50 / 92
2章 魔王様は抱き枕を所望する
14.旅の夜は定番話をする
しおりを挟む
初夏の雲一つ無い、澄んだ青空が広がった絶好の旅行日和となった、土曜日。
香織が申し込んだ温泉旅行ツアーは、有名旅行会社が企画した高原と温泉地を巡るバスツアーだった。
一日目は、自然豊かな観光名所を巡り、名産食材を使った美味しい昼食にワインの試飲をして歴史あるホテルに宿泊し、二日目は農園へ行きフルーツを食べて、観光地で昼食を食べて帰路につくという内容だ。
休憩と買い物を兼ねて立ち寄った道の駅で売店から外へ出た理子と香織は、ベンチに座ってソフトクリームを食べているカップルを見て足を止めた。
「今度は婚約者さんと一緒に行きなよ」
同じバスツアーに参加しているカップルを見ていて、時折、香織が寂しそうにしているのは気付いていたし、寂しく思うのは当然だと理子も分かっている。
「ぶっちゃければまーくんと来たかったけど、理子と二人でバスツアーって初めてで楽しいよ」
正直に言い、香織は苦笑いを浮かべた。
(香織の気持ちも分かるかな。私も、ちょっと羨ましいもの)
好きな人と一緒に出掛けて、美味しいものを食べてみたいのは当然だ。仲良しな恋人達を見ると羨ましいと素直に思う。
「よし! 夜に飲むための地酒でも買ってくか!」
黙ってしまった理子の腕を掴んだ香織は、出てきたばかりの売店へ引き返した。
高原で動物たちを触れ合った後、バスツアーのメインである本日の宿へと到着した。
大正時代に建てられた、貿易商の別荘という洋館を改装したホテルは、和と洋が調和したとてもモダンな建物で外観はヨーロッパのお屋敷。内部はアンティーク家具と現代機器がほどよく調和しており、ツアー参加者からは感嘆の声が漏れる。
宿泊する部屋の扉を開けた香織は「わぁー」と声を上げた。
「可愛いー! お嬢様のお部屋みたいね!」
白を基調とした家具、淡いピンクに小花柄のカーテンという若い女の子の部屋といった内装に、普段はクールな香織のテンションは上がっていく。
「ベッドも天蓋付きだし!」
二人並んで余裕で寝られるキングサイズのベッドは天蓋付きで、ベッドカバーはピンク地のフリル付き。
旅行鞄を放ってはしゃぐ香織は、部屋の扉を開けて中を覗いていく。
「理子! バスタブは憧れの猫足だよ! 今夜は泡風呂にしようよ」
喜ぶ香織をよそに、理子はフゥと息を吐いた。
「ちょっと似ているな……あっちの方が広いけど」
異世界の魔王の寝室に隣接する部屋と、この部屋は内装も広さは違うのに造りと雰囲気は似ている。
夕食に、食堂で和洋織り混ぜたフルコース料理を食べ終われば、後は自由行動だ。
宿泊客は各々の部屋へと戻り、理子と香織も部屋へ戻る。
入浴を済ませてアメニティのガウンに着替えてから、道の駅とワイン工場で購入したワインとつまみを丸テーブルに広げた。
「推理アニメとかサスペンスドラマだとさ、こういう洋館での夕飯の後に誰かが殺されるんだよね」
ガタッ!
