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アルパピオス王国編
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俺達はデルタ王国の入り口付近を歩いていた。
どうやらガーベラ達がデルタ城を出てすぐの冒険者ギルドに寄るらしい。
「冒険者…ギルド…ですか?」
「ああ、昔から騎士の御身分だったユウトは知らないだろうが…登録しておけば身分証にもなるし色々と便利な場所なんだよ」
ガーベラの話だと、冒険者登録は必須のようだ。
「マゾゴミちゃんはきっと、今まで冒険者として報酬も貰った事無いんでしょうねぇ」
「ちょっと、ロジー様、外ではその呼び方やめてください!」
「えぇ~どうしよっかなぁ、マゾゴミちゃんが良い子にしてたら考えてあげてもいいけど♪」
「ほんとやめてください…知らない人の前でそう呼ばれると誤解を招くんですよ…」
「そうだよロジーやめなよ…ユウトは今回、僕達と一緒に来てくれたんだからさ」
「もう広がってはいるけどねぇ、勇者マゾゴミって…」
「いや、もう40年も立ったんだから忘れてますってば…」
ガーベラ、ロジー、リリー、マリンに案内されて俺は冒険者ギルドとやらに到着する。
話を聞く限り、どうやらこの、冒険者ギルドで冒険者として登録をして、敵を倒していけば倒した数や相手に応じて、それなりの報酬が貰えるそうだ。
「あの…ガーベラ様、ここが?」
「そうさ、俺等が世話になっている冒険者ギルドだ」
目の前にはどうやら三階建ての大きな家がある。
豪華過ぎず、ボロすぎるというわけでもなく、普通の建物だった。
「ガーベラ様、ロジー様、リリー様、お帰りなさいませ」
扉を開けると見知らぬメイドがやってきて、ガーベラ達にお辞儀をした。
「ああ、今帰った」
「ただいま~♪」
「ルナ、元気?」
「はい、おかげさまで毎日こうして過ごせております」
おそらくメイドの名前がルナなのだろう。
三人が部屋に入ると後ろからマリンも出てきた。
先ほどまで水色の饅頭のような形の姿で俺のポケットに隠れていたが、今は赤髪の女剣士の姿になっている。
マリンを確認すると、奥に座っていたギルド長のお婆さんが立ち上がった。
元は凄く美人だったんだろうと思える顔立ちだ。
「マリン様、お久しぶりですね。またお会いできて光栄です。」
「お久しぶりですギルド長、今日はユウトを冒険者登録して欲しくて連れてきたの♪」
「ユウト殿ですか、40年ぶりですか…ああ、本当に久しぶりですね…」
ギルド長のお婆さんが、まるで俺を知っているかのように話している。
俺は彼女の顔を確認し心当たりがないか考えるとある人物の顔と一致した。
「あ…え?ええ!?まさか…あなたは…」
正直ガチで驚いた、老けているがマゾ教の司教アンリエッタの姿と重なったからだ。
(40年後の世界だし司教様は人間だし当然なのか…もう70歳近いのかな?)
