上 下
66 / 84

62話コリーとロッソ

しおりを挟む
ーーーーシュッシューーコンコンーーー

『うぅむ…。良い出来じゃ。お前さんも終わりそうかの?』

『ねぇ、なんでずっと何にも聞いてこないわけ?』

『なんじゃ。聞いて欲しいのか?』

『別に…。出ていくだけなんだから…』

それに返答することなくコリーは家具作りを続けていく。様々な道具を出し、わずかなズレもなく綺麗に仕上げられていく家具の数々。
これならあるじも喜ぶだろうなと見ていて思う。

昔何度かキッコリーナには会ったことがある。穏やかでひっそりと山奥に暮らす種族。
自分たちに危害を加えてこない限りは、武器を手に取り攻撃をしない本当に穏やかな種族だった。

自分たちの領域に入られても、害を加えるまでは隠れ静かに待つ。
領域に入られた瞬間に手を出すコランダムシャットとは性格が真逆だ。

『あとは細かいところを仕上げてベット作れば終わりかの』

『あるじが以前、お風呂が欲しいと言っていたわ』

『風呂とはなんじゃ』

『詳しくは知らないわ。あるじに聞いてみたらいいんじゃない』

私は出ていくんだから。ただあるじが欲しいと思うものを一つぐらいコリーに伝えても良いかなと思って言っただけよ。

『ーーーーーほぉ。そうか。そんなものがあるのか。お前さんは物知りじゃの。さすがいろんな種族と一緒にいた精霊じゃて』

『いろんな種族って、ずっと一緒にいたんじゃないの?』

『なんじゃ。出ていく出ていくと言いながら、気になるのかの』

『別に…。興味本位よ』

なによ。出ていく前に聞くぐらいいじゃない…。でも、コリーの言うとおりね。

また、もといた泉に戻ろうかしら。あそこにしか私が生きていける魔力が高い実がないし。ただ、長くは持たないわね…。
もう私の種族はいない。私だけはと生かそうとしてくれた仲間たちには申し訳ないけど、ひっそりと最期を迎えるなら仲間がいた場所がいいわ。

『行くわ』

『そうか。ロッソは鼻が良いかの?』

『匂いに敏感かってこと?』

『そうじゃ』

『なんでそんなこと…。良い方だとは思うけど』

そうかそうかと精霊が話していた、木の香りが強く水に強い木を見つけてきてくれんかのと言われる。
意味が分からない。私よりも木の事はコリーの方が詳しいのだから。

『なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ』

『最後に主人に何か残していきたいじゃろ?』

『別にそんなつもりないわ。それに、木はコリーの方が詳しいじゃない。あなたが行くのが適任よ』

『そうしても良いんじゃが、まだ家具が出来ていない。主人が戻ってきて出来てないのは従魔として情けないからの。ロッソがどうしてもイヤじゃと言うなら、今やってることを放り投げて行ってくるが?』

はぁ…。あるじには助けてもらった恩がある。
それを返しきれるわけではなかったけど、あるじが求めてる風呂を作ろうとしてるなら、最後に残して出ていくのが良いのかもしれないわ。

『わかったわ。でも、匂いを感じ取れても水に強いかどうかなんてわからないわ』

『精霊を連れていけ。役に立つはずじゃ』

『それなら、少しの間借りるわ』

精霊が行こう行こうとあたしの周りをくるくる回っている。
ルピも最近はあたしにくっつくことが増え、その温もりが心地よかった。あるじの小さいながらも優しい手で頭をなでられるの好きだった。

最近のあるじは、今日ほど強く言われることはなかったけど、私に対してダメということが多かった。私がいても邪魔なだけなのかもしれないわ。

『私には匂いを感じ取るぐらいしかできないから、あんたが良いか悪いか決めてよね』

ーーー大丈夫ーーーと精霊が返してくれるため、香りが強い木を求めて森の中を駆け回る。
それにしてもこの精霊。私が見たことがないタイプの精霊ね。
自我を持つ精霊はいたけど、ここまで魔物や人に懐く精霊なんて見たことないわ。私の世界が狭いのかしらね。

『これは?』
ーーー違うーーー
『こっちは?』
ーーー違うーーー
『これならどう!?』
ーーーそれも違うーーー

さっきから何本も香りが強い木を見つけては聞いても、違う違う違う!っていったいどれなのよ!?
フワリと精霊がさらに奥の森を指し、あっちにある木が良さそうと言ってくる。

あっちってあそこはここら辺より魔素が強いのよ。それに思った以上に遠くに来てしまった。
数匹単位で魔物の相手をするのは良いけど、精霊が指さす方向は縄張り意識が強く、強い種族が多い。
百匹単位で来られるのは骨が折れる…。はぁ…。でも、最後に残すものなんだから良いものの方が良いわよね。

『あんたも魔物の相手しなさいよ!』

その森に踏み込んだ瞬間に、強い魔素のせいか空気が重く息がしづらい。ただしづらいだけで出来ないわけじゃない。
あとは、森の外からでも視線は感じていたけど入った瞬間に敵意丸出しとはね…。
あたしも最初あるじ達に会った時にこうだったのかしらと思うと、ここにいる魔物と似たようなものね。

『ッチーーー!!』

直接襲い掛かるわけではなく、遠くから見つからないように攻撃をしかけてくる魔物が多い。
それに対処しつつ、出てくる魔物の相手。

辺り一帯に幻影をかけ濃い霧を発生させる。この森の魔素のおかげで、霧も濃くなってるしあたしを見つけにくいはずよ。
あたしからも相手の魔力を感知しづらくはなったけど、近くまでくればわかるから良いわ。
何度か出てくる魔物を倒しては、目的の木を探す。

ーーーこれーーー
『この木?たしかに香りが強いわね。アイテムボックス無いし、切り落としたら浮かせて持ってくしかないわね』

ザシューーー

この辺りで一番大きな木を伐り、倒れる前に魔法をかける。木々がお生い茂るこの中を運ぶのは無理ね。
森の上に出れば運ぶのは容易だけど、それだと霧がかかってないから攻撃受け放題ね…。

『精霊、あんたこの木を持てない?私が攻撃と防御に徹するから』
ーーー持てるけど、ここまで大きいと全部守り切れないーーー
『持てるならそれで良いわ。私がその周囲を守るから。多少は枝が折れても文句なしよ』

森の上に出て姿が見えると同時に、先ほどの攻撃が待ってましたと言わんばかりに降りかかってくる。
ちょっと待ってよ!木には傷つけさせないんだからね!!木を守るために防御メインで木を守る。

どうにかその領域を抜ける頃には、いたるところに切り傷ができていたけど、すぐ治るから別にいいわ。コリーも面倒な木を取って来いと言ったものね。でも、これで最後にあるじに良いものが残せるわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました

Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。 実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。 何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・ 何故か神獣に転生していた! 始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。 更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。 人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m なるべく返信できるように努力します。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

召喚されたけど不要だと殺され、神様が転生さしてくれたのに女神様に呪われました

桜月雪兎
ファンタジー
召喚に巻き込まれてしまった沢口香織は不要な存在として殺されてしまった。 召喚された先で殺された為、元の世界にも戻れなく、さ迷う魂になってしまったのを不憫に思った神様によって召喚された世界に転生することになった。 転生するために必要な手続きをしていたら、偶然やって来て神様と楽しそうに話している香織を見て嫉妬した女神様に呪いをかけられてしまった。 それでも前向きに頑張り、楽しむ香織のお話。

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!

モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。 突然の事故で命を落とした主人公。 すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。  それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。 「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。  転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。 しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。 そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。 ※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

処理中です...