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cafe Mrs.whndy
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好子「あなた遅れるわよ。ねぇあなた…もう」
いくら身体をゆすってもピクリともしない…
好子「あーなた…ねぇってば。ちょっと~起きてよ」
ふぅ~…
また今日もか…と、ため息を吐く。
右手の指を揃え、手のひらを縦にし腕を高く挙げた…
好子「エエカゲンニセイヤー!」の「ヤー」のところで鈍い音がした。「ゴッ」。それと同時に「ウッ…」っと声が。
この物語の主人公「武藤好子」(47)は、ごくごく普通のどこにでも居るような主婦であり、また二児の母でもある。子どもはそれぞれ、学校を卒業したと同時に就職の為に家を出て行ってしまい、年に何回か長めの連休があると顔を見せる程度だ。なので好子には自分の時間というのがかなりあった。週に3日パート勤めをしていたが、毎日休みだと間がもたない…という理由で勤めているだけであって、旦那の収入だけで十分やっては行けた。
好子は生まれも育ちもこの街で、以前は学生時代からの友人が多くいた。
しかし同級生のほとんどが、就職や結婚で街を出て行ってしまった。
今現在では、一度この街を離れてしまったが、結婚の為に戻って来た友人や、好子同様に学校を卒業後も転居せずに、アルバイトや就職、結婚までもがこの街という友人など数名との付き合いがあった。
今日はその友人でありママ友達でもあるメンバーと、カフェでお茶をする予定だった。
そのカフェは、ごくごく普通の閑静な住宅街の外れにある「Cafe Mrs. Wendy」(カフェ ミセス.ウェンディ)
好子の高校時代の担任だった、元教師が営んでいた。
そのカフェのオーナーの名は「水谷曜子」(66)。誰が付けたのか当時のあだ名は、フルネームを略して「水曜」…となり、英語の教師であったことから「ミス・ウェンディ」と親しみを込めて皆呼んでいた。
水谷は去年教師を定年退職してからこのお店をオープンした。
当時のあだ名がそのまま店の名前になっていた。当時と違うのは「ミス」から「ミセス」に変わっていた。
余談ではあるが、結婚した相手の苗字が「木下」であったため、結婚してからは「木曜」に変わってしまった。しかしその響きがお氣に入りだった彼女は、
「Wendy」とした。
当時の水谷は英語の教師であったが、日本語の文字や言葉、特に「漢字」の意味や、それが持っている「力」を大切かつ、かなりのこだわりを持っていた。
その「こだわり」がこの店にある「癖」の様な物を産んでいた。
11:57…
好子が店の前に着くと、入り口から少し離れたところに先に到着していた2人の姿を見つけた。同級生の「黒田直子」と「狭山美登里」である。
好子「明ちゃんは?」
直子「少し遅れるって」
美登里「先にメニュー見とこうよ」
店はログハウスになっていて、アメリカンスタイルになっている。
全然的にオーナーのセンスの良さが伺える。
手作り看板に、今日のおすすめのメニューがチョークで書かれていた。
ランチメニュー
『Wendy』オリジナル ハンブルグステーキ』
『 Wendy』オリジナル 季節の野菜の冷たいパスタ』
『Wendy』オリジナル 氣まぐれランチプレート(栗ご飯他)』…
デザート
『和栗のモンブランケーキ』…
『栗のスイーツセット(栗九里・和栗入りチーズ)』kuri-kuri団おすすめ…
(なんだこのkuri…くり?)