「アンリエッタ様なのですか???」
「ふふ、お久しぶりですね。勇者ユウト。」
「お…お久しぶりです、し、しかし、何故ギルド長なのですか??」
俺の質問にアンリエッタは思い出すように語り出した。
「20年ほど前、今は亡き先代国王デルタ・ブラスターに頼まれたのですよ。世界復興の為に、出来れば冒険者のギルド長をして欲しい…と。彼の最後のお願いでした。」
「なるほど、それで…」
「マゾ教のほうは、調教師や幹部立ち会いの元、娘をマゾ教の次期司教に推薦しました。他にも候補は立てていたのですが…能力、戦力的にも申し分ないと、皆の理解を得られ、今では娘が司教を努めております」
「それからずっと、アンリエッタさんはここでギルド長をしているのよ?」
「あちらで四年たった間に…こっちの世界はこんなにも変わっていたなんて…」
アンリエッタにその後も話を聞くと、ニュクス、ギークの事件後、世界はまだほとんど、復興していないそうだ。
それどころか、人間の生き残った村のほとんどは、完全に魔族が支配していて、人間を奴隷のようにこき使っているらしい。
最近ではまた魔族の動きが活発化しており、付近のジャコメやロックキャンプにも魔族に支配されているのだとか…
俺はそのアンリエッタの話を聞いて、魔神ニュクスや、ギーク・ハザードを思い出していた。
あの時に行われた、世にも恐ろしい全世界の国々への大規模攻撃、そして魔王召還など・・・
あれを本当に彼女1人でやったとは・・・俺にはどうしても思えなかった。
恐らく何者かが彼女に協力したのではないかと今でも思っている。
俺は冒険者ギルドで書類を提出し、正式に冒険者登録をした後に、出発した。
―――魔族の国「アルパピオス」―――
そこに立つ大きな城があった…名を“ガレザ城”と言う。
城内の王室には王座があり、そこには美しい美女が1人、座ってジュースを飲んでいた。
彼女はクイーンスライムの化けた姿、先代アルパピオス国“女王”フレイの姿だ。
かつてこの国「アルパピオス」は人類のものだった。
軍事力もあり、40年前のニュクスによる大規模魔術の時にも、それらを防ぐほど強かった。
あの時、実はこの国にも魔王レヴィアタンが襲来し、暴れまわっていたのだが、冒険者を集め魔王を退治し一時の平和を取り戻したそうだ。
しかしその30年後…
突然攻めてきたクイーンスライムの軍勢にアルパピオスの軍は成す術もなく敗北した。
逆らう民は大量虐殺され、残った弱き者はスライム達に逆らえず、今も奴隷として扱われている。
女王フレイはクイーンスライムに丸呑みされ、消化され、文字通りすべてを奪われたのだった。
ただ国民は女王が亡くなった事実を知らされておらず、今もクイーンスライムが化けた女王フレイを本物だと信じ込んでいるそうだ。
「女王がいつか開放してくれる」「スライムの軍勢との交渉が終われば」そのような夢物語を信じて、国民は今もスライムの奴隷として従い、理不尽な命令をされてもすべてこなしていた。
「フレイ様…イチタ殿の復活の準備、完了でございます…」
フレイに話しかけたのは、シルクハットを被り、杖を持ったマジシャン風の格好をした男、ガーネット・スターだった。
そこには、お腹を内部から食い破られ、裂けて血だらけで死んだ少年の無残な姿があった。
彼のグロテスクな死体に、後ろにいるスキンヘッドのデネブ・カイトスと赤髪ショートボブの女、タニア・アウストラリスも不快感を感じ顔をしかめていた。
(うっ…何て事を…しかしこれは…)
(デネブ!聞こえるぞ!彼女は心の中ぐらい読めるんだぞ!)
デネブとタニアがスキルで心の中で会話していると、フレイがこちらを見つめてきた。
「ふふふっ…ご苦労、ガーネット♪
それと…人間の命など、どう使おうと私の勝手でしょ?
何か文句があるの?ねぇ、デネブ、タニア」
デネブ、タニアは震えている。
「いえ、文句など、とんでもございません」
「フレイ様の仰せのままに」
二人とも膝をついて頭を下げ、デネブは顔が引きつり、タニアは目をつぶっている。
「しかしガーネットの言うように、この世すべてを支配するとなると、もっと力を付けなくては駄目よね…かの魔神ニュクスは、大魔術を1度発動させただけで、世界を滅ぼしたと聞くし…」
その話を聞いたとき、ガーネットの口元がつり上がり笑みを浮かべた。
「フレイ様…いいえ、女王様であれば次期魔神にもなれますよ、きっとね」
そう言うとガーネットはイチタのところへ行くと蘇生の魔法を使い、彼を復活させる。
