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第3章 鍛練

第53話 一刀両段(古式)

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「あれ?」

「どうした?」

 一刀両段の勢法を繰り返しながら、僕はすっとんきょうな声を上げた。

「コレ、一刀両段・・・だよね?」

 僕の疑問に、クレイは嬉しそうな、それでいてワクワクしてそうな顔を見せる。

「それが?」

「新陰流の一刀両段って、車から入るんじゃなかったっけ?」

「ほぅ?」

 そう。確か、半身で車に構えてて、何でコレに一刀両段って名前にしたのか不思議だった記憶がある。

「そりゃ古式だな。上泉信綱公が考案したそのままの勢法だ」

「んじゃ、今やってるコレは?」

「少しいじってみた」

 少しって・・・全然別物じゃないか。

 はにかむようなどや顔に多少イラつきながら、僕は手を休めてクレイを見た。

「勢法の基本は変わらんよ。後の先で相手の太刀を弾いて斬る」

 いや、そりゃそうだろうけれども。

「シチローが知っている一刀両段は・・・」

 クレイはそう言いながら、僕に上段からの斬り込みを指示する。

 自身は半身で腰を落とし、車の構え・・・刀身を寝かせて右側に流すように構える。

 脇構えと言うヤツだな。

 僕はさっき習っていた一刀両段の素振りをするような感じで、一歩踏み出して竹刀を振り下ろした。

 驚かすつもりで、割りと本気の振り下ろしだった。

「痛い」

 パァンと快活な音が響き、僕は顔をしかめた。

 クレイの竹刀が僕の右手の親指を叩いていたのだ。僕の竹刀はクレイの左側に流されていた。

 速すぎてよく分からなかったが、弾かれたようだ。

 クレイが身体を開いた瞬間、40度くらいの角度で竹刀が飛んできたのまでは判ったが、その後は結果として竹刀の先が10センチ程、僕の右手に乗っていた。

 鋭い痛みとともに。

 て言うか、痛みは必要あるのか?

「古式は介者剣法でな、ちょっと技術がいる」

 だろうね。僕みたいな素人の切り落としと、太刀に馴れた兵法家だと、雲泥の差があるだろう。

 脇構えからの小手と上段切り落としだと、単純に上段の方が速く相手に届く。

 しかも後の先の手である。

 それこそ間合いがきちんと取ってあり、動き始めを察知出来、脳の認識と身体の動作に誤差が少なくなければ、相手に乗り勝つコトは出来ない。

 介者剣法というだけあって、鎧兜で完全武装した相手を想定してあるのは、待の姿勢から明らかである。

 てコトは、こちらが本当の上泉信綱が考案した勢法ってコトか。




 二人は知らないが、実はクレイが使った一刀両段は、柳生連也斎厳包が考案したモノと同じだった。
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