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3章 私と魔王様のお盆休み
話が違うと叫びたくなった②
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赤い瞳が鋭利な刃のように細められた魔王の髪が、風も無いのにザワザワと揺れる。
魔王の放つ魔力に執務室が揺れて、やり取りを見守っていた文官からは「ひいっ」と短い悲鳴が上がった。
「キルビス、貴様……死にたいか」
「僕が死んだら、困るのは魔王様でしょ?」
体を突き刺す魔王からの圧力を、キルビスは涼しい顔で受け流した。
憎まれ口を叩く宰相を前に、魔王が不敵に笑う。
お互い冗談半分なのは分かっていた。
魔王が本気で力を放ちキルビスが応戦したら、執務室ごと吹き飛んでいるからだ。
睨み合いは数分続き、魔王が魔力を抑えると部屋の隅で震えていた文官は、安堵で脱力して壁に寄りかかった。
「そうそう、魔王様が寵姫を連れ込んだとの噂を聞き付けて、貴方の婚約者候補だった娘が登城したらしいですよ」
「婚約者候補?」
口元に指を当ててしばらく思案した魔王は、魔貴族の中でも魔力の高いと評されている娘を思い出した。
「ロゼンゼッタ家の娘か」
数年前、強い魔力を持つ一人娘を是非とも妃候補にと、ロゼンゼッタ当主が煩かったのを一笑に付したのだった。
「どうします?」
「放っておけ。どうせ貴様の差し金だろう」
どうでもよいと、魔王は椅子の肘掛けに頬杖を突いたまま答える。
「よくご存知で。魔貴族の中でも力のあるロゼンゼッタ家の娘を懐柔出来れば、お嬢さんも今後楽でしょうね」
魔貴族の中でも力のある一族の次期当主と魔王の寵愛を受ける娘を絡ませたら面白いし、上手く関係を築けたら娘が魔国で生きやすくなる。
魔王が何も言わないのは、ロゼンゼッタ家の娘の存在を伝えた段階でキルビスの思惑に気付いており、その他のことも企んでいるからだろう。
「魔王様、女性のお喋りの邪魔はしてはいけませんよ」
キルビスはニヤリと口角を上げて笑った。
***
色とりどりの花が咲き誇る中庭。
陽当たりが良く、花が見渡せる場所に置かれたガーデンテーブルの上に置かれているのは、上質な紅茶と香ばしい焼き菓子。
社会人になってから久しく使わなくなっていた、仕事では無く勉学専用の脳をフル回転した反動で疲れきってしまった理子は、甘い紅茶の有り難さを噛み締めていた。
頭から湯気を出しそうなくらいヘロヘロになった理子のために、甘い菓子を用意してくれたエルザとルーアンの優しさに涙が出そうになる。
「うう、頭が限界だわ」
滞在初日で疲れていたら、残り五日間はどうやって乗り切ればいいか分からない。
それ以前に、休暇を楽しみに来たのに勉強とか絶対におかしい。
頭を抱える理子を心配そうに見ていたエルザとルーアンは、近付いて来る気配と足音に気付いて後ろへ下がった。
「ごきげんよう、寵姫様?」
背後からかけられた声に、理子は反射的に背筋を伸ばす。
振り向いた先に佇むのは、水色をベースに青いフリルとリボンで飾られたドレスを着た、金色の髪と紫色の瞳の、とても綺麗な若い女性だった。
綺麗な容姿もそうだが、注視すべきは彼女の髪は完璧な縦ロールということ。
「わたくしも、ご一緒して宜しいかしら?」
付き添う侍女へ下がっているように指示を出して、女性は赤い唇を動かして優雅に微笑んだ。
魔王の放つ魔力に執務室が揺れて、やり取りを見守っていた文官からは「ひいっ」と短い悲鳴が上がった。
「キルビス、貴様……死にたいか」
「僕が死んだら、困るのは魔王様でしょ?」
体を突き刺す魔王からの圧力を、キルビスは涼しい顔で受け流した。
憎まれ口を叩く宰相を前に、魔王が不敵に笑う。
お互い冗談半分なのは分かっていた。
魔王が本気で力を放ちキルビスが応戦したら、執務室ごと吹き飛んでいるからだ。
睨み合いは数分続き、魔王が魔力を抑えると部屋の隅で震えていた文官は、安堵で脱力して壁に寄りかかった。
「そうそう、魔王様が寵姫を連れ込んだとの噂を聞き付けて、貴方の婚約者候補だった娘が登城したらしいですよ」
「婚約者候補?」
口元に指を当ててしばらく思案した魔王は、魔貴族の中でも魔力の高いと評されている娘を思い出した。
「ロゼンゼッタ家の娘か」
数年前、強い魔力を持つ一人娘を是非とも妃候補にと、ロゼンゼッタ当主が煩かったのを一笑に付したのだった。
「どうします?」
「放っておけ。どうせ貴様の差し金だろう」
どうでもよいと、魔王は椅子の肘掛けに頬杖を突いたまま答える。
「よくご存知で。魔貴族の中でも力のあるロゼンゼッタ家の娘を懐柔出来れば、お嬢さんも今後楽でしょうね」
魔貴族の中でも力のある一族の次期当主と魔王の寵愛を受ける娘を絡ませたら面白いし、上手く関係を築けたら娘が魔国で生きやすくなる。
魔王が何も言わないのは、ロゼンゼッタ家の娘の存在を伝えた段階でキルビスの思惑に気付いており、その他のことも企んでいるからだろう。
「魔王様、女性のお喋りの邪魔はしてはいけませんよ」
キルビスはニヤリと口角を上げて笑った。
***
色とりどりの花が咲き誇る中庭。
陽当たりが良く、花が見渡せる場所に置かれたガーデンテーブルの上に置かれているのは、上質な紅茶と香ばしい焼き菓子。
社会人になってから久しく使わなくなっていた、仕事では無く勉学専用の脳をフル回転した反動で疲れきってしまった理子は、甘い紅茶の有り難さを噛み締めていた。
頭から湯気を出しそうなくらいヘロヘロになった理子のために、甘い菓子を用意してくれたエルザとルーアンの優しさに涙が出そうになる。
「うう、頭が限界だわ」
滞在初日で疲れていたら、残り五日間はどうやって乗り切ればいいか分からない。
それ以前に、休暇を楽しみに来たのに勉強とか絶対におかしい。
頭を抱える理子を心配そうに見ていたエルザとルーアンは、近付いて来る気配と足音に気付いて後ろへ下がった。
「ごきげんよう、寵姫様?」
背後からかけられた声に、理子は反射的に背筋を伸ばす。
振り向いた先に佇むのは、水色をベースに青いフリルとリボンで飾られたドレスを着た、金色の髪と紫色の瞳の、とても綺麗な若い女性だった。
綺麗な容姿もそうだが、注視すべきは彼女の髪は完璧な縦ロールということ。
「わたくしも、ご一緒して宜しいかしら?」
付き添う侍女へ下がっているように指示を出して、女性は赤い唇を動かして優雅に微笑んだ。
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