地面から青い光が浮かび上がり、その光に包まれたイチタが息を吹き返した。
「うぁあぁああああああああっ!!!」
よほどトラウマだったのかイチタは起き上がるなり大声で叫んでいた。
「よおボウズ、てめぇ…もう無理なんじゃねぇのか…?スライムの苗床なんて…」
「はぁ、はぁ…あれ、ここは…おじさん…何がどうなって?」
デネブに話かけられ混乱していると、ガーネットが前まで来た。
「無理でしたら、私のほうからもフレイ様に頼んでみますよ?仕事を変える気はないですか?イチタ君」
「は…はひぃ…もう、お腹を食い破られるのは…」
イチタがそこまで言おうとした途端、目の前に女王様、クイーンスライムであるフレイがやってくる。
「大好きでしょう?お腹を食い破られて死ぬのは…そうよね?イチタ」
「ふえ…??あ…あう…あううっ…は…は…い…ぐすっ、えっ、ぐ…」
「やれやれ…困ったお方だ…」
イチタはそう答えながら目から涙を流し泣き顔が真っ赤になっている、ガーネットはクイーンスライムを見て呆れていた。
恐怖からか忠誠心からかはわからないがイチタはもう、フレイには逆らえないようで、怒らせないように気をつけているようだった。
「ボウズ…もしこっそり逃げ出すなら俺に言えよ、手伝ってやる…」
「逃げたら死ぬわよ?そういう呪いも仕掛けているし♡だからイチタは永遠に私のペット、どう足掻いても逃げる事は出来ない♡」
「は…はい、僕の体は、女王様のものです…逃げたりしません…お好きに使ってください…ううっ…また、ぐす、生みますから…」
「うんうん、良い子良い子♪これからもいーっぱいスライムの子を産むのよ?」
「はい、女王様ぁ…」
被虐的な喜びに震えて涙を流すイチタをフレイは見つめ、頭を撫で抱きしめていた。
デネブもタニアもついていけず、ちょっと引いている、そこにガーネットが部下から知らせを受けた様子でこちらに報告へやって来た。
「フレイ様、ガーベラが仲間を引き連れてロックキャンプ付近にやってきています…
あそこに派遣しております部下の報告によりますと全部で5人、中には勇者マリンとかつての勇者ユウトも混ざっていると」
「マリン……あの時はぐれてしまった私の妹と同じ名前ね…まぁそんなはずは無いんだけど…ガーネット、対策はしてあるんでしょうね?ガーベラが出てきたんじゃ、あそこのロックドラゴン達だけでは勝ち目がないでしょう」
「ええ…部下がいるのでご安心を、最悪の場合でも、撤退させアレだけは持ち帰りますので」
ガーネット達は頭を下げると、王室の扉から出て行った。
俺はデルタ王国から出発してから馬車を動かしていた。
運転手は俺で、後ろにガーベラ、ロジー、リリー、マリンが乗っている。
「ロックキャンプ、見えてきました…」
そこは岩に囲まれた村で、何やら異様な気配を感じる。
まるで何者かに見張られているかのような感覚だった。
「いるな…ロジー、リリー、わかるか?」
「ええ、おそらく、雑魚じゃないわね…」
「ん…多分」
「ユウトも、わかる?」
「ああ…これはギーク戦やニュクス戦の時に感じたあの嫌な空気に似ている…まさか…」
ふと周りを見渡すと、世にも珍しいロックドラゴンが空を飛んでいた。
さらにその上にデザート・アジールが着ていた物と同じ軍服を着た女が立っている。
彼女はギーク王国軍大佐「カウス・メディア」、黒髪の長髪で赤い瞳の気の強そうな女だった。
手には剣ではなく杖を持ち、その杖は金色に輝いていた。
「大佐、奴らです、ガーネット殿の言っていた勇者達」
さらに後ろから飛んでくるロックドラゴン、その上には彼女の部下らしき男が乗っていた。
彼はギーク軍中佐「アルタイル」、ブルーメタルに輝く大剣を背中の鞘に刺していた。
「何あれ…こわーい…」
「僕に抱きつくな…ロジー」
「…ユウト、マリン、あれはやはり、ギーク軍の軍服なのか?」
「はい…あの時、将軍デザート・アジールが着ていた軍服と一致します…」
「間違いないわ…訓練の時に、私が何度か変身して見せたのと同じよ?」
マリンがスキル変身を使い、スライム状になったあとデザート・アジールの姿に変身した。
「ああ…あのおっさんの姿か…」
「でも今は…こっちのほうが効くかも知れないわね…」
続けてマリンがそんな事を言うと、スライム状になり顔は白塗り、鳥帽子を被った、まるで時代劇にでてくるような公家のような和服を着た男に変身する、そしてマリンは馬車の上に登り、敵の方へ向いていた。
「ほっほっほっ♪麻呂はこの世界を作った神、ギーク・ハザードでおじゃる!」
(こんな感じかしら?)
