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3章 私と魔王様のお盆休み
05.その感情は純粋な愛ではなく……
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「私が、お妃様? 私は、シルヴァリス様と住む世界が違うし、無力な人です。シルヴァリス様とはつり合いません」
城下に広がる街を見下ろした後に、国を治める魔王からお妃様に望むと言われても素直に頷けない。
ただの一般人である理子が、そんな器ではないのは自分が一番分かっていた。
目を細めたシルヴァリスの指が伸びて、理子の顎を捕らえる。
「嫌か?」
上から覗き込むシルヴァリスの赤い瞳が、真っ直ぐに理子を射抜く。
「我の妃になるのは、そんなに嫌か?」
「嫌と言うか……」
顎を捕らえる指は離してもらえず、理子は僅かな抵抗として目蓋を臥せた。
「私はお盆休みをのんびり過ごしにきたのに、周りからいきなりそんな扱いを受けたら……どうしたら良いのか分からなくなるよ?」
一般人として育ってきた理子が、いきなり魔王の寵姫扱いをされても戸惑うだけ。
綺麗なドレスを着せられて、美味しい物を食べさせてもらっても自由がなければ息苦しい。
それに、理子を正妃に望むと言う魔王はいつだって不意打ちばかりで、説明不足なのだ。
「お妃教育とかいきなり言われて混乱したし、妃になるかならない以前に貴方から説明をして欲しかった」
「説明したら、リコは逃げるだろうが」
捕らえていた理子の顎から指を放し、シルヴァリスは口元だけの笑みを浮かべる。
「貴方は魔王様で、権力も力もあって、女の人にも不自由していないって言っていたでしょう?」
自分で言った台詞なのに胸が痛くなる。
ジワリと目頭が熱くなっていく。
涙を堪える顔は、相当不細工なものになっていることだろう。
自嘲の笑みを浮かべてシルヴァリスは目蓋を閉じる。
「初めは、ただの興味だった。何重にも結界を施してある、我の寝室に穴を開けたのは何者かという興味。穴を開けられた理由を吐かしたら、生意気な女は殺して終いにしてやろうと思っていた」
部屋の壁の穴から聞こえてきた声を鈴木君と勘違いしている間、かなり危ない状況だったと知り理子の涙は引っ込んでいく。
「だが、部屋を繋げた女は妙な勘違いをしている上に、毛色の変わった異世界の女。リコと関わるのは、ただの戯れのつもりだったのだ。空間を隔てた会話のみで、関わるつもりは無かった」
「じゃあ、どうして?」
あの日、シルヴァリスは理子を喚んだのだろうか。
ただの気紛れで、加護の玉など付けたのだろうか。
「時には不敬な、ふざけた物言いばかりのリコが泣いていることが哀れで泣かせぬようにと喚べば、次に手放すのが惜しくなった。今更、リコが他の男のモノになるのは赦せぬ。他の男に渡すくらいなら、手足を縛り余計な思考を壊して永遠に出られぬ檻の中へ閉じ込めてやろうか」
シルヴァリスの赤い瞳に暗い光が宿る。
とんでもない事を宣う彼の姿は、見惚れてしまうくらい綺麗だった。
「傍らに置いて愛でていたい、誰の目にも触れさせずに仕舞いこんでおきたいのは、これが好いている、という感情なのだろう」
「好き、というか……それは」
恋とか愛なんて生温いものじゃない。
魔王の抱く感情は、どうしようもないくらいの、執着だ。
抱き枕扱いだなんてものじゃなかった。
理子を欲し、肉体を、魂までを貪り尽くしたいという、強い渇望。
美しい魔王の思考に、暗い光を放つ赤い瞳に、理子は背筋が寒くなる。
「わ、私は、今はまだ、どうしたらいいか分からないの」
自分の何処が、何が魔王の琴線に触れて執着されたのだろうか。
ジリジリと後ずさる理子の腰に腕が回されて、こっそり後ずさって空けた距離を一気に引き戻される。
「お前が妃にならぬと言っても、逃がすつもりはないがな」
ニヤリと、シルヴァリスは口の端を吊り上げた。
「ただ、選択肢は与えよう」
シルヴァリスは、内心汗をだらだら流して固まる理子の髪を一房掴む。
