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複雑な気持ち
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突然試着室に押し込まれ、アリシアは驚いてフレンを見る。狭い試着室にフレンと二人きり、距離があまりにも近すぎてアリシアは一気に体温が上がってしまう。
「すまない、自分でも何してるんだって思ってる。けど、その姿をあいつに見られるのがなんか嫌だった」
「え?でもフレデリック様は未来のフレン様ですよ?」
「わかってる。あいつは俺で、俺はあいつだ。わかってるんだよ、でも、なんか嫌なんだよ。そんな綺麗で色っぽい姿、俺以外に見せたくない」
そう言って、アリシアの両肩を掴んで俯き、はぁーっとため息をつく。それから静かに顔を上げてアリシアをじっと見つめた。アリシアを見るフレンの瞳は熱を帯びているように感じてアリシアの胸が大きく高鳴る。
(このまま見つめあっていてはダメな気がする。でも、目がそらせない)
まるで魔法にでもかかってしまったかのように体が動かない。胸はずっとドキドキしっぱなしで今にも張り裂けてしまいそうだ。身体中の熱が一気に上がって、きっと顔は真っ赤になっているだろう。
アリシアが固まっていると、フレンは片方の手でそっとアリシアの肩を撫でる。そして、その手はゆっくりと首筋を上り、アリシアの頬に手を添えた。フレンの手が動くたびにアリシアの体がビクッと揺れる。そしてそんなアリシアの様子に、フレンの瞳はさらに熱を帯びていった。
そして、フレンの顔が静かにアリシアに近づいてくる。
(え?フレン様の顔が、近づいてくる!?)
アリシアは動揺しているが全く動けない。フレンの鼻とアリシアの鼻が今にも触れ合いそうな程の距離まで近づいたその時。
「おい!いったいどういうつもりだ!」
カーテンが突然開き、フレデリックがフレンの肩を掴んで外へ引き寄せた。そしてフレデリックはアリシアを守るようにしてアリシアの前に立った。
「アリシア、だいじょう……」
大丈夫か、と聞こうとして振り向いたフレデリックは、アリシアの顔を見て絶句する。アリシアの顔は真っ赤で、心なしか瞳は潤んでいて扇情的だ。
「あんた、アリシアに何をした!」
「……何もしてない、お前のおかげで未遂だ」
「はあ!?」
フレデリックは聞いたこともないドスの効いた低い声でフレンを睨みつける。
「フレデリック、俺を殴ってくれ」
「フレン様?!」
フレンの突然の言葉にアリシアが驚くと、フレデリックは真顔でフレンを見つめて、拳を握りしめ、フレンを思い切り殴った。
「いってぇ……」
殴られたフレンは倒れはしなかったものの、口の端が切れて血が滲んでいる。
「フレン様!」
「いいんだ、これでいい。はー、ようやく頭が冷えた。悪いな」
そう言ってフレンは口の端を手で拭った。別室で待機していた店員も、大きな音を聞いて何事かと駆けつけてくる。それにフレンが対応していると、フレデリックが痛そうに拳をさする。
「フレデリック様……」
「怖い思いをさせてごめん。でも、ああしないと気が済まなかった」
普段の優しい雰囲気は全く消え、見たこともないほどの恐ろしさにアリシアは一瞬心臓が凍りつくようだ。
(私の知らないフレデリック様……)
純粋に怖い、と思った。でも、この怖さはアリシアを思って現れた怖さなのだと思うと、ただ怖がるだけなのは何か違うと思える。そっと、アリシアは拳をさするフレデリックの手に触れる。その手は驚くほど冷え切っていた。
(冷たい手……いつも私の手を握る時はあんなに暖かいのに)
まるでフレデリックの心まで冷え切っているのではないかと心配になる程だ。
(早く、いつもの暖かいフレデリック様に戻りますように)
そう祈りながら、アリシアはフレデリックの手を握りしめた。そんなアリシアを見てフレンは両目を見開く。
「アリシア?」