センスで仰ぎ、相手を見下したような目で見つめながら笑みを浮かべている。
一度消化した相手の記憶を読み取り、再現する、スライム特有のスキルでもある。
「よりによってギーク・ハザードに変身するのか…マリン…」
「今の麻呂は、100%再現出来ておる、奴の技も今や麻呂のもの」
「口調まで真似すんのかよ!」
「まて、敵への威嚇だよ、このほうがいい」
「確かに、敵軍のトップが現れたら、脅えて逃げ出すかもねぇ」
「うん、確かに奴ら動きがおかしくなってるよ」
ロックドラゴンの上にいるカウスは杖を構えながらギークを見ていた。
「おのれ!ギーク様に変身するとは…あのスライムめ!許さん!」
「お待ち下さい大佐、奴はスライムで強さは魔神クラス、変身したという事は戦力的に国王様に匹敵するでしょう」
「ではどうするのだアルタイル!何か作戦でもあるのか!?」
二人が話し込んでいると、ロックドラゴンが荷馬車の先に口から岩を吐き、飛ばしてくる。
「しまった、行く手を塞がれたぞ」
「面倒なことしてくれるわねぇ…闇魔法でお仕置きしようかしら…」
「前に大きな岩が…一度止めて魔法で…」
「いえ、問題ありません」
ユウトが剣を抜き、エクスカリバーを一振り――
すると月のような形の飛ぶ斬撃が岩の山めがけて飛んでいく。
その斬撃は岩に直撃し、岩の山を粉々に粉砕して道を切り開いた。
「へぇ、やるじゃない♪マゾゴミちゃん♪
宿に着いたらご褒美に泣き叫ぶほど掘ってあげるわぁ♪」
「いや、だからマゾゴミじゃ…」
「僕達魔法専門だからさ、剣士が1人いると助かるよ」
「マリン、お前も大丈夫か?」
「誰に聞いておる、麻呂の心配など無用じゃ!見ておれユウト!
炎の神カグツチよ!奴らを焼き尽くし無に帰すでおじゃる!「裁きの炎」」
カウスとアルタイルの服が突然、虹色の炎で燃え上がる。
「ああぁっ…馬鹿な…この技は…ああぁぁぁあぁっ!!!」
「ぎゃあああああああああああっ!!!!」
その光景を見ていたユウトが「まるで悪役だな」と呟いた。
しかし敵二人は体の回りを白い煙が包み込み。その炎を消し去った。
「はぁ、はぁ、ギーク王国特性回復薬…まさかこれを使う羽目になるとは…」
「ああ…これが無ければ、間違いなく死んでいた、大佐!撤退しましょう!これでは我々は…」
2人は傷口から血が出ているが重症では無かった。
つまり彼らは今、回復薬を使いギーク・ハザードの一撃必殺の技を防いだのだ。
どうやらガーベラ達がデルタ城を出てすぐの冒険者ギルドに寄るらしい。
「冒険者…ギルド…ですか?」
「ああ、昔から騎士の御身分だったユウトは知らないだろうが…登録しておけば身分証にもなるし色々と便利な場所なんだよ」
ガーベラの話だと、冒険者登録は必須のようだ。
「マゾゴミちゃんはきっと、今まで冒険者として報酬も貰った事無いんでしょうねぇ」
「ちょっと、ロジー様、外ではその呼び方やめてください!」
「えぇ~どうしよっかなぁ、マゾゴミちゃんが良い子にしてたら考えてあげてもいいけど♪」
「ほんとやめてください…知らない人の前でそう呼ばれると誤解を招くんですよ…」
「そうだよロジーやめなよ…ユウトは今回、僕達と一緒に来てくれたんだからさ」
「もう広がってはいるけどねぇ、勇者マゾゴミって…」
「いや、もう40年も立ったんだから忘れてますってば…」
ガーベラ、ロジー、リリー、マリンに案内されて俺は冒険者ギルドとやらに到着する。
話を聞く限り、どうやらこの、冒険者ギルドで冒険者として登録をして、敵を倒していけば倒した数や相手に応じて、それなりの報酬が貰えるそうだ。
「あの…ガーベラ様、ここが?」
「そうさ、俺等が世話になっている冒険者ギルドだ」
目の前にはどうやら三階建ての大きな家がある。
豪華過ぎず、ボロすぎるというわけでもなく、普通の建物だった。
「ガーベラ様、ロジー様、リリー様、お帰りなさいませ」
扉を開けると見知らぬメイドがやってきて、ガーベラ達にお辞儀をした。
「ああ、今帰った」
「ただいま~♪」
「ルナ、元気?」
「はい、おかげさまで毎日こうして過ごせております」
おそらくメイドの名前がルナなのだろう。
三人が部屋に入ると後ろからマリンも出てきた。
先ほどまで水色の饅頭のような形の姿で俺のポケットに隠れていたが、今は赤髪の女剣士の姿になっている。
