その、男女の交わりって、その言葉通りのことですか?!
思わず絶句していると、ランス様が申し訳なさそうに私の顔を見た。
「男女の交わりをすることで白龍使いの騎士は白龍の力をより多く安定して扱うことができるようになると言われている。だからこそ、白龍使いの騎士と虹の力を持つ聖女は結婚という契約を結び、心と体の両方の繋がりを強めるんだそうだ」
あまりの衝撃に何も言えない。つまりは、私とランス様もキスだけでなく、その、男女の交わりを行うということになるんだろうか。
「もちろん、君の嫌がることはしたくない。キスだってそれ以上のことだって、やりたくないならやらなくていいんだよ」
無言になってしまっている私を気遣ってランス様は慌ててそう言ってくださるけれど。
「で、でも、それではランス様はミゼル様の力を使うたびに苦しい思いをしてしまうのでは?ミゼル様だって力の回復に時間がかかってしまいます」
「そうなってしまうね。でも君の嫌がることはしたくない。大丈夫、手を握ってもらいながら力をゆっくり分けてもらうから」
それならいいかな?とランス様は優しく微笑んでくれる。それはいいのだけれど……なんだか腑に落ちない。
「ランス様は、その、私とキスをするのはお嫌ですか?」
思わず聞いてしまったけれど、ランス様の驚く顔を見て恥ずかしくなってしまう。
「……俺は嫌じゃないよ。むしろ嬉しいというかなんというか」
語尾が弱々しくなっていくけれど、嬉しいと言ってた?今嬉しいって言ってたよね???
「でも君は嫌だろう?無理しなくていいんだよ」
困ったように笑うランス様。
「嫌、ではありません。むしろランス様が苦しむ姿を見なくて済むのならキスの一つや二つ……」
そう言ったら、途中でランス様の人差し指が口元に添えられて、続きを言うのを止められてしまった。
「男の前で気軽にそんなこと言うもんじゃない。だめだよ」
「気軽になんて言っていません。私はランス様とだったらキスしてみたいです。それに私の力がお役に立つのだったら尚更です」
私の言葉を聞いて、ランス様は口元を手で押さえて顔を赤らめている。
「その、キス以上ができるかどうかはちょっとわからないですけど……まずはキスからということでお願いします」
言いながら恥ずかしくなって俯いてしまった。どうしよう、勢い余ってキスしたいなんて言ってしまったけれど本当に恥ずかしい!
スッと私の手にランス様の手が重なって優しく握ってくる。
「ありがとう、セシル。そう言ってくれて嬉しいよ」
顔をあげると、とても優しい微笑みでランス様が見つめてくる。あぁ、恥ずかしいけれどうっとりするくらい綺麗。
朝食を済ませ、ランス様と私は屋敷の外にある小さな庭園を歩いていた。
季節の花が美しく咲き誇っている。昨夜窓から眺めた時も月に照らされて美しいと思ったけれど、昼間の庭園もやはり美しい。
「ここで話をしよう」
庭園の中にあるガゼボにランス様が腰かけたので、私も隣に座る。
「昨夜は驚かせてしまってすまない。白龍使いの騎士は、白龍の力を使えるがその代償として時折体が苦しくなる病を患うんだ」
白龍の力は膨大なため、その力を使う体が耐えられなくなるそうだ。その度に体が悲鳴をあげ、耐え難い苦痛を伴うのだという。
「その苦痛を和らげるのが聖女の虹の力だ。聖女の力は白龍と同じ力だと言われているが、その力は聖女である人間を通しての力だからそれを取り込むことで白龍使いの騎士は白龍の力に体が馴染んでいくことができる」
なるほど、昨日の苦しみが和らいだのは、聖女の虹の力を取り込むことができたから。
「白龍の力を使う時は様々で、その力の量もその時によって違う。使う力が強ければ強いほど分けてもらう聖女の力も量が変わってくるんだ」
それに、とランス様は話を続ける。
「白龍自体も、多くの力を使えば消費してしまい回復に時間がかかってしまう。そんな時には騎士を通じて力を補給することもできる。白龍とその騎士との繋がりは深いものだからね。だから聖女から騎士へ力を分けてもらう必要があるんだ」
そう言いながらランス様は戸惑いぎみに私の顔を見る。
「騎士団長が、聖女の力の分け方は色々あるって言っていたことを覚えてる?」
そういえば、そんなこと言われた気がする。はい、と頷けばランス様は目線を落として言いにくそうな顔をしている。なんだろう?
「……その、気を悪くしないでほしいのだけれど。分け方はこうして近くにいるだけでも少しなら分けてもらえる。昨夜みたいに手を握ってもらうことでも分けてもらえるんだ。あとは抱き締めたりすることもかな。そして」
ゆっくりとランス様が目を合わせてきた。
「……もっと力の量が多く必要な場合、キスをする必要がある」
キ、キス?!キスで聖女の力を分けるの?!
「あと、その、あれだよ。言いにくいのだけど……その、男女の交わりだとより多くの量を分けてもらうことができる」
顔を少し背けて恥ずかしそうに言うランス様。
えっ、えっ、待って、その、男女の交わりって、その言葉通りのことですか?!
思わず絶句していると、ランス様が申し訳なさそうに私の顔を見た。
「男女の交わりをすることで白龍使いの騎士は白龍の力をより多く安定して扱うことができるようになると言われている。だからこそ、白龍使いの騎士と虹の力を持つ聖女は結婚という契約を結び、心と体の両方の繋がりを強めるんだそうだ」
あまりの衝撃に何も言えない。つまりは、私とランス様もキスだけでなく、その、男女の交わりを行うということになるんだろうか。
「もちろん、君の嫌がることはしたくない。キスだってそれ以上のことだって、やりたくないならやらなくていいんだよ」
無言になってしまっている私を気遣ってランス様は慌ててそう言ってくださるけれど。
「で、でも、それではランス様はミゼル様の力を使うたびに苦しい思いをしてしまうのでは?ミゼル様だって力の回復に時間がかかってしまいます」
「そうなってしまうね。でも君の嫌がることはしたくない。大丈夫、手を握ってもらいながら力をゆっくり分けてもらうから」
それならいいかな?とランス様は優しく微笑んでくれる。それはいいのだけれど……なんだか腑に落ちない。
「ランス様は、その、私とキスをするのはお嫌ですか?」
思わず聞いてしまったけれど、ランス様の驚く顔を見て恥ずかしくなってしまう。
「……俺は嫌じゃないよ。むしろ嬉しいというかなんというか」
語尾が弱々しくなっていくけれど、嬉しいと言ってた?今嬉しいって言ってたよね???
「でも君は嫌だろう?無理しなくていいんだよ」
困ったように笑うランス様。
「嫌、ではありません。むしろランス様が苦しむ姿を見なくて済むのならキスの一つや二つ……」
そう言ったら、途中でランス様の人差し指が口元に添えられて、続きを言うのを止められてしまった。
「男の前で気軽にそんなこと言うもんじゃない。だめだよ」
「気軽になんて言っていません。私はランス様とだったらキスしてみたいです。それに私の力がお役に立つのだったら尚更です」
私の言葉を聞いて、ランス様は口元を手で押さえて顔を赤らめている。
「その、キス以上ができるかどうかはちょっとわからないですけど……まずはキスからということでお願いします」
言いながら恥ずかしくなって俯いてしまった。どうしよう、勢い余ってキスしたいなんて言ってしまったけれど本当に恥ずかしい!
スッと私の手にランス様の手が重なって優しく握ってくる。
「ありがとう、セシル。そう言ってくれて嬉しいよ」
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