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52話ドメイツ

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キョトンとした顔で僕を見てくるリリー。

「ハヤト?」

「そうだよ。僕の名前はハヤト。それと右にいる子がルピ。左にいるのがロッソだよ。僕達に出来ることがあるなら、少しは協力するよ。無理は聞かないよ?」

「いいの?」

「このまま別れても後味が悪いからね」

僕の言葉を聞いて、ありがとう。それなら善は急げね!と制約の指輪に今後僕達から見聞きしたものはトリアーズ家は一切の口外をしないと告げる。
そうするとリリーにだけではなく父親にも制約の証が出た。

お父様が喋れば水の泡になるわ!制約の指輪は血縁者であれば、その人にも制約が付くからありがたいわとさらっと言う。
父親は、お前制約なんてまた勝手にそんなことをして‼︎と言ってきたが、お父様は黙ってなさい!の一言で口を閉じた。弱いな父親。

「とりあえず立ち話もなんだ。建物の中へ入ろう」

リリーの父親、ドメイツさんが立ち上がると建物の中へと招かれる。建物は窓を多くとっているおかげか、日差しが多く入りとても明るかった。

「今回は見苦しいところをみせて申し訳なかった」

「いえ、僕は大丈夫ですけど、大丈夫ですか?」

「娘がこんなに思い悩んでいたとは知らず、私が塞ぎ込んでいたせいで迷惑をかけてしまった」

ドメイツさんは元々は領主ではなかったそうだ。Aランクの冒険者として当時はそれなりに名前を知られてはいたらしい。
冒険者として活躍をしていた時にララノアさんと出会い、お互い冒険者ということもあり一緒に依頼をこなしていくうちに恋仲になりリリーを授かった。

「妊娠が分かった時にはとても嬉しかった。すぐにララノアの実家に一緒になる許可を貰いに行こうと言った。しかし最初あいつは頑なに帰るのを拒んでな」

「なにか原因があったんですか?」

「わかってるかもしれないが、ララノアはこの街リュウセルの領主の娘でな。ララノアは兄と犬猿の仲らしく、帰れば嫌な思いをさせるだけだと帰りたがらなかった」

ララノアさんは街にいる頃、厳格な父に女は外に出るもんじゃない。
嫁に行って恥ずかしくないよう教養を身につけることだけを考えろと、建物の外へ出ることを止められていた。

逆に兄は領主になるのだからと、遊びたい盛りに厳しい勉強に訓練。友人さえ父親から選ばれていたそうだ。
外へ出かけることが多い兄に建物から出れないララノア。
自分だけ父親に厳しくされていると感じていた兄は、建物の中でかくまわれ甘やかされてるように見えたララノアが羨ましかったんだろう。会えばひどく冷たかったらしい。

「会って話し合えばわかるもんじゃないですか?」

「ララノアの兄はほとんど寝るとき以外は建物にはいなかったそうだ。各ギルドに回って勉強し、弱くては己どころか街も守れないと戦闘訓練もあったそうだからな。近づきたくないのもあったんだろう」

「けっこう、ハードな生活だったんですね。僕にはついていけそうにないです…」

お互い会って話す機械もないまま年月だけが経って行き、成人を迎える16歳になった年にララノアが冒険者になると言い始めた。
父親も母親も止めたそうだが、兄だけは社会勉強をしてこいと言ってくれ、賛成してくれてるものだとばかり思っていた。

しかし家を出る時に兄から投げかけられた言葉は、役にも立たない金食い虫がいなくなって清々すると投げ捨てるように言われた。
冷たかったのは厳しさではなく、嫌われていたのかと知ったララノアさんは、家を出た後寄り付かなくなったそうだ。

元々勇者の末裔で才能もあったらしく、めきめきと力を伸ばしSランク冒険者になった頃にワシと出会ったのさ。

「そんな話し私初めて聞いたわ。お母様にお兄様がいたなんて。お会い出来ないのは、お母様の娘だから?」

「ララノアの兄は、ララノアと同じ病気で亡くなってしまったんだ。ララノアが家を出て8年後の事だったらしい。」

「それが帰るきっかけにはならなったんですか?」

ララノアさんも亡くなっているとは戻るまで知らなかったそうだ。
まだその頃はララノアさんの父親が領主の役割を果たしていたし、冒険者として有名になっていく娘を呼ぼ戻すのに躊躇していたらしい。

あとは息子が死んだと知れ渡れば、領主亡き後街はどうなるんだと人々を不安にさせかねないため、気軽に伝達をすることが難しかったようだ。
当時はよくダンジョンに潜っていたから、呼び出しがあっても気づけたかはわからないがな。

しかしララノアの父も同じ病に倒れ、母親が初めてララノアに父が倒れたとだけ伝達を出した。
兄も亡くなったと伝えなかったのは、どこかから漏れて街の不安を大きくさせないためだろう。
その頃にちょうどお前を授かってな。帰るのを嫌がっていたが、父親が倒れたと聞けば帰らないわけにも行かないだろう。

「それで帰ってお母様のお兄様が亡くなったのを知って、お父様が倒れたのを見たのね?」

「そうだ。母親は後を継ぐ兄も亡くなり先がない父親の代わりに、冒険者としても名があるララノアに領主を継いでほしいと言ってきた」

「お母様は嫌がったの?」

「良い思いではないからな。しかし街と家を見捨てることは出来ない。冒険者として築いた思いも捨てたくない。そんな思いで悩んでいたララノアに、お前が生まれた街だ。ワシで少しでも負担を背負えるなら背負わしてほしいと。ララノアの夫としてワシが名目上は領主になったんだ」

ララノアさんは陰でドメイツさんを支えながら、冒険に行けないなら冒険者に役に立つことをしたいとお店を開いたらしい。
ドメイツさんも、日々慣れない領主の仕事を勉強しながら打ち込み、街の人にも徐々に受け入て行ってもらえたそうだ。

そうして何もかもが上手くいってると思っている矢先に、ララノアさんが亡くなってしまった。

「ワシは不安だった。お前までいなくなってしまったらどうしたら良いんだと。ララノアはワシを支え冒険者を支えようと頑張っていた。その結果がこれなら冒険者なんか来なくていいと塞ぎ込んでしまった…」

「それで街に冒険者が来ないように仕向けたんですか?」

「そうだな…。ララノアの死に対して、何かにあたらなければやっていけなかった。冒険者を理由にして全ギルドに買取をしないよう伝えた。最低限の領主の仕事をこなし、悲しみに閉じこもってしまった。それを娘に諭されるとは、恥ずかしい限りだ」

これからは娘に恥ずかしくない背中を見せなくてはなと、どこか吹っ切れたような顔を見せてくれたので大丈夫だろう。リリーも父親の顔を見てホッとしていた。
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