マリンを確認すると、奥に座っていたギルド長のお婆さんが立ち上がった。
元は凄く美人だったんだろうと思える顔立ちだ。
「マリン様、お久しぶりですね。またお会いできて光栄です。」
「お久しぶりですギルド長、今日はユウトを冒険者登録して欲しくて連れてきたの♪」
「ユウト殿ですか、40年ぶりですか…ああ、本当に久しぶりですね…」
ギルド長のお婆さんが、まるで俺を知っているかのように話している。
俺は彼女の顔を確認し心当たりがないか考えるとある人物の顔と一致した。
「あ…え?ええ!?まさか…あなたは…」
正直ガチで驚いた、老けているがマゾ教の司教アンリエッタの姿と重なったからだ。
(40年後の世界だし司教様は人間だし当然なのか…もう70歳近いのかな?)
「アンリエッタ様なのですか???」
「ふふ、お久しぶりですね。勇者ユウト。」
「お…お久しぶりです、し、しかし、何故ギルド長なのですか??」
俺の質問にアンリエッタは思い出すように語り出した。
「20年ほど前、今は亡き先代国王デルタ・ブラスターに頼まれたのですよ。世界復興の為に、出来れば冒険者のギルド長をして欲しい…と。彼の最後のお願いでした。」
「なるほど、それで…」
「マゾ教のほうは、調教師や幹部立ち会いの元、娘をマゾ教の次期司教に推薦しました。他にも候補は立てていたのですが…能力、戦力的にも申し分ないと、皆の理解を得られ、今では娘が司教を努めております」
「それからずっと、アンリエッタさんはここでギルド長をしているのよ?」
「あちらで四年たった間に…こっちの世界はこんなにも変わっていたなんて…」
アンリエッタにその後も話を聞くと、ニュクス、ギークの事件後、世界はまだほとんど、復興していないそうだ。
それどころか、人間の生き残った村のほとんどは、完全に魔族が支配していて、人間を奴隷のようにこき使っているらしい。
最近ではまた魔族の動きが活発化しており、付近のジャコメやロックキャンプにも魔族に支配されているのだとか…
俺はそのアンリエッタの話を聞いて、魔神ニュクスや、ギーク・ハザードを思い出していた。
あの時に行われた、世にも恐ろしい全世界の国々への大規模攻撃、そして魔王召還など・・・
あれを本当に彼女1人でやったとは・・・俺にはどうしても思えなかった。
恐らく何者かが彼女に協力したのではないかと今でも思っている。
俺は冒険者ギルドで書類を提出し、正式に冒険者登録をした後に、出発した。
―――魔族の国「アルパピオス」―――
そこに立つ大きな城があった…名を“ガレザ城”と言う。
城内の王室には王座があり、そこには美しい美女が1人、座ってジュースを飲んでいた。
彼女はクイーンスライムの化けた姿、先代アルパピオス国“女王”フレイの姿だ。
かつてこの国「アルパピオス」は人類のものだった。
軍事力もあり、40年前のニュクスによる大規模魔術の時にも、それらを防ぐほど強かった。
あの時、実はこの国にも魔王レヴィアタンが襲来し、暴れまわっていたのだが、冒険者を集め魔王を退治し一時の平和を取り戻したそうだ。
しかしその30年後…
突然攻めてきたクイーンスライムの軍勢にアルパピオスの軍は成す術もなく敗北した。
逆らう民は大量虐殺され、残った弱き者はスライム達に逆らえず、今も奴隷として扱われている。
女王フレイはクイーンスライムに丸呑みされ、消化され、文字通りすべてを奪われたのだった。
ただ国民は女王が亡くなった事実を知らされておらず、今もクイーンスライムが化けた女王フレイを本物だと信じ込んでいるそうだ。
「女王がいつか開放してくれる」「スライムの軍勢との交渉が終われば」そのような夢物語を信じて、国民は今もスライムの奴隷として従い、理不尽な命令をされてもすべてこなしていた。
「フレイ様…イチタ殿の復活の準備、完了でございます…」
フレイに話しかけたのは、シルクハットを被り、杖を持ったマジシャン風の格好をした男、ガーネット・スターだった。
そこには、お腹を内部から食い破られ、裂けて血だらけで死んだ少年の無残な姿があった。
彼のグロテスクな死体に、後ろにいるスキンヘッドのデネブ・カイトスと赤髪ショートボブの女、タニア・アウストラリスも不快感を感じ顔をしかめていた。
(うっ…何て事を…しかしこれは…)
(デネブ!聞こえるぞ!彼女は心の中ぐらい読めるんだぞ!)