「お盆休みとやらが終わるまで猶予をやる。彼方へ還るまでに、心を決めろ。我の妃になるか、ならぬかを」
目線は理子に向けたまま、恭しくシルヴァリスは掴んだ髪に口付けを落とした。
城下に広がる街を見下ろした後に、国を治める魔王からお妃様に望むと言われても素直に頷けない。
ただの一般人である理子が、そんな器ではないのは自分が一番分かっていた。
目を細めたシルヴァリスの指が伸びて、理子の顎を捕らえる。
「嫌か?」
上から覗き込むシルヴァリスの赤い瞳が、真っ直ぐに理子を射抜く。
「我の妃になるのは、そんなに嫌か?」
「嫌と言うか……」
顎を捕らえる指は離してもらえず、理子は僅かな抵抗として目蓋を臥せた。
「私はお盆休みをのんびり過ごしにきたのに、周りからいきなりそんな扱いを受けたら……どうしたら良いのか分からなくなるよ?」
一般人として育ってきた理子が、いきなり魔王の寵姫扱いをされても戸惑うだけ。
綺麗なドレスを着せられて、美味しい物を食べさせてもらっても自由がなければ息苦しい。
それに、理子を正妃に望むと言う魔王はいつだって不意打ちばかりで、説明不足なのだ。
「お妃教育とかいきなり言われて混乱したし、妃になるかならない以前に貴方から説明をして欲しかった」
「説明したら、リコは逃げるだろうが」
捕らえていた理子の顎から指を放し、シルヴァリスは口元だけの笑みを浮かべる。
「貴方は魔王様で、権力も力もあって、女の人にも不自由していないって言っていたでしょう?」
自分で言った台詞なのに胸が痛くなる。
ジワリと目頭が熱くなっていく。
涙を堪える顔は、相当不細工なものになっていることだろう。
自嘲の笑みを浮かべてシルヴァリスは目蓋を閉じる。
「初めは、ただの興味だった。何重にも結界を施してある、我の寝室に穴を開けたのは何者かという興味。穴を開けられた理由を吐かしたら、生意気な女は殺して終いにしてやろうと思っていた」
部屋の壁の穴から聞こえてきた声を鈴木君と勘違いしている間、かなり危ない状況だったと知り理子の涙は引っ込んでいく。
「だが、部屋を繋げた女は妙な勘違いをしている上に、毛色の変わった異世界の女。リコと関わるのは、ただの戯れのつもりだったのだ。空間を隔てた会話のみで、関わるつもりは無かった」
「じゃあ、どうして?」
あの日、シルヴァリスは理子を喚んだのだろうか。
ただの気紛れで、加護の玉など付けたのだろうか。
「時には不敬な、ふざけた物言いばかりのリコが泣いていることが哀れで泣かせぬようにと喚べば、次に手放すのが惜しくなった。今更、リコが他の男のモノになるのは赦せぬ。他の男に渡すくらいなら、手足を縛り余計な思考を壊して永遠に出られぬ檻の中へ閉じ込めてやろうか」
シルヴァリスの赤い瞳に暗い光が宿る。
とんでもない事を宣う彼の姿は、見惚れてしまうくらい綺麗だった。
「傍らに置いて愛でていたい、誰の目にも触れさせずに仕舞いこんでおきたいのは、これが好いている、という感情なのだろう」
「好き、というか……それは」
恋とか愛なんて生温いものじゃない。
魔王の抱く感情は、どうしようもないくらいの、執着だ。
抱き枕扱いだなんてものじゃなかった。
理子を欲し、肉体を、魂までを貪り尽くしたいという、強い渇望。
美しい魔王の思考に、暗い光を放つ赤い瞳に、理子は背筋が寒くなる。
「わ、私は、今はまだ、どうしたらいいか分からないの」
自分の何処が、何が魔王の琴線に触れて執着されたのだろうか。
ジリジリと後ずさる理子の腰に腕が回されて、こっそり後ずさって空けた距離を一気に引き戻される。
「お前が妃にならぬと言っても、逃がすつもりはないがな」
ニヤリと、シルヴァリスは口の端を吊り上げた。
「ただ、選択肢は与えよう」
シルヴァリスは、内心汗をだらだら流して固まる理子の髪を一房掴む。
「お盆休みとやらが終わるまで猶予をやる。彼方へ還るまでに、心を決めろ。我の妃になるか、ならぬかを」
目線は理子に向けたまま、恭しくシルヴァリスは掴んだ髪に口付けを落とした。
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