上 下
6 / 7

5 シーロアの武器屋へ

しおりを挟む
 木々の間を抜けていき、しばらく歩くと雪が踏み固められた道に出る。ここに来るまでの間に「ちょっとトイレ」と言って転移魔法陣でイスタラクシアに戻り、少ない金銭を持ってきた。

 金貨1枚、銀貨5枚、欠銀貨3枚、銅貨4枚、欠銅貨4枚。欠貨は真ん中に穴が空いているもので、それぞれ価値が10倍ずつ上がっていく。

「さ、そろそろシーロアだよ」
「馬車が多くなってきたね」
「それだけお酒が人気なのさ」

 シーロア方面へ向かう馬車も多いが、出て行く馬車も同じくらい多い。アルアンの宿場町と同じなら関税があり、相当潤っていそうだ。

 町の周囲には人2人ほどの高さがある壁で覆われており、幅広な門の前には馬車の行列ができていた。

「この分だとかなり待ちそうですね」
「大丈夫、商人でない僕達は向こうだよ」

 アレンの指差す先には小ぢんまりとした扉があり、そちらの列は殆ど人が居ない。一緒に短い列に並ぶ。

「全然人がいないね」
「仕方ないさ。周囲の宿場町ならほっといてもお酒は手に入るし、お酒を造らないなら宿屋の方が儲けられるしね」
「そうなんだ?」
「シーロアが主導して宿場町へ輸出してるんだ。販売を個人だけに限定させてね」

 聞くと、お酒をかなり格安でシーロアから卸しており、自分で飲むか宿泊客個人への販売以外を禁止している。泊まった商人に味を教えておき、仕入れるならシーロアまで来てね、ということだ。

「へー、上手くできてるなあ」
「ま、そのおかげでこの辺りが栄えてるんだし、言うことは何も無いさ」
「可愛い女の子とお酒も飲めるし」
「そう! やっぱりそこが大事だよね」
「アーリィさんの事はいいの?」
「全部アーリィのためさ。やっぱり男なら、リードしてなんぼだからね」

 そのために経験を積んでるのだという。何処まで本気で言っているのか分からないが、俺としても付き合った女の子にバカにされるようなことはしたくない。なんとしてでも経験・・を積まねば。決して他意はない。

「あい、次の…なんだ、アレンじゃないか。久しぶりだな」
「久しぶり、遠くから僕を呼ぶ声が聞こえてね。つい誘われて舞い戻ってきてしまったよ」
「おめーは相変わらずだなぁ、全く。そっちのは連れかい?」
「その通り。ドジを踏んだバカ親父の武器を買うのと、助けて貰ったお礼の案内を兼ねているのさ」
「フレドです。遊びにきました」
「ははは、えらい直球だな! 入町料は欠銀貨1枚ずつだ」

 俺が懐から欠銀貨を出す前にアレンが支払ってしまった。渡そうとするも、これくらいはお礼のうちと言って受け取って貰えなかった。無碍にするのも忍びないので有り難く受ける。

「……よし、楽しんでこいよ!」

 門番さんは手を振って見送ってくれた。門番といえば無愛想で粗雑な応対を想像していたが、ダンさんといい此処といい、とてもフレンドリーだ。認識を改めなければいけない。

 扉をくぐると、馬車4台は悠々歩ける大通りが出迎えてくれた。出店や屋台で商人と交渉しているところもあれば、馬車に荷を積んでいるところもある。いずれにしても初めてみる光景だ。

「おお、すごい……」
「最初に来た人はみんなそういう反応をするんだよ」

 僕もそうだったからね、とアレンは笑顔でウインクしてくる。確かにアルアンとは雰囲気が打って変わり、賑やかというより忙しなさの方が先に来る。

「先に武器屋へ行きたいんだけど、いいかい?」
「もちろん。どんな武器があるのか興味があるよ」
「狩人はあまり居ないから、大したものは置いてないんだけどね」

 雑談をしながら歩いていると、一人の女性が駆け寄ってきた。ブロンドの間から見えるおでこがチャームポイントの、可愛らしい娘だ。

「アレン! 来てたんだ!」
「サターシャ、久しぶり。僕が居なくて寂しかったかい?」
「とっても寂しかった! お店には寄ってくれるの?」
「もちろんさ。今晩また会いに行くよ」
「うん、それじゃあ待ってるから!」

 走り出そうとした彼女を、アレンが引き止めた。

「おっと、待ちたまえ。お詫びをしないといけない」

 そう言ってポケットから深緑色のペンダントを取り出す。

「サターシャは良く赤色の服を着ていたからね。合うんじゃないかと思ったんだ」
「えっ、プレゼント? ありがとう、嬉しい!」
「君の笑顔が見れて、僕も嬉しいよ。引き止めて悪かったよ、またね」
「うん! ……いっぱいサービスしたげるからね」

 ちゅ、と頬にキスをするとサターシャは走り出していった。彼女が見えなくなったところで、俺へ顔を向けてきた。

「今の子はサターシャ。『いろり亭』の看板嬢だよ」
「おお、本物の看板嬢……」

 会話を聞いている限り明るくて皆から好かれそうな人だった。あの子が看板嬢をしていると思うと、なんだか熱くたぎるものがある。

「さあこんな場所だけど、プレゼントの選び方を教えてあげよう」
「うん、うん」
「さっきの会話の中で気になったことはあるかい?」
「えーと、赤色の服を着ていたってところ?」
「そう! プレゼントを選ぶ時のコツさ」

 アレン曰く、『相手が好んでいる色の物』もしくは『好みの色に似合う物』を選べば間違いないらしい。

「『物を貰う』ということよりも、『自分のために選んでくれた』と思って貰うことが大事なのさ」
「なるほど……」
「それから、ちゃんと渡す時に言うことも大事だよ。女性にとって口にして貰うというのは、それだけ特別な意味を持つんだ」

 それからも口説き方なんかを聞きつつ、武器屋へ行った。

 アレンの言う通り普通の品揃えで、特にめぼしい物は無かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...