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呪われた英雄②
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「あれ? お姉さんはー?」
追加の酒が運ばれて大喜びの注文客の一人は、アレクシスの顔を凝視して首を捻った。
「あんた、英雄様に似ているなぁ~」
「よく似ていると言われていてね」
にこやかに返し、アレクシスは空のグラスをトレイに乗せて、動けないでいるちとせのもとへ戻って来る。
「貴方は何やっているんですか?」
「重そうだったから運んだだけだ。駄目だったか?」
「駄目というかですね」
苦笑いしたちとせは受け取ったトレイを抱えて後退り、アレクシスとの距離を空ける。
混雑している状況で、動かず立ち話をしている出店のエプロンを着けた店員、というだけで非難の視線を浴びているのに、ちとせが話している相手は長身で整った顔をした男性ときたら、周囲の視線は鋭くなり針の筵に座っている気分だ。
「君と話がしたい」
「すみません。まだ仕事中なので無理です」
「私の部下が代わりにやるから問題ない」
アレクシスが指差した方には、軽装の上からエプロンを着けた若い男性三人が片手ずつに料理とグラスが大量に乗ったトレイを持ち、機敏な動きでテーブルまで運んでいた。
彼等は、ちとせとアレクシスの方を向き、軽く頭を下げる。
否、とは言わせてもらえないような圧力に逆らえず、渋々頷いたちとせはアレクシスと共に人通りの少ない建物の裏手へ移動した。
「此処まで来ればいいか」
先を歩いていたアレクシスが振り返り、彼の顔から柔和な笑みが消えた。
左胸に手を当てて、アレクシスは自身に施していた偽装を解く。
偽装を解くと、ダークグレーだったアレクシスの髪色は銀色に戻り、彼の左腕にから伸びた黒色の糸が左腕から指先まで絡み付いていった。
「これは、何なんですか?」
「やはり、君は私に絡み付くこれが見えているのだな。見えるだけでなく、触れて解(ほど)けるなんて、そんなことは初めてだった。あの時、捕まえたかったのに私も限界で、君を追いかけられなかった。だから探したんだ」
目を細めたアレクシスはちとせの手を掴み、彼女の指先を無数の黒色の糸が伸びる胸元に触れさせて、口角を上げた。
「やはり、直接触れても意識を保っていられるのか。潜在する魔力量が多いのかもしれないな」
ハッと息を吐き、アレクシスは体を固くするちとせと目を合わせた。
「私の下で働かないか?」
「…………は?」
目を丸くしたちとせは、言われた言葉の意味を理解するために数十秒を要した。
混乱するちとせにアレクシスが語った話によれば、十年前、ペルシオン帝国皇帝との一騎打ちに辛くも勝利した直後、こと切れる寸前の皇帝からある呪詛の言葉とともにある呪いを受けた。
皇帝の死によって強固になった呪いは、あらゆる解呪方法を試しても解呪することは出来ず、呪いの力をやわらげるために魔力の強い者達の精気を譲渡してもらい生き永らえていたという。
「魔塔の魔術師様でも無理なら、私にはどうしようもありません」
「では、これを引っ張って解(ほど)いてくれないか」
「解(ほど)く?」
恐る恐るアレクシスの左腕に巻き付く黒色の糸に触れ、覚悟を決めて掴むと力いっぱい引っ張った。
それから半年もの間、派遣依頼を受けて向かった先でアレクシスと彼の部下達と“偶然”顔を合わせることが続く。
農作業の手伝いを依頼されて小麦の刈り取りをしていると、偶然通りがかったアレクシス率いる騎士団が刈り取りと麦束を作り干す作業を手伝ってくれたし、街頭で大手菓子店の新商品の宣伝をしていた時は、非番だったアレクシスが近くの店を偶然訪れていて、侍従と一緒に宣伝をしてくれた。
「いつも手伝ってくださって、ありがとうございます」
「俺が勝手にやっていることだから礼はいらない。それよりも、いつから俺の下で働いてくれるんだ?」
アレクシスの口調が砕けて、一人称が「私」から「俺」に変わった頃、根負けしたちとせは彼に一つの提案をした。
「偶然、手伝ってもらうのは心苦しいので、こういうのはどうでしょうか。私は短期の仕事しかしたくありません。でも、決まった日の決まった時間だけ、という契約でしたら貴方の下で働きます。この提案でよろしければ、黒猫亭に依頼をしてください」