デネブとタニアがスキルで心の中で会話していると、フレイがこちらを見つめてきた。
「ふふふっ…ご苦労、ガーネット♪
それと…人間の命など、どう使おうと私の勝手でしょ?
何か文句があるの?ねぇ、デネブ、タニア」
デネブ、タニアは震えている。
「いえ、文句など、とんでもございません」
「フレイ様の仰せのままに」
二人とも膝をついて頭を下げ、デネブは顔が引きつり、タニアは目をつぶっている。
「しかしガーネットの言うように、この世すべてを支配するとなると、もっと力を付けなくては駄目よね…かの魔神ニュクスは、大魔術を1度発動させただけで、世界を滅ぼしたと聞くし…」
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地面から青い光が浮かび上がり、その光に包まれたイチタが息を吹き返した。
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「よおボウズ、てめぇ…もう無理なんじゃねぇのか…?スライムの苗床なんて…」
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「ふえ…??あ…あう…あううっ…は…は…い…ぐすっ、えっ、ぐ…」
「やれやれ…困ったお方だ…」
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恐怖からか忠誠心からかはわからないがイチタはもう、フレイには逆らえないようで、怒らせないように気をつけているようだった。
「ボウズ…もしこっそり逃げ出すなら俺に言えよ、手伝ってやる…」
「逃げたら死ぬわよ?そういう呪いも仕掛けているし♡だからイチタは永遠に私のペット、どう足掻いても逃げる事は出来ない♡」
「は…はい、僕の体は、女王様のものです…逃げたりしません…お好きに使ってください…ううっ…また、ぐす、生みますから…」
「うんうん、良い子良い子♪これからもいーっぱいスライムの子を産むのよ?」
「はい、女王様ぁ…」
被虐的な喜びに震えて涙を流すイチタをフレイは見つめ、頭を撫で抱きしめていた。
デネブもタニアもついていけず、ちょっと引いている、そこにガーネットが部下から知らせを受けた様子でこちらに報告へやって来た。
「フレイ様、ガーベラが仲間を引き連れてロックキャンプ付近にやってきています…
あそこに派遣しております部下の報告によりますと全部で5人、中には勇者マリンとかつての勇者ユウトも混ざっていると」
「マリン……あの時はぐれてしまった私の妹と同じ名前ね…まぁそんなはずは無いんだけど…ガーネット、対策はしてあるんでしょうね?ガーベラが出てきたんじゃ、あそこのロックドラゴン達だけでは勝ち目がないでしょう」
「ええ…部下がいるのでご安心を、最悪の場合でも、撤退させアレだけは持ち帰りますので」
ガーネット達は頭を下げると、王室の扉から出て行った。
俺はデルタ王国から出発してから馬車を動かしていた。
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「ロックキャンプ、見えてきました…」
そこは岩に囲まれた村で、何やら異様な気配を感じる。
まるで何者かに見張られているかのような感覚だった。
「いるな…ロジー、リリー、わかるか?」
「ええ、おそらく、雑魚じゃないわね…」
「ん…多分」
「ユウトも、わかる?」
「ああ…これはギーク戦やニュクス戦の時に感じたあの嫌な空気に似ている…まさか…」
ふと周りを見渡すと、世にも珍しいロックドラゴンが空を飛んでいた。
さらにその上にデザート・アジールが着ていた物と同じ軍服を着た女が立っている。
彼女はギーク王国軍大佐「カウス・メディア」、黒髪の長髪で赤い瞳の気の強そうな女だった。
手には剣ではなく杖を持ち、その杖は金色に輝いていた。