香織が言った直後、吹いた風によって窓ガラスが揺れる。
「こわっ! やめてよ」
歴史ある洋館、静かな夜半、確かに事件が起こるには絶好のシチュエーションに、理子の背筋は寒くなった。
「でね、理子はどうなっているの?」
「何が?」
主語無く話を振られた理子は首を傾げる。
「将来性もあって、良きお父さんになれそうな山本さんに突っ走れない理由になっているのは、他に気になる人がいるからでしょ?」
「気になる人は」
「いない」と言いかけて、理子は小さく首を横に振る。
気付いていない振りは止めて、そろそろ自分の気持ちと向き合わなければいけないと、バスツアーに参加しているカップルを見て思っていた。
「うん。だから困っている」
ずっと抑えていたのに、毎晩強制的に寝室へ喚び寄せて触れてくるせいで、思わせぶりなことばかり言うから、彼に惹かれていく心が抑えられなってきた。
香織が申し込んだ温泉旅行ツアーは、有名旅行会社が企画した高原と温泉地を巡るバスツアーだった。
一日目は、自然豊かな観光名所を巡り、名産食材を使った美味しい昼食にワインの試飲をして歴史あるホテルに宿泊し、二日目は農園へ行きフルーツを食べて、観光地で昼食を食べて帰路につくという内容だ。
休憩と買い物を兼ねて立ち寄った道の駅で売店から外へ出た理子と香織は、ベンチに座ってソフトクリームを食べているカップルを見て足を止めた。
「今度は婚約者さんと一緒に行きなよ」
同じバスツアーに参加しているカップルを見ていて、時折、香織が寂しそうにしているのは気付いていたし、寂しく思うのは当然だと理子も分かっている。
「ぶっちゃければまーくんと来たかったけど、理子と二人でバスツアーって初めてで楽しいよ」
正直に言い、香織は苦笑いを浮かべた。
(香織の気持ちも分かるかな。私も、ちょっと羨ましいもの)
好きな人と一緒に出掛けて、美味しいものを食べてみたいのは当然だ。仲良しな恋人達を見ると羨ましいと素直に思う。
「よし! 夜に飲むための地酒でも買ってくか!」
黙ってしまった理子の腕を掴んだ香織は、出てきたばかりの売店へ引き返した。
高原で動物たちを触れ合った後、バスツアーのメインである本日の宿へと到着した。
大正時代に建てられた、貿易商の別荘という洋館を改装したホテルは、和と洋が調和したとてもモダンな建物で外観はヨーロッパのお屋敷。内部はアンティーク家具と現代機器がほどよく調和しており、ツアー参加者からは感嘆の声が漏れる。
宿泊する部屋の扉を開けた香織は「わぁー」と声を上げた。
「可愛いー! お嬢様のお部屋みたいね!」
白を基調とした家具、淡いピンクに小花柄のカーテンという若い女の子の部屋といった内装に、普段はクールな香織のテンションは上がっていく。
「ベッドも天蓋付きだし!」
二人並んで余裕で寝られるキングサイズのベッドは天蓋付きで、ベッドカバーはピンク地のフリル付き。
旅行鞄を放ってはしゃぐ香織は、部屋の扉を開けて中を覗いていく。
「理子! バスタブは憧れの猫足だよ! 今夜は泡風呂にしようよ」
喜ぶ香織をよそに、理子はフゥと息を吐いた。
「ちょっと似ているな……あっちの方が広いけど」
異世界の魔王の寝室に隣接する部屋と、この部屋は内装も広さは違うのに造りと雰囲気は似ている。
夕食に、食堂で和洋織り混ぜたフルコース料理を食べ終われば、後は自由行動だ。
宿泊客は各々の部屋へと戻り、理子と香織も部屋へ戻る。
入浴を済ませてアメニティのガウンに着替えてから、道の駅とワイン工場で購入したワインとつまみを丸テーブルに広げた。
「推理アニメとかサスペンスドラマだとさ、こういう洋館での夕飯の後に誰かが殺されるんだよね」
ガタッ!
香織が言った直後、吹いた風によって窓ガラスが揺れる。
「こわっ! やめてよ」
歴史ある洋館、静かな夜半、確かに事件が起こるには絶好のシチュエーションに、理子の背筋は寒くなった。
「でね、理子はどうなっているの?」
「何が?」
主語無く話を振られた理子は首を傾げる。
「将来性もあって、良きお父さんになれそうな山本さんに突っ走れない理由になっているのは、他に気になる人がいるからでしょ?」
「気になる人は」
「いない」と言いかけて、理子は小さく首を横に振る。
気付いていない振りは止めて、そろそろ自分の気持ちと向き合わなければいけないと、バスツアーに参加しているカップルを見て思っていた。
「うん。だから困っている」
ずっと抑えていたのに、毎晩強制的に寝室へ喚び寄せて触れてくるせいで、思わせぶりなことばかり言うから、彼に惹かれていく心が抑えられなってきた。
11
お気に入りに追加
234
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる