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2章 魔王様は抱き枕を所望する

01.二度目まして魔王様

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 激しい出来事が続いた一日が終わり、理子は久々に定時退勤することが出来た。

(係長と高木さんは自業自得、私が罪悪感を抱く必要は無いのに、スッキリしないのは魔王様のせい? それとも、二人の今後について知ってしまったから?)

 帰宅途中の電車内で、人事部所属の香織から「極秘で」と前置きされてから、メッセージアプリで田島係長と高木さんの“検討中”の処遇について連絡が来た。
 田島係長は、奥さまへの慰謝料とお子さまへの養育費のために辞職は許されず、陸の孤島と呼ばれている地方の営業所へ異動となる予定らしい。

『異動先は部下は退職間際男性社員のみで、もう悪さは出来ないはずだし、逆恨みされることもないから安心してね』

 高木さんに逆恨みされたように、係長からも恨まれないか不安だった理子は、香織からのメッセージを読んでようやく安堵した。
 会社の廊下で理子へ飛び掛かり、見えない何かに反撃されたらしい高木さんは「化け物が襲ってくる」と、錯乱していた。
 理子が離れてから医務室へ運んだが手に終えず、連絡を受けた親御さんが迎えに来て病院へ連れて行かれたと、退勤間際に疲れ果てた様子の課長が教えてくれた。
 彼女が何を見て怯えているのは分からないが、おそらくはこのまま職場へ顔を出すことも無く退職するだろう。
 半年余りの不倫期間で、二人とも就業時間内に社用車でのホテル利用や、理子や山本さんへ仕事を押し付けていたことが判明し悪質だと上に判断された、ということだった。

(出来事が濃厚過ぎてあっという間だったけど、すごく疲れた一日だったな)

 肩まで湯船に浸かった理子は、狭いバスタブの中いっぱいに手足を伸ばす。
 ここ一ヶ月半の入浴はシャワーだけで済ませていたせいか、のんびりお湯に浸かれるだけでも幸せだと感じられる。
 課長と高木さんの処遇を知って後味が悪いと思う反面、ざまぁみろって舌を出している自分がいて、本当に心を病む寸前までいっていたのだと自嘲の笑みを浮かべた。

 浴室から出た理子は、体についた水滴をバスタオルで拭き取り下着を身に着ける。
 長風呂をして火照った体を冷ますため、Tシャツはまだ着ないで上半身はキャミソールのみ着て、洗面所のドアを開けた。
 風呂上がりは暑いから髪を乾かすのは後にして、肩にタオルを掛けた理子は洗面所から一歩足を踏み出した。

「えっ」

 突然、理子の足元の床が朱金の輝きを放つ。
 朱金の輝きは、解読不能な文字で楕円形を描きだし、幾何学模様はいわゆる魔法陣を形成していく。
 幾何学模様から朱金の光が伸びていき、理子の体へ絡み付いた。

「ちょっ、ええっ⁉」

 昨夜もこの光と同じものが体に絡み付き、魔王の寝室へと連れて行かれたのだ。

「魔王様!? 待って」

 抵抗することも出来ずに、体に巻き付いた光の蔦に絡み取れて、大きく口を開いた理子は魔方陣の中心へと引きずり込まれていった。


 ***


 ぼよんっ

「ふぎゃっ」

 白いシーツに覆われたマットレスの上へ、顔面から着地した理子は情けない声を上げる。

「痛たたた」

 痛む鼻を押さえつつ顔を上げれば、やはり自室ではなく見覚えのある部屋、青白い淡い光に照らされた豪華な寝室だった。
 壁の穴は塞がったのに、何故自分は此処へ喚ばれたのか。
 寝室の主はどこにいるのかと視線を巡らせば、麗しき魔王はベッドから少し離れた椅子に腰掛け、長い脚を組んで理子をじっと見ていた。

「相変わらず、お前はひどい格好なのだな」

 クツリと笑う魔王は相変わらず人外の美貌で、ただ長い脚を組んで座っているだけなのに、神が造った完璧な芸術作品に見える。
 昨夜と同じく、胸元が見えるバスローブみたいな服に黒い細身ズボンを履いた魔王は、艷やかな色気を振り撒いていた。

(綺麗……)

 薄暗い室内なのに、魔王の髪はキラキラと輝いて見える。実際、髪から銀粉でも出ているんじゃないかと、理子は目を細めた

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