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大海原に浮かぶ絶海の孤島に、とある一族が住んでいた。幼少から成人するまでをたった一人で過ごし、成人したら外界から嫁婿を貰い帰って来る。
子供に物心が付いたら両親は文字や発音、料理や情操・常識など基礎的なことだけを教えて島を去る。これを繰り返しているうち、島には帰還の際に持ち込まれた資料や素材が大量に貯蔵されていった。
ではこの一族は孤島で何をしているのか。彼らは魔素・魔力を用いて様々な恩恵をもたらす道具を作る、魔導技法を学んでいた。それも"天空に浮かぶ魔導要塞を作り上げる"という一つのことを目標に掲げて。
そのためには膨大な数の試行錯誤と、常軌を逸した発想による技術開発が必要である。なるべく自分で考え学ぶ力を付け、また既存概念に囚われないためにも親の思想が継がれることは少なかった。
一族はその教育法で成果を上げ、外界とは一線を画す技術力を誇ることに成功する。しかし反面、思想が継がれない弊害もあった。
長い年月が経つにつれて"魔導要塞"という目標が忘れられるという、本末転倒な事態に陥ってしまったのだ。
ある者はポーション研究に傾倒し、雑多な薬草から万能治療薬の量産を成功させてしまったり。またある者は綺麗な花や木々が好きで庭弄りに全力になった結果、そこら辺に世界樹が乱立してしまったり。
宝石や貴金属が大好きだった者が生まれた世代には、島の地質を変成してオリハルコンやアダマンタイトが採掘できるようにしてしまった。
こうして一族は間違った方向へ技術革命を起こし、世界に喧嘩を売り続けた。救いだったのは一族が基本穏やかな思考だったことか。
配偶者と楽しく過ごせればそれで良い。必要な物も大体は自力で何とかできる。必要以上に高い地位や豪勢な生活を求めたりしなかったのだ。
そういった背景も相まってふざけた技術が世に出回ることはなく、後世に住居跡地を発見されては学者に混乱をもたらす程度で済んでいる。
しかし、とうとう先祖待望の麒麟児が生まれてしまった。その名もフレド。
魔導具を作ることに関してだけは、孤島史上に追随を許さない変態である。
* * * * *
「ここの回路を接続して、魔石をはめてっ、と」
俺はフレド。深夜0時現在、誕生日を迎えて30歳になった。正確な日時が分かるのは、先祖が作った魔導日付表があるからだ。1年は12ヶ月、360日。
何を考えたのかこの日付表、録画機能が付いている。624年前の製造日には、ヒゲもじゃのおっさんが『イェーイ、見てるー?^^v』とピースしていた。
それはさておき、今日は俺の誕生日。それも30歳の、キリが良い日だ。魔導具を作ることが趣味の俺は、楽しさの余り20数年間ずっと島に篭っていた。
親に20歳くらいまでには結婚しなさいと言われていたにもかかわらずだ。だから、今日この日に外界へ出ようと決めていた。
「外装に塗装もして、耐変温加工と物理緩衝加工もして」
先祖代々の言い伝えの一つ、『いっぱい作っていっぱい遊ぶ』はやりきった。後やらなければいけないのは『大好きな家族と幸せに暮らす』くらいか。
他の言い伝えは『ご飯は1日3食』とか『植物へ水のやりすぎ注意』、『ポーションは飲料水』『美味しいものはカロリーゼロ』のような変なものばかりだし。
とは言ったものの、島を出る手段を俺は持っていなかった。両親は自作の魔導船で海を渡って行ったけれど、船の造り方なんてわからない。
純アダマンタイトで造ったら沈んでしまったし、反重力装置を取り付けたら宙に浮かんで船の形をした何かになってしまった。
何か無いかと先祖が書き上げた設計図を漁っていると、とても興味深いものがあった。2000年ほど昔の魔導設計盤に、遥か天空を支配できる、空中要塞の構想図が描かれていたのだ。
これだと思った俺は7年前、建造に着手した。書かれたのが遠い昔ということもあり改善点だらけだったが、あれこれ考えながら作っていくのは今までの集大成のように感じられて苦にならなかった。
だが、作っている最中にふと思った。この島にある素材を置いていくのは惜しいと。
趣味で魔導具を作っているからこそ、素材にも凝りたい。言い伝え通り子供を教育のため俗世から切り離したいなら、それが島でも空中要塞であっても似たようなものじゃないかと。
という訳で、島ごと改造して浮遊要塞にしちゃいました。地下から改装し、要塞の上に島が載っている形である。
「最後に魔力循環装置を再確認して……問題ないな。よし、完成!」
《第1から60門セーフティ解除。出力上限30%》
《魔力循環開始》
《反重力装置並びに魔力スラスター充填開始…80…90…100%》
《環境保全機能スタンバイ》
《対物理障壁展開装置スタンバイ》
《魔術兵装チェック…オールグリーン》
《全機能健康度チェック…オールグリーン》
《オープニングチェック全工程完了》
《第61から100門セーフティ解除。出力上限100%》
《スタンバイ・レディ》
2000年の時を超え、魔改造された高機動型浮遊庭園要塞―イスタラクシア―、起動!
