15 / 92
1章 隣人の鈴木君
08.麗しの君と悪魔食いの魔女
しおりを挟む
部屋の床がミシミシと軋んだ音をたて、古代ギリシャ文字の様な文字が書かれた円、魔方陣のようなものが理子を中心に浮かび上がった。
「ええ!?」
魔方陣の文字が朱金の輝きを放ち、逃れようと魔方陣から飛び退いた。
魔法陣から伸びた朱金の光は、逃げようとする理子の足から全身に絡みついていく。
「ひっ!」
何処かへ引きずり込もうとする力を感じて、抵抗を試みた理子の視界は真っ白に染まった。
「きゃああああ!?」
見えるもの全てが真っ白に染まり、視界ゼロのまま理子は果てが見えない長いトンネルを落下していた。
何が起こったのか、トンネルの出口が何処へ通じているのか、全く分からない。
分かるのは魔方陣に吸い込まれる直前、一瞬だけ夢で見た黒いローブを纏った女の歓喜の笑い声がした事だった。
ぼよんっ!
「うぎゃっ」
長い穴は急に終わり、トランポリンのような弾力のある地面に落下して理子は呻き声を上げた。
強い光により失明したのかと思うほど、何も見えなかった視界もぼんやりと戻ってくる。
霞んだ視界が捉えたのは、自分が落下した白いシーツで整えられたトランポリン、いやベッド。
今は夜なのか周囲は薄暗く、青白い光が仄かに周りを照らしていた。
(ここは、どこなの? はうっ!?)
首を動かした理子はビシッと固まった。
薄暗い空間の中でも刃物の如く鋭い光を放つ銀髪と血のように赤い瞳、青白い燭台の明かりに照らされている白磁の肌。
生まれてから生きてきた二十四年間で、見たことがない程綺麗で幻想的な男性がベッドサイドに立っていたのだ。
(え、あ、この人は、誰?)
無言のまま理子をじっと見詰める男性と目が合った瞬間、背中がざわりと泡立つ。
とんでもなく綺麗な男性は、襟に銀糸で模様が縫い込まれている黒いバスローブのような寝間着を着ていて、寝間着の合わせから見える白い胸元が色香を醸し出していた。
西洋人に近い系統の外見ながら、彼から醸し出している妖しい色気にくらくらしてきて、理子は軽く頭を振る。
天蓋付の広いベッド、装飾も豪華な家具が置かれた此処は、もしかしなくても男性の寝室なのだろう。
「あの、どなた、ですか?」
恐る恐る口を開けば、男性は僅かに口角を上げた。
「我とは先程まで話していただろうが」
男性の声を聞いて、理子は驚きのあまり目を見開いた。
「魔王、さま?」
「ああ」
頷く男性の声は確かに聞き覚えのある、低い、耳に心地よく響く理子の好きな声だった。
何故、魔王の部屋へ来たのか分からず、ポカンと口を開けた理子は思わず上半身を仰け反らせて彼を見上げた。
「トカゲじゃない」
「トカゲ?」
男性、もとい魔王の整った眉がぴくりと動き、彼は器用に片眉を上げた。
「どんな豪胆な女が現れるかと楽しみにしていたが」
ベッドへ近付いた魔王は手を伸ばし、白くて長い指が固まる理子の顎を掴む。
「まるで小動物だな」
「小動物?」
小動物ってどんな例えなのか分からず、理子は困惑して魔王を見上げた。
(綺麗。だけど、魔王様の外見は人と変わらないわ)
顎を掴まれたままなのを、これ幸いと理子はじっくり魔王を観察する。
近くで見れば見るほど、彼はとんでもなく綺麗な男性だった。
「角がない」
魔王の頭部には、燐光を放つ銀髪しか見当たらず、角らしきものは生えて無い。
「羽根もないし」
背中は位置的に見えないが、羽根や突起物の様なものは生えて無いようだ。
「……お前は何を期待していたのだ」
顎から指を離した魔王が呆れた目で理子を見下ろす。
「ゴジ、あっ」
言いかけた理子は、今の自分の姿を思い出して一気に頬に熱が集中する。
「み、見ないで!」
慌てて横を向いて、魔王の視線から顔を背ける。
「ひどい顔になっているから!」
忘れていたが散々泣いた後だった。
両目蓋は泣いたせいで腫れぼったいし、強く擦った鼻は真っ赤になっている。
髪もぐしゃぐしゃ、服も仕事から帰ってきたままのブラウスにスカートという状態だった。
「確かにひどい有り様だな」
顔を背けて見せないようにする理子に、魔王はうっとりするくらい綺麗な笑みを向ける。
「だが、我には可愛らしく見える」
吃驚して顔を上げた理子の目元から鼻にかけてを、魔王の大きな手のひらが覆う。
(魔王様の手、冷たくて、気持ちがいい……)
彼の低めの体温が手のひらから伝わって来て、その心地良さに理子の浮腫んだ目蓋が重みを増す。
まだまだこの綺麗なお姿を堪能したいのに、理子の意識は急速に闇へと沈んでいった。
「ええ!?」
魔方陣の文字が朱金の輝きを放ち、逃れようと魔方陣から飛び退いた。
魔法陣から伸びた朱金の光は、逃げようとする理子の足から全身に絡みついていく。
「ひっ!」
何処かへ引きずり込もうとする力を感じて、抵抗を試みた理子の視界は真っ白に染まった。
「きゃああああ!?」
見えるもの全てが真っ白に染まり、視界ゼロのまま理子は果てが見えない長いトンネルを落下していた。
何が起こったのか、トンネルの出口が何処へ通じているのか、全く分からない。
分かるのは魔方陣に吸い込まれる直前、一瞬だけ夢で見た黒いローブを纏った女の歓喜の笑い声がした事だった。
ぼよんっ!