他にも沢山のメニューが書かれていた。
どれも美味しそうな料理が想像出来る。実際店の料理はどれも好評だった。
程なくして、向こうから「おーい!」と声が聴こえてきた。元氣に手を振って近づいて来るのは「佐藤明子」だった。
明子「ごめんごめん遅くなっちゃった」
直子「全然大丈夫だよ。じゃはいろっか」
好子が木製の扉開け、3人を通してから最後に自分が閉めた。
水谷「いらっしゃいませ…あら」
「先生こんにちは~。お久しぶりです」
店内のテーブルはほぼ埋まっていた。
水谷「1番奥のテーブルでいいかしら?」
直子「テラス席って空いてます?」
水谷「えーっと…空いてるわよ」
4人は慣れた感じでテラスに向かった。
とても良い天氣ではあるがシェードが日陰を作り、秋の香りを含んだ風が吹くと心地良かった。
直子「あーやっぱり氣持ちいいわねー」
外を向きながら席に座る。
水谷「ではお決まりの頃にお伺いするわね」とメニューを人数分テーブルに置いた。メニューには料理のイメージのイラストが添えられていた。
明子「いっつも迷うんだよね~、どれも美味しいからさー」
メニューを開きながら困った様な顔をしていた。
直子「私達はもう決めたもんねー」
明子「そうなの?よっちゃんなんかいつもなかなか決まらないじゃん?」
好子「だから勢いで決めちゃったの」
美登里「どうせ飲み物は選べないしね」
直子「私カフェ・オレが良いんだけどね」
好子「私だってどっちかって言えば甘党よ」
美登里「私なんか無理やりだよ」
明子「そんなこと言ったらみんなじゃない?」
4人しかわからない会話が続く。もし周囲に聴かれておても全く理解ができないであろう。
少し時間が掛かったが明子がちょうど決めた時に、水谷がオーダーを取りに来た。
水谷「今日は何になさいましょう?」
友達ではない、かといって他人でもない…恩師と教え子の関係であってお客様。
水谷の言葉の選び方と温度はとても絶妙だった。他の客とはなんとなく違っていた。
4人それぞれが伝え、水谷がそれをオーダー用紙に書き込んでいく。
水谷「少々お待ちくださいね」
水谷が厨房に注文を伝えに行った。
料理は夫である木下の担当であった。やはり木下も元教師で水谷とは同じ年齢であり、38歳の時に結婚した。定年退職まであと1年…というところで教師を辞めこの店をオープンする為に、独学で1年間料理を勉強した。
元々一通りなんでも人並み以上に出来た木下の人間力は高く、さらに料理という分野は彼に合っていた。店がいつも繁盛しているのはやはり第一に料理が美味いからだろう。
ふと氣を抜いた好子がふぅ~っと思わずため息を吐く。
直子「どうしたのよっちゃん?なんかあった?」
好子「あ、ごめんさい。大したことじゃないんだけどね。またやっちゃって」
美登里「またって…旦那さんに?」
好子「そう」
明子「あーあ。それで今回は何したの?」
好子「寝てる時におでこにチョップして一回起きたんだけど…あまりにも頭きちゃって、腕ひしぎ逆十字固めしたら落ちちゃって。結局会社間に合わないから私が車で送って行ったわよ」
直子「今月これで何回目?」
好子「4回…だっていっつも起きないんだもん」
美登里「よっちゃんプロレス好きだからね。苗字武藤だし」
好子「だからそれは、結婚してから武藤になったわけで、プロレスは昔から好きなの知ってるでしょう」
直子「それで武藤になったってのもすごい話しだけどね」
明子「でも氣を付けないと…旦那さんそのうち逃げ出しちゃうよ?」
直子「まだ逃げてないのが奇跡だよね」
好子「それがね、この間旦那の部屋片付けてたら、ジムのパンフレットを見つけちゃって。チラッとだけだけどね」
美登里「うそ⁉︎旦那さん鍛えるつもりなの?笑える」
