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第4章 冒険者

第91話 新通路

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 新しいダンジョンであればいざ知らず、ある程度階層を重ねたダンジョンの浅い階層で、新しい通路が出来る確率はほとんど無かった。

 まったく無い訳でもないが、ビアンカに取っては予想外の、危機的状況である。

 新しい通路の誕生は単に路が出来るだけではなく、魔物溢れの危険をはらむ事態でもある。

 通常生まれたら階層を徘徊し始める魔物だが、出口の無い路に生まれる魔物はその場所に留まるしかなく、時間を経るに従いその数を増やしていく。

 早い段階で新しい通路が開けば魔物の数も多くは無いだろうが、新しい通路に溢れる程魔物が生まれていれば、紛れもなく脅威となる。

 予兆として生まれる魔物の減少があるものの、浅い階層では通過する冒険者が多いコトから感知もし難い。

 事前情報として魔物の減少を受けていなかったビアンカは、比較的短期間での新路開通を一縷の望みとしたが、そんな楽観的な希望は捨てないと死ぬと考えを改めた。

 冒険者は最悪を考えて行動してちょうど良いのだ。

 僕は僕で、ビアンカの尋常ならざる表情に、事態が逼迫していると感知していた。

「シチロー、魔法は?」

「使えません」

「だよね~。私も~」

 先手必勝で一発魔法でもブチ込めばと考えたのだろうが、僕もビアンカも生粋の前衛職だった。

「こりゃ出てくる傍から斬ってくしかないねぇ・・・。その間に誰か来てくれれば恩の字だぁねぇ」

 ビアンカの口調が間延びしたように変わる。

 浅い階層なら他の冒険者が通り掛かる確率も高い。とすれば、自分たちはそれまで時間稼ぎをすればイイ。

 ビアンカはそう割り切り、覚悟を決めた。

「シチロー、私が打ち洩らした分だけお願いね」

「無理」

 僕は一言だけ告げ、スタスタと新しい通路に向かって行った。

 ビアンカは一瞬呆然となりながら、すぐに気を取り直して僕を止めようと腕を伸ばすが、手は僕を掴むコトなく空をきる。

「シチロー!!」

「そりゃ僕の仕事だ」

 崩れた壁から覗く、ゴブリンの顔面に剣を突き立てる。

 倒れながら壁を大きく崩したゴブリンの背中を踏み付け、僕は新しい通路に足を踏み入れる。

 ゾンビ映画によくあるシチュエーションを思い出す。

 ドアを押し開け溢れるゾンビってヤツ。

 今はゴブリンオンリーだ。

 耳障りな声も既に聴こえないくらい集中すると、ゴブリンの動きもゆっくりしたモノに見える。

 僕は先頭のゴブリンの首を斬り、隣のゴブリンの胸を突くと剣を捻って抜く。

 突いたまま抜こうとすれば、筋肉の抵抗で余分な力がいるため、捻るコトで抜け易くするのだ。
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