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麻衣子さん視点
07.「エステ」と変態の動揺
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「須藤さん」
作成した書類を提出しに来た麻衣子を呼び止めた坂田部長は、じっと彼女の顔を見詰めてからおもむろに口を開いた。
「ちょっといい?」
社内でも数少ない女性管理職の坂田部長の表情から、もしや斎藤課長との関係が知られてしまったのかと、緊張で麻衣子の手足が冷たくなってくる。
「今週末って何か予定はあるの?」
「いえ、特には」
麻衣子からの答えを聞いた坂田部長は、表情を崩してにっこりと笑った。
「良かったー。実はね、私の姪が働いているお店で無料キャンペーンをやるらしくて、紹介チケットをあげるから行ってみてくれない?」
言いながら坂田部長はデスクマットから取り出したピンク色のチケットを麻衣子へ渡す。
手渡されたお洒落なロゴが入ったチケットには、エステ店の名前が印字されていた。
「エステ、ですか?」
「前に、脱毛器が壊れたからエステに行こうかって、脱毛に興味があるって言っていたじゃない。体験だけで入会しなくてもいいから、行ってあげて欲しいのよ。お願い」
「う、体験だけでいいなら……分かりました」
両手を合わせて言う坂田部長のお願いを断ることは出来ず、麻衣子は週末の無料キャンペーンへ行くことを了承してしまった。
週末のエステへ行く話をどう切り出そうか迷っているうちに終業時刻は過ぎていき、いつも通りメッセージアプリで隼人から待ち合わせ時刻と場所について連絡が来ると、麻衣子は残業を終わらせて帰り支度を始めた。
待ち合わせ場所の駐車場で合流した二人は、当然のように隼人の自宅マンションへ向う。
「今週末のラーメンランチは急用が出来たため行けません」
夕飯を食べ終わり食後の珈琲を淹れて、ようやく麻衣子は切り出した。
「えっ!? 俺とのラーメンランチよりも大事な予定が入ったの!? それとも、ラーメンよりも美味しい物を食べたくなったとか!?」
テーブルに手をついた隼人は身を乗り出して勢いよく問う。
「違います」
「良かった」
ホッと息を吐き、マグカップを手に取った隼人は珈琲を一口飲んだ。
「週末は坂田部長の姪っ子さんの働いているエステに行くことになりました」
「ぶっ!!」
勢いよく隼人の口から吐き出された、珈琲の茶色いしぶきが周囲に飛び散る。
がちゃんっ!
隼人の手から離れたマグカップがけたたましい音を立ててフローリングの床へ落ちる。
床へ散らばる破片と零れた珈琲には目もくれず、口から珈琲を垂らして大きく目を見開いた隼人は全身を激しく震わし、麻衣子を凝視した。
「なん、なっ、なんだって……」
「ちょっ、隼人さん?」
顔色を青くして体を震わす隼人の、瞳孔が開いてしまっているのでは無いかと不安になるくらい目を見開いた尋常ではない彼の様子に、思わず麻衣子は後ろへ下がる。
がしっと両肩を掴まれて「ひっ」と、引きつった悲鳴が出た。
「部下にパワハラしてエステへ行かせようとするなんて! 行かなくていいよ麻衣子さん! もしも断ったことで今後の人間関係が不安なら、俺が全力で出世してあの女を蹴落としてやるから!! 半年、いや三か月あれば、必ず部長?まで出世して麻衣子さんに手出しさせないようにするから!!」
血走った眼を見開いて、隼人は捲し立てるように一気に言い放つ。
「ええ? パワハラって、蹴落とすって、何言っているの?」
明らかに言動がおかしなことになっている隼人から逃げたいのに、彼の指は両肩に食い込むほどの力で掴まれていて逃げられなかった。
「はぁはぁ、坂田部長には俺から話を付けるから、エステになんか行かなくてもいい」
「ちょっ、ちょっと待って!」
今から坂田部長の自宅へ殴り込みに行きそうなくらい据わった目をした隼人の腕を両手で握り、麻衣子は必死で彼を引き止める。
「部長には新入社員の頃からお世話になっていて、これくらい私は別にパワハラだなんて思っていないの。それに、無料体験くらいなら行ってもいいじゃない」
「駄目だ! 麻衣子さんはお人よしだから断れ切れずにエステに入会させられてしまう! どうしても行きたいなら俺も一緒に行く!」
「えぇー!?」
メンズエステではなく女性専門エステに、心配だからという理由でも彼氏(仮)と一緒にエステに行くのは躊躇する。それに、働いている姪っ子さんの口から斎藤課長との関係が坂田部長へ伝わるかもしれない。
「俺の理想的な足の毛を脱毛されてしまったら困るんだ」