好子「それはわかんないわよ」
明子「年齢もあるし単に運動不足の解消かもよ」
直子「訊いてみたら?」
直子が茶化す様に促す。
好子「やめてよ、訊けるわけないじゃない」
そうこうしてるうちに水谷がワゴンで料理を運んできた。
水谷「お待たせしました~」
テーブルに料理を乗せる。4人が手伝う様にそれぞれの前に配置していく。
それから水谷が伝える様に飲み物を配る。
水谷「はい、好子さんがストレートティーで、直子さんがホットコーヒーのブラックね。美登里さんが緑茶で、明子さんが紅茶ね。もう砂糖は入ってますからね」
料理が来た時は嬉しそうな4人も、飲み物が自分の前に来た時だけは真顔になる。
明子「先生…たまには」
直子「あー先生なんでもないです」
明子を遮る様に話す。
水谷が少し首を傾げた様に見えた。
全て配り終えると、
水谷「ではごゆっくり。デザートはあとでお持ちしますからね」
水谷の姿が見えなくなった。
美登里「明ちゃん無駄だよ。今までだって試みたでしょ?先生優しいけど、そこは譲らないからね」
これがいわゆるこの店の「癖」である。
飲み物を自分で選べない。水谷は教え子である4人の名前を知っている。結婚してから苗字変わったのももちろん知っていた。その名前からイメージした物を水谷が選んで提供していた。
武藤好子 無糖が好き
黒田直子 コーヒーのストレート。ようはブラックコーヒー
狭山美登里 狭山茶。緑 緑茶
佐藤明子に関してはイメージが湧かず、明子の明をあかと読み、砂糖入りの紅茶となった。
大昔水谷が大病を患い生死を彷徨った。余命1年と言われたが、夫がネットの口コミで見つけた「奇跡の水」という水を飲み続けたら、まさに奇跡的に回復したのだ。担当の医者が1番びっくりしていたという。
それ以来、他人であろうと名前と飲み物を結び付ける様になっていった。
勧められた人間が実際に良くなった話しはよく耳にした。
何故かその「奇跡の水」を勧めないのは当時の謎であった。
好子「実際何故かみんな健康になってるしね」
直子「これなのかわかんないけどね」
美登里「でもこのお店通い始めてからだし、みんなそれぞれ言われたのよく飲んでるよね?」
明子「確かに肌の張りが良くなった氣がするはするかな…」
美登里「でしょう」
好子「不思議よね」
いつものことなので4人は慣れていた。水谷の良かれと思ってやっているのも大いに伝わってもいた。ただ毎回同じ飲み物なので飽きては来る。
しかし料理の美味しさが、それを差し引いても大きくプラスではあった。
4人は舌鼓を打ちながら、普段通りのおしゃべりをしていた。
水谷が良いタイミングで提供してくれたデザートも美味しくいただき、あっという間に帰る時間となった。
好子「今日もすごく美味しかったです」
直子「先生今度は時間ずらして来ますから、先生もご一緒にお茶しましょ」
水谷「はい。楽しみにしてますね」
美登里「それじゃ先生また」
明子「先生まったねー」
水谷が出口まで送って、お互いに手を振っていた。
明子「じゃあ美登里とあたしこっちだから」
直子「わかった-。またLINEするわ」
美登里「じゃーね。よっちゃん旦那さんによろしく」
美登里は少しニヤッとしていた。
直子「よっちゃんまっすぐ帰るの?」
好子「私スーパー寄って帰らないと」
直子「そっか。じゃあまた連絡するね。あ、来月ナカムラエミさんのライブだからね?」
好子「わかってる。じゃね」
4人がそれぞれに散って行った。
好子はスーパーの後にも色々なところに寄っていた為、かなり遅くなってしまった。
17時37分…
好子「まー大変、もうこんな時間」
好子が本屋からうちに帰る途中、最近出来たばかりのボクシングジムが目に入った。