子供に物心が付いたら両親は文字や発音、料理や情操・常識など基礎的なことだけを教えて島を去る。これを繰り返しているうち、島には帰還の際に持ち込まれた資料や素材が大量に貯蔵されていった。
ではこの一族は孤島で何をしているのか。彼らは魔素・魔力を用いて様々な恩恵をもたらす道具を作る、魔導技法を学んでいた。それも"天空に浮かぶ魔導要塞を作り上げる"という一つのことを目標に掲げて。
そのためには膨大な数の試行錯誤と、常軌を逸した発想による技術開発が必要である。なるべく自分で考え学ぶ力を付け、また既存概念に囚われないためにも親の思想が継がれることは少なかった。
一族はその教育法で成果を上げ、外界とは一線を画す技術力を誇ることに成功する。しかし反面、思想が継がれない弊害もあった。
長い年月が経つにつれて"魔導要塞"という目標が忘れられるという、本末転倒な事態に陥ってしまったのだ。
ある者はポーション研究に傾倒し、雑多な薬草から万能治療薬の量産を成功させてしまったり。またある者は綺麗な花や木々が好きで庭弄りに全力になった結果、そこら辺に世界樹が乱立してしまったり。
宝石や貴金属が大好きだった者が生まれた世代には、島の地質を変成してオリハルコンやアダマンタイトが採掘できるようにしてしまった。
こうして一族は間違った方向へ技術革命を起こし、世界に喧嘩を売り続けた。救いだったのは一族が基本穏やかな思考だったことか。
配偶者と楽しく過ごせればそれで良い。必要な物も大体は自力で何とかできる。必要以上に高い地位や豪勢な生活を求めたりしなかったのだ。
そういった背景も相まってふざけた技術が世に出回ることはなく、後世に住居跡地を発見されては学者に混乱をもたらす程度で済んでいる。
しかし、とうとう先祖待望の麒麟児が生まれてしまった。その名もフレド。
魔導具を作ることに関してだけは、孤島史上に追随を許さない変態である。
* * * * *
「ここの回路を接続して、魔石をはめてっ、と」
俺はフレド。深夜0時現在、誕生日を迎えて30歳になった。正確な日時が分かるのは、先祖が作った魔導日付表があるからだ。1年は12ヶ月、360日。
何を考えたのかこの日付表、録画機能が付いている。624年前の製造日には、ヒゲもじゃのおっさんが『イェーイ、見てるー?^^v』とピースしていた。
それはさておき、今日は俺の誕生日。それも30歳の、キリが良い日だ。魔導具を作ることが趣味の俺は、楽しさの余り20数年間ずっと島に篭っていた。
親に20歳くらいまでには結婚しなさいと言われていたにもかかわらずだ。だから、今日この日に外界へ出ようと決めていた。
「外装に塗装もして、耐変温加工と物理緩衝加工もして」
先祖代々の言い伝えの一つ、『いっぱい作っていっぱい遊ぶ』はやりきった。後やらなければいけないのは『大好きな家族と幸せに暮らす』くらいか。
他の言い伝えは『ご飯は1日3食』とか『植物へ水のやりすぎ注意』、『ポーションは飲料水』『美味しいものはカロリーゼロ』のような変なものばかりだし。
とは言ったものの、島を出る手段を俺は持っていなかった。両親は自作の魔導船で海を渡って行ったけれど、船の造り方なんてわからない。
純アダマンタイトで造ったら沈んでしまったし、反重力装置を取り付けたら宙に浮かんで船の形をした何かになってしまった。
何か無いかと先祖が書き上げた設計図を漁っていると、とても興味深いものがあった。2000年ほど昔の魔導設計盤に、遥か天空を支配できる、空中要塞の構想図が描かれていたのだ。
これだと思った俺は7年前、建造に着手した。書かれたのが遠い昔ということもあり改善点だらけだったが、あれこれ考えながら作っていくのは今までの集大成のように感じられて苦にならなかった。
だが、作っている最中にふと思った。この島にある素材を置いていくのは惜しいと。
趣味で魔導具を作っているからこそ、素材にも凝りたい。言い伝え通り子供を教育のため俗世から切り離したいなら、それが島でも空中要塞であっても似たようなものじゃないかと。
という訳で、島ごと改造して浮遊要塞にしちゃいました。地下から改装し、要塞の上に島が載っている形である。
「最後に魔力循環装置を再確認して……問題ないな。よし、完成!」
《第1から60門セーフティ解除。出力上限30%》
《魔力循環開始》
《反重力装置並びに魔力スラスター充填開始…80…90…100%》
《環境保全機能スタンバイ》
《対物理障壁展開装置スタンバイ》
《魔術兵装チェック…オールグリーン》
《全機能健康度チェック…オールグリーン》
《オープニングチェック全工程完了》
《第61から100門セーフティ解除。出力上限100%》
《スタンバイ・レディ》
2000年の時を超え、魔改造された高機動型浮遊庭園要塞―イスタラクシア―、起動!
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