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3章 私と魔王様のお盆休み

  古代の遺跡②

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(あの魔力……感じた覚えがある)

 口元に手を当てたテオドールは記憶を探る。
 高位魔族の所有印を刻まれた、リコが内包する惹き込まれるような魔力は以前、どこかで触れたことがあった。

 ガタンッ!

 考え込んでいたテオドールは、突然聞こえた大きな物音にハッと顔を上げた。

「二人とも! 出て来たわよ!」

 異質な気配に気付いて、魔法を展開しようとエミリアが杖を構える。

「ああ、分かってるよ」

 柄を握り一気に鞘から引き抜いたテオドールも剣を構えた。

「はっ! 団体様かよ」

 背負っていた大剣を構え、ウォルトがニヤリと不敵に笑った。
 ザッザッ、と聞こえてきた足音の方向をエミリアの放った魔法の明かりが照らす。

 灯りに照らされた前方に居たのは、朽ちかけた鎧を身に付け刃こぼれした剣や槍を持った骸骨とアンデット兵達だった。

 ガッシャンッ!

 背後から襲いかかってきた骸骨兵をウォルトは力任せに大剣で凪ぎ払い、返す刃で体の半分が腐り落ちたアンデット兵を袈裟懸けに切り伏せた。

「ちっ、次から次へと埒があかないな」

 涌き出るように襲いかかってくるアンデット系の魔物を倒し続け、体力がある筈のウォルトの顔にも疲労の色が見えてくる。

 地下ダンジョンでは下手に撃てば自分達も巻き添えを食らうため、エミリアの広範囲攻撃魔法が使えないのも苦戦を強いられている原因でもあった。
 魔力を込めた剣で戦っていたテオドールも、流れ落ちる汗を手で拭う。

「アンデットが自然発生するなど有り得ない。何かきっかけがあった筈だ」

 大体の場合、一度死を迎えている者をアンデットと化して使役すのためには術者が必要だった。
 術者が事切れている場合、残った魔力によりアンデットたちが動かされることはあっても、強大な魔力を持つ魔術師でなければこの数のアンデットは使役出来ない。

 ゴオオ!

 骸骨兵が炎に閉じ込められて、じたばた苦しそうに悶えて絶命する。
 炎の勢いに吹き飛び、燃え盛るアンデット兵の体が当たった石の壁は、黒い焦げあとが付いた。
 魔法を放ったエミリアも大きく息を吐き出した。

「このダンジョン内に操っている術者がいるのかも。それか、この遺跡は暗黒時代の物だし、古の魔王に対抗するための力が残っているのかもしれないわ。それを誰かが利用した、とか?」

 倒れたアンデットの体を目をよく凝らして見てれば、何者かの魔力の残滓が残っているのが分かる。
 ちっと、エミリアは舌打ちをした。
「彼等の体には魔力の残滓が残っているわ。これはきっと使役の術ね。この魔力は、恐らく……あの人よ」

 アンデット達に使われたと思われる使役の魔法を使える者は限られており、限られている魔術師の一人に心当たりがあったエミリアは倒れている骸骨を睨む。

「あの人って、お前の、っと!」

 両腕を無くしても向かってくるゾンビの首を切り落とし、ウォルトはバランスを崩してふらつく体を蹴り飛ばした。

「ええ! あの人が何人かの生け贄を使った術を、禁術を使ったのよ!」

 曲がり角を曲がった先にいた骸骨兵を氷付けにして、エミリアはギリッときつく下唇を噛んだ。
 口内に広がる血の、鉄錆びの味に僅かに眉を顰める。

「ここに封じられていたモノを甦らすように、多くの兵士を犠牲にした!」

 怒りを宿すエミリアの魔法が行く手を塞ぐアンデット兵を吹き飛ばす。
 テオドール達が走り抜けていく通路は、奥に進むにつれて石の壁から洞穴のような剥き出しの土壁へ変わった。
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