「うぎゃっ」
長い穴は急に終わり、トランポリンのような弾力のある地面に落下して理子は呻き声を上げた。
強い光により失明したのかと思うほど、何も見えなかった視界もぼんやりと戻ってくる。
霞んだ視界が捉えたのは、自分が落下した白いシーツで整えられたトランポリン、いやベッド。
今は夜なのか周囲は薄暗く、青白い光が仄かに周りを照らしていた。
(ここは、どこなの? はうっ!?)
首を動かした理子はビシッと固まった。
薄暗い空間の中でも刃物の如く鋭い光を放つ銀髪と血のように赤い瞳、青白い燭台の明かりに照らされている白磁の肌。
生まれてから生きてきた二十四年間で、見たことがない程綺麗で幻想的な男性がベッドサイドに立っていたのだ。
(え、あ、この人は、誰?)
無言のまま理子をじっと見詰める男性と目が合った瞬間、背中がざわりと泡立つ。
とんでもなく綺麗な男性は、襟に銀糸で模様が縫い込まれている黒いバスローブのような寝間着を着ていて、寝間着の合わせから見える白い胸元が色香を醸し出していた。
西洋人に近い系統の外見ながら、彼から醸し出している妖しい色気にくらくらしてきて、理子は軽く頭を振る。
天蓋付の広いベッド、装飾も豪華な家具が置かれた此処は、もしかしなくても男性の寝室なのだろう。
「あの、どなた、ですか?」
恐る恐る口を開けば、男性は僅かに口角を上げた。
「我とは先程まで話していただろうが」
男性の声を聞いて、理子は驚きのあまり目を見開いた。
「魔王、さま?」
「ああ」
頷く男性の声は確かに聞き覚えのある、低い、耳に心地よく響く理子の好きな声だった。
何故、魔王の部屋へ来たのか分からず、ポカンと口を開けた理子は思わず上半身を仰け反らせて彼を見上げた。
「トカゲじゃない」
「トカゲ?」
男性、もとい魔王の整った眉がぴくりと動き、彼は器用に片眉を上げた。
「どんな豪胆な女が現れるかと楽しみにしていたが」
ベッドへ近付いた魔王は手を伸ばし、白くて長い指が固まる理子の顎を掴む。
「まるで小動物だな」
「小動物?」
小動物ってどんな例えなのか分からず、理子は困惑して魔王を見上げた。
(綺麗。だけど、魔王様の外見は人と変わらないわ)
顎を掴まれたままなのを、これ幸いと理子はじっくり魔王を観察する。
近くで見れば見るほど、彼はとんでもなく綺麗な男性だった。
「角がない」
魔王の頭部には、燐光を放つ銀髪しか見当たらず、角らしきものは生えて無い。
「羽根もないし」
背中は位置的に見えないが、羽根や突起物の様なものは生えて無いようだ。
「……お前は何を期待していたのだ」
顎から指を離した魔王が呆れた目で理子を見下ろす。
「ゴジ、あっ」
言いかけた理子は、今の自分の姿を思い出して一気に頬に熱が集中する。
「み、見ないで!」
慌てて横を向いて、魔王の視線から顔を背ける。
「ひどい顔になっているから!」
忘れていたが散々泣いた後だった。
両目蓋は泣いたせいで腫れぼったいし、強く擦った鼻は真っ赤になっている。
髪もぐしゃぐしゃ、服も仕事から帰ってきたままのブラウスにスカートという状態だった。
「確かにひどい有り様だな」
顔を背けて見せないようにする理子に、魔王はうっとりするくらい綺麗な笑みを向ける。
「だが、我には可愛らしく見える」
吃驚して顔を上げた理子の目元から鼻にかけてを、魔王の大きな手のひらが覆う。
(魔王様の手、冷たくて、気持ちがいい……)
彼の低めの体温が手のひらから伝わって来て、その心地良さに理子の浮腫んだ目蓋が重みを増す。
まだまだこの綺麗なお姿を堪能したいのに、理子の意識は急速に闇へと沈んでいった。
21
お気に入りに追加
234
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
【R18/TL】息子の結婚相手がいやらしくてかわいい~義父からの求愛種付け脱出不可避~
宵蜜しずく
恋愛
今日は三回目の結婚記念日。
愛する夫から渡されたいやらしい下着を身に着け、
ホテルで待っていた主人公。
だが部屋に現れたのは、愛する夫ではなく彼の父親だった。
初めは困惑していた主人公も、
義父の献身的な愛撫で身も心も開放的になる……。
あまあまいちゃラブHへと変わり果てた二人の行く末とは……。
────────────
※成人女性向けの小説です。
この物語はフィクションです。
実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
拙い部分が多々ありますが、
フィクションとして楽しんでいただければ幸いです😊
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
坊っちゃまの計画的犯行
あさとよる
恋愛
お仕置きセックスで処女喪失からの溺愛?そして独占欲丸出しで奪い合いの逆ハーレム♡見目麗しい榑林家の一卵性双子から寵愛を受けるこのメイド…何者?
※性的な描写が含まれます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる