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魔神復活編

悪夢のはじまり

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 ユウトとマリンはローズマリーと睨み合っていた、彼女は今はニュクスに操られる人形でしかない。

(稽古でもあれだけ実力差があったわけだし、正直勝てる気がしない…)

「マリン、きっと普通にやっても無理だろう…
あの方法で行く」

 あの方法が「不意打ち」だと理解してマリンは頷く。

「ええ、わかってるわ!
ユウト!」

 マリンがスライムの姿になり、ローズマリーに向かいスキル「水鉄砲」を連射する。

 ドラゴンに穴をあけた程の超高速の水の塊が彼女に直撃するものの傷は付けられなかった。

 ただ、彼女は防御の構えをしていた。

「くっ、なかなか強烈な水の砲弾ですわね…しかし…」

 ローズマリーはやがてスキルで槍を出現させる。
 そして扇風機のように高速回転させて水の砲弾をすべて弾いてしまう。

「デュランダル強化!
「ダークブースト」
からの「回転斬り!」」

 闇強化魔法で体から闇の炎を纏ったユウトがローズマリーに向かい空中を回転しながら斬りかかる。

 彼女は水鉄砲を受け流す事に必死で、ユウトに斬られ、一撃で真っ二つになってしまう。

「油断しましたわ…
まさかこの程度の攻撃で…」

 ローズマリーは倒れて動かなくなる。


───しかし───

 しばらくすると彼女は消えて別の場所に立っていた。

「ほら、足下に注意なさいな!」

 怒った彼女が地面を踏むと地面から刀が生えてユウトやマリンを襲う。

「下僕!マリン!大丈夫ですか?」

 ユウトとマリンはその刃に全身を貫かれ、串刺しになってしまう。

 アイリスの刀を受け止めるパンドラも、2人の姿に正気を失っていた。

「油断したなパンドラ」

 アイリスがパンドラにレーヴァテインで肩を切りつけてしまう、彼女の肩からは血がボタボタと垂れていた。

「くっ…やはり、強さはそのままですか…
魔神とは、なんて桁外れな力を…しかし」

 ユウトを見ると、彼は血をボタボタ垂らしながら立ち上がった。

 まるで、死の恐怖を感じてすらいないような…

 そしてユウトは笑い出した。

「ふっ、なんだろうなこの感じは、不思議な感覚だ!」

 腕も足も胴体も地面から生えた刃に串刺しにされたユウトが不気味な笑い方をしている。

「死が…怖くないんですの?」

 ローズマリーが疑問を口にする、マリンは元々打撃斬撃は無効で無事だった。

 水色のスライムの体が動きながら形を変えて、マリンは赤髪の女剣士の姿になる。

「ユウト、大丈夫なの?」

「ああ、何ともない…どうしてだろうな」

 しかし折れた刃が腹や腕、それから太ももを貫通しており、どう見ても重傷で今にも死にそうだった、しかし口元だけは笑っている。

「馬鹿な…その重傷でその余裕、強がっているだけですの?
それとも…」

「俺はどうやら、また新たなスキルを手に入れたようだ。
まあ、ほとんどヴィクトリア様や俺を殺した調教師のせいなんだが…
しかし、今だけは感謝するしかないな…」

「ユウト!何の話よ!
ちゃんと説明しなさい!
死ぬのは許さないわ!」

「そうです下僕!
後で回復させますからそのまま待ってなさい!」

 マリンとパンドラに心配される中、ユウトは後ろに倒れ動かなくなってしまう。

「くっ!!ユウト!
お願い死なないで!」

 パンドラが叫びながらアイリスの剣を弾き飛ばす。

「なんだ、まだこんな力が、流石パンドラだ…」

 アイリスが距離をとりレーヴァテインを拾う。

 しかし、パンドラがユウトを見ると信じられないことが起こっていた。

 なんとユウトの体は透明になっていき、消えてしまう。

 その光景にローズマリーもパンドラもマリンもアイリスも言葉を失った。

「ユウト!
何処にいるの!?」

 マリンが叫ぶとローズマリーのすぐ後ろにユウトが立っていた。

 そしてユウトは彼女の首を、デュランダルで切り落とす。

 そのユウトの体は闇魔法で強化されたままで、体からは黒い炎が燃え上がっていた。

 そして、彼は空を見上げながら不満を口にした。