好子「そう言えば先月出来たわねこのジム…」
何故かあのパンレットと似ていた様な氣がしていた。
前面が2階までガラス張りになっていた。ふと2階に目をやると…どこかで見た様な姿が。
好子「あら…いやだ…うそ…」
自分の夫がサンドバックに拳を打ちつけていた。
好子は見ては行けない物を見た様な感覚に襲われ、氣が付くとそこから逃げる様に小走りで去っていった。
「急がないと夕飯が間に合わないわ」…と自分にいい聴かせながら。
いくら身体をゆすってもピクリともしない…
好子「あーなた…ねぇってば。ちょっと~起きてよ」
ふぅ~…
また今日もか…と、ため息を吐く。
右手の指を揃え、手のひらを縦にし腕を高く挙げた…
好子「エエカゲンニセイヤー!」の「ヤー」のところで鈍い音がした。「ゴッ」。それと同時に「ウッ…」っと声が。
この物語の主人公「武藤好子」(47)は、ごくごく普通のどこにでも居るような主婦であり、また二児の母でもある。子どもはそれぞれ、学校を卒業したと同時に就職の為に家を出て行ってしまい、年に何回か長めの連休があると顔を見せる程度だ。なので好子には自分の時間というのがかなりあった。週に3日パート勤めをしていたが、毎日休みだと間がもたない…という理由で勤めているだけであって、旦那の収入だけで十分やっては行けた。
好子は生まれも育ちもこの街で、以前は学生時代からの友人が多くいた。
しかし同級生のほとんどが、就職や結婚で街を出て行ってしまった。
今現在では、一度この街を離れてしまったが、結婚の為に戻って来た友人や、好子同様に学校を卒業後も転居せずに、アルバイトや就職、結婚までもがこの街という友人など数名との付き合いがあった。
今日はその友人でありママ友達でもあるメンバーと、カフェでお茶をする予定だった。
そのカフェは、ごくごく普通の閑静な住宅街の外れにある「Cafe Mrs. Wendy」(カフェ ミセス.ウェンディ)
好子の高校時代の担任だった、元教師が営んでいた。
そのカフェのオーナーの名は「水谷曜子」(66)。誰が付けたのか当時のあだ名は、フルネームを略して「水曜」…となり、英語の教師であったことから「ミス・ウェンディ」と親しみを込めて皆呼んでいた。
水谷は去年教師を定年退職してからこのお店をオープンした。
当時のあだ名がそのまま店の名前になっていた。当時と違うのは「ミス」から「ミセス」に変わっていた。
余談ではあるが、結婚した相手の苗字が「木下」であったため、結婚してからは「木曜」に変わってしまった。しかしその響きがお氣に入りだった彼女は、
「Wendy」とした。
当時の水谷は英語の教師であったが、日本語の文字や言葉、特に「漢字」の意味や、それが持っている「力」を大切かつ、かなりのこだわりを持っていた。
その「こだわり」がこの店にある「癖」の様な物を産んでいた。
11:57…
好子が店の前に着くと、入り口から少し離れたところに先に到着していた2人の姿を見つけた。同級生の「黒田直子」と「狭山美登里」である。
好子「明ちゃんは?」
直子「少し遅れるって」
美登里「先にメニュー見とこうよ」
店はログハウスになっていて、アメリカンスタイルになっている。
全然的にオーナーのセンスの良さが伺える。
手作り看板に、今日のおすすめのメニューがチョークで書かれていた。
ランチメニュー
『Wendy』オリジナル ハンブルグステーキ』
『 Wendy』オリジナル 季節の野菜の冷たいパスタ』
『Wendy』オリジナル 氣まぐれランチプレート(栗ご飯他)』…
デザート
『和栗のモンブランケーキ』…
『栗のスイーツセット(栗九里・和栗入りチーズ)』kuri-kuri団おすすめ…
(なんだこのkuri…くり?)