「大佐、奴らです、ガーネット殿の言っていた勇者達」
さらに後ろから飛んでくるロックドラゴン、その上には彼女の部下らしき男が乗っていた。
彼はギーク軍中佐「アルタイル」、ブルーメタルに輝く大剣を背中の鞘に刺していた。
「何あれ…こわーい…」
「僕に抱きつくな…ロジー」
「…ユウト、マリン、あれはやはり、ギーク軍の軍服なのか?」
「はい…あの時、将軍デザート・アジールが着ていた軍服と一致します…」
「間違いないわ…訓練の時に、私が何度か変身して見せたのと同じよ?」
マリンがスキル変身を使い、スライム状になったあとデザート・アジールの姿に変身した。
「ああ…あのおっさんの姿か…」
「でも今は…こっちのほうが効くかも知れないわね…」
続けてマリンがそんな事を言うと、スライム状になり顔は白塗り、鳥帽子を被った、まるで時代劇にでてくるような公家のような和服を着た男に変身する、そしてマリンは馬車の上に登り、敵の方へ向いていた。
「ほっほっほっ♪麻呂はこの世界を作った神、ギーク・ハザードでおじゃる!」
(こんな感じかしら?)
センスで仰ぎ、相手を見下したような目で見つめながら笑みを浮かべている。
一度消化した相手の記憶を読み取り、再現する、スライム特有のスキルでもある。
「よりによってギーク・ハザードに変身するのか…マリン…」
「今の麻呂は、100%再現出来ておる、奴の技も今や麻呂のもの」
「口調まで真似すんのかよ!」
「まて、敵への威嚇だよ、このほうがいい」
「確かに、敵軍のトップが現れたら、脅えて逃げ出すかもねぇ」
「うん、確かに奴ら動きがおかしくなってるよ」
ロックドラゴンの上にいるカウスは杖を構えながらギークを見ていた。
「おのれ!ギーク様に変身するとは…あのスライムめ!許さん!」
「お待ち下さい大佐、奴はスライムで強さは魔神クラス、変身したという事は戦力的に国王様に匹敵するでしょう」
「ではどうするのだアルタイル!何か作戦でもあるのか!?」
二人が話し込んでいると、ロックドラゴンが荷馬車の先に口から岩を吐き、飛ばしてくる。
「しまった、行く手を塞がれたぞ」
「面倒なことしてくれるわねぇ…闇魔法でお仕置きしようかしら…」
「前に大きな岩が…一度止めて魔法で…」
「いえ、問題ありません」
ユウトが剣を抜き、エクスカリバーを一振り――
すると月のような形の飛ぶ斬撃が岩の山めがけて飛んでいく。
その斬撃は岩に直撃し、岩の山を粉々に粉砕して道を切り開いた。
「へぇ、やるじゃない♪マゾゴミちゃん♪
宿に着いたらご褒美に泣き叫ぶほど掘ってあげるわぁ♪」
「いや、だからマゾゴミじゃ…」
「僕達魔法専門だからさ、剣士が1人いると助かるよ」
「マリン、お前も大丈夫か?」
「誰に聞いておる、麻呂の心配など無用じゃ!見ておれユウト!
炎の神カグツチよ!奴らを焼き尽くし無に帰すでおじゃる!「裁きの炎」」
カウスとアルタイルの服が突然、虹色の炎で燃え上がる。
「ああぁっ…馬鹿な…この技は…ああぁぁぁあぁっ!!!」
「ぎゃあああああああああああっ!!!!」
その光景を見ていたユウトが「まるで悪役だな」と呟いた。
しかし敵二人は体の回りを白い煙が包み込み。その炎を消し去った。
「はぁ、はぁ、ギーク王国特性回復薬…まさかこれを使う羽目になるとは…」
「ああ…これが無ければ、間違いなく死んでいた、大佐!撤退しましょう!これでは我々は…」
2人は傷口から血が出ているが重症では無かった。
つまり彼らは今、回復薬を使いギーク・ハザードの一撃必殺の技を防いだのだ。
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周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
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