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戸惑い

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「なあ、あれで本当によかったのか」

 フレデリックと話が終わり、自分の部屋に来たアリシアにフレンが話しかける。

「……フレデリック様が信じろというのなら、信じるしかありません」

 眉を下げて悲しげに微笑むアリシアを見て、フレンは静かに拳を握りしめた。

「フレン様は、未来からいらっしゃったのですよね?」
「あ?ああ」
「でしたら、メリッサとフレデリック様……つまりフレン様の若い頃に二人が何を話していたかをご存知なんですよね?」

 アリシアの問いに、フレンは罰の悪そうな顔をして視線を逸らす。

(やっぱり、二人には何かあるんだわ)

 アリシアの胸の中にまた黒いモヤのようなものがどんどん覆いかぶさっていく。そんなアリシアの表情を見て、フレンは慌ててアリシアの目の前に立って言った。

「知っている、けど、アリシアが思ようなことは絶対にない。アリシアはメリッサとフレデリックの仲を疑っているんだろ?二人には何もない、これは俺が神に誓って言える。宣言する」
「でも、だったらどうして」
「……詳しいことは言えないけど、フレデリックはアリシアのことを思ってあえて言わないようにしてるんだ。何かあって隠し事をしているわけじゃない。俺も含め、それだけはわかってほしい」

 真剣な瞳で訴えかけるフレンに、アリシアは戸惑ってしまう。

(嘘はついていないようだけど……)

「フレン様も、詳しいことは教えてくださらないのですか?」
「俺から聞くより、あいつから聞いたほうがいいだろう。俺は未来のあいつだけど、今のアリシアの婚約者はあいつだから。なんかややこしいけどな」

 そう言って、フレンはアリシアの手をそっと握った。

「アリシアにはちゃんと安心してほしい。心の底からフレデリックを、俺を信頼して幸せでいてほしいんだ」

 フレンの大きな手はアリシアの手をすっぽりと覆い隠している。その温かい感触に思わずドキッとしてフレンを見ると、フレンの眼差しもまた力強く、その視線にまた胸が高鳴ってしまう。

(フレデリック様に手を握られた時もドキドキしたけど、フレン様の手も大きくてドキドキしてしまう)

 同一人物なはずなのに、二人に翻弄されてしまう自分にアリシアは戸惑っていた。

「アリシア、抱きしめてもいいか?」
「……え?」

 フレンの突然の言葉にアリシアが驚いて小さく声を上げると、フレンはじっとアリシアを見つめて言った。

「すごく抱きしめたいんだ。今俺がこんなこと言うのは違うんだろうけど、それでも不安になっているアリシアを抱きしめて、安心させたい。俺が愛しているのはアリシアただ一人だってわかってほしいんだ。アリシアの不安を少しでも和らげたい。ダメか?」

 焼けるような熱い視線に絡み取られているようでアリシアは身動きが取れない。声を出したいのに、どう返事をしていいかわからないほどアリシアは混乱していた。

 無言でフレンを見つめるアリシアに、フレンはそっと近寄り、手を広げてアリシアを包み込む。フワッとフレンの良い香りがアリシアの鼻をくすぐる。ほんのりと伝わる体温、男らしい体つきに、家族以外の異性に初めて抱きしめられたアリシアはクラクラしてしまった。
 抱きしめる力加減の優しさからフレンのアリシアを大切にする思いが伝わってくるようで、アリシアは思わずフレンの胸の中で目を瞑る。

「アリシア、入ってもいいかな」

 コンコンとドアのノックする音がして、フレデリックの声が聞こえた。驚いてアリシアはフレンから離れようとするが、フレンは腕の力を弱めずにアリシアを抱きしめたままだ。

(どうしよう、フレデリック様に見られてしまう)

 フレンとフレデリックはそもそも同一人物なので、別に悪いことをしているわけではない、はずだ。それでもアリシアはなぜか焦って身を捩るが、フレンは絶対に腕を解いてくれない。

「フ、フレン様、離してください」
「だめだ」

 アリシアの耳元でフレンが静かに告げる。いつもの少しおちゃらけたような明るい声ではなく真面目な低い声にアリシアは体の奥から何かが這い上がってくるような感覚になり心臓が一層高鳴ってしまう。

「アリシア?入るよ?」

 返事がないことを不思議に思ったフレデリックが部屋に入り、目の前の光景に目を見張る。そこには、フレンの腕の中にいるアリシアの姿があった。

「お前!何をしている!」


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