他にも沢山のメニューが書かれていた。
どれも美味しそうな料理が想像出来る。実際店の料理はどれも好評だった。
程なくして、向こうから「おーい!」と声が聴こえてきた。元氣に手を振って近づいて来るのは「佐藤明子」だった。
明子「ごめんごめん遅くなっちゃった」
直子「全然大丈夫だよ。じゃはいろっか」
好子が木製の扉開け、3人を通してから最後に自分が閉めた。
水谷「いらっしゃいませ…あら」
「先生こんにちは~。お久しぶりです」
店内のテーブルはほぼ埋まっていた。
水谷「1番奥のテーブルでいいかしら?」
直子「テラス席って空いてます?」
水谷「えーっと…空いてるわよ」
4人は慣れた感じでテラスに向かった。
とても良い天氣ではあるがシェードが日陰を作り、秋の香りを含んだ風が吹くと心地良かった。
直子「あーやっぱり氣持ちいいわねー」
外を向きながら席に座る。
水谷「ではお決まりの頃にお伺いするわね」とメニューを人数分テーブルに置いた。メニューには料理のイメージのイラストが添えられていた。
明子「いっつも迷うんだよね~、どれも美味しいからさー」
メニューを開きながら困った様な顔をしていた。
直子「私達はもう決めたもんねー」
明子「そうなの?よっちゃんなんかいつもなかなか決まらないじゃん?」
好子「だから勢いで決めちゃったの」
美登里「どうせ飲み物は選べないしね」
直子「私カフェ・オレが良いんだけどね」
好子「私だってどっちかって言えば甘党よ」
美登里「私なんか無理やりだよ」
明子「そんなこと言ったらみんなじゃない?」
4人しかわからない会話が続く。もし周囲に聴かれておても全く理解ができないであろう。
少し時間が掛かったが明子がちょうど決めた時に、水谷がオーダーを取りに来た。
水谷「今日は何になさいましょう?」
友達ではない、かといって他人でもない…恩師と教え子の関係であってお客様。
水谷の言葉の選び方と温度はとても絶妙だった。他の客とはなんとなく違っていた。
4人それぞれが伝え、水谷がそれをオーダー用紙に書き込んでいく。
水谷「少々お待ちくださいね」
水谷が厨房に注文を伝えに行った。
料理は夫である木下の担当であった。やはり木下も元教師で水谷とは同じ年齢であり、38歳の時に結婚した。定年退職まであと1年…というところで教師を辞めこの店をオープンする為に、独学で1年間料理を勉強した。
元々一通りなんでも人並み以上に出来た木下の人間力は高く、さらに料理という分野は彼に合っていた。店がいつも繁盛しているのはやはり第一に料理が美味いからだろう。
ふと氣を抜いた好子がふぅ~っと思わずため息を吐く。
直子「どうしたのよっちゃん?なんかあった?」
好子「あ、ごめんさい。大したことじゃないんだけどね。またやっちゃって」
美登里「またって…旦那さんに?」
好子「そう」
明子「あーあ。それで今回は何したの?」
好子「寝てる時におでこにチョップして一回起きたんだけど…あまりにも頭きちゃって、腕ひしぎ逆十字固めしたら落ちちゃって。結局会社間に合わないから私が車で送って行ったわよ」
直子「今月これで何回目?」
好子「4回…だっていっつも起きないんだもん」
美登里「よっちゃんプロレス好きだからね。苗字武藤だし」
好子「だからそれは、結婚してから武藤になったわけで、プロレスは昔から好きなの知ってるでしょう」
直子「それで武藤になったってのもすごい話しだけどね」
明子「でも氣を付けないと…旦那さんそのうち逃げ出しちゃうよ?」
直子「まだ逃げてないのが奇跡だよね」
好子「それがね、この間旦那の部屋片付けてたら、ジムのパンフレットを見つけちゃって。チラッとだけだけどね」
美登里「うそ⁉︎旦那さん鍛えるつもりなの?笑える」
好子「それはわかんないわよ」
明子「年齢もあるし単に運動不足の解消かもよ」
直子「訊いてみたら?」
直子が茶化す様に促す。
好子「やめてよ、訊けるわけないじゃない」
そうこうしてるうちに水谷がワゴンで料理を運んできた。
水谷「お待たせしました~」