「屋敷へ帰りましょう。帰って、暖かい紅茶でも飲んでのんびりしましょう」
ね?と優しく微笑むと、フレデリックは眉を下げて静かに微笑んだ。
「すまない、自分でも何してるんだって思ってる。けど、その姿をあいつに見られるのがなんか嫌だった」
「え?でもフレデリック様は未来のフレン様ですよ?」
「わかってる。あいつは俺で、俺はあいつだ。わかってるんだよ、でも、なんか嫌なんだよ。そんな綺麗で色っぽい姿、俺以外に見せたくない」
そう言って、アリシアの両肩を掴んで俯き、はぁーっとため息をつく。それから静かに顔を上げてアリシアをじっと見つめた。アリシアを見るフレンの瞳は熱を帯びているように感じてアリシアの胸が大きく高鳴る。
(このまま見つめあっていてはダメな気がする。でも、目がそらせない)
まるで魔法にでもかかってしまったかのように体が動かない。胸はずっとドキドキしっぱなしで今にも張り裂けてしまいそうだ。身体中の熱が一気に上がって、きっと顔は真っ赤になっているだろう。
アリシアが固まっていると、フレンは片方の手でそっとアリシアの肩を撫でる。そして、その手はゆっくりと首筋を上り、アリシアの頬に手を添えた。フレンの手が動くたびにアリシアの体がビクッと揺れる。そしてそんなアリシアの様子に、フレンの瞳はさらに熱を帯びていった。
そして、フレンの顔が静かにアリシアに近づいてくる。
(え?フレン様の顔が、近づいてくる!?)
アリシアは動揺しているが全く動けない。フレンの鼻とアリシアの鼻が今にも触れ合いそうな程の距離まで近づいたその時。
「おい!いったいどういうつもりだ!」
カーテンが突然開き、フレデリックがフレンの肩を掴んで外へ引き寄せた。そしてフレデリックはアリシアを守るようにしてアリシアの前に立った。
「アリシア、だいじょう……」
大丈夫か、と聞こうとして振り向いたフレデリックは、アリシアの顔を見て絶句する。アリシアの顔は真っ赤で、心なしか瞳は潤んでいて扇情的だ。
「あんた、アリシアに何をした!」
「……何もしてない、お前のおかげで未遂だ」
「はあ!?」
フレデリックは聞いたこともないドスの効いた低い声でフレンを睨みつける。
「フレデリック、俺を殴ってくれ」
「フレン様?!」
フレンの突然の言葉にアリシアが驚くと、フレデリックは真顔でフレンを見つめて、拳を握りしめ、フレンを思い切り殴った。
「いってぇ……」
殴られたフレンは倒れはしなかったものの、口の端が切れて血が滲んでいる。
「フレン様!」
「いいんだ、これでいい。はー、ようやく頭が冷えた。悪いな」
そう言ってフレンは口の端を手で拭った。別室で待機していた店員も、大きな音を聞いて何事かと駆けつけてくる。それにフレンが対応していると、フレデリックが痛そうに拳をさする。
「フレデリック様……」
「怖い思いをさせてごめん。でも、ああしないと気が済まなかった」
普段の優しい雰囲気は全く消え、見たこともないほどの恐ろしさにアリシアは一瞬心臓が凍りつくようだ。
(私の知らないフレデリック様……)
純粋に怖い、と思った。でも、この怖さはアリシアを思って現れた怖さなのだと思うと、ただ怖がるだけなのは何か違うと思える。そっと、アリシアは拳をさするフレデリックの手に触れる。その手は驚くほど冷え切っていた。
(冷たい手……いつも私の手を握る時はあんなに暖かいのに)
まるでフレデリックの心まで冷え切っているのではないかと心配になる程だ。
(早く、いつもの暖かいフレデリック様に戻りますように)
そう祈りながら、アリシアはフレデリックの手を握りしめた。そんなアリシアを見てフレンは両目を見開く。
「アリシア?」
「屋敷へ帰りましょう。帰って、暖かい紅茶でも飲んでのんびりしましょう」
ね?と優しく微笑むと、フレデリックは眉を下げて静かに微笑んだ。
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