溜息混じりに呟かれた隼人の一言。
彼の腕を掴んでいた麻衣子の動きがピタリと止まった。
作成した書類を提出しに来た麻衣子を呼び止めた坂田部長は、じっと彼女の顔を見詰めてからおもむろに口を開いた。
「ちょっといい?」
社内でも数少ない女性管理職の坂田部長の表情から、もしや斎藤課長との関係が知られてしまったのかと、緊張で麻衣子の手足が冷たくなってくる。
「今週末って何か予定はあるの?」
「いえ、特には」
麻衣子からの答えを聞いた坂田部長は、表情を崩してにっこりと笑った。
「良かったー。実はね、私の姪が働いているお店で無料キャンペーンをやるらしくて、紹介チケットをあげるから行ってみてくれない?」
言いながら坂田部長はデスクマットから取り出したピンク色のチケットを麻衣子へ渡す。
手渡されたお洒落なロゴが入ったチケットには、エステ店の名前が印字されていた。
「エステ、ですか?」
「前に、脱毛器が壊れたからエステに行こうかって、脱毛に興味があるって言っていたじゃない。体験だけで入会しなくてもいいから、行ってあげて欲しいのよ。お願い」
「う、体験だけでいいなら……分かりました」
両手を合わせて言う坂田部長のお願いを断ることは出来ず、麻衣子は週末の無料キャンペーンへ行くことを了承してしまった。
週末のエステへ行く話をどう切り出そうか迷っているうちに終業時刻は過ぎていき、いつも通りメッセージアプリで隼人から待ち合わせ時刻と場所について連絡が来ると、麻衣子は残業を終わらせて帰り支度を始めた。
待ち合わせ場所の駐車場で合流した二人は、当然のように隼人の自宅マンションへ向う。
「今週末のラーメンランチは急用が出来たため行けません」
夕飯を食べ終わり食後の珈琲を淹れて、ようやく麻衣子は切り出した。
「えっ!? 俺とのラーメンランチよりも大事な予定が入ったの!? それとも、ラーメンよりも美味しい物を食べたくなったとか!?」
テーブルに手をついた隼人は身を乗り出して勢いよく問う。
「違います」
「良かった」
ホッと息を吐き、マグカップを手に取った隼人は珈琲を一口飲んだ。
「週末は坂田部長の姪っ子さんの働いているエステに行くことになりました」
「ぶっ!!」
勢いよく隼人の口から吐き出された、珈琲の茶色いしぶきが周囲に飛び散る。
がちゃんっ!
隼人の手から離れたマグカップがけたたましい音を立ててフローリングの床へ落ちる。
床へ散らばる破片と零れた珈琲には目もくれず、口から珈琲を垂らして大きく目を見開いた隼人は全身を激しく震わし、麻衣子を凝視した。
「なん、なっ、なんだって……」
「ちょっ、隼人さん?」
顔色を青くして体を震わす隼人の、瞳孔が開いてしまっているのでは無いかと不安になるくらい目を見開いた尋常ではない彼の様子に、思わず麻衣子は後ろへ下がる。
がしっと両肩を掴まれて「ひっ」と、引きつった悲鳴が出た。
「部下にパワハラしてエステへ行かせようとするなんて! 行かなくていいよ麻衣子さん! もしも断ったことで今後の人間関係が不安なら、俺が全力で出世してあの女を蹴落としてやるから!! 半年、いや三か月あれば、必ず部長?まで出世して麻衣子さんに手出しさせないようにするから!!」
血走った眼を見開いて、隼人は捲し立てるように一気に言い放つ。
「ええ? パワハラって、蹴落とすって、何言っているの?」
明らかに言動がおかしなことになっている隼人から逃げたいのに、彼の指は両肩に食い込むほどの力で掴まれていて逃げられなかった。
「はぁはぁ、坂田部長には俺から話を付けるから、エステになんか行かなくてもいい」
「ちょっ、ちょっと待って!」
今から坂田部長の自宅へ殴り込みに行きそうなくらい据わった目をした隼人の腕を両手で握り、麻衣子は必死で彼を引き止める。
「部長には新入社員の頃からお世話になっていて、これくらい私は別にパワハラだなんて思っていないの。それに、無料体験くらいなら行ってもいいじゃない」
「駄目だ! 麻衣子さんはお人よしだから断れ切れずにエステに入会させられてしまう! どうしても行きたいなら俺も一緒に行く!」
「えぇー!?」
メンズエステではなく女性専門エステに、心配だからという理由でも彼氏(仮)と一緒にエステに行くのは躊躇する。それに、働いている姪っ子さんの口から斎藤課長との関係が坂田部長へ伝わるかもしれない。
「俺の理想的な足の毛を脱毛されてしまったら困るんだ」
溜息混じりに呟かれた隼人の一言。
彼の腕を掴んでいた麻衣子の動きがピタリと止まった。
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