テーブルに料理を乗せる。4人が手伝う様にそれぞれの前に配置していく。
それから水谷が伝える様に飲み物を配る。
水谷「はい、好子さんがストレートティーで、直子さんがホットコーヒーのブラックね。美登里さんが緑茶で、明子さんが紅茶ね。もう砂糖は入ってますからね」
料理が来た時は嬉しそうな4人も、飲み物が自分の前に来た時だけは真顔になる。
明子「先生…たまには」
直子「あー先生なんでもないです」
明子を遮る様に話す。
水谷が少し首を傾げた様に見えた。
全て配り終えると、
水谷「ではごゆっくり。デザートはあとでお持ちしますからね」
水谷の姿が見えなくなった。
美登里「明ちゃん無駄だよ。今までだって試みたでしょ?先生優しいけど、そこは譲らないからね」
これがいわゆるこの店の「癖」である。
飲み物を自分で選べない。水谷は教え子である4人の名前を知っている。結婚してから苗字変わったのももちろん知っていた。その名前からイメージした物を水谷が選んで提供していた。
武藤好子 無糖が好き
黒田直子 コーヒーのストレート。ようはブラックコーヒー
狭山美登里 狭山茶。緑 緑茶
佐藤明子に関してはイメージが湧かず、明子の明をあかと読み、砂糖入りの紅茶となった。
大昔水谷が大病を患い生死を彷徨った。余命1年と言われたが、夫がネットの口コミで見つけた「奇跡の水」という水を飲み続けたら、まさに奇跡的に回復したのだ。担当の医者が1番びっくりしていたという。
それ以来、他人であろうと名前と飲み物を結び付ける様になっていった。
勧められた人間が実際に良くなった話しはよく耳にした。
何故かその「奇跡の水」を勧めないのは当時の謎であった。
好子「実際何故かみんな健康になってるしね」
直子「これなのかわかんないけどね」
美登里「でもこのお店通い始めてからだし、みんなそれぞれ言われたのよく飲んでるよね?」
明子「確かに肌の張りが良くなった氣がするはするかな…」
美登里「でしょう」
好子「不思議よね」
いつものことなので4人は慣れていた。水谷の良かれと思ってやっているのも大いに伝わってもいた。ただ毎回同じ飲み物なので飽きては来る。
しかし料理の美味しさが、それを差し引いても大きくプラスではあった。
4人は舌鼓を打ちながら、普段通りのおしゃべりをしていた。
水谷が良いタイミングで提供してくれたデザートも美味しくいただき、あっという間に帰る時間となった。
好子「今日もすごく美味しかったです」
直子「先生今度は時間ずらして来ますから、先生もご一緒にお茶しましょ」
水谷「はい。楽しみにしてますね」
美登里「それじゃ先生また」
明子「先生まったねー」
水谷が出口まで送って、お互いに手を振っていた。
明子「じゃあ美登里とあたしこっちだから」
直子「わかった-。またLINEするわ」
美登里「じゃーね。よっちゃん旦那さんによろしく」
美登里は少しニヤッとしていた。
直子「よっちゃんまっすぐ帰るの?」
好子「私スーパー寄って帰らないと」
直子「そっか。じゃあまた連絡するね。あ、来月ナカムラエミさんのライブだからね?」
好子「わかってる。じゃね」
4人がそれぞれに散って行った。
好子はスーパーの後にも色々なところに寄っていた為、かなり遅くなってしまった。
17時37分…
好子「まー大変、もうこんな時間」
好子が本屋からうちに帰る途中、最近出来たばかりのボクシングジムが目に入った。
好子「そう言えば先月出来たわねこのジム…」
何故かあのパンレットと似ていた様な氣がしていた。
前面が2階までガラス張りになっていた。ふと2階に目をやると…どこかで見た様な姿が。
好子「あら…いやだ…うそ…」
自分の夫がサンドバックに拳を打ちつけていた。
好子は見ては行けない物を見た様な感覚に襲われ、氣が付くとそこから逃げる様に小走りで去っていった。
「急がないと夕飯が間に合わないわ」…と自分にいい聴かせながら。
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