「こんなの知られたら、またマゾ教で玩具にされるな…」

 ユウトはマゾ教の調教師やヴィクトリアの事を考えながら言った。

 つまり、ユウトはここで、魔力が続く限り「死んでも生き返る」チートスキルを手に入れた。

 原因はマゾ教の調教師達に何度も殺され、ヴィクトリアにも何度も殺された事でユウトの死に対する恐怖心が弱まっていった。

 その後の魔女やパールグレイ部下との戦いで、ユウトは死の恐怖に完全に打ち勝った。

 さらに今、ローズマリーとの戦いで死の恐怖を感じなくなった。

 その結果ユウトの中で「死んでも生き返る」チートスキルが覚醒したわけだ。

「コインがある限りコンティニュー出来る俺とローズマリー様、これでやっと、対等の戦いが出来るな」

 こちらを見て心配するパンドラに俺は頷き、同じように生き返ったローズマリーに向かって剣を構えた。

「よくもやってくれましたわね!クソ虫がぁ!」

 ローズマリーが手を挙げると空から隕石が飛んでくる。

「おいローズマリー、あんな広範囲攻撃をここでするんじゃ…」

 アイリスが言ってもローズマリーは聞かず、それらは地面に直撃すると凄い爆発を起こしてゆく。

「防御魔法発動!
「マジックシールド」」

「防御スキル発動
「ガッチガチ」」

 ユウトは防御魔法、マリンは防御スキル「ガッチガチ」を発動しマリンの体はまるでダイヤモンドのように硬くなる。

 パンドラも防御魔法で防御していた。

 しかし、アイリスとローズマリーはこちらに突っ込んで攻撃を仕掛けてくる。

(こうなったら…)

 ユウトは新しいスキルを発動する。

「聖剣デュランダルよ闇に染まれ!闇の太刀筋!
「ダークブロッサム」」

 ユウトが地面にデュランダルを突き刺すと、地面が黒い液体で包まれて恐ろしい牙の生えた植物が地面から生えて来る。

「下僕、これはいったい…」

 パンドラが驚いていると、それは向かってくるローズマリーとアイリスを襲い始めた。

 彼女達はその植物を斬り伏せているが足止めを受け、無数に降る隕石は終わってしまった。

 パンドラは苦戦中の2人に向かい、エクスカリバーで光り輝く斬撃を飛ばす。

 その三日月のような斬撃はアイリスに直撃してしまう。

 彼女の体は切れて血を流していた。

「うっ、今のは痛かったぞ!パンドラァ!!
炎魔法発動!「神炎」」

 辺り一面に炎が燃え上がり、地面から生えたグロテスクな植物が焼き尽くされる。

 さらに無数の火柱が上がり、先ほどの隕石に負けない大規模攻撃が発動した。

「炎には水ですかね、
水魔法発動「タイダルウェーブ」」

 落ち着いたパンドラが水魔法を発動し、水の波が現れて炎を消してゆく。

 どれほどの温度だったのかわからないが水はお湯に変わり、辺り一面湯気でいっぱいになった。

「マリン!もう一度行くぞ!」

「ええ、
わかってるわ!

降り注げ水の砲弾!
水魔法発動「アクアスウォーム」」

 空から水の砲弾がもの凄い数、降って来てローズマリーが驚いている。

 ユウトも少しの間ポカーンと口を開けていた。

(なんだあれ、やべぇ!
あんな魔法使えたのかマリンの奴)

 水の砲弾はローズマリーに直撃し、身動きがとれなくなっていた。

「今よユウト!
エナジードレインで倒すんでしょ!?」

「ああ、その通りだ」

 おそらくローズマリーのスキルはユウトと同じで、魔力を奪い尽くさないと何度でも生き返ってしまう。

 ユウトはそれを理解した上で、防御しているローズマリーの背中から、水の砲弾のダメージ覚悟で心臓にデュランダルを突き刺した。

「吸い尽くせ!
「エナジードレイン」」

 ユウトが新しく覚えたスキル「エナジードレイン」を発動すると、彼女の魔力を吸い始める。

「離しなさい下僕!
よくもワタクシの魔力を!」

「マリンも頼む!
俺だけじゃ無理だ!」

 すると、マリンがスライムの姿になり巨大化してローズマリーを包み込む。

「本人じゃないから言っても仕方ないかも知れないけれど、宮殿での生活、楽しかったわ…
じゃあね、ゆっくり休んでね…ローズマリーさん…」

 マリンは窒息寸前で身動きのとれなくなったローズマリーを包み込んで完全に消化した。

(あれ、俺がセネカの城でやられた奴か、怖すぎ…)

 しかし、ユウトは疲れ果てて後ろに転んでしまった。

「はぁ、はぁ、やっぱり戦力差がここまであると厳しいな…
しかしマリン、あんな技いったいどこで…
水上級魔法じゃねぇか…」

「パールグレイの時よ、そして今、ローズマリーさんのスキルも頂いたわ。」

「え!?
マジかよ…マリン怖ぇ…」

 「今はパンドラさんを助けるのが先でしょう?」

 マリンはユウトを連れてパンドラのところへ向かった。

 そこでは剣と剣の金属のぶつかり合う激しい音が鳴り響き、空からは刃が降り地面は炎で燃え上がる地獄のような光景だった。

 パンドラは時間停止のスキルを発動し、アイリスに斬りかかる。

 しかし、アイリスの「未来を見通すスキル」により攻撃を受ける箇所に防御を施していた。

 パンドラの時間停止スキルは長くて2、3分、ヴィクトリアのように無制限ではなかった。

 やがて時間が戻りアイリスが動き出す。

「ここで時間停止が来ることもわかってたさ!」

 アイリスの一撃がパンドラを切りつける、ユウトは血だらけのパンドラを見てピンチだと思った。

「マリン、何とか出来ないか?」

「そうね…それじゃユウト、私を肩に乗せなさい?」

 饅頭みたいな水色のスライムをユウトは肩に乗せるが、するとしっかり固定されてしまった。

「うわっ、これじゃ離れねぇだろ、何やってんだマリン…」

「今からユウトの体を強化するわ、一時的なものだけどきっと効果あるわよ?」

 マリンがユウトの体を包み込み、頭にはカブト、体は鎧で包まれる。

 黒い鎧を着た、ヒーローモノで言うと悪役でいそうな容姿だった。

「何だこのコスプレは!
恥ずかしいぞマリン!」

「裸の四つん這いでパンドラさんを背中に乗せて戦場へ行くのより?」

「…いや…」

 ユウトは恥ずかしくなりながらパンドラの元へ向かった。

(体が軽い、それに魔力量が違うのかこれ、まるでマリンと合体してるかのような…)

「ユウト、まずは2人を離しパンドラさんを回復させるわよ?」

「ああ、わかってる」

 マリンがユウトの肩からアイリスに向かいアクアバズーカを撃ち、それが直撃する。

「ぐっ、何だいきなり!」

 アイリスは吹っ飛び、変な格好のユウトに驚いていた。

「はぁ、はぁ、下僕…マリンさん、よかった…」

 パンドラがユウトを見て安心する。

 マリンは止まらず水防御魔法を発動した。

「さらに行くわよ!
水防御魔法発動!
「アクアウォール」」

 炎属性と物理攻撃のダメージが通らない水の壁が出来てパンドラを守る。

「マリン頼む…」

「パンドラさん、回復します」

 マリンが回復スキルでパンドラを包み込み傷を癒していた。

「助かりました、マリンさん、ユウト、ありがとう」

(ん?今名前で読んで貰えたような気が…)

