異世界・野獣暴れ旅 ~スローライフに憧れて~

送り狼

文字の大きさ
上 下
83 / 84
第5章 新興勢力

第107話 秒読み

しおりを挟む
「良い結果となるよう尽力いたしましょう」

 人を惹き付ける笑顔を見せて、司祭が頷く。

 通常の洗礼の儀であれば、聖マリアン教会の入信の許可に加え、魔力の有無や属性の確認も行う。

 司祭の能力次第で魔力感知に差異が出るための言葉だが、エランは言葉そのままに受け取らなかった。

「立ち話も何ですので、一度拙宅でおくつろぎ下さい」

「いやいや、時は有償と申します。早速洗礼を・・・」

 度重なる懇願に折れた形を見せ、司祭は村長の言葉を受け入れ、案内に従うように村長宅へと向かう。

 その表情に微かな苛立ちを見て取り、エランは第一段階の成功に安堵する。

 これで今晩の襲撃の可能性は低くなった。

 あとは司祭行動を監視して、外との接触を断てば良い。

 監視は他の者を使う訳にもいかず、エラン自身と父親が交代でするしかないが、直接的な接触以外の伝達方法など限られている。

 司祭護衛の名目である、自警団の立哨に声を掛けて回り、エランは時間との勝負を強く意識する。




 夕刻近くなり、洗礼の儀が滞りなく終了し、村人に説教を施した後は村人を交えて宴会となる。

 司祭はしばらく宴会に参加し、頃合いをみて席を立つと、そのまま村長宅へと促されるまま入っていった。

 その間不審な行動は確認出来なかった。

 完全に外との接触は諦めたのだろうと、一人胸を撫で下ろすエランだった。

 宴会場の篝火に火が入り、影の濃淡が顕著になる。

 エランは宴会に参加した自警団員に警備の交代を命じ、自身も村の外周を警戒しようと振り返った。

「ーーーっ!?」

 咄嗟に剣に手を掛ける。

「よう」

 エランが抜く前に、後ろに立つ人影はその柄頭を押さえ、イタズラが成功したと破顔していた。

「クレーーー!?」

 思わず声を上げようとしたエランの口を押さえ、クレイはクツクツと笑ったあと、顎で場所変えを促す。

 先には父親が右手で額を押さえて嘆息していた。



「家の者は?」

「一応、弟の家へやってます」

 暗い室内でテーブルに着き、クレイたちは声を潜めて話し始めた。

 家族には暗くなったら弟の家へ行くように指示していたのは、もしもの時に守り易くするためであった。

 ハンターたちが襲撃を強硬した場合を考えての措置だった。

 全滅のリスクはあるが、分かれて人質に取られるリスクは無くなる。

「ーーーそうか。では・・・ヤメだヤメ!暑苦しくて敵わん!」

 声を殺すため、テーブルに前のめりで話していたクレイが、突然上半身を反らして声を上げる。

「クレイ様!?」

 クレイの挙動に、エランは困惑していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

処理中です...