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ストーリー

運命の夜

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 強さの格付けが済んだ事で、チームリーダーはシオンという事になった。
 今後誰かが襲われた際は彼女の指示に従い集まることになる。

「まさか、魔王である俺が最弱扱いとはな…」

 健一は納得が行かない様子だったがその日は解散となった。
 そして問題は明日の夜だ、あの着物の女が現れれば誰も手に負えない。

 翔太、和樹、ミサは家に帰るが、皆あまり寝付けなかったらしい。


 そして運命の夜だ…

 未だ断片的な記憶だが、それらが正しければ着物の女が現れて、僕は殺される事になる。

 その日、僕は前から気になっていた美優ちゃんに告白し、返事をもらい、付き合う事になった。
 僕は部屋で彼女と遊び、そして夜、帰す予定だったのだが、20時、例の通り魔殺人事件が近くで起こってしまったらしくパトカーが泊まっていた。
 そのため、美優ちゃんは泊まると言ってきた。

「えへへ♪翔太君がいれば安心だね、変な奴が来ても翔太君ならやっつけられるもんね?」

(うん…まぁ、それが人間ならなんだけど…
多分、これから来る奴は倒すのは無理なんだ…ごめん、美優ちゃん…でも君だけは絶対に守るから)

 僕は頷くと、覚悟を決めた。


 午後23時───

 僕は一睡も出来ないでいた。
 美優をベッドで寝かし自分は周りの気配を気にしている。
 彼女は幸せそうにぐっすり眠り、僕はその寝顔に癒されていた。

「???」

 一階台所付近で音がするので僕は降りて見に行ってみる。

 「お母さん、お父さん…?」 

 すると、そこには…包丁を持ったお母さんが立っていた。

 その先には…

「あぁ…翔…太…逃げ…ろぉ…」

 お父さんは最後にそんな言葉を言い残し、倒れて血を吹き出し、動かなくなった。
 そして、普段とは別人のような母親が包丁を振り回しながら僕に近付いてくる。

「お父さん!お父さん!お母さんもいったいどうしたんだ!」

 叫んでもお母さんは笑い続けているだけで包丁をこちらに向けている。
 傷が治れと父にスキルで命じるが、効果は無かった。
 つまり、この場に僕を上回る魔力の持ち主がいる可能性がある。

「いっ!!!」

 お母さんの包丁が、空中を切り裂いた。
 今もし避けなければお腹を切り裂かれていたかも知れない。

「そ…そんな…お父さんが…お母さん…どうして…」

(いいや、今は美優ちゃんを避難させなければ…)

 僕は母親に背を向けて、二階へ走って上がりパジャマ姿の彼女を叩き起こした。

「うーん、翔太…どうしたの?」
「とにかく大変なんだ!ここにいたら殺されてしまう!僕と一緒に逃げて!」
「え……???」

 まだ寝ぼけていて状況がよくわからないと言った表情だったが、彼女は僕の真剣な表情を見て信じてくれたようだ。

「わかった、どうすればいい?」
「僕にしがみついて、窓から飛ぶよ
「空を飛ぶ」」

 彼女と手を繋ぎ、そう口にすると、二人は夜空を飛んでいった。

「きゃっ!きゃあぁぁっ!!」
「大丈夫、低空飛行だから、今は殺人鬼から逃げないと駄目だ…」

 僕は彼女と手を繋いだまま空を飛び、シオンさんに電話をする。
 状況が普通ではないため、警察を呼んでも無駄だと思い、僕は逃げる道を選んだ。
 そして電話を取ったシオンさんに状況を説明した。

「お父さんが殺されました!何やらお母さんが操られてる感じで…」
「わかった、集合場所は翔太の学校でいいか?」
「はい、お願いします」

 電話を切り、僕は学校のグラウンドに降りた。

「あ、こんばんは」

 魔法使いのコスプレをしたミサが、挨拶してきた。

「ミサさん早いですね、他の方はまだですか?」

 彼女の視線の先、木の影から柏木健一が本を持って現れる。

「やぁ、その子は彼女かい?翔太君やるじゃないか!」
「ええ、まぁ…」
「はじめまして、私、美優って言います。この人たちは翔太のお友達?」
「俺は魔王だ、こっちはミサ、彼女は魔法使いさ」
「魔王??魔法使い?」
「美優、この人、冗談が好きな人だから気にしなくて言いよ。本名は柏木健一らしい」
「そっちはペンネームだ!」

 そんな事を話していると、入り口から太った大学生、和樹がやってきた。
 シオンさんは空からホウキに乗ってやってくる。

「翔太、君の父親が殺されたとのことだが、状況を説明出来るか?」
「はい…お母さんが何者かに操られてるみたいに凶変して、お父さんを刺し殺しました…」
「そんな…そうだったの?翔太…」

 美優が心配しているが翔太は続けた。

「またあの殺人鬼、着物の女がいるのかと思ったのですが、逃げてる最中には現れませんでした…」
「そうだったか、君達だけでも無事で何よりだ…」

 和樹とシオンが会話していると健一が本をめくりながら言った。

「前回と状況が違うな…和樹君は首をはねられていないし、ミサさんは真っ二つじゃない、翔太君も死んでいない。」
「真っ二つとか言うのやめて貰えますか?」
「当然だ、今日一日、和樹を部屋に監禁していたからな。一歩も出していない。」
「はい、監禁されてました…」

 健一の話にシオンとミサ、和樹が答える。
 しかし、僕はこの学校の空気も異様だと感じてきた。
 そこでシオンさんに話しかける。

「シオンさん…」
「ああ、私も感じている、この世のものとは思えない、不気味な雰囲気を…」

 学校の屋上を見ると、満月の光に照らされた赤い着物の女が立っていた。

「あいつがそうなのか?翔太」
「はい、あいつです」

 満月をバックの背景に、月の光に照らされた美しいお姫様のような女が扇子を持ってこちらを見下ろしていた。

「良い月じゃ、そして能力者どものほうから来てくれるとは♪手間が省けて助かるのぉ」

 シオンはこれでも、魔術の勉強をしているうちにギーク王国幹部の実力者の容姿は昔の魔術書を読んで、知っていた。

 ギーク・ハザード、ガーネット・スター、デザート・アジール、デネブ、タニア…

 しかし、その誰とも彼女は一致しなかったのだ。

「つまり歴史に名を残さなかった雑魚か、あるいは下っ端という事か」
「いや、強いですよあの人、気をつけて下さい」



 彼女はこちらに目を写すと、ジャンプをして飛び降りた。
 その高さ六階、本来なら死んでもおかしくなかった。
 しかし普通に着地し、袖の中から刀を二本取り出した。

「妾がギーク王国の名も無き下っ端と言ったか魔女の娘…くっ…あっはっはっはっ♪」

 笑いながら、歩いて間合いを詰めてくる彼女に皆、構えている。
 ミサは魔法陣を地面に描き、シオンはホウキに乗り空へ浮かび上がる。
 健一は本をパラパラめくり始め、翔太は和樹に頼み、彼女、美優を校門の外へ案内して貰った。

 本当は自分が送り届けたかったが、戦力を減らすわけにも行かず、和樹さんにお願いした。

「うわぁ、遅れちゃったわ…ごめんね、シオン」
「大丈夫さ、まだ間に合う。今から彼女を全員で叩き潰すところだ」

 遅れてきて軽い挨拶をする咲と、シオン、健一、ミサ、翔太が並び、目の前の赤い着物のお姫様のような女に構えていた。
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