「ユウト!パンドラさん!アイリスさんの攻撃がくるわよ!
この水の盾もそろそろ終わるわ!
戦闘再開よ!」

 水が消えた瞬間、パンドラはマリン、ユウト以外に時間停止スキルを使う。

「いないわ!」
「上です!ご主人様!」

 未来を読んでいたからかアイリスは空中で止まっていた、今まさに下に向かい攻撃をする最中のようだった。

「アクアバズーカ!」

 マリンが上空のアイリスに強力な水の砲弾を食らわせる。

 ドラゴンの体に穴が開く威力なのに、アイリスではそうはならなかった。

 しかし、血は吹き出たためダメージがないわけではない。

「炎を纏え!
レーヴァテイン!
「ファイアブースト」」

 アイリスの体が炎を纏いレーヴァテインが真っ赤に輝き出す、それを見たパンドラが青ざめて口を開く。

「アイリスが本気になりました、気を付けなさいユウト!マリン!」

「了解、マリン行くぞ!」

「貫け水の槍!
「アクアランス!」

 マリンの水魔法で出来たまるで渦を巻く水の槍がアイリスに飛んでいく。

 物凄い早さだ、あんなのに当たれば一撃で風穴が空くだろう。

 しかし、アイリスはその水の槍をジャンプして避ける。

「そう来る事も見えていたぞユウト、マリン、この未来予知のスキルでな!
そしてその後に…」

 アイリスが背中に剣を回しパンドラの斬撃を受け止める。

「パンドラ、お前がこう来る事も」

「くっ、流石ですねアイリス!」

 アイリスの剣がパンドラの剣を弾き、お互い距離をとる。

 しかし、アイリスは手を挙げ詠唱している。

「終わりだ!全員燃え尽きろ!
炎魔法
「フレイムアロー」

 すると、空から炎で出来た赤く光る矢が無数に降ってくる。

 パンドラはそれらを剣で捌いて打ち落とし、ユウトもマリンの水防御魔法で防いでいる。

「なんて威力…この鎧があっても辛いな…」

「だったら、ローズマリーさんのスキルを使ってみるわ!」

 マリンがイメージするとアイリスの足下から刃が現れ、彼女を串刺しにしようとする。

 しかしやはり、未来予知の影響か避けられてしまった。

「驚いた、それはローズマリーのスキルか…
普通のスライムがここまで強くなるなんて…」

 アイリスがユウトの肩に乗ったマリンをねらい炎を纏ったレーヴァテインを振り回し、炎の斬撃を飛ばしてくる。

 一発一発がまるでドラゴンの吐く炎よりも威力があった。

 ユウトはデュランダルで炎を切り裂いて防いでいく。

「未来を読むスキルか、厄介だな!」

「ユウト!だったら視界を奪う魔法よ!」

 言われて一つ心当たりがあった。

「行くぞマリン!
闇魔法発動「闇隠し!」」

 ユウトの周囲が真っ暗になり、アイリス周りが見えなくなる。

「くそっ!
これでは周りが!未来が見えても意味が!
いや…!」

「食らえ!10連斬り!」

 ユウトがカジルを真似た新たなスキルを使用し全方位からアイリスに斬りかかる。

 視界が不自由な中、全方位から斬りかかられアイリスは攻撃を受けてしまった。

「受けなさい!
無限の水の砲弾!
「アクアスウォーム」」

 さらにマリンの水魔法が直撃し、アイリスは血を流しながら地面に膝をついた。

「おのれ!
ユウト、マリン!
しかしこの状況まさか…
…」

 真正面からパンドラが現れ、光り輝くエクスカリバーでアイリスを真っ二つに切り裂いた。

「ぐふっ…、やるじゃないか、パンドラ…」

 アイリスは血を垂らしながら胴体が真っ二つになり地面に落ちて死亡する。

 空を見るとガイア帝国の上の魔法陣は消えていた。

「ご主人様!」
「ユウト、マリン、助かりました…貴方達がいなければ私はもう…」
「らしくないわね、パンドラさん、ほら、ヴィクトリア様の所に行くんでしょ?」

 パンドラが涙を拭きながら、たちあがり、ガイア帝国を後にした。


───ミュッドガル帝国────

 ミュッドガル帝国は魔法陣から放たれたビームの影響で既に終わっていた。

 おそらく生き残ったのはベルフェゴールとマーガレットだけだった。

 そして…

「カジル殿…凄い音でしたね…
まさか突然地下の建物が崩れて来るとは…」
「ああ…ってなんだこの状況は!マーガレット様?」

 地下が崩れて出てきたパールグレイとカジルだったが、ベルフェゴールが2人を見て首を振る。

 見るとマーガレットの目に光は無く、すべてを諦めたような表情でしゃがみ込んでいた。

「おい、あれを見ろ!」
「魔法陣から人が降りてきています!」

 ミュッドガル帝国上空に浮かぶ魔法陣から何かが降りてくる。

 それは、アカネ、アザミ、パッシマン、アネモネ、クフェア、ハーピー、ワイトの女剣士、リリス、そして…

「きゃははははっ☆
な~んか、この辺りすっごく臭いんですけど~♪
ねぇ、これって人間の死体の臭い?ねぇどうなの?
答えなさいパッシマン!」

「ああ、ミュッドガル帝国がなんという事だ…しかし…」

「きゃはははっ♪」

 パッシマンの絶望する姿を見て羽の生えた女性が笑っている。

 彼女は「七つの大罪」と呼ばれたかつての魔王の一人、堕天使ルシファーだった。

 金髪の長い髪の美しい女性だが、羽は黒く染まり、狂気に染まった笑みを浮かべている。

「あっれぇ?
あんたベルフェゴールじゃない、どうしてここにいるの?
もしかしてまた私に調教されたいの?
ねぇベルフェゴール、殺して欲しい?
殺して欲しいよね?
だったら今すぐ殺してあげるからこっちに来なさい!」

 いくら美女とはいえ狂気に染まった彼女の言葉と雰囲気に、流石のベルフェゴールですら脅えてしまい後ろに下がる。

「…いや、何故貴様に殺されなければならんのだ、ルシファー…」

「ベルフェゴール殿、あれは、魔王ルシファーなのですか?」

「間違いない、ただ彼女はかつて勇者アトラスに敗北し、死んだはずだ…」

「なるほど、という事はワイトのたぐいかもな、いずれにせよ強いのは間違いない」

 すると、パールグレイが敵の時に人類滅亡の為に完成させたあの銃を取り出し、カジル、ベルフェゴール、マーガレットに渡す。

「これはエルとアールに操られていた私が使っていた武器ですが、今は使えます。
半径3000メートルの大爆発を起こす危険な弾丸ですので必ず距離をとって使って下さい。」

 しかしマーガレットはアカネとアザミ、アネモネ達を見て涙を流していた。
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