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2章 魔王様は抱き枕を所望する

  抱き枕は丸洗いされる②

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 メイドの一人が隣室のさらに奥にある扉を開けると、湯気が室内へ流れ込む。
 湯気で白く煙る扉の向こう側は、広々とした浴室だった。

 浴室といっても、理子の一人暮らしの部屋の浴室とは違い、広い部屋にバスタブと寝台が置かれている部屋。
 魔王の「湯浴みを」と言う言葉で、浴室へ連れて行かれるだろう展開は読めていた。とはいえバスタブが女子の憧れ、猫足のバスタブで理子の気分は少しだけ上がる。

「香りをつけますので、お待ちください」

 理子の腕を離したメイドは、バスタブの傍らに置かれていた藤の籠から赤色の花弁を一掴みして湯船へ放った。

「わぁ……」

 花弁は湯船に触れた途端、湯に溶けて浴室内は薔薇の香りが充満して、理子は感嘆の声を漏らした。

「えっ、待ってください」

 薔薇の香りに放った感嘆の声は、直ぐに困惑したものへと変わった。
 二人のメイドは理子の服を脱がし始めたのだ。

「服は、自分で脱げます」

 ブラウスの釦を外す細い指を押さえても、彼女は理子を無視して淡々と“脱がす”作業を続ける。
 ブラウスを脱がされ、もう一人のメイドが理子の体を持ち上げてスカートを脱がし、幼子の様に下着も全て剥ぎ取られてしまった。

 一糸纏わぬ姿となり、結っていた髪まで解かれた理子は、メイドに抱えられてバスタブへ入れられる。
 あまりの勢いに、薔薇の香りがするピンク色のぬるま湯に沈められるんじゃないかと、理子は無表情で見下ろす彼女達から逃れるためバスタブの端へ縮こまった。

「きゃあ! 自分で洗えますって」

 縮こまる理子の背中をパッツン前髪のメイドがごしごし洗う。
 海綿スポンジの様なスポンジを使って、絶妙な力加減で痛くはなく、気持ちいい。
 緊張が解れていき力が抜けた体は、隅々までメイドによって洗われていく。
 体と髪が洗い終わった後は、メイド二人がかりで全身に香油を塗られ、短時間で理子の全身は驚く程ピカピカに磨き上げられたのだった。

(うう……色々、全身見られた)

 全身を解すマッサージは気持ち良かったし、血行も良くなってお肌は潤いを増したのはいい。しかし、全身くまなく洗われてしまい、サイドリボンのショーツを穿かせられた。
 この世界ではメイドが服を着るのを、下着を穿くのを手伝うのか。極め付きは胸元が大きく開き、裾にフリルが付いた白のネグリジェである。

「あの、このネグリジェは恥ずかしいので、変えてもらうことは出来ませんか?」
  
 着せられたネグリジェは、肌触りから高級品だと分かる。ネックラインが広くて肩が少し出るのは困るし、腕と太股から下が透けるデザインで恥ずかしい。

「「魔王様がご用意されたお召し物でございます」」

 無表情のメイド達の声が重なって答えた。
 項垂れる理子の手をメイドが取り、魔王の寝室へと促す。

「魔王様がお待ちでございます」
「さあ、こちらへ」
「は、はい」

 寝室へ続く扉を開く前、無表情だと思っていたメイドさん達は理子の目を見て微かに微笑んだ。

「リコ」

 メイド達を下がらせ、魔王は座っていた椅子から立ち上がった。
 透け透けのネグリジェが恥ずかしくて、俯いていた理子の湿ったままの髪に触れる。

 ふわりっ。
 あたたかい風が理子を包み込み、湿った髪を乾かしていく。
 入浴剤に合わせたのか、乾いてサラサラになった髪からは薔薇の香りが仄かに香った。

「多少は、マシになったな」

 先ほどとは違い、視線だけで殺されそうな鋭さは微塵も感じさせない、何時もと変わらない魔王の表情に理子は胸を撫で下ろした。

「あのね魔王様、いきなり丸洗いはびっくりするから止めてね。痛っ」

 髪に触れていた魔王の指が、髪を一房摘まみ軽く引っ張った。

「くくくっ、我の所有物に他の男の残り香がまとわりついているなど、赦せる訳なかろう」

 口元は笑みを形どっているのに、細められた赤い目は全く笑っていない。
 背筋に冷たいモノが走り抜けた理子は、引っ張られている髪を魔王の指ごと押さえた。

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