「母の日の史郎と静江」

アッキー

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「母の日の史郎と静江」3話

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史郎の料理の影響なのかは定かではないが、昨日の予報では快晴となるはずだった天氣は、朝方にかけ急変し大荒れの天氣となっていた。
しかし昼に近づくにつれ雨は次第におさまっていった。曇り空ではあるが、史郎達が出掛ける頃には雨は止んでいた。
静江「天氣予報じゃ、一日中雨だって言ってたのに止むなんて、間違いなく私の日頃の行いのお陰ね。母の日なわけだし」
史郎「別にかあちゃんだけじゃなくて、母の日に該当する女性は沢山いるわけで」
静江「大荒れにしたあんたが何言ってんのよ。私のおかげでプラマイゼロじゃない」
口での勝負に勝った試しがない史郎は、話しの方向を変えるのであった。
史郎「どうでもいいけど化粧まだ終わんないの?店混む時間になっちゃうよ。誰が見てるわけでもないし、ちゃちゃっと済ませて早く行くよ」
静江「わかんないじゃないよ。どうするの、フェルゼンみたいな人に声掛けられたら?」
史郎「誰だよフェルゼンって?」
静江「あんた知らないのベルばら?もはや非国民ね」
話せば話すほど遅くなると察した史郎は黙っていた。
数分後、静江は鏡に話し掛けてから、史郎の方へと振り返った。
静江「あら素敵!アントワネットの完成ね。行くわよ馬番」
史郎「誰が馬番だよ。乗るのは馬車じゃなくてバース。いいからもういくよ」
静江「あんたノリが悪いわね。そんなんじゃモテないわよ」
それに乗ったからと言って、モテるとは1ミリも思えなかった。
家の近くのバス停から高田馬場駅まで20分ほどで目的地の「ジャイアント高田馬場」に着いた。
雨が上がったせいか人でごった返していた。
史郎「へー随分綺麗になったねここ。前はシャッター街だったし、かなり錆びれてたよね」
静江「あれ?あんたここ来たことなかったっけ?」
史郎「来よう来ようとは思ってたけど、実際今日がお初」
静江「じゃあ私がエスコートするわよ。大蔵大臣はあんたね」
史郎(例えがいちいちなんか昭和なんだよな)
時計を見る史郎…時刻は12時00分を過ぎていた。
史郎「この人の数でこの時間じゃ、どこもすげー混んでるよ」
静江「だったらせっかくジャイババに来たんだし、商店街で軽く食べ歩きして、時間ずらしてからどっか入ればいいんじゃない?」
史郎「まーそれでも全然いいけど。んで、そのジャイババって何よ?サイババみたいな…」
静江「何ってジャイアント高田馬場、略してジャイババ。言い方ナウイでしょ」
なんだよナウイって…と首を傾げながら何かを探す史郎…
薬局の前のにパンプレットとチラシがあった。
手に取った史郎は、ふと店の看板に目が行った。
『漢方専門薬局 カイゲン』
史郎(なんだこの葛根湯しか勝たんってキャッチコピー?)
風神様がカンフーをしているようなキャラクターが看板の端にあった。
史郎(多分、拳法と漢方を掛けてるんだろうな…ベタな店だな)
何故かブルッと身体が一瞬震え、悪寒が走ったような感覚に襲われた。
パンプレットを見ながら話す史郎。
史郎「なんかこの商店街のジャンル凄くない?個人店はもちろん、チェーン店もかなりあるわ、ディーラーはあるわ、なんでもあるね」
静江「ハイ…ハイ…なんだっけ…ほらハイ…」
史郎「ハイブリッド?」
静江「そうそう、ここってそのハイブリッド式にしてるって。以前の向こうにあったショッピングモールの良いとこと、商店街の良いとこを兼ね合わせてるとか。商店街の脇に無料の駐車場も沢山あるしね」
史郎「チラシにある誕生43日祭ってなにこれ?なんかの語呂合わせ?」
静江「ん…なんだろね?あとで訊いてみたら」
パンプレットとチラシに一通り目を通す史郎。
静江「あそうだ!私帽子が欲しいんだった。史郎ちょっと付き合ってよ」
スタスタと歩きだす静江。後から付いていく史郎…ふと脇に目をやると本屋と床屋の間のブースに、スーツ姿に帽子を被った女性が居た。
史郎「ここインフォメーションセンターあんの⁉︎」
静江「だからハイブリッドだってば」
受付の女性に話し掛ける史郎。
史郎「こんにちは。あの~、ちょっとお訊きしたいんですが…」
受付嬢「こんにちは。はい、どういったことでしょう?」
史郎「このチラシの誕生43日祭の、43日ってなんかの語呂合わせなんですか?」
突然口に手を当て笑いを堪えるような仕草をした。
受付嬢「お訊きになります?」
頷く史郎。
受付嬢「全く何にもございません。お客様の様に疑問に思っていただくのを目的としておりまして、43の意味は全くございません。単に開業から母の日の本日が43日目なだけでして。半笑いしながら話している。
史郎「…お、面白い商店街ですね」
受付嬢「今後もこのようなイベントが沢山行われるようです。もしよろしければイベントに合わせてまたお越しください」
お礼を言ってその場を後にした史郎。内容を静江に伝えた。
静江「まーそんなとこだろうね。あ、史郎お店そこだよ。」
史郎「どこ?」
静江「そこそこ。黄色い看板のとこ」
史郎「リンガーハット?」
静江「そうそう」
史郎「帽子売ってないよ?」
静江「だってハットって書いてあるじゃない」
史郎「チャンポン屋だけど」
静江「そうなの?ややこしいわね~。まー他にもあるし次行こ次」
史郎「もーしっかりしてくれよな」
静江「次の店そこだからさっさと行くよ」
史郎(大丈夫かな~)
商店街のメイン通りから、脇に少しそれたところの大きな店の前で静江が足を止めた。
この店も全体的に黄色かった。
史郎「まさかここじゃないよね?」
静江「ここだけど」
史郎「イエローハットじゃんか」
静江「もしかしてここも違うの?」
史郎「どう見てもカーショップやろ」
静江「おかしいと思ったのよね。黄色い帽子の専門店とかってさー」
史郎「……」
静江「史郎ちょっとパンプレット見せて…あ、ここは間違いない!次次~」
また1人タッタカタッタカ歩き出す静江。
史郎(もう嫌な予感しかしなみ…)
静江「史郎ここここ~」
史郎「…ピザ…」
静江「ほらほらハットハット」
史郎「ハットハットじゃないよ。わざとだろ!だってこないだピザハットで出前頼んだじゃんか」
静江「……」
何やらカバンをゴソゴソと探る静江。取り出したのは小さなサッカーボールだった。すると突然静江が…
静江「おーーっとここで決まった静江選手のハットトリックー!リンガーにイエロー、さらにピザと奇跡のスリーゴール!」
控えめにカズダンスを踊る静江。
史郎「何やってんだよ…恥ずかしいだろ!」
静江「ちょっとーハットトリックで歓喜に浸ってんのに」
史郎「なんだよねハットトリックって!…もういいやそこの鰻屋入ろ!」
静江「ちょっと~」
強引に店に押し込む史郎であった…
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