「分かった」
嬉しそうに笑ったアレクシスと別れた翌日、開店と同時に黒猫亭を訪れたの彼の部下によって、ちとせの派遣依頼が正式に出されたのだった。
追加の酒が運ばれて大喜びの注文客の一人は、アレクシスの顔を凝視して首を捻った。
「あんた、英雄様に似ているなぁ~」
「よく似ていると言われていてね」
にこやかに返し、アレクシスは空のグラスをトレイに乗せて、動けないでいるちとせのもとへ戻って来る。
「貴方は何やっているんですか?」
「重そうだったから運んだだけだ。駄目だったか?」
「駄目というかですね」
苦笑いしたちとせは受け取ったトレイを抱えて後退り、アレクシスとの距離を空ける。
混雑している状況で、動かず立ち話をしている出店のエプロンを着けた店員、というだけで非難の視線を浴びているのに、ちとせが話している相手は長身で整った顔をした男性ときたら、周囲の視線は鋭くなり針の筵に座っている気分だ。
「君と話がしたい」
「すみません。まだ仕事中なので無理です」
「私の部下が代わりにやるから問題ない」
アレクシスが指差した方には、軽装の上からエプロンを着けた若い男性三人が片手ずつに料理とグラスが大量に乗ったトレイを持ち、機敏な動きでテーブルまで運んでいた。
彼等は、ちとせとアレクシスの方を向き、軽く頭を下げる。
否、とは言わせてもらえないような圧力に逆らえず、渋々頷いたちとせはアレクシスと共に人通りの少ない建物の裏手へ移動した。
「此処まで来ればいいか」
先を歩いていたアレクシスが振り返り、彼の顔から柔和な笑みが消えた。
左胸に手を当てて、アレクシスは自身に施していた偽装を解く。
偽装を解くと、ダークグレーだったアレクシスの髪色は銀色に戻り、彼の左腕にから伸びた黒色の糸が左腕から指先まで絡み付いていった。
「これは、何なんですか?」
「やはり、君は私に絡み付くこれが見えているのだな。見えるだけでなく、触れて解(ほど)けるなんて、そんなことは初めてだった。あの時、捕まえたかったのに私も限界で、君を追いかけられなかった。だから探したんだ」
目を細めたアレクシスはちとせの手を掴み、彼女の指先を無数の黒色の糸が伸びる胸元に触れさせて、口角を上げた。
「やはり、直接触れても意識を保っていられるのか。潜在する魔力量が多いのかもしれないな」
ハッと息を吐き、アレクシスは体を固くするちとせと目を合わせた。
「私の下で働かないか?」
「…………は?」
目を丸くしたちとせは、言われた言葉の意味を理解するために数十秒を要した。
混乱するちとせにアレクシスが語った話によれば、十年前、ペルシオン帝国皇帝との一騎打ちに辛くも勝利した直後、こと切れる寸前の皇帝からある呪詛の言葉とともにある呪いを受けた。
皇帝の死によって強固になった呪いは、あらゆる解呪方法を試しても解呪することは出来ず、呪いの力をやわらげるために魔力の強い者達の精気を譲渡してもらい生き永らえていたという。
「魔塔の魔術師様でも無理なら、私にはどうしようもありません」
「では、これを引っ張って解(ほど)いてくれないか」
「解(ほど)く?」
恐る恐るアレクシスの左腕に巻き付く黒色の糸に触れ、覚悟を決めて掴むと力いっぱい引っ張った。
それから半年もの間、派遣依頼を受けて向かった先でアレクシスと彼の部下達と“偶然”顔を合わせることが続く。
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「いつも手伝ってくださって、ありがとうございます」
「俺が勝手にやっていることだから礼はいらない。それよりも、いつから俺の下で働いてくれるんだ?」
アレクシスの口調が砕けて、一人称が「私」から「俺」に変わった頃、根負けしたちとせは彼に一つの提案をした。
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「分かった」
嬉しそうに笑ったアレクシスと別れた翌日、開店と同時に黒猫亭を訪れたの彼の部下によって、ちとせの派遣依頼が正式に出されたのだった。
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