上 下
52 / 84

50話リリーの話②

しおりを挟む
「制約の指輪に誓うわ。だから教えてもらえないかしら?売値より互い値段で買うんだから、悪い話じゃないと思うけど?お金はあって困るものじゃないわ。この際仕入先も聞かないわ」

「いや…えっと…」

「指輪の力もわからず制約と言われても困るわよね。これは…」

僕が割り込む隙も無い勢いでリリーは話し始め、あっというまに制約の指輪に誓ってしまおうとしようやく止まった。

「私、あなたの名前を知らないわ。名前を知らない相手と制約は結べないじゃない」

「はぁ…。君ってかなり突っ走るタイプなんだね。そうやって何人にも誓いを立てたの?」

「失礼ね。そんな誰彼構わず立てないわ。今回は私の勘が手放すなと言ってるのよ。強い従魔。簡単に手に入らないポーション。これから将来がありそうな人物。商売人として繋がりを持っておいて損はないわ」

「でもねぇ…」

彼女が自分が今後どれだけ有益な人間かをその後も永遠と説明される。

簡単にまとめると、将来は母親に負けない繁盛店を作ること。
街の活性化を目指し人々が暮らしやすい街にしていきたいこと。
可能ならば戦争を止めるだけの力を身に着けたいけど、それはまだ夢物語ね…と話していた。

「すごい話しをしてるのはわかるよ。でも、僕は奴隷を簡単に買って街の外に出るリリーの危うさが怖いよ。それに人の命を大事にしてないように見える」

「あの時は…あの時は仕方なかったのよ!このままでは街がどんどん衰退していく。冒険者を受け入れなければ街にお金も落とさない…」

街の人々はどんどん衰退していく街に危機感を感じ、危険を顧みず家族を連れて他の街へ移住する人。
病気や小さな子供がいる家は街からは出ず、少しでも割が高い仕事をと外へ出稼ぎにいくものもいるそうだ。

そこで捕まり身ぐるみ剥がれ殺されるものもいれば、高い仕事をやろうと、できない仕事を押しつけられ契約違反だと奴隷として売られるものもいる。
リリーが今回買った奴隷は、多分そんな人たちだったらしい。

「多分って。それなら、買って解放してあげればいいんじゃないの?」

「最初はしたわよ。手の届く範囲でも助けたいって思ったのよ…。でも、ダメだった。私に奴隷を見る目はないわ。この街全ての人を把握してるわけじゃないし、奴隷になれば身分証は無くなるから彼らの言い分を信じるしかなかったのよ」

奴隷になれば身分証明書は無くなり、ただの物のように売られる。
街が衰退を始めた時に街にいる女性から、旦那が街の外に出て仕事が契約違反だと奴隷落ちした。
Sランク冒険者と領主の娘なら助けてもらえないかと泣きつかれたそうだ。

え?領主の娘なの!?面倒くさい話にならないと良いんだけど。

そこで初めてその事実を知り、慌てて奴隷商に行き奴隷を見た。みんなが必死で自分はこの街にいる人間だ。不当な理由でここにいる。助けてほしいと懇願された。
さすがに全員は無理だったため、家族が街にいると言った数人を買って解放したそうだ。

しかし、解放した人間で家族の元に戻ったという話は一切出なかった。逆に犯罪を犯し再度奴隷落ちしたという話は耳に入ったそうだ。

解放をしてほしいと訴えた女も、父親からお前が出した男の1人は女と二人連れで冒険者を貶める犯罪者の1人だ!
それに街の人間が奴隷落ちした場合、別の街に売られることが多い。家族が奴隷商を襲ってくる可能性を防ぐために。
余計なことはするな!と強く怒られたらしい。

「それからは、奴隷を買わなくなったわ…。ただ、もう限界に近付いているのよ。だから、今回奴隷を買って街を出たのよ」

「よくそんなことがあって、お父さんからお金取り上げられなかったね」

「お母様が私に財産を残すよう書いているからよ。法で亡くなった人が財産の譲渡先を示した場合、身内であっても手を出せば制裁が下るわ」

「でもそれって、リリーに権限はあるけど管理はお父さんがしないの?」

「そうしてる家もあるわね。本当に小さな子供に残されることもあるから」

リリーも最初は管理を父親に任せたそうだ。けど、お母様が亡くなってお父様は本当に変わったわ。冒険者に少しでも良いものをと働き過ぎた結果がこれだ。
それなら、街に冒険者なんか来なければいいと腑抜けていく父親を見て、管理も私ができるよう手続きをしたのよ。

権限がある私が管理をしたいと申し出るんだから、すぐに私の手元にお金は戻ってきたわ。

「それで、リリーはそのお金で何がしたいの?今後も奴隷を買っては外に出て、また危ない橋を渡るの?」

「できればしたくないわね。でも、私はこの街を守りたいのよ!私が育ってきて、お母様が愛したこの街を。できれば、お父様にも目を覚まして欲しいわ…」

『あるじ、街の外が騒がしいわよ』

「え?」

街の雰囲気がなにかおかしいとロッソが伝えてくる。僕起きたてなんだけど…




しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

召喚されたけど不要だと殺され、神様が転生さしてくれたのに女神様に呪われました

桜月雪兎
ファンタジー
召喚に巻き込まれてしまった沢口香織は不要な存在として殺されてしまった。 召喚された先で殺された為、元の世界にも戻れなく、さ迷う魂になってしまったのを不憫に思った神様によって召喚された世界に転生することになった。 転生するために必要な手続きをしていたら、偶然やって来て神様と楽しそうに話している香織を見て嫉妬した女神様に呪いをかけられてしまった。 それでも前向きに頑張り、楽しむ香織のお話。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

神に愛された子

鈴木 カタル
ファンタジー
日本で善行を重ねた老人は、その生を終え、異世界のとある国王の孫・リーンオルゴットとして転生した。 家族に愛情を注がれて育った彼は、ある日、自分に『神に愛された子』という称号が付与されている事に気付く。一時はそれを忘れて過ごしていたものの、次第に自分の能力の異常性が明らかになる。 常人を遥かに凌ぐ魔力に、植物との会話……それらはやはり称号が原因だった! 平穏な日常を望むリーンオルゴットだったが、ある夜、伝説の聖獣に呼び出され人生が一変する――! 感想欄にネタバレ補正はしてません。閲覧は御自身で判断して下さいませ。

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!

モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。 突然の事故で命を落とした主人公。 すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。  それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。 「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。  転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。 しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。 そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。 ※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

異世界生活物語

花屋の息子
ファンタジー
 目が覚めると、そこはとんでもなく時代遅れな異世界だった。転生のお約束である魔力修行どころか何も出来ない赤ちゃん時代には、流石に凹んだりもしたが俺はめげない。なんて言っても、魔法と言う素敵なファンタジーの産物がある世界なのだから・・・知っている魔法に比べると低出力なきもするが。 そんな魔法だけでどうにかなるのか???  地球での生活をしていたはずの俺は異世界転生を果たしていた。転生したオジ兄ちゃんの異世界における心機一転頑張ります的ストーリー

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

処理中です...